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固定残業代が無効と指摘されたら?会社が知るべき7つの対応ステップと再設計の極意

2026.01.08 労務管理

「固定残業代(みなし残業代)を導入しているから、残業代の計算は不要だ」

固定残業代が無効と指摘されたら?会社が知るべき7つの対応ステップと再設計の極意

もし貴社がそのように考えて運用しているなら、それは極めて危険な状態かもしれません。近年、最高裁での判決をはじめ、固定残業代の有効性に関する判断基準は厳格化しており、多くの企業が知らぬ間に「無効な制度」を運用し、巨額の未払い残業代リスクを抱えています。

本記事では、固定残業代が無効と判断される具体的な理由から、万が一指摘を受けた際の緊急対応ステップ、そして法的に適正な制度へ再設計するための手順まで、社会保険労務士法人の専門的知見に基づき徹底解説します。

固定残業代とは?その定義と有効・無効の判断基準

固定残業代(定額残業代、みなし残業代)とは、実際の残業時間の有無や長短にかかわらず、あらかじめ一定時間分の時間外労働割増賃金として定額の手当を支払う制度です。

企業にとっては「毎月の残業代計算事務の簡略化」や「人件費の予測可能性」というメリットがありますが、導入すれば無条件に認められるわけではありません。最高裁判例(テックジャパン事件、国際自動車事件など)により、以下の厳しい有効要件が確立されています。

有効と判断されるための3つの要件

裁判所や労働基準監督署が固定残業代の有効性を判断する際、主に以下の3点が厳しくチェックされます。

  1. 明確区分性(判別可能性)
    通常の労働時間に対する賃金(基本給など)と、固定残業代部分が明確に区別されていること。「基本給に含む」とだけ記載し、いくらが残業代かわからない場合は無効となります。
  2. 対価性
    その手当が「時間外労働の対価」として支払われている実態があること。名称が「営業手当」や「職務手当」であっても、実質的に残業の対価であることが就業規則等で定義されていなければなりません。
  3. 差額支払の合意と実態
    固定残業代として定めた時間を超過した残業分について、別途差額を支払う合意があり、かつ実際に支払われていること。

詳細は厚生労働省のモデル就業規則なども参照し、規定の文言が適切か確認する必要があります。

なぜ固定残業代が無効と判断されるのか?よくある法的リスク

固定残業代が無効とされるケースには、典型的なパターンがあります。自社の運用が以下に該当していないか確認してください。

  • 就業規則や雇用契約書への記載不備
    「月給30万円(固定残業代含む)」としか記載がなく、金額や時間数が明記されていない場合、明確区分性を満たさず無効となります。
  • 基本給の最低賃金割れ
    固定残業代を除いた基本給部分を所定労働時間で割った際、その単価が最低賃金を下回っている場合、制度全体が違法となります。
  • 超過分の未払い
    「固定残業代を払っているからこれ以上は払わない」として、設定時間を超えた分の精算を行っていない場合、制度の正当性が否定されます。
  • 長時間労働の助長(公序良俗違反)
    月80時間や100時間分など、36協定の上限や過労死ラインを超えるような固定残業時間を設定している場合、公序良俗に反し無効とされるリスクが高まります。

固定残業代が無効化された場合に会社が直面する具体的な影響と損失

固定残業代が「無効」と判断された場合、単に制度を廃止すれば済む話ではありません。会社は壊滅的な金銭的ダメージを負うことになります。

1. 過去に遡った未払い残業代の請求

無効とされた場合、過去(消滅時効にかからない範囲、最大3年分など)に遡って未払い残業代を支払う義務が生じます。

2. 残業単価の跳ね上がり(ダブルパンチ)

これが最も恐ろしい点です。固定残業代が無効になると、その手当は「残業代」ではなく「基本給の一部」とみなされます。

  • 本来: 基本給25万円 ÷ 所定時間 × 1.25 = 残業単価
  • 無効時: (基本給25万円 + 無効になった固定残業代5万円) ÷ 所定時間 × 1.25 = 高騰した残業単価

「払ったつもり」の5万円が残業代として認められないだけでなく、残業代計算の基礎(分母は変わらず分子が増える)に含まれてしまうため、再計算される残業代は高額になります。

