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問題社員指導の法的対応5ステップ:記録の書き方から解雇できる条件まで徹底解説
多くの企業で頭を悩ませる「問題社員」への対応。遅刻の常習、業務命令違反、協調性の欠如など、その行動は職場環境を悪化させるだけでなく、放置すれば他の社員のモチベーション低下や離職にも繋がります。しかし、感情的に解雇を言い渡せば、不当解雇として訴訟リスクを招くことになります。

本記事では、法的根拠に基づいた正しい指導プロセスを5つのステップで解説します。感情論ではなく、法律と実務に則った「記録」と「手順」こそが、会社と従業員の双方を守る唯一の手段です。
問題社員指導の法的根拠と企業が知るべき基本原則
企業が問題社員に対して指導を行う際、その根拠となるのは「指揮命令権」と「人事権」です。労働契約を結んでいる以上、社員には「誠実労働義務」があり、企業には業務遂行のために必要な指示や指導を行う権利があります。
しかし、日本の労働法制、特に労働契約法第16条で定められた「解雇権濫用法理」の下では、単に能力不足や態度不良があるというだけでは解雇は認められません。裁判所は以下の2点を厳格に判断します。
- 客観的に合理的な理由: 就業規則の解雇事由に該当する事実があり、それが客観的に証明できること。
- 社会通念上の相当性: 解雇という処分が、その行為に対して重すぎないか、他の緩やかな手段(指導、配置転換、軽い懲戒など)を尽くしたか。
つまり、企業に求められるのは「いきなり解雇」ではなく、「改善の機会を与え、指導を尽くしたが改善されなかった」というプロセスを積み上げることです。
ステップ1:問題行動の正確な把握と初期対応
最初のステップは、問題行動を「事実」として正確に把握することです。「やる気がない」「態度が悪い」といった主観的な評価は、法的な証拠になりません。
- 5W1Hでの事実記録: 「いつ(日時)」「どこで」「誰に対して」「どのような言動をとったか」を具体的に記録します。
- 関係者へのヒアリング: 本人の言い分だけでなく、被害を受けた社員や目撃者からも事情を聴取し、裏付けを取ります。
- 就業規則との照合: その行動が就業規則のどの条項(服務規律違反など)に抵触するかを確認します。
初期段階では、まず口頭での注意指導を行いますが、この段階から「いつ、どのような指導を行い、本人がどう反応したか」をメモに残しておくことが重要です。
ステップ2:効果的な指導計画の策定と実施
口頭注意で改善が見られない場合、より具体的な指導計画を策定し、書面による指導へ移行します。ここでは、PIP(Performance Improvement Plan:業務改善計画)の導入が効果的です。
- 具体的な目標設定: 「もっと頑張る」ではなく、「月間の契約件数を〇件にする」「遅刻をゼロにする」など、数値や行動で測定可能な目標を設定します。
- 期限の設定: 「1か月後」「3か月後」など、改善期間を明確に区切ります。
- サポート体制の明示: 定期的な面談(1週間または2週間に1回など)を実施し、会社側がどのような支援を行うかを伝えます。
- 未達成時の措置の予告: 期間内に改善が見られない場合、配置転換や懲戒処分などの可能性があることを、威圧的にならない範囲で伝えます。
このプロセスを経ることで、会社が「解雇回避努力」を尽くしたという実績を作ることができます。
ステップ3:指導記録の適切な作成と管理方法
法的紛争になった際、最も強力な証拠となるのが「指導記録」です。裁判所は、作成日時が古く、具体的であるほど証拠価値を認めます。逆に、解雇直前にまとめて作成された記録は信用されません。
指導記録に記載すべき必須項目:
- 指導実施日時と場所
- 指導者の氏名
- 対象となる具体的な問題行動(事実)
- 指導した内容(改善の指示)
- 本人の弁明や反応(反省の言葉、反発の内容など)
- 次回までの課題と確認予定日
注意指導書の活用:
