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退職代行が来たらどうする?会社が取るべき対応手順とNG行動、法的リスク回避の全知識【社労士解説】

2026.01.07 労務管理

「〇〇さんの代理としてお電話しました、退職代行サービスの△△です」

退職代行が来たらどうする?会社が取るべき対応手順とNG行動、法的リスク回避の全知識【社労士解説】

ある日突然、見知らぬ業者から電話がかかってくる。受話器越しの無機質な声に、人事担当者や経営者の心拍数は急上昇し、頭の中は「なぜ?」「まさかあいつが」という疑問と怒りで真っ白になるかもしれません。しかし、ここで感情に任せて怒鳴ったり、電話をガチャ切りしたりするのは最悪の手です。

近年、退職代行サービスの利用は急増しており、もはや「他人事」ではありません。会社が取るべき行動は、法的に正しい手順で、淡々と、しかし誠実に対応することです。一歩間違えれば、違法行為として訴えられたり、SNSで炎上して企業ブランドを毀損したりするリスクすらあります。

本記事では、退職代行の連絡を受けた直後の初動から、具体的な事務手続き、法的リスクの回避方法、そして再発防止策まで、社会保険労務士の専門的視点で徹底解説します。

退職代行からの連絡があったら?会社が取るべき「最初の5分」の初動対応

退職代行業者からの電話を受けたその瞬間、対応の良し悪しが決まります。最初の5分間で以下のステップを冷静に実行してください。

  1. 感情を抑え、冷静さを保つ
    「本人が直接電話してこないのは非常識だ!」という感情は一旦飲み込んでください。業者に対して怒りをぶつけても事態は好転せず、むしろ録音されて「パワハラ体質の会社」という証拠に使われるリスクがあります。

  2. 相手の情報を正確に記録する
    以下の情報を聞き出し、必ずメモを取ります。

    • 業者名
    • 担当者名
    • 電話番号
    • (弁護士や労働組合の場合)所属団体名
    • 本人の氏名と生年月日(同姓同名の別人でないか確認)
  3. 「交渉」には即答しない
    「有給を全て消化して明日から出社しません」「退職金は満額払ってください」などの要求があっても、その場での回答は避けます。「担当者に確認し、折り返しご連絡、または書面で回答します」と伝え、一旦電話を切ります。

  4. 用件のみを淡々と聞く
    相手が伝えているのは「退職の意思表示」なのか、「有給休暇の申請」なのか、あるいは「未払い残業代の請求」なのか。要求内容を正確に把握します。

法的な視点から解説!退職代行利用時の会社のリスクと法的義務

会社側が最も理解しておくべきは、「退職代行を使われたとしても、従業員の退職を拒否することは法的にほぼ不可能」という事実です。

民法第627条の原則

民法第627条では、期間の定めのない雇用契約(正社員など)において、労働者はいつでも解約の申し入れができ、申し入れから2週間が経過すれば雇用契約は終了すると定められています。就業規則で「退職は1ヶ月前に申し出ること」と定めていても、法律が優先されます。

会社の法的義務

  • 退職の受容: 基本的に退職を止める権利はありません。
  • 有給休暇の消化: 労働者から請求があれば、退職日までの間に有給休暇を取得させる義務があります。「引き継ぎしていないから認めない」という理屈は通りません。

会社側のリスク

対応を誤ると、以下のようなリスクが発生します。

  • 不当労働行為: 正当な組合活動(ユニオン型代行の場合)を拒否した場合。
  • 損害賠償請求: 無理な引き留めや、本人への執拗な接触が「不法行為」とみなされた場合。
  • レピュテーションリスク: SNS等で「ブラック企業」として晒され、採用活動に悪影響が出る場合。

【ケース別】退職代行業者との適切なコミュニケーション戦略と注意点

退職代行業者には大きく分けて3つの種類があり、それぞれ法的にできること(権限)が異なります。相手の属性を見極め、対応を変える必要があります。

1. 民間業者(非弁業者)