3. 付加金の支払い命令

裁判所が悪質と判断した場合、未払い金額と同額の「付加金」の支払いを命じられることがあります。実質的に支払額が2倍になるペナルティです。

無効と指摘されたら?会社が取るべき緊急対応とステップ

労働基準監督署の調査や、従業員(またはその代理人弁護士)から固定残業代の無効を指摘された場合、焦って安易な回答をするのは禁物です。以下のステップで冷静に対応してください。

  1. 事実関係の確認と資料収集
    • 就業規則、賃金規程、雇用契約書(労働条件通知書)を全て揃える。
    • 指摘された従業員の直近のタイムカード(勤怠データ)と給与明細を確保する。
  2. 規定と実態の乖離チェック
    • 規定上の「固定残業時間数」と「金額」が明確か。
    • 実際の残業時間が固定時間を超過していないか、超過分の支払いはあるか。
  3. 未払い額の試算(シミュレーション)
    • 「固定残業代が有効な場合」と「無効とされた場合」の両パターンで、想定される未払い額を試算する。
  4. 専門家への相談
    • 独自の解釈で反論せず、必ず社会保険労務士や労働法に強い弁護士に状況を共有し、方針を決定する。
  5. 誠実な対応と是正
    • 計算ミスや運用不備が明らかであれば、素直に認め、不足分を精算する姿勢を示すことが、付加金などのさらなるリスク回避につながります。

固定残業代制度を再設計する具体的な手順と法的要件

リスクのある現在の制度を見直し、法的に堅牢な制度へ再設計するための具体的な手順は以下の通りです。

手順1:現状分析と新制度の設計

現在の給与総額を変えずに制度を導入・変更したい場合でも、基本給を減額して固定残業代を捻出する手法は「不利益変更」にあたるリスクがあります。

  • 残業実績に基づき、適切な「固定残業時間数」を設定する(月20〜30時間程度が一般的)。
  • 基本給と固定残業代のバランスを決定する(最低賃金に注意)。

手順2:就業規則・賃金規程の改定

規定には以下の事項を明確に記載します。

  • 固定残業代の名称(例:業務手当)。
  • 対象となる労働者の範囲。
  • 固定残業代の金額と、それに対応する時間数。
  • 「固定残業時間を超えた部分は、別途割増賃金を支払う」旨の文言(必須)。
  • 除外賃金(家族手当、通勤手当など)の定義。

手順3:従業員への説明と同意取得

既存社員に対して給与体系を変更する場合、個別の同意を得ることが最も確実です。

  • 「なぜ制度を変更するのか」を丁寧に説明する。
  • 基本給が変動する場合は、その根拠と代償措置(手取りが変わらないなど)を説明する。
  • 説明会を実施し、議事録を残す。

手順4:雇用契約書の再締結

新しい労働条件通知書(雇用契約書)を作成し、従業員と取り交わします。この書面にも、金額、時間数、超過分の取り扱いを明記します。

新しい固定残業代制度を運用する際の注意点とトラブル回避策

制度を作って終わりではありません。運用こそが肝心です。

  • 勤怠管理の徹底
    「みなし残業だから時間は関係ない」という誤解を捨ててください。毎月の実労働時間を1分単位で把握し、固定残業時間との過不足を確認する義務があります。
  • 給与明細への明記
    給与明細には「固定残業代」の項目を独立させ、さらに備考欄等に「〇〇時間分の時間外手当として」と記載するとより安全です。超過分が発生した月は、「超過残業手当」として別項目で支給します。
  • 定期的な見直し
    昇給やベースアップを行った際、固定残業代の金額や設定時間が整合しているか確認してください。また、最低賃金の改定(毎年10月頃)に合わせて、基本給部分が割れていないかチェックが必要です。

専門家(社労士・弁護士)に相談するタイミングとメリット

固定残業代制度は、一歩間違えれば企業経営を揺るがす爆弾となります。以下のタイミングでは、必ず専門家のアドバイスを受けてください。

  • 制度の新規導入・変更時: 就業規則の文言一つで有効性が変わります。
  • 労基署の調査予告が来た時: 是正勧告への対応には専門知識が不可欠です。
  • 未払い残業代請求の内容証明が届いた時: 初動対応を誤ると訴訟リスクが高まります。

適切な制度設計と運用を行えば、固定残業代は労使双方にとってメリットのある制度となります。不安がある場合は、HR BrEdge社会保険労務士法人のような労務管理のプロフェッショナルへご相談ください。

関連する詳しい情報は厚生労働省の労働基準法関係リーフレットなどもご参照ください。

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