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固定残業代の正しい運用方法は?実務担当者が押さえるべき9つのポイント

2025.11.16 スタッフブログ

固定残業代制度の実務運用でお困りではありませんか

給与計算や労務管理を担当していると、固定残業代(みなし残業代)の取り扱いについて疑問を感じることがあるのではないでしょうか。「毎月の残業時間が固定残業時間を超えたらどうすればいいのか」「雇用契約書にはどう明記すべきなのか」「計算方法は正しいのか」など、実務上の判断に迷う場面は少なくありません。

固定残業代は、企業の賃金制度として広く採用されている一方で、運用を誤ると労働基準法違反となり、未払い賃金として遡及請求されるリスクがあります。労働基準監督署の調査や労働審判などで無効と判断されるケースも実際に発生しています。

本記事では、総務・人事の実務担当者が日常業務で直面する固定残業代に関する疑問を、Q&A形式で整理して解説します。制度の基本的な仕組みから、計算方法、無効リスクの回避、就業規則への記載方法まで、実務で必要な知識を網羅的に確認できます。

固定残業代に関するよくある質問と回答

Q1. 固定残業代とはどのような制度ですか?

固定残業代とは、実際の残業時間の有無にかかわらず、あらかじめ一定時間分の時間外労働に対する割増賃金を固定額で支払う賃金制度です。「みなし残業代」「定額残業代」とも呼ばれます。

この制度では、月給に含まれる基本給とは別に、または基本給に含める形で、例えば「月30時間分の時間外労働手当として5万円」というように、事前に想定される残業時間とその金額を設定します。実際の残業時間がこの想定時間を下回った場合でも、固定額は全額支払われます。逆に想定時間を超えた場合は、超過分について別途割増賃金を支払う必要があります。

固定残業代を有効に運用するためには、固定残業代に相当する労働時間数金額が明確に区分され、労働者に明示されていることが法的要件となります。単に「月給30万円(残業代込み)」という記載では、固定残業代として認められない可能性が高いため注意が必要です。

Q2. 固定残業代の金額はどのように計算すればよいですか?

固定残業代の金額は、1時間あたりの賃金額割増率想定残業時間数を乗じて算出します。具体的な計算手順は以下の通りです。

まず、基本給や諸手当(家族手当、通勤手当などを除く)の合計額を、1ヶ月の所定労働時間で割って時間単価を求めます。例えば基本給25万円、所定労働時間が月160時間の場合、時間単価は1,562.5円となります。

次に、この時間単価に法定の割増率(時間外労働の場合は1.25倍以上)を乗じます。1,562.5円×1.25=1,953円が1時間あたりの時間外労働の割増賃金となります。

最後に、想定する固定残業時間数を乗じます。30時間分とする場合、1,953円×30時間=58,590円が固定残業代の最低額となります。実務では、この金額以上を設定し、基本給部分と明確に区分して給与明細に記載することが重要です。なお、深夜労働や休日労働を含む場合は、それぞれの割増率(深夜0.25倍以上、休日1.35倍以上)を適用して計算する必要があります。

Q3. 雇用契約書や就業規則にはどのように記載すべきですか?

固定残業代を有効なものとするためには、雇用契約書労働条件通知書就業規則給与規程において、明確な記載が必要です。

雇用契約書や労働条件通知書には、「基本給○○円、固定残業代(時間外労働△△時間分)□□円」という形で、固定残業代の金額と時間数を具体的に明記します。例えば「基本給250,000円、固定残業手当(月30時間分の時間外労働手当として)58,600円」のように記載します。

就業規則や給与規程には、固定残業代の趣旨、対象となる労働時間の種類(時間外、深夜、休日)、想定時間数を超えた場合の取り扱い(別途支払う旨)を明記する必要があります。「固定残業手当は、時間外労働30時間分の割増賃金として支給する。実際の時間外労働がこれを超えた場合は、超過分を別途支給する」といった記載が一般的です。

また、給与明細においても、基本給と固定残業代を区分して表示し、労働者が容易に確認できる状態にしておくことが、透明性の観点から推奨されます。これらの明示が不十分な場合、労働基準監督署の調査や裁判で固定残業代が無効と判断され、全額が未払い賃金として扱われるリスクがあります。

Q4. 固定残業代が無効と判断されるのはどのような場合ですか?

