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ハラスメント発覚時、企業がとるべき緊急調査手順とは?7つのステップで法的リスクを回避
ハラスメント調査は、企業のリスク管理において極めて重要な初動対応の一つです。職場でのハラスメント疑惑が浮上した際、多くの企業担当者は「まず何をすべきか」「どうすれば法的リスクを最小限に抑えられるか」と頭を悩ませます。初期対応を誤れば、被害の拡大だけでなく、企業の社会的信用失墜や損害賠償請求といった深刻な事態を招きかねません。

本記事では、ハラスメント調査のプロフェッショナルな視点から、発覚直後の初動から再発防止策まで、企業が踏むべき具体的な手順を7つのステップで体系的に解説します。公平かつ適正な調査フローを理解し、実務に即した対応策を講じるためのガイドラインとしてご活用ください。
ハラスメント報告受理時の緊急初動対応
ハラスメント調査の成否は、報告を受けた直後の初動対応で決まると言っても過言ではありません。相談窓口や上司が第一報を受けた瞬間から、企業の安全配慮義務を果たすためのプロセスが開始されます。
まず最優先すべきは、相談者(被害者)の心身の安全確保と、これ以上の被害拡大を防ぐための措置です。事実確認が完了していない段階であっても、暫定的な措置として当事者同士を引き離すなどの対応が求められます。
- 相談者の安全確保と環境調整
- 相談者の意向を確認した上で、加害者とされる人物との接触を物理的・業務的に遮断します。
- 必要に応じて、座席の変更、在宅勤務の許可、あるいは一時的な配置転換を検討します。
- 相談者のメンタルヘルス状態が深刻な場合は、産業医への相談や医療機関の受診を促します。
- 5W1Hに基づく詳細な記録
- 「いつ(日時)」「どこで(場所)」「誰が(加害者)」「誰に(被害者)」「何を(具体的な言動)」「なぜ(背景や経緯)」行われたかを聴取します。
- 相談者の発言を一言一句漏らさず記録し、主観的な評価(「ひどい態度だった」など)と客観的な事実(「馬鹿と言われた」など)を区別してメモします。
- 不利益取扱いの禁止と守秘義務の明示
- 相談したことによって評価が下がったり、報復を受けたりすることがないよう、不利益取扱いの禁止を明確に伝えます。
- 相談内容が関係者以外に漏れないよう、プライバシー保護を徹底することを約束し、相談者に安心感を与えます。
ハラスメント調査体制の確立と準備
報告を受理した後は、速やかに客観的かつ公正なハラスメント調査を実施するための体制を構築しなければなりません。調査担当者の選定や調査委員会の設置は、その後の事実認定の正当性を担保する上で非常に重要です。
調査メンバーは、当事者と利害関係のない中立的な立場の人物で構成する必要があります。社内の人間関係や力関係が調査結果に影響を与えたと疑われると、調査報告書自体の信用性が損なわれるリスクがあるためです。
- 調査委員会の設置とメンバー選定
- 人事労務部門の責任者、法務担当者、コンプライアンス担当者などを中心に調査チームを結成します。
- 事案の重大性や複雑さに応じて、弁護士や社会保険労務士といった外部専門家をアドバイザーとして招聘、あるいは委員として参加させることが望ましいでしょう。
- 調査担当者の性別についても配慮し、セクシャルハラスメント事案などでは、相談者が話しやすい同性の担当者を同席させる工夫が必要です。
- 調査方針とスケジュールの策定
- 調査の目的(事実確認、再発防止、懲戒処分の検討など)を明確化します。
- ヒアリング対象者の範囲(当事者のみか、目撃者や同僚も含めるか)を決定し、二次被害を防ぐための優先順位を決めます。
- 調査開始から完了までの目安となるスケジュールを立て、関係各所との調整を行います。
公平・客観的なハラスメント事実確認手法
ハラスメント調査において最も重要なのは、予断を持たずに事実のみを積み上げる姿勢です。「あの人ならやりかねない」といったバイアスや、「被害者の思い込みだろう」といった先入観は排除し、公平・中立な視点を貫く必要があります。
