新着情報
社会保険労務士の顧問契約は必要?費用対効果で選ぶ失敗しない選び方とトラブル事例
導入文
企業経営において「人」に関する課題は尽きることがありません。従業員の採用、退職、社会保険の手続き、そして働き方改革に伴う法改正への対応など、労務管理の重要性は年々高まっています。こうした中で、多くの経営者や人事担当者が直面するのが「社会保険労務士と顧問契約を結ぶべきか、それとも必要な時だけのスポット依頼で十分か」という疑問です。

毎月のコストが発生する以上、明確な費用対効果が求められるのは当然のことです。しかし、専門家による継続的なサポートがない状態で労務管理を行うことには、目に見えない法的リスクや業務効率の低下といった問題が潜んでいることも事実です。特に、従業員とのトラブルが発生した際の対応や、複雑な助成金の申請などは、自社のみでの対応が困難なケースも少なくありません。
本記事では、社会保険労務士の顧問契約について、その基本的な役割からメリット・デメリット、そして契約を結ばない場合に起こり得る具体的なトラブル事例までを、中立的な視点で詳しく解説します。また、自社に最適な社労士を選ぶためのポイントや、契約前に確認すべき重要事項についても掘り下げていきます。企業の成長フェーズに合わせた最適な選択をするための判断材料として、ぜひお役立てください。
社会保険労務士の顧問契約とは?基本的な役割と提供サービス
社会保険労務士(社労士)との顧問契約とは、毎月一定の顧問料を支払うことで、労務管理に関する継続的なサポートを受ける契約形態を指します。弁護士や税理士の顧問契約と同様に、企業の「人」に関する専門家として、日常的な手続きからトラブル対応までを包括的に依頼できるのが特徴です。社労士が提供する主なサービスは、法律によって以下の3つに大別されます。
1号業務:書類作成・提出代行(独占業務)
企業の総務担当者に代わって、行政機関へ提出する申請書や届出書を作成し、提出手続きを代行する業務です。これらは社労士の独占業務であり、無資格者が報酬を得て行うことは法律で禁止されています。
- 社会保険(健康保険・厚生年金保険):入退社時の資格取得・喪失届、算定基礎届、月額変更届、傷病手当金支給申請など。
- 労働保険(労災保険・雇用保険):年度更新、離職票の作成、労災申請など。
2号業務:帳簿書類の作成(独占業務)
法令で作成・保存が義務付けられている帳簿書類を作成する業務です。正確な帳簿管理は、労働基準監督署の調査対策としても極めて重要です。
- 就業規則:常時10人以上の従業員を使用する事業場に義務付けられている規則の作成・変更。
- 法定三帳簿:労働者名簿、賃金台帳、出勤簿の整備。
3号業務:労務相談・コンサルティング
人事・労務に関するあらゆる相談に応じ、指導やアドバイスを行う業務です。これは独占業務ではありませんが、高度な専門知識が求められます。
- 労務トラブル対応:解雇、残業代、ハラスメント問題などの解決支援。
- 人事制度設計:賃金制度や評価制度の構築・見直し。
- 法改正情報の提供:頻繁に行われる労働関係法令の改正に伴う実務対応のアドバイス。
顧問契約においては、これらの業務の中から、企業のニーズに合わせて範囲を取り決めるのが一般的です。「手続きのみ」「相談のみ」「フルサポート」など、契約プランは多岐にわたります。スポット契約との最大の違いは、継続的な関係性の中で、企業の内部事情を深く理解した上での的確なアドバイスが受けられる点にあります。
顧問契約のメリット・デメリットを徹底解説
社会保険労務士と顧問契約を結ぶことは、企業にとって大きなプラスになりますが、一方でコストなどの負担も発生します。経営判断を下すためには、メリットとデメリットの両面を客観的に理解しておくことが不可欠です。
顧問契約のメリット
- 本業(コア業務)への集中と業務効率化
煩雑な社会保険や労働保険の手続きをアウトソーシングすることで、経営者や担当者の負担を大幅に軽減できます。特に専門知識が必要な申請業務をプロに任せることで、社内リソースを売上やサービス向上に直結するコア業務に集中させることが可能です。 - 最新の法改正対応とコンプライアンス遵守
労働関係の法律は頻繁に改正されます。顧問社労士がいれば、自社に関係する法改正情報をいち早くキャッチし、就業規則の改定や運用の見直しをスムーズに行うことができます。これにより、知らず知らずのうちに法令違反(コンプライアンス違反)を犯すリスクを防げます。 - 労務トラブルの未然防止と迅速な対応
