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社会保険料の適正化2025年最新動向:企業が実践すべき合法的なコスト削減策
社会保険料の負担増加は、多くの企業にとって経営を圧迫する深刻な課題となっています。少子高齢化に伴う料率の引き上げや、パート・アルバイトへの社会保険適用拡大(2024年10月より従業員数51人以上の企業へ拡大)など、企業が負担すべき法定福利費は年々増加の一途をたどっています。

2025年においても、この傾向は変わらず、さらに「こども・子育て支援金」制度の導入議論など、新たな負担増の要因も控えています。このような状況下で、企業が持続的な成長を続けるためには、単にコストを受け入れるのではなく、法令の範囲内で適正な保険料を納付する「社会保険料の適正化」に取り組むことが不可欠です。本記事では、最新の法改正動向を踏まえ、企業が実践すべき具体的な手法とリスク管理について解説します。
社会保険料適正化の基本:概念と企業経営への影響2025年
「社会保険料の適正化」とは、決して違法な手段で保険料の支払いを逃れることではありません。複雑な社会保険制度の仕組みを正しく理解し、法令に則った運用を行うことで、払い過ぎている保険料を見直し、本来支払うべき適正な額に調整する取り組みを指します。
- キャッシュフローの改善: 社会保険料は労使折半であるため、適正化は企業だけでなく従業員の手取り増加にも直結します。
- コンプライアンスの強化: 意図しない未加入や計算ミスを防ぎ、将来的な追徴金リスクを排除します。
- 公平性の確保: 従業員間の不公平感を解消し、適正な処遇を実現します。
2025年の企業経営においては、人件費の高騰と人手不足が同時に進行しています。利益率を圧迫する固定費としての社会保険料をコントロールすることは、賃上げ原資の確保や採用競争力の強化という観点からも、経営戦略上の最優先事項の一つと言えるでしょう。
【最新動向】社会保険料の合法的なコスト削減戦略:多様な節減アプローチ
社会保険料の算定基礎となる「標準報酬月額」や「標準賞与額」の仕組みを活用し、合法的にコストを適正化するための具体的なアプローチを解説します。2025年の最新トレンドを踏まえた戦略が求められます。
標準報酬月額の等級管理と定時決定(4-6月)の最適化
社会保険料(健康保険・厚生年金保険)は、毎年4月から6月に支払われた給与の平均額をもとに決定される「標準報酬月額」によって、その年の9月から翌年8月までの1年間の保険料が決まります。これを「定時決定」と呼びます。
何が変わったのか・実務でのポイント:この期間(4月・5月・6月)に支払われる給与には、残業代(時間外手当)も含まれます。したがって、この3ヶ月間に集中的に残業が発生すると、標準報酬月額の等級が上がり、結果として1年間の社会保険料負担が増加してしまいます。
企業への影響と対策:業務の繁閑を調整し、可能な限り4月~6月の残業時間を抑制することは、即効性のある社会保険料の適正化策となります。例えば、決算期や繁忙期がこの時期に重ならないよう業務スケジュールを見直す、あるいは不要な残業を削減するなどの取り組みが有効です。ただし、給与額を意図的に下げるための不当な業務調整は避け、あくまで生産性向上の文脈で実施する必要があります。
選択制確定拠出年金(選択制DC)の導入による効果
近年、多くの企業で導入が進んでいるのが「選択制確定拠出年金(選択制DC)」です。これは、従来の給与の一部を「前払い退職金」などの名目で切り出し、従業員がそれを「給与として受け取る」か「確定拠出年金の掛金として拠出する」かを選択できる制度です。
仕組みとメリット:従業員が掛金として拠出することを選択した場合、その掛金部分は社会保険料の算定基礎となる「報酬」に含まれません。その結果、標準報酬月額が下がり、企業・従業員双方の社会保険料負担が軽減されます。
実務での注意点:導入には就業規則や賃金規程の改定、厚生局への届出などが必要です。また、標準報酬月額が下がることは、将来の厚生年金受給額や、傷病手当金・出産手当金の給付額が減少することを意味します。従業員に対してメリットだけでなく、こうしたデメリットについても丁寧に説明し、同意を得ることが不可欠です。
賞与支給月の分散と標準賞与額の上限活用
賞与(ボーナス)にかかる社会保険料には、1回あたりの計算対象となる額に上限(標準賞与額の上限)が設けられています。
- 健康保険:年度(4月~翌3月)の累計で573万円
- 厚生年金:1回あたり150万円
具体的な手法:特に厚生年金保険料の上限(150万円)は比較的低く設定されています。高額な賞与を支給する場合、150万円を超える部分には厚生年金保険料がかかりません。この仕組みを理解し、給与と賞与のバランスを最適化することも一つの手法です。ただし、後述するように、極端に給与を下げて賞与比率を高める手法は規制の対象となる可能性があるため、慎重な設計が求められます。
見落とされがちな適正化の機会:専門家が語る深掘りポイント
一般的な削減手法以外にも、専門的な視点で見直すことで適正化が可能になるポイントがあります。これらは実務担当者でも見落としがちな領域です。
健康保険組合の切り替え検討とコスト比較
多くの中小企業は、全国健康保険協会(協会けんぽ)に加入していますが、業種によっては独自の健康保険組合(関東ITソフトウェア健康保険組合など)に加入できる場合があります。
これらの組合は、加入者の年齢層が若かったり、医療費支出が少なかったりするため、協会けんぽよりも保険料率が低く設定されていることが多くあります。また、福利厚生が充実しているケースも多いため、加入要件を満たすのであれば、組合健保への切り替えを検討することは非常に有効な適正化策です。
