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“残業申請”はなぜ形骸化する?労働時間適正化を実現する改善策3選【専門家解説】
導入
「制度はあるのに、残業申請が徹底されていない」「知らないうちに未払い残業代のリスクが膨らんでいる」……。このような悩みを抱える人事労務担当者は少なくありません。働き方改革以降、労働時間の適正把握は企業の義務となりましたが、現場では「申請の手間」や「申請しづらい雰囲気」から、形だけの運用(形骸化)に陥っているケースが後を絶ちません。

残業申請が形骸化すると、企業の法的リスクが高まるだけでなく、従業員の健康被害やモチベーション低下にも直結します。本記事では、社会保険労務士法人の専門的知見に基づき、形骸化の原因を解明した上で、実務ですぐに導入できる3つの改善施策を具体的に解説します。アナログ管理からシステム導入まで、自社に最適な方法を見つける手助けとなれば幸いです。
残業申請の形骸化が引き起こす企業リスクとは?
多くの企業で導入されている残業申請制度ですが、実態と乖離した運用を放置することは、経営にとって極めて重大なリスクとなります。単なる「ルールの不徹底」では済まされない、法的・組織的な危険性について整理します。
- 未払い残業代の発生と法的紛争リスク
申請されていない時間であっても、会社がその労働を黙認(黙示の指示)していたとみなされれば、労働時間として扱われます。形骸化を放置すると、退職者から過去に遡って多額の未払い残業代を請求されるリスクが高まります。 - 安全配慮義務違反(過労死ラインの超過)
正確な労働時間が把握できていないと、従業員の長時間労働を見逃すことになります。万が一、健康被害が発生した場合、企業は「安全配慮義務」を怠ったとして、巨額の損害賠償を求められる可能性があります。 - 労働基準監督署による是正勧告
36協定の上限規制が厳格化された現在、客観的な労働時間の把握は必須です。申請時間とPCログや入退室記録などの客観的記録に著しい乖離(かいり)がある場合、労基署の調査対象となり、是正勧告を受ける可能性があります。 - 組織の生産性低下とモラルダウン
「申請しても通らないからサービス残業をする」「ダラダラ残業をして生活費を稼ぐ」といった状態が常態化すると、組織全体の規律が乱れ、真面目に働く従業員のモチベーションを著しく低下させます。
残業申請の改善施策1:明確なルール策定と周知徹底
残業申請の運用を正常化するための第一歩は、曖昧さを排除した明確なルール作りとその周知です。「なんとなく残って仕事をしている」状態を脱却し、残業は会社の命令・承認に基づく業務であることを再認識させる必要があります。
就業規則への明記と定義付け
まず、就業規則や賃金規程において、「残業は事前の命令または承認に基づき行うもの」という原則を明文化します。「許可なく行った残業は労働時間と認めない(ただし黙認は除く)」という厳しい姿勢を示す一方で、緊急時の事後申請ルールも定めておくことが実務上重要です。
「残業が必要な理由」の具体化
申請時に「業務多忙のため」といった抽象的な理由を許容していませんか? これでは承認する上司も判断ができません。「〇〇の資料作成のため」「トラブル対応のため」など、具体的かつ客観的な理由を記載させるルールを徹底します。これにより、上司は業務配分の見直しや効率化の指導が可能になります。
定期的な周知と教育
ルールを作っても、従業員や管理職が知らなければ意味がありません。入社時の研修はもちろん、管理職向けには「黙認リスク」の怖さを伝える研修を定期的に実施しましょう。「残業申請をさせない圧力」がパワハラやコンプライアンス違反になることも併せて教育する必要があります。
残業申請の改善施策2:効率的な申請・承認プロセスの構築
ルールが明確でも、申請手続き自体が煩雑であれば、従業員は申請を敬遠し、結果として形骸化が進みます。ここでは、代表的な3つの手法を比較し、自社に最適なプロセスを検討します。
手法別メリット・デメリット比較
| 手法 | 特徴 | メリット | デメリット |
|---|---|---|---|
| 紙の申請書 | 伝統的な申請用紙に記入・押印 | ・申請の重みを感じさせ、抑制効果が期待できる ・コストがほぼかからない | ・記入、提出、保管の手間が膨大 ・集計作業に時間がかかりミスが起きやすい ・紛失リスクや過去履歴の検索が困難 |
| メール・チャット | 上司宛にテキストで送信・承認 | ・場所を選ばず手軽に申請できる ・特別なシステム投資が不要 | ・フォーマットが統一されにくい ・過去の履歴が埋もれて管理しにくい ・集計は手作業となり工数がかかる |
| 勤怠管理システム | クラウド等の専用ツールでワークフロー化 | ・スマホ等からどこでも申請・承認が可能 ・労働時間と自動連動し、リアルタイムで集計 ・36協定アラートなどで違反を未然防止 | ・導入・運用コストがかかる ・初期設定や操作習得の教育が必要 |
