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メンタル不調での休職対応:社労士が語る失敗事例と心に寄り添う復職支援の極意

2026.01.03 メンタルヘルス労務

導入

ある日突然、信頼していた部下から診断書を提出される——。「まさか、あの人が」という驚きと共に、企業の人事担当者が直面するのがメンタル不調による休職対応です。心の健康問題は目に見えないからこそ、対応を一歩間違えれば、本人の症状悪化だけでなく、安全配慮義務違反などの法的リスクや組織全体の士気低下を招く恐れがあります。

メンタル不調での休職対応:社労士が語る失敗事例と心に寄り添う復職支援の極意

本記事では、数多くの労務相談を受けてきた社労士法人の視点から、企業が陥りやすい失敗事例と、本当に社員の心に寄り添うための復職支援のプロセスを解説します。マニュアル通りの対応ではなく、一人の人間としての「心」に焦点を当てた、温かくも実践的な極意をお伝えします。

メンタル不調による休職、その背景にある「見えない苦悩」とは

休職の連絡を受けたとき、企業側は「業務の引き継ぎはどうしよう」「人員補充は必要か」といった実務的な課題に意識が向きがちです。しかし、まずは休職に至った本人の「見えない苦悩」に思いを馳せることが、すべての対応の出発点となります。

メンタル不調により休職を余儀なくされる社員の多くは、休職直前まで「会社に迷惑をかけたくない」「自分が弱いだけではないか」という激しい葛藤の中にいます。真面目で責任感が強い社員ほど、限界を超えてもSOSを出せず、診断書が出た時にはすでに心身ともに疲弊しきっているケースが少なくありません。

休職に入ってからも、苦悩は続きます。自宅療養中も「同僚に負担をかけている罪悪感」や「自分の席はもうないかもしれないという恐怖」、「社会から取り残されるような疎外感」に苛まれ、心休まる時間を持てないことが多いのです。企業側がこの心理状態を理解せず、事務的な連絡や早期復帰の打診を行うことは、彼らをさらなる暗闇へ突き落とすことになりかねません。

企業が陥りがちな休職対応の「落とし穴」:なぜ復職はうまくいかないのか

良かれと思って行った対応が、結果として復職を阻害し、最悪の場合は退職へと追い込んでしまうことがあります。ここでは、多くの企業が陥りがちな3つの「落とし穴」を紹介します。

1. 焦りによる「早期復職」の強要

人員不足の現場からのプレッシャーにより、主治医の「復職可能」という診断書が出た直後に、十分な準備期間を設けずフルタイム復帰させてしまうケースです。主治医の診断はあくまで「日常生活が送れるレベル」を指していることが多く、「職業生活に耐えうるレベル」とは限りません。このギャップを見誤ると、再発リスクが極めて高くなります。

2. 連絡頻度のミスマッチ

「放置しては申し訳ない」と頻繁に電話やメールで状況確認を行うことは、休職者にとって大きなプレッシャーとなります。逆に、「そっとしておこう」と数ヶ月間全く連絡を取らないと、本人は「会社から見捨てられた」と感じてしまいます。この距離感の調整不足が、信頼関係を損なう原因となります。

3. 「休んだ分を取り戻せ」という無言の圧力

復職後、周囲が「遅れた分を早く取り戻してほしい」という期待をかけたり、本人自身がそう思い込んだりする環境は危険です。受け入れ側にメンタルヘルスへの理解がないと、復職者は孤立し、再び心を閉ざしてしまいます。

「あの時、もっと寄り添えていたら…」休職初期段階での共感と適切な対応

休職初期の対応における最大の鍵は、「事務的な処理」ではなく「感情的なケア」を優先することです。

診断書を受け取る際や休職前の面談では、決して本人を責めたり、原因を追及したりしてはいけません。「よくここまで一人で頑張ってくれましたね」「今は仕事のことは忘れて、ゆっくり休むことがあなたの最優先の仕事です」と、まずは本人の辛さに共感し、休むことを肯定する言葉をかけてください。

また、休職中の連絡窓口は人事担当者など一人に一本化しましょう。複数の上司や同僚からバラバラに連絡が入ると、本人は混乱し、心が休まりません。「会社のことは私に任せてください」と伝え、連絡頻度や手段(電話かメールか)を本人の希望に合わせて調整することが、安心感の醸成(ラポール形成)に繋がります。