固定残業代が無効と判断される主なケースは、明確な区分がない場合金額が不当に低い場合実態と乖離している場合の3つです。

第一に、基本給と固定残業代が区分されておらず、「月給30万円(残業代含む)」のような記載のみの場合、どの部分が固定残業代なのか判別できず無効とされます。判例でも、明確な区分がないことを理由に固定残業代を否定した事例が多数あります。

第二に、固定残業代の金額が労働基準法で定められた割増賃金の計算方法による金額を下回っている場合、その不足分は未払いとなります。例えば、実際に計算すると30時間分で6万円必要なところを3万円しか設定していない場合、差額の3万円は未払い賃金となります。

第三に、恒常的に固定残業時間を大幅に超える残業が発生しているにもかかわらず、制度の見直しや超過分の支払いが適切に行われていない場合、制度の実効性が疑われ無効と判断されるリスクがあります。固定残業代は、あくまで割増賃金の一部を定額で支払う制度であり、実際の労働時間に基づく賃金支払義務を免除するものではありません。実務担当者としては、毎月の勤怠管理を徹底し、超過分を確実に支払う体制を整えることが不可欠です。

Q5. 固定残業時間を超えた場合の対応方法を教えてください

固定残業代として想定している時間数を実際の残業時間が上回った場合、超過分については必ず別途割増賃金を支払う必要があります。これは労働基準法上の絶対的な義務です。

実務的な手順としては、まず毎月の勤怠集計において、各労働者の時間外労働時間を正確に把握します。例えば固定残業時間が30時間で、実際の残業時間が35時間だった場合、超過分の5時間について割増賃金を計算します。

計算方法は、時間単価×1.25(時間外労働の場合)×超過時間数となります。先ほどの例で時間単価が1,562.5円の場合、1,562.5円×1.25×5時間=9,765円を固定残業代とは別に支払います。この超過分は、給与明細上も「時間外労働手当(超過分)」などと明記して区別することが望ましいです。

注意点として、固定残業代を設定しているからといって、36協定で定めた上限時間を超えて働かせてよいわけではありません。時間外労働の上限規制(原則月45時間、年360時間)は別途遵守する必要があります。また、恒常的に固定残業時間を大幅に超える状態が続く場合は、固定残業時間の設定自体を見直すか、業務効率化や人員配置の見直しを検討すべきです。

Q6. 深夜労働や休日労働も固定残業代に含めることはできますか?

深夜労働(22時から5時まで)や休日労働に対する割増賃金も、固定残業代として設定することは可能です。ただし、それぞれの労働時間の種類と金額を明確に区分する必要があります。

例えば「固定残業手当60,000円(時間外労働30時間分、深夜労働10時間分を含む)」という形で、内訳を明示します。この場合、時間外労働30時間分と深夜労働10時間分のそれぞれについて、適切な割増率で計算した金額の合計が60,000円以上である必要があります。

深夜労働の割増率は0.25倍以上、休日労働は1.35倍以上(法定休日の場合)です。また、時間外労働が深夜時間帯に及んだ場合は、時間外割増(0.25)と深夜割増(0.25)が重複して0.5倍以上となります。こうした複雑な計算を正確に行い、固定残業代の金額が法定の最低額を下回らないよう設定することが重要です。

実務上は、深夜労働や休日労働を固定残業代に含める場合、給与計算が複雑になるため、時間外労働のみを対象とする方がシンプルで管理しやすいケースも多いです。制度設計の段階で、自社の勤務実態や管理体制を考慮して判断することが推奨されます。

Q7. パートタイム労働者にも固定残業代を適用できますか?

パートタイム労働者やアルバイトに対しても、固定残業代を設定すること自体は法律上禁止されていません。ただし、実務上の合理性や運用の煩雑さを考慮すると、慎重な判断が必要です。

パート・アルバイトの場合、勤務時間が短く、そもそも時間外労働がほとんど発生しないケースが多いため、固定残業代を設定しても実際には超過分の支払いが発生しないことになります。この場合、固定残業代分は実質的に基本給の上乗せとして機能しますが、労働者にとって分かりにくく、また採用時の時給換算が複雑になる欠点があります。

また、パート・アルバイトはシフト制で勤務することが多く、月ごとの労働時間が大きく変動する場合、固定残業代の設定時間を常に超えたり、逆に大幅に下回ったりすることがあります。このような変動が大きい勤務形態では、固定残業代よりも実労働時間に応じた時給制の方が、賃金計算の透明性が高く、トラブルも少ないです。

もし設定する場合は、正社員と同様に、雇用契約書で時間数と金額を明示し、超過分を確実に支払う体制を整える必要があります。実務担当者としては、パート・アルバイトへの固定残業代適用は、必要性と管理コストを十分に検討してから判断することが賢明です。

Q8. 固定残業代と年俸制の違いは何ですか?

