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就業規則改定で失敗しない!多様な働き方導入の重要ポイントと注意点7選

2025.12.10 就業規則改定

「多様な働き方」が求められる背景と就業規則改定の必要性

昨今、企業を取り巻く環境は劇的に変化しています。少子高齢化による労働人口の減少や、「働き方改革関連法」の施行、そして新型コロナウイルス感染症の流行を経て、テレワークや副業・兼業といった「多様な働き方」が当たり前のものとなりつつあります。

就業規則改定で失敗しない!多様な働き方導入の重要ポイントと注意点7選

こうした中で、多くの企業が直面しているのが「既存の就業規則と実態のズレ」です。昭和や平成の時代に作られた、「全社員がオフィスに出社し、定時で働く」ことを前提とした就業規則のままでは、柔軟な働き方を求める優秀な人材の確保が難しくなるだけでなく、労使トラブルの原因にもなりかねません。

就業規則の改定は、単なる法令順守(コンプライアンス)のためだけの作業ではありません。従業員が安心して能力を発揮できる環境を整え、企業の生産性を向上させるための「経営戦略」として捉える必要があります。多様な働き方に対応したルールを明文化することで、企業と従業員の信頼関係(エンゲージメント)を強化することが、現代の就業規則改定における最大の目的と言えるでしょう。

就業規則改定前に確認すべき法的要件と準備事項

就業規則を改定する際には、労働基準法に基づいた適正な手続きを踏むことが不可欠です。中身が良いものであっても、手続きに不備があれば法的効力が認められないリスクがあります。

まず確認すべきは、「労働者代表からの意見聴取」です。就業規則の作成・変更を行う場合、使用者は「労働者の過半数で組織する労働組合」、それがない場合は「労働者の過半数を代表する者(過半数代表者)」の意見を聞き、その内容を記した「意見書」を添付して労働基準監督署へ届け出る義務があります(労働基準法第90条)。

ここで特に注意が必要なのが、過半数代表者の選出方法です。

  • 管理監督者ではないこと
  • 「就業規則改定の意見を聴取する代表者の選出」であることを明らかにした上で、投票や挙手などの民主的な手続きで選ばれていること

会社側が一方的に指名した社員や、親睦会の代表者を自動的に充てることは認められません。こうした選出プロセスの不備は、就業規則そのものの無効原因となり得るため、選出の経緯を示す記録(投票用紙や選任書など)を確実に残しておく準備が重要です。

多様な働き方を導入する際の具体的な改定ポイント

多様な働き方を導入する場合、既存の規定に「継ぎ足し」をするだけでは矛盾が生じることがあります。以下の主要なテーマごとに、整合性の取れた改定が必要です。

1. テレワーク(在宅勤務)規定

通常の勤務と異なり、労働時間の管理方法や費用の負担について明確にする必要があります。

  • 労働時間の把握: 始業・終業の報告方法(メール、チャット、勤怠システム等)や、「中抜け時間」の扱いを規定します。
  • 費用負担: 通信費、光熱費、郵送費などを会社が負担するのか、手当として支給するのかを明確化します。
  • 情報セキュリティ: 自宅やサテライトオフィスでのデータ取り扱いルール、私用端末の利用可否などを定めます。

2. 副業・兼業の解禁

厚生労働省のモデル就業規則も「原則禁止」から「原則容認」へとシフトしていますが、無条件での解禁はリスクを伴います。

  • 届出制・許可制: 労務管理や利益相反の観点から、事前の届出や許可を必須とするフローを整備します。
  • 禁止事項の明記: 「競業避止義務違反」「守秘義務違反」「本業への支障」など、副業を認めない具体的なケースを列挙します。
  • 労働時間の通算: 自社と副業先での労働時間を通算して管理する必要があるため、報告義務についても触れる必要があります。

3. 同一労働同一賃金への対応

正社員と非正規雇用労働者(パート・契約社員)の間で、不合理な待遇差を設けることは禁止されています。

  • 手当の支給基準: 通勤手当や皆勤手当など、同じ性質の手当であれば、雇用形態に関わらず同一の基準で支給するよう規定を見直します。
  • 福利厚生: 食堂利用や慶弔休暇などについても、利用権限に差がないか確認が必要です。

よくある間違い!就業規則改定で企業が陥りがちな落とし穴と対策

多くの企業が就業規則改定で陥る最大の落とし穴が、「不利益変更」の問題です。

不利益変更とは、賃金の減額や手当の廃止、休日の削減など、労働条件を従業員にとって不利な内容に変更することを指します。労働契約法第9条・第10条により、原則として会社が一方的に不利益な変更を行うことはできません。

