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社会保険適用拡大:会社が取るべき実務対策と負担増への備えを社労士が解説【2025年版】

2026.01.13 スタッフブログ

2024年10月に従業員数51人以上の企業まで対象が広がった社会保険適用拡大は、2025年の年金制度改正法の成立により、いよいよ「企業規模要件の完全撤廃」に向けたカウントダウンが始まりました。企業にとっては、人件費の増加や労務管理の複雑化といった課題が目前に迫っており、もはや「関係ない」では済まされない状況です。本記事では、最新の法改正動向を踏まえ、企業が今すぐ取り組むべき実務対策や、社会保険適用拡大を経営のチャンスに変えるための戦略について、専門家の視点から詳しく解説します。

社会保険適用拡大:会社が取るべき実務対策と負担増への備えを社労士が解説【2025年版】

社会保険適用拡大の最新動向と企業が知るべき基本原則

2025年、人事労務担当者が最も注視すべきは、今後の社会保険適用拡大の具体的なスケジュールです。2024年10月に「従業員数(厚生年金の被保険者数)51人以上」の企業へ適用が拡大されましたが、2025年の年金制度改正議論を経て、この企業規模要件は段階的に撤廃されることが決定的となりました。

具体的には、2027年以降、企業規模要件が現在の51人以上から順次引き下げられ、最終的には全ての事業所で規模要件が撤廃される見通しです。これは、パート・アルバイトを雇用するすべての中小企業にとって、社会保険の加入義務化が避けられない未来であることを意味します。

企業が押さえておくべき基本原則は、「要件を満たす従業員は、本人の希望にかかわらず法律上強制加入となる」という点です。会社や本人が加入を拒否することはできません。コンプライアンス遵守はもちろんのこと、未加入による遡及徴収リスク(最大2年間)を避けるためにも、最新のルールを正確に理解し、先手を打って対策を講じることが求められます。

パート・アルバイトの社会保険適用判断基準と実務上の注意点

社会保険適用拡大の対象となるパート・アルバイト従業員を正確に抽出することは、実務の第一歩です。2025年現在、適用対象となる「特定適用事業所(51人以上規模)」においては、以下の「4つの要件」をすべて満たす短時間労働者が加入対象となります。

  • 週の所定労働時間が20時間以上
  • 月額賃金が8.8万円以上(年収約106万円以上)
  • 2ヶ月を超える雇用の見込みがある
  • 学生ではない(休学中や夜間学部などは加入対象)

実務上の注意点として特に重要なのが、「月額8.8万円」の判定基準です。ここには基本給と諸手当が含まれますが、残業代、通勤手当、賞与、皆勤手当などの臨時的な賃金は含まれません。しかし、最低賃金の大幅な引き上げにより、週20時間勤務であれば自然と月額8.8万円を超えるケースが急増しています。「うちは大丈夫」と思い込まず、最新の賃金台帳をもとに、対象者を一人ひとり精査する必要があります。また、雇用契約上の時間が20時間未満であっても、実態として恒常的に20時間を超えている場合は加入が必要となるリスクがあるため、労働時間管理の徹底が不可欠です。

社会保険料負担シミュレーションとコスト増を抑えるための戦略的アプローチ

社会保険適用拡大が経営に与える最大のインパクトは、法定福利費(会社負担分の保険料)の増加です。概算として、新たに対象となる従業員の給与額の約15%相当が、企業の追加負担となります。

例えば、月額10万円で働くパート社員が社会保険に加入した場合のシミュレーションは以下の通りです(※料率は協会けんぽ・東京都・40歳以上介護保険ありの概算)。

  • 厚生年金保険料: 約18,300円(会社負担:約9,150円)
  • 健康保険料(介護分含): 約11,600円(会社負担:約5,800円)
  • 子ども・子育て拠出金: 約360円(全額会社負担)
  • 会社負担合計: 月額約15,310円 / 年額約18.3万円

対象者が10名いれば年間180万円以上の利益圧迫要因となります。コスト増を抑えるための戦略的アプローチとしては、単なるコストカットではなく、生産性向上とセットで考える必要があります。例えば、DXによる業務効率化で総労働時間を抑制しつつ賃金を維持する、あるいは逆に、社会保険加入を機にフルタイム化を促し、採用コストや教育コストを削減してトータルコストを最適化するといった視点が重要です。

【ケーススタディ】適用拡大で発生する労務・人事管理上の具体的問題と解決策

現場では、社会保険適用拡大に伴い様々なトラブルが発生します。よくあるケーススタディを見てみましょう。

ケース1:手取り減少を嫌がる「働き控え」による人手不足
多くのパート社員は、社会保険料の天引きにより「手取りが減る」ことを強く懸念します。その結果、労働時間を週20時間未満に抑えようとする「働き控え」が発生し、現場が深刻な人手不足に陥るケースです。
解決策: 単に労働時間を削るのではなく、キャリアアップ助成金(後述)を活用した「社会保険適用促進手当」の支給や、賃上げによる手取り維持を提案します。また、将来の年金受給額が増えるメリットを丁寧に説明し、長時間労働への転換(「年収の壁」突破)を促すことが根本的な解決になります。

ケース2:ダブルワーク(副業)社員の加入手続きの混乱
複数の会社で働いている従業員が、それぞれの会社で加入要件を満たす場合、あるいは合算して要件を満たす場合の処理は複雑です。
解決策: 本人が「二以上事業所勤務届」を年金事務所に提出する必要があります。会社側はこの手続きを把握し、主たる事業所を選択させる等のアナウンスを行う必要があります。これを怠ると、後から保険料の精算が発生し、給与計算の修正など多大な事務負担が生じます。

