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副業・兼業ガイドライン2025年版:企業が知るべき労務管理と法改正の最新注意点
政府による「働き方改革」の推進以降、副業・兼業を解禁する企業は年々増加しており、2025年には人材確保や人的資本経営の観点から、その重要性はさらに高まっています。しかし、現場の実務担当者にとっては、2024年11月に施行された「フリーランス・事業者間取引適正化等法(フリーランス新法)」への対応や、複雑な労働時間管理ルールなど、法的リスクを伴う課題が山積しています。本記事では、最新の法改正とガイドラインに基づき、企業が今すぐ押さえるべき副業・兼業の実務ポイントを徹底解説します。
副業・兼業ガイドライン2025年版の最新動向と全体像
2025年現在、副業・兼業を取り巻く環境は、単なる「解禁」のフェーズから「適正な運用と環境整備」のフェーズへと移行しています。厚生労働省のガイドライン改定や関連法の施行により、企業にはより透明性の高いルール運用が求められています。
- フリーランス新法の実務定着2024年11月に施行された新法により、個人事業主として副業を行う従業員に対し、企業が業務を発注(業務委託)する際のルールが厳格化されました。
- 人的資本経営と情報開示の加速2022年のガイドライン改定で推奨された「副業・兼業の許容状況」の公表が進み、優秀な人材を獲得するための採用ブランディングとして、副業容認を明示する企業が増加しています。
- 労働時間通算ルールの見直し議論雇用型副業における「労働時間の通算管理」について、実務上の負担軽減に向けた法改正(割増賃金計算の簡素化など)の議論が活発化しており、将来的な変更を見据えた対応が必要です。
- 健康管理責任の明確化長時間労働による健康被害を防ぐため、企業側の安全配慮義務が改めて問われており、副業状況の正確な申告と健康確保措置(労働安全衛生法)の徹底が不可欠です。
2025年改正で「何が変わったのか」具体的な変更点と適用範囲
ここでは、直近の法改正やガイドラインの解釈において、実務に直接影響を与える変更点を詳細に解説します。特に注意すべきは、雇用契約と業務委託契約の違いによる適用の差です。
フリーランス新法による発注ルールの厳格化
2024年11月の施行以降、企業が従業員や外部人材に「業務委託」の形で副業を発注する場合、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス新法)が適用されます。これにより、以下の対応が義務付けられています。
- 取引条件の書面明示義務: 業務内容、報酬額、支払期日などを明記した書面(または電磁的記録)の発行が必須となりました。口約束での発注は違法となります。
- 報酬支払期日の設定: 業務完了から60日以内の支払いが義務化されました。
- ハラスメント対策: 社外のフリーランスに対しても、社内従業員と同様のハラスメント相談体制の整備が求められます。
雇用保険の適用拡大(週10時間以上への議論)と現状
2025年時点では、雇用保険の適用範囲は「週20時間以上」が原則ですが、政府は「週10時間以上」への適用拡大を検討しています(2028年度目処)。また、65歳以上の兼業者が2つの事業所の労働時間を合算して適用を受けられる「マルチジョブホルダー制度」の活用も進んでいます。企業は、短時間勤務の副業者が雇用保険の適用対象になる可能性を常に意識し、加入漏れがないよう注意が必要です。
労働時間通算ルールの現状維持と将来予測
もっとも問い合わせの多い「労働時間の通算」について、2025年時点では「原則通り通算する」という現行法が適用されます。
- 割増賃金の支払い: 本業と副業(雇用契約)の労働時間を通算し、法定労働時間を超えた部分については、後から契約した企業(多くの場合は副業先)または実労働時間における時間外労働をさせた企業が割増賃金を支払う義務があります。
- 将来の動向: 厚生労働省の有識者会議では、この通算ルールが副業促進の阻害要因になっているとして、割増賃金算定における通算廃止が議論されていますが、法改正はまだ実施されていません。フライングして通算管理を怠ると、未払い賃金のリスクが生じます。
企業に与える「副業・兼業」の労務影響:実務で直面する課題
副業・兼業の推進は、企業にとって人材の定着やイノベーション創出といったメリットがある一方で、実務担当者には重い管理負担とリスクをもたらします。
a) 労働時間管理(通算管理)の複雑化とコスト増