アナログ管理の限界とシステム化の推奨
従業員数が増えるほど、紙やメールでの管理は限界を迎えます。特にリモートワークが普及した現在では、場所を選ばずに申請・承認ができ、客観的な記録(PCログ等)との乖離も自動チェックできる勤怠管理システムの導入が最も効果的です。初期コストはかかりますが、集計工数の削減やリスク回避の観点からは高い費用対効果が見込めます。
シンプルな承認ルートの設定
どの手法をとるにせよ、承認ルートは極力シンプルにします。「課長承認→部長承認→人事承認」のように何段階も踏む必要があると、承認スピードが遅れ、事後承認が常態化する原因となります。原則は直属の上司のみで完結させ、例外的な長時間残業のみ上位者の承認を必要とするなどの工夫が有効です。
残業申請の改善施策3:事前許可制の厳格化と運用
残業申請の形骸化を防ぐ最も強力な運用が「事前許可制(事前申請制)」の徹底です。しかし、運用を誤ると現場の混乱を招くため、柔軟性とのバランスが求められます。
「原則事前、例外事後」の徹底
残業は本来、業務命令によって行われるものです。したがって、業務終了後に「残業しました」と報告する事後承認はあくまで例外(突発的なトラブル対応など)とし、原則は業務開始前や定時前に申請・許可を得るフローを確立します。これにより、上司は「今日は残業してまでやる必要はない」と判断し、無駄な残業を未然に防ぐことができます。
客観的記録との乖離(ギャップ)チェック
事前許可制を導入しても、実際の退勤時刻と許可時間にズレが生じることがあります。勤怠管理システム等を活用し、PCのログオフ時刻や入退室記録と、申請された残業時間を照合しましょう。この乖離理由を本人に確認することで、サービス残業の防止や、ダラダラ残業の抑止につながります。
厳格運用と現場の柔軟性
厳格すぎる運用(例:1分単位の事前申請を強要するなど)は、現場の業務効率を下げ、反発を招きます。「15分未満の延長は報告のみで可とする」あるいは「月〇時間以内なら包括的な指示とみなす」など、業種や職種の実態に合わせた柔軟な運用ルールを併設することも、制度を長続きさせるポイントです。重要なのは「管理されている」という意識を植え付けることです。
残業申請改善で失敗しないための注意点
残業申請の仕組みを整えても、運用面で重大な落とし穴があります。特によくある失敗パターンと、それを回避するための注意点を解説します。
- 「黙示の指示」を与えていないか
最も注意すべきは、「残業は許可しないが、納期は守れ」「仕事が終わらなければ帰るな」といった態度を管理職がとることです。これは法的に「黙示の指示」があったとみなされ、申請がなくても残業代の支払い義務が生じます。業務量を調整せずに申請だけを拒否することは絶対に避けてください。 - 管理職の負担増を考慮する
申請件数が増えれば、承認する管理職の負担も増えます。承認作業に追われて本来のマネジメント業務が疎かにならないよう、システムの通知機能を活用したり、定型的な残業は承認プロセスを簡略化したりする配慮が必要です。 - 残業代削減だけを目的にしない
「残業代を減らしたい」という動機が透けて見えると、従業員は不信感を抱き、隠れて仕事をする(持ち帰り残業など)ようになります。目的はあくまで「労働時間の適正化」と「健康確保」であることを伝え、生産性向上によって還元する姿勢を見せることが重要です。
残業申請改善後に確認すべきチェックリスト
改善施策を実行した後、組織に正しく定着しているかを確認するためのチェックリストです。定期的に見直しを行い、運用の微調整を行ってください。
- 就業規則に残業申請のルール(事前・事後・緊急時)が明記されているか
- 従業員は申請手順を正しく理解し、迷わずに操作・記入できているか
- 申請理由には具体的な業務内容が記載されているか(「多忙」のみではないか)
- 管理職は部下の業務量を把握した上で承認・却下の判断を行っているか
- 事前申請の時間と、実際の退勤時刻(PCログ等)に大幅な乖離はないか
- 申請手続きにかかる時間は適切か(業務の妨げになっていないか)
- サービス残業や持ち帰り残業が発生している兆候はないか
関連する詳しい情報はこちらのブログ一覧もご参照ください。
まとめ
残業申請の形骸化は、企業のコンプライアンスリスクを高めるだけでなく、生産性や従業員満足度を低下させる大きな要因です。本記事で解説した「明確なルール策定」「効率的なプロセスの構築」「事前許可制の適切な運用」を組み合わせることで、労働時間の適正化は確実に進めることができます。
特に、紙やメールなどのアナログ管理に限界を感じている場合は、勤怠管理システムの導入が解決の近道となるでしょう。単に残業を禁止するのではなく、業務量やプロセスそのものを見直し、従業員が納得して働ける環境を作ることが、真の「働き方改革」につながります。まずは自社の現状をチェックリストで確認し、できるところから改善を始めてみてください。
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