制度改正への対応ロードマップ:企業が今すぐ着手すべき準備とフェーズごとのタスク

今後の制度改正を見据え、企業は以下のロードマップに沿って計画的に準備を進めるべきです。

  1. フェーズ1:現状把握と影響試算(直ちに着手)
    • 全従業員の労働時間と賃金を確認し、現行基準および将来の完全撤廃時に加入対象となる人数をリストアップします。
    • 会社負担の保険料増加額をシミュレーションし、予算計画に織り込みます。
  2. フェーズ2:経営方針の策定(3〜6ヶ月前)
    • 「全員加入で戦力化する」のか、「労働時間を抑制して適用を回避する」のか、会社としての方針を明確にします。
    • 助成金の活用や賃金規定の見直しを検討します。
  3. フェーズ3:従業員への周知と面談(1〜3ヶ月前)
    • 説明会を実施し、制度の概要とメリット・デメリットを伝えます。
    • 個別面談を行い、本人の働き方の希望(加入か、抑制か)をヒアリングし、合意形成を図ります。
  4. フェーズ4:手続きと運用開始(適用月)
    • 雇用契約書の再締結、資格取得届の提出を行います。
    • 給与計算システムの設定を変更し、控除漏れがないよう確認します。

従業員への説明義務と円滑な合意形成のためのコミュニケーション術

社会保険適用拡大をスムーズに進める鍵は、従業員とのコミュニケーションにあります。法的な説明義務はありませんが、給与から数万円が天引きされる変更を事前の説明なしに行えば、不信感を招き、離職につながりかねません。

説明の際は、「法律だから仕方ない」と一方的に通告するのではなく、従業員にとってのメリット(ベネフィット)を強調することが重要です。

具体的には以下の要素を伝えます。

  • 将来の年金増額: 厚生年金への加入により、老齢年金が上乗せされるだけでなく、障害年金や遺族年金も手厚くなります。
  • 医療保険の充実: 傷病手当金(病気や怪我で休んだ際の給与保障)や出産手当金が受給可能になります。これは国民健康保険や扶養内にはない大きなメリットです。
  • 自身での保険料負担の価値: 配偶者の扶養に依存せず、自立した保障を持てることの安心感を訴求します。

会社が「あなたの生活を守るために制度を整えている」という姿勢を見せることで、従業員の納得感は大きく変わります。

社会保険適用拡大に伴う雇用契約書の見直しと法的リスク対策

対象者の労働条件を変更する場合、雇用契約書(労働条件通知書)の再締結が必須となります。特に社会保険適用拡大に伴い、労働時間を「週20時間未満」に短縮して適用を回避する場合や、逆に正社員並みに延長する場合は、労働条件の不利益変更や合意の有無が法的リスクとなります。

契約書見直しのポイントは以下の通りです。

  • 所定労働時間の明記: 「週○時間」といった曖昧な表記ではなく、シフト制であっても契約上の所定労働時間を明確にします。
  • 社会保険の加入有無: 「社会保険加入」と明記し、労使双方の認識齟齬を防ぎます。
  • 合意の証拠化: 労働条件を変更する場合は、必ず変更内容を記載した書面に本人の署名・捺印をもらい、同意を得た証拠を残してください。「勝手に労働時間を減らされた」といったトラブルを防ぐためです。

活用できる助成金・補助金制度と専門家連携による支援体制

企業のコスト負担を軽減するために、国は強力な支援策を用意しています。特に注目すべきは「キャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)」です。

この助成金は、社会保険適用に伴い手取り収入を減らさないための取り組みを行う企業に対して支給されます。主なメニューは以下の2つです。

  1. 手当等支給メニュー: 社会保険適用促進手当などを支給し、従業員の賃金を増額させた場合、従業員1人あたり最大50万円が助成されます。
  2. 労働時間延長メニュー: 週の所定労働時間を延長し、社会保険を適用した場合、従業員1人あたり最大30万円が助成されます。

これらの申請は要件が細かく、計画届の提出など手続きが煩雑です。申請漏れや不備を防ぐためにも、助成金に精通した社会保険労務士と連携し、支援体制を整えることが推奨されます。専門家のアドバイスを受けることで、助成金を原資とした無理のない賃上げや制度設計が可能になります。

社会保険適用拡大を「経営戦略」として捉える視点と今後の展望

社会保険適用拡大を単なる「コスト増」と捉えるか、「人材投資」と捉えるかで、企業の未来は大きく変わります。少子高齢化で労働力人口が減少する中、「社会保険完備」「扶養の壁を気にせず働ける」という環境は、求職者にとって強力なアピールポイントになります。特に短時間正社員制度などを導入し、意欲あるパート社員を戦力化できれば、採用コストをかけずに優秀な人材を確保・定着させることができます。

今後の展望として、2030年代に向けて企業規模要件の完全撤廃や、第3号被保険者制度の見直し議論が進むことは確実です。「扶養内で安く雇う」というビジネスモデルは持続不可能になりつつあります。今のうちから社会保険適用を前提とした経営体質へと転換し、人材の質を高めて生産性を向上させることこそが、これからの時代を勝ち抜くための唯一の経営戦略と言えるでしょう。

まとめ

社会保険適用拡大は、企業にとって避けられない法的義務であると同時に、組織体制を見直す好機でもあります。最新の法改正情報を常にキャッチアップし、シミュレーションに基づいた早期の対策を講じることが重要です。従業員一人ひとりと向き合い、納得感のある形で制度移行を進めることが、結果として企業のリスクを減らし、持続的な成長へとつながります。

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