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懲戒処分で失敗しない!法的に有効な手続きと3つの注意点を社労士が解説

2025.12.25 人事労務

懲戒処分とは?企業が知るべき基本のキ

懲戒処分とは、従業員が会社のルール(就業規則)や企業秩序に違反した場合に、会社が制裁として科すペナルティのことです。遅刻や無断欠勤といった勤務態度の不良から、ハラスメント、経歴詐称、業務命令違反まで、対象となる行為は多岐にわたります。

懲戒処分で失敗しない!法的に有効な手続きと3つの注意点を社労士が解説

しかし、経営者や人事担当者が誤解してはならないのは、「社長の怒りだけで自由に処分できるわけではない」という点です。懲戒処分は従業員の生活やキャリアに重大な不利益を与えるため、法律(労働契約法第15条)によって厳格なルールが定められています。

法的に有効な懲戒処分を行うためには、あらかじめ就業規則に「どのようなことをしたら(懲戒事由)」「どのような処分を下すのか(懲戒の種類)」を明記し、それを従業員に周知させておく必要があります。これを欠いたまま処分を行うと、後日「無効」と判断されるリスクが極めて高くなります。

会社が懲戒処分を行う理由と目的を理解しよう

会社が懲戒処分を行う最大の目的は、「企業秩序の維持と回復」です。単に違反した従業員を罰することだけが目的ではありません。

具体的には以下の3つの役割があります。

  • 規律の是正: ルール違反をした本人に反省を促し、行動を改善させる。
  • 職場環境の保護: 真面目に働いている他の従業員が不利益を被らないよう、規律を守る風土を守る。
  • 再発防止の抑止力: 「ルールを破るとペナルティがある」ことを示し、他の従業員による同様の違反を防ぐ。

例えば、セクハラやパワハラを放置すれば、被害者の就業環境が悪化するだけでなく、会社全体のモラル低下や人材流出を招きます。適切に懲戒権を行使することは、会社を守り、健全な職場環境を維持するための企業の義務とも言えるのです。

懲戒処分の種類を徹底解説!軽いものから重いものまで

懲戒処分は、違反の程度に応じて段階的に設定されるのが一般的です。ここでは軽いものから順に、代表的な7つの種類を解説します。

  • 戒告(かいこく)
    口頭または文書で厳重注意を行い、将来を戒める最も軽い処分です。始末書の提出は求めないケースが多いです。
  • 譴責(けんせき)
    始末書を提出させて反省を促す処分です。戒告よりも一段重く、人事考課に影響を与える場合があります。
  • 減給(げんきゅう)
    給与から一定額を差し引く処分です。ただし、労働基準法第91条により「1回の額が平均賃金の1日分の半額を超えてはならない」「総額が一賃金支払期の総額の10分の1を超えてはならない」という厳しい上限があります。
  • 出勤停止
    一定期間、就労を禁止する処分です。この期間中は原則として給与が支払われません。期間は就業規則で定められますが、数日から2週間程度が一般的です。
  • 降格
    役職や職位を引き下げる処分です(例:課長から平社員へ)。これに伴い役職手当などが減額されるため、従業員への経済的影響は大きくなります。
  • 諭旨解雇(ゆしかいこ)
    懲戒解雇に相当する事由があるものの、反省の情などを考慮して、会社と本人が話し合い、退職届の提出を勧告する処分です。これに応じない場合は懲戒解雇に移行します。退職金が一部支給されるケースもあります。
  • 懲戒解雇
    最も重い処分で、会社側が一方的に労働契約を解除(クビ)します。原則として退職金は不支給または減額となり、再就職にも大きな影響を与えます。即時解雇となる場合が多いですが、解雇予告手当の除外認定を労基署から受ける必要があります。

法的に有効な懲戒処分を行うための7つの重要原則

懲戒処分が法的に有効と認められるためには、以下の「7つの原則」をクリアしている必要があります。これらを無視した処分は、裁判で無効とされる可能性が高いです。

  • 罪刑法定主義の原則: 処分の理由と内容が、あらかじめ就業規則で定められていること。
  • 個人責任の原則: 連帯責任は不可。違反行為をした本人だけを処分すること。
  • 不遡及(ふそきゅう)の原則: ルールができる前の行為を、後から作ったルールでさかのぼって処分してはいけないこと。
  • 一事不再理(二重処罰禁止)の原則: 一つの違反行為に対して、二度処分を行うことはできないこと。
  • 平等取扱いの原則: 同じ違反をした別の社員と比べて、不当に重い処分にしてはいけないこと。
  • 相当性の原則: 違反の内容に対して、処分が重すぎないこと(例:1回の遅刻で解雇はNG)。
  • 適正手続きの原則: 就業規則に定めた手続き通りに進めること。特に「弁明の機会」を与えることが重要。