「待っている場所がある」という安心感こそが、療養における何よりの薬となるのです。

復職支援を成功に導く具体的なステップ:会社と本人の安心のために

円滑な職場復帰を実現するためには、厚生労働省の「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」に基づいた、以下の5つのステップを丁寧に進めることが重要です。

  1. 病気休業開始及び休業中のケア
    前述の通り、安心感を与え、治療に専念できる環境を作ります。傷病手当金などの経済的な不安を取り除く手続き案内も不可欠です。
  2. 主治医による職場復帰可能の判断
    本人が復職を希望し、主治医が診断書を出しますが、これを鵜呑みにせず、あくまで「プロセスの開始合図」と捉えます。
  3. 職場復帰の可否の判断及び支援プランの作成
    ここが最重要ステップです。産業医との面談を実施し、生活リズム表やリワーク(復職支援プログラム)の利用状況などを確認します。その上で、「試し出勤」や「短時間勤務」「業務内容の軽量化」などを組み合わせた具体的な復職支援プランを作成します。
  4. 最終的な職場復帰の決定
    作成したプランについて、本人、管理監督者、産業医等の同意を得た上で、事業者が最終的な復職決定を行います。
  5. 職場復帰後のフォローアップ
    復職はゴールではなくスタートです。実際に働き始めてからの体調変化や業務負荷を継続的にモニタリングします。

復職後も続く見守り:再休職を防ぐための継続的なサポート

「復職おめでとう、これからは通常通り頼むよ」——これが最も危険な言葉です。復職直後の社員は、病み上がりの不安定な状態であり、再発率も非常に高いのが現実です。

再休職を防ぐためには、「スモールステップ」の原則を徹底します。最初は週数回の午前中勤務から始め、徐々に時間を延ばし、数ヶ月かけて通常業務に戻していくような長期的な視点が必要です。

また、定期的な面談(1週間後、1ヶ月後、3ヶ月後など)をあらかじめスケジュールに組み込みましょう。「何かあったら相談して」という受動的な姿勢ではなく、企業側から「体調はどうですか?眠れていますか?」と声をかけることで、小さな変化やSOSを早期にキャッチできます。現場の管理職に対しても、業務量の調整や「過度な配慮」にならない自然な接し方を指導することが、人事担当者の腕の見せ所です。

社労士が解説!メンタル不調休職対応における法的な注意点と専門家の活用

最後に、法的な側面からのリスク管理について解説します。

企業には労働契約法第5条に基づく「安全配慮義務」があります。メンタル不調の兆候を把握していながら放置したり、医師の意見を無視して業務を強要し悪化させたりした場合、多額の損害賠償請求に繋がる可能性があります(電通事件などの判例)。

また、復職時の判断も法的リスクを伴います。治癒していないのに無理に復職させて再発させた場合も、逆に「まだ働けない」と一方的に決めつけて復職を拒否した場合(退職扱いなど)も、トラブルの火種となります。特に、解雇や雇い止めに関しては、メンタル不調が業務に起因する場合、労働基準法による解雇制限期間が適用されることもあるため、極めて慎重な判断が求められます。

こうした判断は、医学的な知見と法的な知識の両方が必要となる非常に高度な領域です。社内のリソースだけで抱え込まず、社会保険労務士(社労士)や産業医といった専門家と連携することが、企業と社員双方を守ることに繋がります。就業規則(休職規程)の整備から個別のケース対応まで、外部のプロフェッショナルを頼ることは、決して恥ずかしいことではありません。

まとめ

メンタル不調での休職対応において最も大切なのは、制度やマニュアルの奥にある「人の心」を見失わないことです。失敗事例の多くは、効率やルールを優先し、社員の感情を置き去りにした結果生じています。

初期段階での温かい共感、焦らず段階を踏む復職支援、そして復職後も続く見守り。これら一つひとつは地道な作業ですが、その誠実な対応こそが社員の信頼を回復し、組織全体の心理的安全性(Psychological Safety)を高める鍵となります。「この会社なら、もし倒れても大切にしてくれる」。そう社員が思える職場づくりこそが、最強のリスクマネジメントであり、企業の成長基盤となるのです。

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