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能力不足による解雇は可能?7つの厳格な条件と正しい手続きを社労士が徹底解説
「何度指導してもミスが減らない」「期待した成果が全く出ない」といった能力不足の社員への対応は、多くの経営者や人事担当者にとって深刻な悩みです。しかし、日本の労働法において、単に「仕事ができない」という理由だけで解雇することは非常に難しく、高い法的リスクを伴います。

安易な解雇は「不当解雇」と判断され、多額の金銭支払い命令や企業イメージの毀損につながる可能性があります。合法的に解雇を行うためには、過去の裁判例に基づいた厳格な条件をクリアし、適切なステップを踏むことが不可欠です。
この記事では、社会保険労務士の視点から、能力不足による解雇が認められるための「7つの厳格な条件」と、トラブルを防ぐための具体的な手続き、是正指導のステップを徹底解説します。
能力不足による解雇が法的に認められる厳格な条件とは?
日本の労働契約法第16条では、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と定めています。能力不足を理由とする解雇(普通解雇)が有効と認められるためには、以下の7つの条件を満たしているかどうかが重要な判断基準となります。
- 就業規則上の根拠があること
解雇事由として「能力不足」や「成績不良」に関する規定が就業規則に明記されており、それが周知されている必要があります。 - 能力不足の事実が客観的に明白であること
「上司の主観」ではなく、数値データや具体的なミス・トラブルの記録など、誰が見ても能力不足であると判断できる証拠が必要です。 - 能力不足の程度が「著しい」こと
平均より多少劣る程度では認められません。雇用契約の継続が困難なほど重大な支障が生じている必要があります。 - 会社側による十分な指導・教育が行われていること
能力不足を指摘し、改善のための具体的な指導や教育研修を繰り返し行った実績が必要です。「放置していた」場合は会社の責任となります。 - 改善の機会と期間が与えられていること
指導後、直ちに解雇するのではなく、一定期間(数ヶ月〜半年程度)様子を見て、改善のチャンスを与えたかどうかが問われます。 - 改善の見込みがないこと
十分な指導と期間を与えてもなお、能力の向上が見られず、今後も改善する可能性が極めて低いと判断できる状況が必要です。 - 解雇回避努力(配置転換など)が尽くされていること
その職種で能力が不足していても、他の部署や職務なら活躍できる可能性があります。解雇の前に配置転換や降格などを検討した形跡が必要です。
「能力不足」の判断基準:具体的にどのような状態を指すのか?
「能力不足」の判断は、その社員の採用経緯や地位によって基準が異なります。裁判例では、主に以下の要素を総合的に考慮して判断されます。
- 相対評価ではなく絶対評価
「営業成績が下位10%だから」という相対的な理由だけでは解雇は認められません。「目標未達成が連続し、会社に具体的損害を与えている」といった絶対的な事実が必要です。 - 採用区分による違い
- 新卒・未経験採用: ポテンシャル採用であるため、会社には手厚い育成義務があります。能力不足解雇のハードルは極めて高いです。
- 中途採用(一般職): 即戦力性は求められますが、会社ごとの業務フローへの適応期間は必要です。
- 高度専門職・管理職(ジョブ型): 特定のスキルや成果を条件に高額な報酬で採用されている場合、その能力が欠如していれば、比較的解雇が認められやすい傾向にあります(地位特定者・職種限定者)。
- 周辺事情の考慮
単なるスキル不足だけでなく、それに起因する「協調性の欠如」「勤怠不良」「報告・連絡・相談の不徹底」などが複合的に重なっている場合、解雇の正当性が補強されることがあります。
解雇回避義務の履行:段階的な指導・教育・配置転換のステップ
解雇を有効にするためには、「会社はやれることは全てやった」というプロセス(解雇回避義務の履行)が不可欠です。いきなり解雇通知を出すのではなく、以下のステップを段階的に踏む必要があります。
- 口頭による注意・指導
- その都度、具体的に何が問題でどう改善すべきかを伝えます。
- 日時と指導内容をメモに残します。
- 書面による注意・指導
- 口頭で改善が見られない場合、「指導書」や「注意書」を発行します。
- 本人の受領サインをもらい、深刻さを認識させます。
- 教育・研修の実施
- 社内研修への参加や、外部講習の受講を指示します。
- 先輩社員をメンターとしてつけるなどのサポートを行います。
- 配置転換(部署異動)の検討・実施
- 現在の業務に適性がない場合、他の部署への異動を検討します。
- 「他部署でも受け入れ先がない」という事実が、解雇の正当性を強めます。
- 降格・役職の変更
能力に見合った地位や等級へ引き下げます。 - 退職勧奨
解雇の前段階として、合意による退職を促します。ここで合意できれば、解雇リスクを回避できます。
パフォーマンス改善計画(PIP)の効果的な策定と運用手順
指導の記録を客観的に残し、かつ本気で改善を促すためのツールとしてPIP(Performance Improvement Plan:業務改善計画)の導入が効果的です。外資系企業でよく用いられますが、日本企業でも導入が進んでいます。
PIP運用の具体的ステップ