  • 特徴: 株式会社などが運営。弁護士資格を持たない。
  • 権限: 本人の意思を伝える「使者(メッセンジャー)」としての役割のみ。
  • 対応: 「退職したいそうです」という伝言を聞くのみに留めます。退職日や有給消化、退職金に関する「交渉」には応じてはいけません。これに応じると、相手の非弁行為(弁護士法違反)を助長することになります。「交渉が必要な事項については、本人と直接やり取りするか、代理権のある弁護士を通じてください」と伝えるのが正解です。

2. 労働組合(ユニオン)

  • 特徴: 労働組合法に基づき設立された団体。
  • 権限: 団体交渉権を持つ。
  • 対応: 会社は正当な理由なく団体交渉を拒否できません。ただし、交渉内容は労働条件に関することに限られます。退職そのものの事務手続きであれば、通常の事務フローで対応します。

3. 弁護士

  • 特徴: 弁護士が代理人となる。
  • 権限: あらゆる法律事務の代理が可能。
  • 対応: 相手は法律のプロです。こちらの不備(就業規則の不備、未払い賃金など)を突かれる可能性があります。こちらも顧問弁護士や社労士と連携し、法的に隙のない対応をする必要があります。直接本人に連絡することは避け、全て弁護士を通します。

必要書類は?健康保険・厚生年金・雇用保険の資格喪失手続き完全ガイド

退職代行を利用された場合、本人と顔を合わせずに書類のやり取りを行うことになります。手続きの遅れはトラブルの元です。迅速に進めましょう。

会社が発行・返却すべき書類

以下の書類を、退職後速やかに本人(または代理人指定の住所)へ郵送します。特定記録郵便など、追跡可能な方法で送るのが無難です。

  1. 離職票(雇用保険被保険者離職票): 失業保険の受給に不可欠。ハローワークで手続き後に発行されます。
  2. 源泉徴収票: 最後の給与計算が確定した段階で発行します。
  3. 社会保険資格喪失証明書: 本人が国民健康保険に切り替える際に必要になる場合があります。
  4. 年金手帳・雇用保険被保険者証: 会社で保管している場合は返却します。

本人から回収すべきもの

退職代行業者を通じて、以下の返却を求めます。

  • 健康保険証
  • 社員証、入館証
  • 制服、作業着
  • 会社貸与のPC、スマートフォン
  • 名刺(自分のもの、顧客のもの全て)

行政への手続き

通常通りの手続きを行います。

  • 日本年金機構: 「健康保険・厚生年金保険 被保険者資格喪失届」(退職日の翌日から5日以内)
  • ハローワーク: 「雇用保険被保険者資格喪失届」および「離職証明書」(退職日の翌日から10日以内)

日本年金機構の資格喪失手続き詳細はこちら

給与計算と最終清算:未払い賃金トラブルを防ぐ正しい処理方法

「急に辞めたから給料は払わない」「損害金として給料から天引きする」といった対応は、労働基準法第24条(賃金全額払いの原則)違反となり、絶対にやってはいけません。

給与計算の注意点

  • 日割り計算: 月の途中で退職する場合は、就業規則の規定に基づき日割り計算を行います。
  • 残業代の清算: 未払いの残業代がある場合は、必ず全額支払います。ここが曖昧だと、後から弁護士を通じて請求され、遅延損害金まで上乗せされるリスクがあります。
  • 手渡しの場合: 通常手渡しで支給している場合でも、「取りに来い」というのはトラブルの元です。本人の同意を得て、銀行振込に切り替えるのが賢明です。どうしても手渡しが必要な場合は、現金書留で送る方法もあります。

退職金の扱い

就業規則(退職金規程)に支給要件が定められている以上、規定通りに支払う義務があります。「懲戒解雇」に該当する事由がない限り、退職代行を使ったことだけを理由に不支給や減額をすることは認められにくいのが実情です。

