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問題社員の指導から解雇まで、感情と法律の狭間で経営者が押さえるべき全ステップ

2025.11.28 労務管理

導入

「何度注意しても改善されない」「職場の雰囲気が悪くなる一方で、どう対応すればいいか分からない」──。問題社員への対応は、経営者にとって最も頭を悩ませる課題の一つです。感情的に対応してしまえばパワハラと受け取られるリスクがあり、かといって放置すれば組織全体が疲弊してしまいます。

問題社員の指導から解雇まで、感情と法律の狭間で経営者が押さえるべき全ステップ

この記事では、問題社員への初期指導から、改善が見込めない場合の最終的な解雇判断に至るまで、経営者が踏むべき全ステップを法的な観点と実務的な側面から解説します。感情と法律の狭間で揺れ動くことなく、毅然とした対応を取るための羅針盤としてご活用ください。

問題社員を見極める視点:感情と客観性のバランス

経営者が「この社員には問題がある」と感じたとき、まず重要なのはその直感が「客観的な事実」に基づいているかを検証することです。問題社員と呼ばれるケースには、能力不足、協調性の欠如、勤務態度の不良、ハラスメント行為など様々なタイプが存在しますが、いずれの場合も「感情」を排し、「事実」を見極める冷静さが求められます。

対応を誤らないためには、以下の視点で状況を整理することから始めましょう。

  • 主観と事実の切り分け: 「態度が悪い」という主観ではなく、「会議中に腕を組み、上司の問いかけに無視をした」という事実を捉えます。
  • 影響範囲の特定: その言動が業務の遂行や他の社員にどのような具体的悪影響(業務遅延、士気低下など)を与えているかを確認します。
  • 改善の可能性: 本人に自覚があるか、過去の指導に対してどのような反応を示してきたかを振り返ります。

問題行動を「個人の性格の問題」として片付けず、「組織としての課題」として捉え直すことが、法的リスクを回避する第一歩となります。

初期指導の成功戦略:対話で改善を促すステップ

問題社員への対応において、いきなり処分を検討するのは早計です。まずは適切な手順で指導を行い、改善の機会を与えることが、法的な「解雇回避努力義務」を果たす上でも必須となります。

具体的な事実に基づくフィードバック

指導の際は、抽象的な言葉を避けることが鉄則です。「もっとやる気を出して」といった精神論ではなく、「〇月〇日の締め切りに対し、未完成のまま提出された。これにより△△の業務に遅れが生じた」と、日時と具体的な事実を伝えます。本人が「何が問題なのか」を正確に認識できない限り、行動変容は期待できません。

傾聴と期待値のすり合わせ

一方的に叱責するのではなく、なぜそのような行動に至ったのか、本人なりの言い分を聴く姿勢(傾聴)も重要です。その上で、会社が求めている役割や基準(期待値)を明確に伝え、現状とのギャップを認識させます。この「対話」のプロセスを経ることで、後のステップに進む際の正当性が強化されます。

注意指導の段階的強化

最初は口頭での注意から始めますが、改善が見られない場合はメール、そして書面(指導書・注意書)へと段階的にレベルを引き上げます。この段階的なアプローチは、会社が忍耐強く改善を促したことの証明になります。

証拠に基づいた事実確認:後悔しないための記録術

労働紛争に発展した際、会社側が最も苦戦するのが「証拠不足」です。「何度も言った」という主張だけでは、裁判や労働審判で認められないことが多々あります。問題社員への対応は、全て記録に残す覚悟が必要です。

5W1Hを網羅した指導記録

記録は日記のような感想文ではなく、5W1H(いつ・どこで・誰が・何を・なぜ・どのように)を意識して作成します。特に「本人の反応(反論の内容や、謝罪の有無)」まで詳細に記録しておくことが、後の紛争解決において決定的な意味を持ちます。

電子メールと書面の活用

口頭で伝えた内容も、直後に「先ほどの面談での確認事項」としてメールで送信し、履歴を残します。重要な指導や注意については、必ず文書(指導書)を発行し、受領サインを求めるようにしましょう。もし本人が受領を拒否した場合は、その事実(「〇月〇日、受領を拒否されたため、口頭で内容を読み上げ交付した」等)を記録します。

客観的データの収集

勤怠データ、未提出の報告書、ミスが記載された業務日報、顧客からのクレームメールなど、主観の入る余地のない客観的なデータも合わせて保存します。これらは感情論に対する最強の防具となります。

改善への具体的な道筋:計画と面談の法的側面

指導を繰り返しても改善が見られない場合、次のステップとして「業務改善計画書(PIP:Performance Improvement Plan)」の導入を検討します。これは単なるノルマの押し付けではなく、具体的かつ達成可能な目標を設定し、会社がどうサポートするかを明文化するものです。