よくある失敗事例:

  • 「業績が悪いから」という理由だけで、全社員の住宅手当を一方的に廃止した。
  • 「多様な働き方導入」の名目で、みなし残業時間を大幅に増やし、実質的な賃金カットを行った。

対策:

不利益変更を行うには、「変更の合理性」が必要です。(1)労働者が受ける不利益の程度、(2)変更の必要性、(3)変更後の内容の相当性、(4)労働組合等との交渉状況、などを総合的に考慮されます。どうしても不利益変更が必要な場合は、十分な説明期間を設け、個別の同意書を取得することや、代替措置(経過措置として激変緩和措置を設けるなど)を検討するなど、慎重な対応が求められます。

また、「ネット上のひな形をそのまま利用する」ことも危険です。モデル就業規則はあくまで一般的な例であり、自社の特殊な勤務体系や社風に合わない条項が含まれていると、いざトラブルになった際に会社を守れないばかりか、意図せず法令違反になる可能性があります。

従業員への説明・周知を成功させるためのコミュニケーション戦略

就業規則を改定し、労基署へ届け出たとしても、それを「従業員に周知」していなければ、その就業規則は効力を持ちません(労働基準法第106条)。周知とは、従業員がいつでも内容を確認できる状態にしておくことを指します。

有効な周知方法:

  • 社内の共有サーバーやイントラネットにPDFを掲示し、アクセス権を付与する。
  • 書面を各事業場の見やすい場所(休憩室など)に備え付ける。
  • 従業員一人ひとりに冊子やデータを配布する。

しかし、法的な「周知義務」を果たすだけでは不十分です。制度変更の意図が伝わらなければ、従業員の不信感を招く恐れがあります。

コミュニケーションのポイント:

変更内容は「決定事項の通達」として一方的に流すのではなく、「なぜこの変更が必要なのか」「従業員にどのようなメリットがあるのか」を丁寧に説明する場(説明会やオンラインミーティング)を設けることが重要です。特に、多様な働き方に関連する改定は、従業員のライフスタイルに直結するため、Q&Aを作成して不安を解消するなど、双方向のコミュニケーションを心がけましょう。

就業規則改定後の運用と継続的な見直しの重要性

「就業規則を作って終わり」にしてしまう企業は少なくありませんが、完成はゴールではなくスタートです。改定されたルールが現場で正しく運用されているか、定期的にモニタリングする必要があります。

例えば、テレワーク規定を作ったものの、「上司の承認印が必要で実質的に出社を強制されている」「隠れ残業が増えている」といった実態があれば、本末転倒です。運用上の課題が見つかれば、細則やマニュアルで補足するなど、PDCAサイクルを回して改善していく姿勢が求められます。

また、労働関係法令は頻繁に改正されます。育児・介護休業法や高年齢者雇用安定法など、毎年のように変わる法律に対応するため、少なくとも年に1回は就業規則の点検(レビュー)を行う機会を設けるべきです。常に最新の法令と自社の実態に即した「生きた就業規則」を維持することが、リスク管理の基本です。

社労士に相談すべきケースと専門家活用のメリット

自社のみで法改正の情報をすべて追いかけ、適法かつ実用的な就業規則を作成・改定することは、担当者にとって非常に重い負担となります。以下のようなケースでは、専門家である社会保険労務士(社労士)への相談を強く推奨します。

  • 大幅な労働条件の変更(特に不利益変更)を伴う場合: 法的リスクが高いため、合理性の判断や進め方について専門的な助言が不可欠です。
  • 初めて本格的なテレワークや副業制度を導入する場合: 労務管理の複雑化を防ぐため、他社事例を踏まえた制度設計のアドバイスが役立ちます。
  • 助成金の申請を検討している場合: 「働き方改革推進支援助成金」など、就業規則の改定が受給要件となる助成金は多く、規定の文言一つで不支給になることもあるため、専門家のチェックが重要です。

社労士に依頼することで、法令遵守はもちろん、「トラブルを未然に防ぎ、会社と従業員を守る強い就業規則」を作成できます。また、煩雑な届出業務をアウトソーシングできるため、経営者や担当者は本来の業務に専念できるというメリットもあります。多様な働き方を企業の成長につなげるために、外部の専門知見を積極的に活用していきましょう。

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