従業員とのトラブルは、初期対応を誤ると訴訟や労働審判に発展する恐れがあります。顧問契約を結んでいれば、問題が小さいうちに相談し、法的な根拠に基づいた適切な対処が可能になります。 - 助成金の提案と申請代行
雇用関係の助成金は種類が多く、要件も複雑ですが、社労士はこれらのプロフェッショナルです。自社が受給できる可能性のある助成金の提案を受けられ、申請手続きもスムーズに進められます。
顧問契約のデメリット
- 固定費(ランニングコスト)の発生
毎月数万円から数十万円の顧問料が発生します。特にトラブルや手続きが少ない月であっても費用がかかるため、従業員数が少ない小規模企業では、費用対効果が見えにくい場合があります。 - 社労士との相性や専門性のミスマッチ
「相談してもレスポンスが遅い」「専門用語ばかりで話が分かりにくい」「業界の慣習を理解していない」といった不満が生じることがあります。一度契約すると解約しにくい心理的ハードルもあり、相性が悪いまま契約を続けてしまうケースも見受けられます。 - 社内へのノウハウ蓄積が阻害される可能性
業務をすべて丸投げしてしまうと、社内に労務管理の知識や経験が蓄積されず、担当者が不在になった際や契約解除時に業務が回らなくなるリスクがあります。
費用対効果を最大化!失敗しない社労士選びのポイント
顧問契約の価値を最大化するためには、自社のニーズに合致した最適な社会保険労務士を選ぶことが何より重要です。単に「家から近いから」「知り合いの紹介だから」という理由だけで選ぶのではなく、以下のポイントを基準に選定することで、失敗のリスクを減らすことができます。
1. 得意分野と実績の確認
社労士の業務範囲は広いため、全ての分野に精通しているとは限りません。自社の業界(IT、飲食、建設、医療など)に詳しいか、また自社が抱える課題(給与計算のアウトソーシング、人事評価制度の構築、IPO準備など)に実績があるかを確認しましょう。ホームページの実績紹介や、初回の面談で具体的な事例を聞くことが有効です。
2. コミュニケーションの相性とレスポンス速度
顧問契約において最も重要なのは「相談のしやすさ」です。以下の点を確認してください。
- 専門用語を使わず、平易な言葉で説明してくれるか。
- 質問に対する回答(レスポンス)は早いか(チャットツールなどの活用有無)。
- 上から目線ではなく、パートナーとして親身になってくれるか。
3. 明確な料金体系とサービス範囲
「月額〇万円」という提示だけでなく、その金額でどこまでの業務がカバーされるのかを明確に確認しましょう。
- 給与計算:基本料金に含まれるか、人数課金か。
- 就業規則:軽微な変更は無料か、全面改定は有料か。
- 調査対応:労働基準監督署や年金事務所の調査立ち会いは有料か。
- 訪問頻度:毎月訪問か、オンラインのみか、メール・電話のみか。
4. 費用対効果のシミュレーション
社労士に依頼するコストと、自社で担当者を雇用・育成するコストを比較検討します。例えば、労務担当者を1名雇用すれば月額20〜30万円の人件費がかかりますが、社労士への顧問料が月額5万円であれば、コストパフォーマンスは非常に高いと言えます。また、助成金の受給によるプラスの経済効果も考慮に入れると良いでしょう。
顧問契約を結ばないリスクと潜在的なトラブル事例
社会保険労務士と顧問契約を結ばず、自社のみで労務管理を行う、あるいは問題が起きた時だけスポットで対応するという選択肢もあります。しかし、そこには専門家不在ゆえの重大なリスクが潜んでいます。ここでは、実際によくあるトラブル事例を紹介します。
事例1:未払い残業代請求による金銭的損失
【背景】
IT企業A社(従業員30名)は、固定残業代制度を導入していましたが、契約書や就業規則の記載内容が法的な要件を満たしていませんでした。
【トラブル内容】
退職した元従業員から、「固定残業代は無効であり、過去2年分の残業代が未払いである」として数百万円の請求を受けました。
【原因】
法改正や判例の動向を把握せず、独自の解釈で制度運用を続けていたことが原因です。専門家による定期的なチェックがあれば、規程の不備を修正し、リスクを回避できていた事例です。
事例2:解雇トラブルによる泥沼化
【背景】
製造業B社(従業員10名)で、勤務態度が悪い従業員に対し、社長が感情的に「明日から来なくていい」と即日解雇を言い渡しました。
【トラブル内容】
従業員はユニオン(労働組合)に駆け込み、不当解雇として団体交渉を申し入れました。解決金として多額の金銭を支払うことになった上、他の従業員のモチベーションも低下しました。
【原因】
