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固定残業代無効の指摘事例とは?企業が避けたいトラブルと具体的な対策

2026.01.03 労務管理

固定残業代(定額残業代・みなし残業代)制度は、毎月の給与計算事務の簡素化や人件費の予測可能性を高める手段として、多くの企業で導入されています。しかし、その運用ルールは極めて厳格であり、「手当を出しているから残業代は解決済み」という安易な認識は、企業にとって致命的なリスクとなり得ます。近年、退職した従業員から「固定残業代無効」を主張され、多額の未払い残業代を請求されるケースが後を絶ちません。

この記事では、固定残業代が無効と指摘されやすい具体的な事例やその背景、根本的な原因を法的観点から分かりやすく解説します。また、実務担当者が即座に取り組める改善策や予防チェックリストも提示します。正しい知識で制度を運用し、無用な労使トラブルを防ぎましょう。

固定残業代無効の典型的な指摘事例

実務の現場で頻繁に見られるトラブルは、企業側が「適法」と信じて運用していた制度が、実は法的要件を満たしていなかったというケースです。ここでは、特定の業種や規模に限らず発生しやすい、典型的な失敗事例を一般化して紹介します。

ケース1:基本給組込型での区分不明確ある中小企業では、雇用契約書に「月給30万円(残業代含む)」とだけ記載し、長年運用していました。しかし、基本給部分と残業代部分の金額が明確に区分されておらず、何時間分の残業代が含まれているかも明記されていませんでした。この場合、30万円全額が「基礎賃金」とみなされ、実際の残業時間に対する割増賃金が1円も支払われていないと判断されるリスクが高まります。

ケース2:実態と乖離した「営業手当」の運用営業職に対して一律5万円の「営業手当」を支給し、これを固定残業代として扱っていた事例です。就業規則には「営業手当は残業代の代わり」という曖昧な記述しかなく、実際の残業時間が固定分を超過しても差額が支払われていませんでした。さらに、残業を全くしていない月でも支給されていたため、「残業の対価」ではなく、単なる職務手当としての性格が強いと判断され、固定残業代無効の指摘を受けました。

ケース3:法の上限を超える長時間設定「月80時間分の固定残業代」を設定していた企業の事例です。労働基準法の原則や36協定の上限規制を大幅に超える長時間の固定残業設定は、公序良俗に反して無効とされる可能性があります。実際に、長時間労働を助長する制度として否定され、結果として設定した金額が残業代として認められない事態を招きました。

固定残業代が無効と指摘されるトラブルの背景

なぜ、これほどまでに固定残業代無効に関するトラブルが増加しているのでしょうか。その背景には、法制度の変化と労働者の意識変化が大きく関わっています。

まず、「働き方改革」と判例の厳格化が挙げられます。最高裁による一連の判決(テックジャパン事件、国際自動車事件など)により、固定残業代が有効と認められるための要件(明確区分性や対価性)が非常に厳格に解釈されるようになりました。単に「残業代として払っている」という使用者の主観だけでは認められず、客観的かつ契約上の明確な根拠が求められるようになっています。

また、「定額働かせ放題」という誤解の広まりも要因の一つです。インターネットやSNSを通じて労働法の知識が普及し、従業員側も「固定残業代=いくら働かせても追加費用がかからない制度ではない」ことを理解し始めています。適正な労務管理を行っていない企業に対して、退職時や在職中に是正を求める動きが活発化しており、これが表面化するトラブル件数の増加につながっています。

固定残業代トラブルの根本原因を多角的に分析

固定残業代が無効とされるトラブルには、共通する根本的な原因が存在します。これらは主に制度設計の不備と運用の杜撰さに起因します。

  • 「明確区分性」の欠如基本給と固定残業代が明確に分かれていないことが最大の問題です。給与明細や雇用契約書において、具体的に「いくらが基本給で、いくらが残業代か」が判別できない状態は、裁判所から無効と判断される最も典型的な原因です。
  • 「対価性」の不存在支給されている手当が、本当に「残業の対価」としての実質を持っているかが問われます。例えば、欠勤があれば減額される、あるいは家族手当のように属人的な要素で決定されている場合、それは残業代ではなく通常の賃金とみなされやすくなります。
  • 周知と合意の不足就業規則に規定があるだけで、個々の従業員への説明や合意(労働条件通知書への明記と署名など)が不足しているケースです。従業員が「自分に固定残業代が適用されていることを知らなかった」と主張できる状況は、企業にとって極めて不利に働きます。
  • 差額精算(超過分支払い)の未実施「固定残業時間は月30時間」と設定しているにもかかわらず、実労働時間が40時間だった月に、超過した10時間分の割増賃金を支払っていない場合です。これは制度運用の実態がないとみなされ、固定残業代無効の判断を補強する材料となります。