失敗しない!懲戒処分の具体的な手続きステップ

トラブルを避け、適正に処分を行うための標準的なフローは以下の通りです。

1. 事実関係の調査と証拠収集

まずは「本当にその違反行為があったのか」を客観的な証拠(メール、防犯カメラ、勤怠データ、目撃者の証言など)で固めます。噂や一方的な報告だけで動くのは危険です。

2. 就業規則の確認

確認された事実が、就業規則のどの条文(懲戒事由)に該当するかを特定します。該当する条項がない場合、懲戒処分はできません。

3. 弁明の機会の付与

これが最も重要なステップです。処分を決定する前に、本人を呼び出し、事実関係についての言い分を聞く機会(面談など)を必ず設けます。本人が否定する場合や酌むべき事情がある場合、これを無視して処分を行うと手続違反となります。

4. 処分の決定

証拠と本人の弁明を踏まえ、懲戒委員会などを開いて処分内容を決定します。過去の事例や他社員との公平性を考慮し、慎重に判断します。

5. 懲戒処分通知書の交付

決定した内容を本人に通知します。後々の言った言わないを防ぐため、必ず書面(懲戒処分通知書)で行い、処分の理由と内容を明確に伝えます。

よくあるNG事例と、会社が避けるべき注意点

多くの企業が陥りがちな失敗事例を紹介します。これらは絶対に避けてください。

  • いきなりの懲戒解雇
    どれほど腹が立っても、重大な横領や犯罪行為などを除き、いきなり解雇を選択するのはハイリスクです。まずは注意指導や軽い処分から段階を踏むのが基本です。
  • 「見せしめ」のための処分
    他の社員を引き締めるために、あえて重い処分を課すことは「相当性の原則」に反し、権利濫用とみなされます。
  • 弁明を聞かずに処分通知
    「どうせ言い訳だ」と決めつけ、本人の話を聞かずに処分通知書を送りつけるケース。これは手続き上の重大な不備となり、処分自体が無効になる典型的なパターンです。
  • 就業規則がない、または周知していない
    そもそも就業規則を作成していなかったり、社長の机の中にしまって社員が見られない状態だったりする場合、懲戒処分の効力は認められません。

万が一、無効な懲戒処分をしてしまったら?そのリスクと対応

もし従業員から訴訟を起こされ、裁判所によって懲戒解雇などの処分が「無効」と判断された場合、会社は甚大なダメージを負います。

  • バックペイ(未払い賃金)の支払い
    解雇が無効になると、「解雇した日に遡って雇用契約が続いていた」ことになります。会社は解雇期間中の給与全額を、利息付きで支払わなければなりません。裁判が長引けば数百万〜数千万円単位になることもあります。
  • 従業員の復職
    解雇が無効なので、その従業員は職場に戻ってきます。会社との信頼関係が崩壊した状態での復職は、現場に大きな混乱を招きます。
  • 損害賠償と社会的信用の低下
    不当な処分で精神的苦痛を受けたとして慰謝料を請求されるほか、「ブラック企業」としての評判が広まり、採用活動に悪影響が出るリスクもあります。

無効判決が出た場合は、速やかに弁護士等の専門家と相談し、金銭解決(和解金)による退職交渉に切り替えるなどの対応が必要になります。

トラブルを未然に防ぐ!日頃からできる懲戒処分の準備

いざという時に慌てないために、日頃から以下の準備を整えておきましょう。

  • 就業規則の整備と周知: 懲戒事由を具体的かつ網羅的に記載し、最新の法令に合わせて見直すこと。そして必ず従業員がいつでも見られる状態にしておくこと。
  • 指導記録の保存: 問題行動に対して、いつ、誰が、どのような注意指導を行ったかを記録(指導書やメール)に残しておくこと。「何度も注意したが改善しなかった」という証拠が、重い処分を行う際の正当な根拠になります。
  • 専門家との連携: 判断に迷う場合は、自己判断せず、必ず社会保険労務士や弁護士に相談できる体制を作っておくこと。

懲戒処分は「抜かずの宝刀」であるべきですが、必要な時には適正な手続きで毅然と対応することが、会社と真面目な社員を守ることに繋がります。

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