日本の労働法において、解雇は非常に厳しい要件が必要です。事前の指導記録の作成や、法的に適切な手順を踏んでいれば防げたトラブルです。顧問社労士がいれば、解雇以外の解決策や正しい手順のアドバイスが可能でした。
事例3:助成金の申請漏れ(機会損失)
【背景】
飲食業C社は、コロナ禍で休業を余儀なくされましたが、雇用調整助成金の制度が複雑で理解できず、申請を諦めていました。
【トラブル内容】
後になって同業他社が数百万円の助成金を受け取っていたことを知り、経営資金の確保において大きな差がつきました。
【原因】
情報のアンテナ不足と、申請事務の煩雑さがハードルとなりました。顧問契約があれば、該当する助成金の提案から申請までをスムーズに行うことができました。
こんな時どうする?顧問契約を検討すべき企業の具体例
どのタイミングで社会保険労務士との顧問契約を検討すべきかは、企業の成長フェーズや状況によって異なります。以下のような状況にある企業は、顧問契約による費用対効果が高いと言えます。
- 従業員数が10名を超えた時
労働基準法により、常時10名以上の従業員を使用する事業場は就業規則の作成・届出が義務付けられます。ルール作りの専門家が必要になる最初の大きなタイミングです。 - 初めて従業員を雇用する時
労働保険・社会保険の新規適用手続きは複雑で手間がかかります。最初の1人を雇う段階で基盤を整えておくことで、その後の増員にもスムーズに対応できます。 - 担当者が退職し、後任がいない時
労務担当者が急に辞めてしまうと、給与計算や手続きがストップする恐れがあります。社労士にアウトソーシングすることで、属人化を防ぎ、業務の継続性を担保できます。 - IPO(株式公開)を目指す時
上場審査では、労務コンプライアンスが厳しくチェックされます。未払い残業代や36協定の不備などは致命的となるため、早期から専門家の関与が必須となります。 - 事業拡大や拠点展開を行う時
支店や営業所が増えると、労働保険の継続事業一括手続きなど、管理が複雑化します。事業のスピードを落とさないためにも、バックオフィスの体制強化が必要です。
契約前に確認すべき重要事項と注意点
いざ顧問契約を結ぶ段階になった際、後々のトラブル(契約内容の認識齟齬など)を防ぐために、契約書や事前の取り決めで必ず確認しておくべき事項があります。
1. 業務範囲の線引き(SLAの確認)
「どこまでが顧問料に含まれ、どこからが別料金か」を明確にします。
- 給与計算:基本料金に含まれるか、人数課金か。
- 就業規則:軽微な変更は無料か、全面改定は有料か。
- 調査対応:労働基準監督署や年金事務所の調査立ち会いは有料か。
- 訪問頻度:毎月訪問か、オンラインのみか、メール・電話のみか。
2. 解約条件と契約期間
万が一、相性が合わなかった場合に備え、解約に関する条項を確認します。
- 契約期間は1年更新か、自動更新か。
- 解約の申し入れは「何ヶ月前」に行う必要があるか(通常は1〜3ヶ月前)。
- 違約金の有無。
3. データ管理とセキュリティ
従業員のマイナンバーや給与情報など、極めて機密性の高い個人情報を預けることになります。
- どのようなセキュリティ対策を講じているか(プライバシーマーク、SRP認証など)。
- データの受け渡し方法(メール添付か、専用のクラウドストレージか)。
- 契約終了時のデータ返却・削除方法。
4. 担当者の体制
契約したのは所長社労士でも、実務を担当するのは無資格の職員というケースは少なくありません。
- 誰がメインの担当者になるのか。
- 担当者が不在の場合のバックアップ体制はあるか。
- 資格保有者がチェックを行う体制になっているか。
関連する詳しい情報はこちらのブログ一覧もご参照ください。
まとめ
社会保険労務士との顧問契約は、単なる事務代行のコストではなく、企業の安定成長とリスク管理のための「投資」です。従業員の手続きを正確に行い、法的トラブルを未然に防ぐことは、結果として企業の信用を守り、従業員が安心して働ける環境を作ることにつながります。
もちろん、企業の規模やフェーズによっては、必ずしもすぐに顧問契約が必要ない場合もあります。しかし、「トラブルが起きてから」では遅いのが労務管理の世界です。今回解説したメリット・デメリット、費用対効果の視点を参考に、自社にとって最適な関わり方を検討してみてください。信頼できるパートナーとしての社労士を見つけることができれば、経営者は安心して事業拡大に邁進できるはずです。
大阪なんば駅徒歩1分
給与計算からIPO・M&Aに向けた労務監査まで
【全国対応】HR BrEdge社会保険労務士法人