固定残業代と年俸制は、いずれも賃金の支払い方法に関する制度ですが、対象範囲と法的性質が異なります。

固定残業代は、あくまで時間外労働などの割増賃金の一部を定額で支払う仕組みであり、月給制・年俸制を問わず導入できます。つまり、月給制の中で固定残業代を設定することも、年俸制の中で固定残業代を含めることも可能です。

一方、年俸制は1年間の賃金総額を事前に決定する賃金制度であり、通常は12分割または16分割(賞与を含む場合)して毎月支払います。年俸制を採用したとしても、労働基準法上の割増賃金支払義務は免除されません。したがって、年俸制の中に時間外労働の割増賃金を含める場合は、固定残業代と同様に、金額と時間数を明示する必要があります。

例えば「年俸600万円(うち時間外労働手当として年間60万円、月30時間相当を含む)」という形で明示し、実際の残業時間がこれを超えた場合は別途支払います。年俸制だからといって「残業代は含まれている」とだけ記載しても、固定残業代としては認められません。

実務上の違いとしては、年俸制は主に管理職や専門職に適用されることが多く、成果に基づく賃金決定という性格が強い一方、固定残業代は一般職を含む幅広い層に適用されるケースが多いという点が挙げられます。

Q9. 固定残業代の金額や時間数を変更する際の手続きは?

固定残業代の金額や想定時間数を変更する場合、労働条件の変更に該当するため、適切な手続きが必要です。

まず、就業規則や給与規程の変更を行います。常時10人以上の労働者を使用する事業場では、就業規則の変更について労働者代表の意見を聴取し、労働基準監督署に届け出る必要があります。変更内容が労働者に不利益となる場合(固定残業時間の延長、手当額の減額など)は、合理性が求められるため、慎重な検討が必要です。

次に、個別の労働契約の変更も必要です。労働者一人ひとりから同意を得て、変更後の内容を記載した新しい労働条件通知書や雇用契約書を交付します。一方的な不利益変更は無効となるリスクがあるため、必ず書面で同意を取得することが重要です。

また、変更の実施時期については、給与計算の締め日や支給日との関係を考慮し、システム変更や労働者への周知期間を十分に確保します。例えば、4月1日から変更する場合、遅くとも2月中には就業規則変更と個別同意の手続きを完了させ、3月中に給与システムの設定変更とテスト、労働者への説明会などを実施するスケジュールが考えられます。

実務担当者としては、変更の必要性と合理性を社内で十分に検討し、労働者とのコミュニケーションを丁寧に行うことで、トラブルを未然に防ぐことが大切です。

まとめ:固定残業代の適切な運用のために

固定残業代は、賃金管理の効率化や人件費の予測可能性を高めるメリットがある一方で、運用を誤ると法的リスクが高い制度です。実務担当者として押さえるべき最重要ポイントは、固定残業代に相当する時間数と金額を明確に区分し、労働者に明示すること、そして想定時間を超えた場合は必ず超過分を支払うことの2点です。

雇用契約書、就業規則、給与明細のすべてにおいて、基本給と固定残業代を区別して記載し、透明性を確保することが不可欠です。また、固定残業代の金額は、法定の割増率に基づいて正確に計算し、基準を下回らないよう設定する必要があります。深夜労働や休日労働を含める場合は、それぞれの内訳も明示しなければなりません。

毎月の給与計算では、勤怠管理システムを活用して正確な労働時間を把握し、固定残業時間を超過した分については漏れなく追加支給する体制を整えましょう。超過が恒常化している場合は、固定残業時間の設定を見直すか、業務改善によって残業時間そのものを削減する取り組みが求められます。

パートタイム労働者への適用や、年俸制との組み合わせなど、複雑なケースでは、制度設計の段階で十分に検討し、必要に応じて専門家の助言を得ることも有効です。また、制度変更の際には、就業規則の変更手続きと個別の労働契約変更の両方を適切に実施し、労働者の理解と同意を得るプロセスを丁寧に進めることが重要です。

固定残業代をめぐる紛争や労働基準監督署の是正勧告は、明示の不備や計算ミス、超過分の未払いといった基本的な誤りから発生するケースが多いのが実態です。日常の給与計算業務において、これらの基本ルールを確実に守ることで、法令遵守と労働者との信頼関係の両立が可能になります。実務担当者としての専門性を高め、自信を持って制度を運用していきましょう。

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