事実確認は、原則として以下の順序で進めるのがセオリーです。いきなり加害者とされる人物に接触すると、口裏合わせや証拠隠滅のリスクがあるため、慎重な手順が求められます。
段階的なヒアリングフロー
- 相談者(被害者)への詳細ヒアリング
- 初回の相談受付時よりもさらに踏み込み、時系列に沿って具体的な事実関係を確認します。
- 他の目撃者がいたか、録音やメールなどの証拠があるかを確認し、提出を求めます。
- 第三者(目撃者・関係者)へのヒアリング
- 相談者の同意を得た上で、現場を目撃した可能性のある同僚や、同じ部署のメンバーに事情を聴きます。
- 「〇〇さんから相談があった」と具体的に伝えるのではなく、「職場の環境について調査している」など、相談者が特定されないよう配慮しながら情報を集めるテクニックも必要です。
- 行為者(加害者)へのヒアリングと弁明の機会
- 十分な情報と証拠が集まった段階で、最後に行為者へのヒアリングを実施します。
- 行為の有無を確認すると同時に、なぜそのような言動に至ったのか、その意図や背景を聴取します。
- 行為者にも十分な弁明の機会を与え、その主張を公平に記録に残すことが、後の懲戒処分の有効性を支える鍵となります。
証拠保全と関係者ヒアリングの進め方
ハラスメント調査では、人の記憶だけに頼るのではなく、客観的な証拠をどれだけ収集できるかが事実認定の精度を左右します。特に言った言わないの水掛け論になりやすい事案では、デジタルデータの保全が決定的な役割を果たします。
関係者へのヒアリングを実施する際は、誘導尋問にならないよう注意し、オープン・クエスチョン(「はい/いいえ」で答えられない質問)とクローズド・クエスチョンを使い分ける技術が求められます。
- 収集すべき客観的証拠の例
- デジタルデータ: 業務メール、チャットツール(Slack, Teams, LINE等)の履歴、SNSの投稿。
- 音声・画像: ボイスレコーダーによる録音データ、防犯カメラの映像、現場の写真。
- 文書資料: 業務日報、出勤簿、医師の診断書、被害者が作成していた日記やメモ。
- ヒアリング時の留意点
- 個室や貸会議室など、プライバシーが確保された静穏な環境で実施します。
- ヒアリング内容は可能な限り録音(相手の同意を得た上で)し、後日「言った言わない」のトラブルにならないようにします。
- 聴取した内容は速やかに「聴取書」や「供述調書」として書面化し、最後に本人に内容を確認してもらい、署名・捺印をもらうことで証拠価値を高めます。
ハラスメント事案の評価と事実認定プロセス
ヒアリングと証拠収集が完了したら、収集した情報を精査し、ハラスメントの事実があったかどうかを認定するフェーズに入ります。ここでは、感情的な判断ではなく、法律や厚生労働省の指針、過去の裁判例に基づいた論理的な評価が必要です。
事実認定において当事者の主張が食い違う場合は、どちらの供述がより信用性が高いか(具体的か、一貫しているか、客観的証拠と整合するか)を慎重に比較考量します。
事実認定の3つの基準(パワーハラスメントの場合)
厚生労働省が定めるパワーハラスメントの定義に基づき、以下の3要素をすべて満たすかどうかを検証します。
- 優越的な関係を背景とした言動か
- 職務上の地位や人間関係などの優位性を利用しているか。抵抗や拒絶が困難な関係性か。
- 業務上必要かつ相当な範囲を超えているか
- 社会通念に照らして、明らかに業務の適正な範囲を逸脱しているか。指導の目的があっても、手段として暴言や暴力、執拗な攻撃は許容されません。
- 労働者の就業環境が害されているか
- 当該言動により、被害者が身体的・精神的苦痛を受け、職場環境が不快なものとなり、能力の発揮に重大な悪影響が生じているか。
セクシャルハラスメントやマタニティハラスメントの場合も同様に、それぞれの法的定義と照らし合わせて該当性を判断します。このプロセスでは、事実認定の結果を調査報告書としてまとめることが不可欠です。
適切な措置の決定と実施による法的リスク回避
ハラスメントの事実が認定された場合、企業は就業規則に基づき、加害者に対して厳正な処分を行う必要があります。同時に、被害者の救済措置を講じることが求められます。