固定残業代無効が企業に与える具体的な影響

万が一、裁判や労働審判で固定残業代無効と判断された場合、企業が被るダメージは計り知れません。単なる「差額の支払い」では済まない深刻な影響があります。

最も直接的な影響は、過去に遡った未払い残業代の支払いです。固定残業代が無効になると、これまで「残業代」として払っていたつもりの金額が「基本給(基礎賃金)」の一部として組み込まれてしまいます。これにより、残業代計算の基礎となる時給単価が上昇し、さらにその単価に基づいて過去(最大3年分)の全残業時間を再計算することになります。結果として、想定の倍以上の支払いを命じられる「ダブルパンチ」の状態に陥ります。

また、裁判所が悪質と判断した場合、未払い金と同額の「付加金」の支払いを命じられるリスクもあります。金銭的な損失に加え、「違法な賃金制度を運用していた企業」としての社会的信用の低下も避けられません。これは採用活動における不人気や、既存従業員のモチベーション低下、連鎖的な離職や訴訟を引き起こす引き金となり得ます。

固定残業代トラブルを回避する一般的な改善策と予防策

固定残業代制度を適法かつ安全に運用するためには、制度の透明性を確保し、実態に即した管理を行うことが不可欠です。以下に、実務ですぐに見直すべき具体的な改善策を挙げます。

1. 就業規則と雇用契約書の整備

就業規則(賃金規程)および個別の雇用契約書(労働条件通知書)に、以下の事項を明確に記載してください。曖昧な表現は避け、数字を用いて具体的に記述することが重要です。

  • 固定残業代の名称(例:「固定時間外手当」「業務手当」など)
  • 固定残業代の金額
  • その金額が「何時間分の残業(時間外・休日・深夜)」に相当するのか
  • 設定時間を超過した分は、別途追加で支給する旨の文言

2. 「明確区分性」の確保

給与体系を見直し、基本給と固定残業代を明確に分けます。例えば「月給30万円(固定残業代含む)」ではなく、「基本給24万円、固定残業代6万円(30時間分)」のように内訳を明示します。

  • 給与明細への反映:毎月の給与明細においても、「基本給」と「固定残業手当」の欄を分け、従業員が一目で区別できるようにします。
  • 募集要項の適正化:求人票においても同様の区分記載を行い、入社前から誤解が生じないようにします。

3. 労働時間の適正把握と差額支払いの徹底

制度導入後も、タイムカードや勤怠システムを用いて、1分単位での労働時間管理を継続しなければなりません。

  • 毎月の実残業時間を集計し、設定した固定残業時間を超えていないか確認する。
  • もし超過していれば、その月の給与で確実に差額(超過分)を支給し、給与明細に「超過残業手当」などの項目で明記する。

4. 定期的な見直しと従業員への説明

昇給や降給、配置転換のタイミングで、固定残業代の金額や時間設定が現状の業務量や基本給に見合っているかを確認します。変更がある場合は、改めて書面で通知し、同意を得ることがトラブル予防につながります。

固定残業代に関する類似トラブルの予防ポイントとチェックリスト

固定残業代以外にも、各種手当の性質を巡るトラブルは存在します。同様のリスクを防ぐため、以下の視点で自社の状況をチェックしてみてください。

  • 手当の名称と実態の一致:「役職手当」に固定残業代を含める場合、その旨と内訳が規程に明記されていますか?単に名称だけで運用していると、対価性を否定されるリスクがあります。
  • 最低賃金の確認:固定残業代を除いた「基本給部分」だけで、地域別最低賃金を上回っていますか?固定残業代を含めて最低賃金をクリアしていても違法となります。
  • 深夜・休日割増の扱い:固定残業代が「時間外労働(法定内・法定外)」のみを対象としている場合、深夜労働や休日労働が発生した際は、別途全額を支払う必要があります。対象範囲を明確に定義してください。

関連する詳しい情報はこちらのブログ一覧もご参照ください。

まとめ

固定残業代制度は、正しく設計・運用されれば労使双方にメリットのある仕組みですが、ひとたび運用を誤ると固定残業代無効という重大なリスクを招きます。今回解説した通り、トラブルの多くは「明確区分性」「対価性」「差額払い」の不備に起因します。

企業としては、「手当を払っているから大丈夫」という思い込みを捨て、契約書や就業規則の記載内容が最新の法令や判例基準に適合しているか、定期的に点検することが重要です。また、日々の勤怠管理と給与計算において、超過分の支払いを徹底することが、最大の防御策となります。透明性の高い適正な運用を心がけ、従業員との信頼関係を築いていきましょう。

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