業務改善計画書(PIP)の策定

PIPには、以下の要素を盛り込みます。

  • 具体的な問題点: 改善が必要な具体的な行動や成果。
  • 達成すべき目標: 数値や状態など、客観的に判定できる基準。
  • 期限: 1ヶ月〜3ヶ月程度の適切な期間。
  • 会社の支援策: 定期面談の実施、研修の機会提供、マニュアルの整備など。

定期面談による進捗管理

計画期間中は、1〜2週間ごとに定期面談を行い、進捗を確認します。できたことは評価し、できていないことは原因を一緒に分析します。このプロセス自体が「会社は改善のために手厚い支援を行った」という強力な証拠となります。

配置転換の検討

現在の部署や業務での改善が困難な場合、本人の適性に合う可能性のある他部署への配置転換も検討します。これは解雇の有効要件の一つである「解雇回避努力」として非常に重視されます。配置転換を行った上で、それでも改善しなかったという事実は、解雇の正当性を補強します。

解雇を決断する前に:法的リスクと代替案の検討

あらゆる手を尽くしても問題社員の改善が見込めない場合、いよいよ進退を判断する局面に入ります。しかし、日本の労働法において「解雇」は極めてハードルが高い行為です。

普通解雇の要件確認

解雇が有効とされるには、「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」が必要です(労働契約法第16条)。単に能力が低いというだけでは不十分で、指導を尽くしても改善の見込みがなく、業務への支障が甚大であり、配置転換もできないといった事情が積み重なって初めて認められます。

退職勧奨の実施

法的リスクを避けるための現実的な選択肢として「退職勧奨」があります。これは会社が退職を勧め、合意の上で雇用契約を終了させる方法です。解雇ではなく合意退職であれば、後のトラブルリスクは大幅に低減します。ただし、強要にならないよう、面談の回数や時間に配慮し、退職金の上乗せや有給消化などのメリットを提示して合意を目指します。

専門家の意見聴取

解雇や退職勧奨に踏み切る前には、必ず就業規則を確認し、弁護士や社会保険労務士などの専門家に相談してください。個別の事案ごとにリスクの所在が異なるため、第三者の専門的な視点が不可欠です。

「もしも」に備える:解雇後のトラブル防止策

解雇や退職で雇用関係が終了した後も、油断はできません。元社員からの未払い残業代請求や不当解雇としての訴えなど、トラブルが再燃するリスクがあります。

  • 解雇理由証明書の準備: 労働者から請求があった場合、遅滞なく解雇理由証明書を交付する義務があります。ここに記載する理由は、解雇通知時の理由と一致していなければなりません。
  • 合意書の締結: 退職勧奨による合意退職の場合は、必ず「清算条項(互いにこれ以上の債権債務がないことを確認する条項)」を含んだ合意書を取り交わします。
  • 手続きの適正化: 社会保険の喪失手続きや離職票の発行などを迅速に行います。事務手続きの遅れは、元社員の感情を逆なでし、トラブルの引き金になりかねません。

再発防止と組織健全化:未来への投資としての学び

問題社員への対応は、多大な労力と精神的負担を伴いますが、同時に組織を強くする機会でもあります。今回の経験を糧に、再発防止策を講じましょう。

採用プロセスの見直し

問題の根本原因が「ミスマッチ」にある場合、採用基準や面接での確認事項を見直す必要があります。スキルだけでなく、自社のカルチャーや価値観への適合性をより重視した選考フローを構築します。

就業規則と評価制度の整備

曖昧なルールが問題行動を助長させていなかったか確認しましょう。服務規律を明確化し、何が評価され、何が許されないのかを従業員全員に周知します。公正な評価制度は、真面目に働く社員を守るための基盤です。

健全な組織風土の醸成

問題が小さいうちに解決できる風通しの良い職場環境を作ることも大切です。定期的な1on1ミーティングなどでコミュニケーションを活性化させ、心理的安全性の高い組織を目指すことが、将来的なリスク回避につながります。

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まとめ

問題社員への対応は、経営者にとって孤独で辛い決断の連続かもしれません。しかし、感情に流されず、法的なステップを着実に踏むことで、会社と他の社員を守ることができます。

重要なのは、以下の3点です。

  • 感情ではなく事実に基づいて記録を残すこと。
  • 改善の機会を十分に与え、プロセスを尽くすこと。
  • 解雇は最終手段とし、退職勧奨などの代替案も検討すること。

これらの対応は、決して「冷徹」なことではありません。組織の規律を守り、健全な未来を築くための、経営者としての誠実な職務遂行です。迷ったときは一人で抱え込まず、専門家の力を借りながら、一つひとつの課題に向き合ってください。

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