会社が「絶対にやってはいけない」NG行動:トラブルを避ける鉄則

感情的な対応は、会社を不利な立場に追い込みます。以下の行動は厳禁です。

  1. 本人への執拗な直接連絡
    電話をかけ続ける、LINEを送りつける、自宅へ訪問する等の行為は、強要罪や脅迫罪に問われる可能性があります。また、精神的苦痛を与えたとして慰謝料請求の対象になり得ます。
  2. 親族への連絡
    本人の同意なく実家に連絡し、「息子さんが会社に来ない」などと伝えることはプライバシーの侵害です。
  3. 懲戒解雇をちらつかせる
    無断欠勤ではなく「退職代行を通じた退職の申し入れ」がある以上、これを理由とした懲戒解雇は不当解雇と判断される可能性が高いです。
  4. 離職票の発行拒否・遅延
    「嫌がらせ」として離職票を出さないケースがありますが、これは雇用保険法違反です。本人がハローワークに相談すれば、会社に行政指導が入ります。
  5. 損害賠償請求の濫用
    「急に辞められて売り上げが落ちた」として損害賠償を請求することは理論上可能ですが、裁判で因果関係と損害額を証明するのは極めて困難です。安易に「訴えるぞ」と脅すのは脅迫と取られかねません。

【予防策】なぜ退職代行が利用される?根本原因への対策と職場環境改善

退職代行を使われるということは、厳しい言い方をすれば「会社との信頼関係が完全に破綻している」証拠です。「辞めます」の一言さえ言えない、言わせない雰囲気が職場になかったでしょうか?

利用される主な原因

  • 高圧的な上司・ハラスメント: 怒鳴られるのが怖くて言い出せない。
  • 慢性的な人手不足と引き留め: 「今辞められたら困る」と過去に退職希望者を強く引き留めた前例がある。
  • 心理的安全性の欠如: 相談できる相手がおらず、孤立している。

職場環境の改善策

  • 1on1ミーティングの定着: 定期的に上司と部下が対話する場を設け、業務の悩みやキャリアの希望を聞き取る。
  • ハラスメント防止教育: 管理職だけでなく全社員に研修を行い、相談窓口を機能させる。
  • 退職フローの明確化: 「退職は裏切りではない」という認識を広め、所定の手続きを踏めば円満に退職できることを周知する。

退職代行に関する疑問を社労士に相談!専門家活用のメリット

退職代行への対応は、労働法、民法、弁護士法などが絡む複雑な問題です。自社だけで判断せず、専門家である社会保険労務士(社労士)を頼ることをお勧めします。

  • 適法性の判断: 相手業者の要求が正当か、法的に拒否できるかのアドバイス。
  • 就業規則の見直し: 退職代行リスクに備えた「退職手続き」や「引き継ぎ義務」に関する規定の整備。
  • 行政対応の代行: 離職票や資格喪失届などの手続きを迅速かつ正確に代行。
  • トラブル予防: 日頃の労務管理を見直し、未払い残業代リスクの洗い出しや職場環境改善のコンサルティング。

残された従業員への配慮と組織運営:退職後の円滑な事業継続

退職代行で誰かが辞めた後、最もケアすべきは「残された従業員たち」です。「あの人は逃げた」と責めるような空気を作ってはいけません。

  1. 事実の共有と業務の再配分
    詳細は伏せつつも、「〇〇さんは退職しました」と事実を伝え、業務の穴をどう埋めるか、具体的な指示を出します。残ったメンバーの負担が増えすぎないよう調整が必要です。
  2. 動揺の鎮静化
    「退職代行を使うなんて許せない」という怒りや、「自分も辞めたい」という連鎖退職を防ぐため、経営陣が誠実にメッセージを発信し、職場環境の改善に取り組む姿勢を見せることが重要です。

退職代行を使われることはショックな出来事ですが、それを契機に自社の労務管理や組織風土を見直し、より良い会社へと生まれ変わるチャンスでもあります。感情的な対立ではなく、法と誠実さに基づいた対応を心がけましょう。

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