シニア雇用における社会保険料の最適化
70歳以上の従業員は、厚生年金の被保険者資格を喪失するため、厚生年金保険料の徴収は不要となります(健康保険は75歳まで加入)。
2025年以降、労働力不足によりシニア層の活用は必須となります。再雇用制度において、給与設定と年金受給(在職老齢年金)のバランスを考慮しつつ、社会保険料負担が発生しない70歳以上の雇用を積極的に進めることも、企業全体のコスト構造を適正化する上で重要な視点です。
固定残業代制度の適正運用と等級への影響
固定残業代(みなし残業代)を導入している企業では、その金額設定が標準報酬月額の等級境界線(閾値)をまたいでいないか確認する必要があります。
わずか数千円の支給額の違いで等級が1つ上がり、労使合わせて年間数万円の保険料増になるケースがあります。昇給時や手当の見直し時には、標準報酬月額の等級表を参照し、等級の変わり目を意識した賃金設定を行うことが、無駄なコスト増を防ぐテクニックです。
社会保険料適正化における法的リスクと遵守すべき注意点
社会保険料の削減には強いインセンティブが働きますが、行き過ぎた対策は法的リスクを招きます。特に2025年は、規制強化の動きに注視が必要です。
「役員報酬低額・高額賞与」スキームへの規制強化
これまで一部で横行していた、役員報酬を極端に低く(例:月額5万円など)設定し、年収の大部分を賞与で支払うことで社会保険料を大幅に圧縮するスキームに対し、厚生労働省は規制を検討しています。
2024年の社会保障審議会医療保険部会において、標準賞与額の上限引き上げや、極端な報酬設定への監視強化が議論されています。2025年以降、こうしたスキームは否認されるリスクが高まっており、過去に遡って追徴される可能性もあるため、安易な導入は避けるべきです。
パート・アルバイトの加入逃れと遡及徴収リスク
「週20時間未満」に労働時間を抑えれば社会保険の加入義務はありませんが、実態として20時間を超えて働かせているにもかかわらず、契約上のみ時間を偽装することは違法です。
適用拡大が進む中、年金事務所の調査(総合調査)も厳格化しています。調査で未加入が発覚した場合、最大2年間に遡って保険料を徴収されます。これは企業にとって莫大なキャッシュアウトとなるため、加入要件の判定は厳格に行う必要があります。
企業が実践すべき社会保険料適正化のロードマップと成功事例
社会保険料の適正化を成功させるためには、場当たり的な対応ではなく、計画的な実行が必要です。以下に推奨されるロードマップを提示します。
- 現状分析: 自社の現在の等級分布、残業時間の推移、パートタイマーの労働時間管理状況を可視化する。
- シミュレーション: 選択制DC導入や定時決定時の残業抑制など、各施策を実行した場合のコスト削減効果と従業員への影響額を試算する。
- 制度設計・規程改定: 導入する施策に合わせて、賃金規程や就業規則を改定する。
- 従業員説明: 特に将来の給付減などのデメリットを含め、透明性を持って説明し同意を得る。ここが最も重要です。
- 運用開始・モニタリング: 施策実行後も、法改正に合わせて定期的に見直しを行う。
成功事例:ある製造業(従業員100名規模)では、選択制DCの導入と同時に、生産性向上プロジェクトとして4月~6月の残業削減キャンペーンを実施しました。その結果、年間で約500万円の法定福利費削減を達成し、その原資の一部を従業員のベースアップに還元することで、離職率の低下にも繋がりました。適正化はコスト削減だけでなく、組織の質を高める機会にもなり得ます。
よくある誤解
- 誤解1: 残業代を払わなければ保険料は下がる
事実: サービス残業は労働基準法違反であり、論外です。適正化はあくまで「必要な残業を減らす」業務改善によって実現すべきです。 - 誤解2: 賞与を支給しなければ保険料はかからない
事実: 賞与を廃止して月給に上乗せすれば、その分標準報酬月額が上がり、毎月の保険料が増加します。総報酬額が同じであれば、賞与がある方が上限設定の影響で安くなるケースもあります。 - 誤解3: 手続きを遅らせれば保険料支払いを先延ばしできる
事実: 資格取得届などの遅延は、発覚時に遡及して徴収されるだけでなく、延滞金が発生する場合もあり、リスクしかありません。
専門家視点でのポイント整理
- 制度改正の早期把握: 2025年以降も「こども・子育て支援金」や適用拡大の完全義務化など、負担増の要因が続きます。常に最新情報をキャッチアップしてください。
- 「全体最適」の視点: 目先の保険料削減だけでなく、従業員のモチベーション、採用競争力、税制メリット(DCの所得控除など)を含めたトータルパッケージでの検討が重要です。
- 専門家の活用: 適正化スキームには高度な法的判断が伴います。リスク回避のため、信頼できる社会保険労務士等の専門家によるチェックを受けることを強く推奨します。
関連する詳しい情報はこちらのブログ一覧もご参照ください。
まとめ
社会保険料の適正化は、2025年の企業経営において避けて通れない課題です。制度の適用拡大や規制強化が進む中で、企業はコンプライアンスを遵守しつつ、戦略的なコスト管理を行うことが求められます。
標準報酬月額の適正な管理、選択制DCの活用、そしてリスクを伴うスキームの排除。これらを正しく組み合わせることで、企業と従業員の双方にとってメリットのある経営体制を構築することが可能です。まずは自社の現状を把握し、できることから一歩ずつ対策を進めていきましょう。
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