処分の重さ(量定)は非常にデリケートな問題です。加害者の行為に対して処分が軽すぎれば被害者の納得が得られず、逆に重すぎれば加害者から不当処分として訴えられるリスクがあります。
- 懲戒処分の検討プロセス
- 就業規則の懲戒規定を確認し、どの条項に該当するかを特定します。
- 行為の頻度、期間、悪質性、被害の程度、加害者の反省の有無、過去の処分歴などを総合的に考慮します。
- 「過去の同種事案」や「他社の類似事案」との公平性を保つことが重要です(平等取扱いの原則)。
- 被害者への救済措置
- 加害者と被害者を完全に切り離すための配置転換を行います。この際、原則として被害者を不本意に異動させることは避け、加害者を異動させるのが筋です。
- 被害者のメンタルヘルスケアのためのカウンセリング費用の負担や、休職が必要な場合の支援を行います。
- 認定された事実と会社の対応について、被害者に丁寧に説明し、納得を得るよう努めます。
ハラスメント再発防止策の策定と職場環境改善
個別の事案処理が終わっても、ハラスメント調査は終わりではありません。同様の問題が二度と起きないよう、組織的な再発防止策を策定し、実行することが企業の責務です。
ハラスメントが発生する職場には、過重労働、コミュニケーション不足、属人的な業務体制など、構造的な要因が潜んでいることが少なくありません。根本的な職場環境改善に取り組むことが、最強のリスク管理となります。
- 具体的な再発防止策のアクションプラン
- トップメッセージの発信: 経営トップが「ハラスメントを許さない」という断固たる姿勢を改めて全社員に表明します。
- 研修の実施: 管理職向け、一般社員向けなど階層別に分け、具体的な事例を用いた実践的なハラスメント研修を行います。
- ルールの見直し: ハラスメント防止規定や相談窓口の運用ルールを見直し、より実効性の高いものに改定します。
- 職場環境アンケート: 定期的に無記名のアンケート調査を実施し、潜在的なハラスメントリスクや職場のストレス状況をモニタリングします。
調査後のフォローアップと記録保持の重要性
一連の調査と対応が完了した後も、一定期間は経過観察を行う必要があります。被害者が職場で平穏に働けているか、加害者による報復行為が行われていないか、周囲の人間関係が悪化していないかなどをフォローアップします。
また、今回の調査に関する記録は、将来的な紛争リスクに備えて適切に保存しなければなりません。
記録の保存と活用
- 保存すべき文書: 相談受付票、ヒアリング記録(聴取書)、収集した証拠資料、調査報告書、懲戒処分通知書、再発防止策の記録など一式。
- 保存期間: 法律上の明確な定めはありませんが、不法行為の損害賠償請求権の時効(最低3年、知った時から5年等)や、公文書管理の観点から、最低でも5年間は厳重に保管することが推奨されます。
- 情報開示への対応: 後日、当事者から調査結果の開示を求められることがあります。プライバシー保護の観点からどこまで開示するか(黒塗り対応など)の基準をあらかじめ定めておく必要があります。
ハラスメント調査は、企業にとって大きな負担となる業務ですが、誠実かつ適正に対応することで、従業員との信頼関係を再構築し、より健全な組織へと生まれ変わるチャンスにもなり得ます。本記事で紹介した7つのステップを参考に、公平性を貫いた対応を心がけてください。
関連する詳しい情報はこちらのブログ一覧もご参照ください。
まとめ
ハラスメント調査は、初動のスピードとプロセスの公正さがすべてです。相談者の安全を守り、中立的な立場での事実認定を行い、就業規則に基づいた適正な処分を下す。この一連の流れを一つでもおろそかにすれば、法的リスクは跳ね上がります。
企業担当者は、「ハラスメント調査」を単なるトラブル処理と捉えず、職場環境を健全化するための重要な経営課題として取り組む必要があります。万が一の際は、迷わず専門家の助言を仰ぎながら、冷静かつ着実にステップを進めていきましょう。
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