重要な指導の際は、「注意指導書」や「業務改善指導書」として書面を作成し、本人に交付します。可能であれば受領のサインを求めますが、拒否された場合は「交付したが受領拒否」と記録し、読み上げて内容を伝えたり、メールで送信して履歴を残したりする方法が有効です。
ステップ4:改善状況の評価と次の法的措置の検討
設定した改善期間終了後、目標の達成度を客観的に評価します。
- 改善が見られた場合: 指導を継続しつつ、通常の業務管理に戻します。
- 改善が見られない場合: さらなる法的措置を検討します。
段階的な措置の例:
- 配置転換: 職種や部署を変えることで能力が発揮できる可能性があるか検討します。
- 降格・降職: 役職に見合った能力がない場合、役職を解くことを検討します。
- 懲戒処分: 就業規則に基づき、譴責(けんせき)、減給、出勤停止などの処分を段階的に行います。
いきなり重い処分を行うのではなく、軽い処分から段階を踏むことが「相当性」の要件を満たすために重要です。これらの措置を講じてもなお改善がない場合に初めて、解雇の現実性が高まります。
ステップ5:解雇の判断基準と法的リスク回避のための最終確認
これまでのステップを尽くしても改善がなく、雇用契約の維持が困難と判断される場合、解雇を検討します。しかし、これは最終手段であり、以下のチェックリストで漏れがないか確認が必要です。
- 就業規則の根拠: 解雇事由に該当する事実があるか。
- 改善機会の付与: 十分な期間と適切な指導を行ったか。
- 証拠の確保: 注意指導書、面談記録、始末書などが揃っているか。
- 手続きの適正: 本人に弁明の機会を与えたか。
- 解雇予告: 30日前の予告、または解雇予告手当の支払いを準備しているか(労働基準法第20条)。
また、解雇には「普通解雇」と「懲戒解雇」がありますが、能力不足や協調性欠如の場合は、まずは普通解雇を検討するのが一般的です。懲戒解雇はハードルが非常に高く、退職金不支給などの不利益も大きいため、裁判で無効とされるリスクが高まります。可能であれば、退職勧奨による「合意退職」を目指すのが、双方にとって最もリスクの低い解決策となります。
問題社員指導で陥りがちな失敗パターンと対策
多くの企業が指導プロセスで失敗し、法的リスクを招いています。代表的な失敗例を知り、対策を講じましょう。
- 抽象的な精神論での指導: 「やる気を出せ」「社会人としての自覚を持て」といった言葉は、具体的な行動改善に繋がらず、指導実績としても弱いです。必ず具体的な「行動」を指摘してください。
- 感情的な叱責(パワハラ): 指導の過程で大声を出したり、人格を否定したりすることは厳禁です。逆にパワハラとして訴えられるリスクがあります。指導は冷静に、業務上の必要性の範囲内で行います。
- 一貫性のない対応: 同じミスをしたのに、Aさんには厳しく、Bさんには甘いという対応は不当とみなされます。公平な基準での運用が不可欠です。
- 記録の不備: 「何度も口で言った」という主張は、裁判では証明できません。どんなに些細な指導でも、必ずメモやメールに残す習慣をつけましょう。
円滑な問題解決のための社内体制とコミュニケーション
問題社員への対応は、直属の上司一人に任せるべきではありません。上司自身が精神的に疲弊してしまうケースも多いため、人事部や法務担当、場合によっては弁護士や社会保険労務士といった外部専門家と連携するチーム体制が必要です。
また、日頃からのコミュニケーションや評価面談を通じて、社員との信頼関係を築いておくことも、トラブルの予防には欠かせません。問題が深刻化する前に、小さな芽の段階で摘み取ることが、健全な組織運営の鍵となります。
関連する詳しい情報は厚生労働省の労働条件に関する総合情報サイトもご参照ください。
まとめ
問題社員への対応は、感情ではなく「記録」と「法的手順」で進めることが鉄則です。正確な事実把握から始まり、具体的な指導計画の実施、詳細な記録の保存、そして段階的な措置を経て、初めて法的に正当な解雇や解決が可能となります。この5ステップを遵守することで、企業は法的リスクを最小限に抑えつつ、職場の規律と生産性を守ることができるでしょう。
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