- 現状の課題と目標の設定
「何ができていないか」を具体的に指摘し、「いつまでに(期限)」「どのような状態になるべきか(達成基準)」を数値化・言語化して設定します。
期限は通常1ヶ月〜3ヶ月程度で設定します。 - アクションプランの策定
目標達成のために本人がとるべき行動、会社が行うサポート(週1回の面談など)を具体的に計画書に落とし込みます。 - 合意と署名
会社が一方的に押し付けるのではなく、本人と面談し、合意の上で署名させます。「無理難題なノルマ」は無効となるリスクがあるため注意が必要です。 - 中間レビューとフィードバック
定期的に進捗を確認し、記録を残します。改善が見られれば評価し、不足していればその都度指摘します。 - 最終評価
期間終了時に目標が達成されたか判定します。達成できなければ、次のステップ(配置転換、降格、あるいは退職勧奨・解雇)に進むことを事前に告知しておきます。
能力不足を理由とする解雇手続きの具体的な流れと必要書類
あらゆる手を尽くしても改善せず、解雇やむなしとなった場合の法的手続きの流れは以下の通りです。
- 1. 解雇予告(または解雇予告手当の支払い)
労働基準法第20条により、少なくとも30日前に解雇の予告をする必要があります。- 即時解雇したい場合: 30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払うことで、即日解雇が可能です。
- 日数を短縮する場合: 例えば10日前に予告し、不足する20日分の手当を支払うことも可能です。
- 2. 解雇通知書の交付
口頭でも解雇は成立しますが、トラブル防止のため必ず書面で通知します。通知書には「解雇日」を明記します。 - 3. 解雇理由証明書の交付(請求があった場合)
労働者が請求した場合、解雇の理由を具体的に記した証明書を発行する義務があります。就業規則のどの条文に基づき、どのような事実(能力不足の具体的内容、指導経過など)が理由となったかを記載します。 - 4. 社会保険・雇用保険の喪失手続き
解雇後は速やかにハローワークや年金事務所で手続きを行います。離職票の離職区分は、会社都合を示す「解雇」とするのが原則です。
不当解雇と判断されるリスクと企業が負う法的責任
もし裁判で「不当解雇(解雇権の濫用)」と判断された場合、企業は甚大なリスクを負います。
- バックペイ(賃金の遡及支払い)
解雇が無効となれば、解雇日に遡って「雇用関係が継続していた」ことになります。解雇期間中の賃金全額(年単位になることもあります)と遅延損害金の支払いを命じられます。 - 慰謝料
解雇の態様が悪質(ハラスメントを伴うなど)な場合、慰謝料が認められることもあります。 - 職場復帰
法的には「社員としての地位」が戻るため、当該社員を復職させなければなりません。これは実務上、組織運営に大きな混乱を招きます。 - 助成金の不支給
会社都合の解雇を出すと、キャリアアップ助成金など特定の助成金が一定期間受給できなくなります。
解雇後のトラブルを避けるための対応と注意点
解雇通告時や解雇後のトラブルを最小限に抑えるためには、以下の点に注意してください。
- 「解雇」ではなく「合意退職」を目指す
リスク回避の最善策は、最後まで「退職勧奨」による合意退職を目指すことです。特別退職金(パッケージ)の加算などを提示し、合意書を取り交わして円満に退職してもらう方が、結果的にコストが安く済むケースが多いです。 - 感情的な発言を控える
面談時に「給料泥棒」「無能」といった人格否定発言をすると、それが録音されていた場合、パワハラとして別件の訴訟リスクが生じます。常に冷静に、事実に基づいて話をしてください。 - 証拠の保全
これまでの指導記録、メール、始末書、PIPの記録などを整理し、いつでも提示できるようにしておきます。
能力不足社員を出さないための予防策と就業規則の重要性
解雇は最終手段であり、最も重要なのは「入り口」と「ルール」での予防です。
- 試用期間の有効活用
本採用後の解雇は非常に困難ですが、試用期間中(特に開始から14日以内など)であれば、比較的広い範囲で適性判断が認められます。試用期間中に適性を厳しく見極め、本採用拒否の基準を明確にしておくことが重要です。 - 就業規則の整備
「どのような状態が能力不足なのか」「どのようなプロセスを経て解雇になるのか」を就業規則に具体的に記載しておきます。 - 職務記述書(ジョブディスクリプション)の導入
中途採用においては、期待する業務内容やスキルレベルを文書で明確にしておくことで、能力不足の判定が客観的に行いやすくなります。
まとめ
能力不足を理由とする解雇は、法律上のハードルが非常に高く、単に「成果が出ない」というだけでは認められません。7つの厳格な条件を満たし、指導・教育・配置転換といった解雇回避努力を尽くした証拠を積み上げることが求められます。
経営者や人事担当者は、感情的な判断を避け、PIPなどを活用した冷静かつ段階的なプロセスを踏むことが、会社と社員双方にとってのリスク管理となります。判断に迷う際は、解雇に踏み切る前に必ず社会保険労務士や弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。
関連する詳しい情報はHR BrEdge社会保険労務士法人ブログ一覧もご参照ください。
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