従業員が他社でも雇用されている場合、企業は自社の労働時間だけでなく、他社の労働時間も把握しなければなりません。自己申告に基づく管理となるため、申告漏れや虚偽申告があった場合、知らぬ間に「36協定違反」や「過労死ライン超え」の状態になるリスクがあります。これに伴い、勤怠管理システムの改修や管理工数の増加といったコストが発生します。
b) 競業避止と情報漏洩リスクの増大
社員が競合他社で副業を行ったり、自社のノウハウを使って個人事業を行ったりする場合、利益相反や機密情報の漏洩が懸念されます。特にデジタル技術の進展により、データの持ち出しが容易になっているため、従来の就業規則だけでは対応しきれないケースが増えています。2025年版の対応として、誓約書の刷新や、副業の内容を具体的に審査するプロセスが求められます。
c) 労災認定の複雑化と安全配慮義務
2020年の労災保険法改正により、複数就業者の労災給付は「全ての就業先の賃金を合算」して算定されるようになりました。しかし、どの業務が原因で疾病(うつ病や脳・心臓疾患など)が発症したかの特定は依然として困難です。企業側が副業先での過重労働を把握していなかったとしても、健康確保措置を怠ったとして安全配慮義務違反を問われる可能性があります。
実務担当者が陥りがちな「副業・兼業」制度運用の誤解
副業制度の運用において、多くの企業で法解釈の誤りや思い込みによるトラブルが発生しています。ここでは代表的な誤解を解消します。
- 誤解1:「就業規則で副業を全面禁止にできる」
- 正解: 原則として全面禁止はできません。 裁判例やガイドラインでは、労働時間外の時間は労働者の自由であるとされています。競業や守秘義務違反など「合理的な理由」がある場合のみ、個別具体的に制限が可能です。
- 誤解2:「業務委託なら労働時間の管理は一切不要である」
- 正解: 確かに業務委託契約であれば労働基準法の労働時間規制は適用されません。しかし、実態が指揮命令下にある「偽装請負」と判断されれば、遡って労働時間管理義務や残業代支払い義務が発生します。また、労働安全衛生法上の健康管理義務は、契約形態に関わらず企業の責務として重視されつつあります。
- 誤解3:「副業中の事故は、自社の労災にはならない」
- 正解: 副業先からの移動中(通勤災害)や、副業先での業務が原因であっても、制度改正により労災保険の給付額は合算ベースで計算されます。また、自社の業務と副業の業務の負荷が重なって発症した場合、自社の責任がゼロとは言い切れないケースもあります。
- 誤解4:「2025年から労働時間の通算はしなくてよくなった」
- 正解: これは間違いです。 通算廃止はあくまで「議論の方向性」であり、法改正は完了していません。現時点では、雇用契約による副業の労働時間は厳格に通算管理する必要があります。
専門家が解説する副業・兼業制度運用の重要ポイントと対策
法的リスクを最小限に抑えつつ、副業制度を円滑に運用するために、人事労務担当者が優先的に取り組むべき対策を整理します。
1. 「許可制」から「届出制+誓約書」への移行と整備
従来の「許可制」は運用負担が大きく、また不許可の基準が曖昧になりがちです。ガイドラインに沿って「届出制」を基本としつつ、「競業避止」「秘密保持」「誠実義務」を定めた誓約書の提出を必須条件とすることをお勧めします。特にフリーランス新法の影響を受ける業務委託型副業の場合、企業側が発注者となるケースでは契約内容の適正化もセットで行う必要があります。
2. 「管理モデル」の導入検討とルールの明確化
労働時間の通算管理が困難な場合、厚労省が提示する「管理モデル(副業先での労働時間上限をあらかじめ設定する方法)」の導入を検討してください。これにより、日々の細かな通算管理の手間を省きつつ、法的な遵守が可能になります。
- 自社の法定外労働時間と副業先の労働時間の合計が、単月100時間未満・複数月平均80時間以内となるよう上限を設定する。
- 副業開始時に、副業先での所定労働時間等の申告を徹底させる。
3. 健康確保措置(面接指導・労働時間制限)の徹底
副業の有無に関わらず、長時間労働者への医師による面接指導は企業の義務です。副業を行っている従業員に対しては、定期的に(例えば3ヶ月に1回)労働状況の報告を求め、総労働時間が一定基準を超えた場合には、「本業の残業禁止」や「副業の中止勧告」を行える旨を就業規則に明記しておくことが、企業防衛の観点から非常に重要です。
関連する詳しい情報はこちらのブログ一覧もご参照ください。
まとめ
2025年の副業・兼業ガイドラインおよび関連法制の実務対応においては、「フリーランス新法への対応」と「現行の労働時間通算ルールの遵守」が最重要テーマです。特に業務委託形式での副業が増える中、発注ルールや契約書面の不備は直ちに法令違反となります。
企業は、副業を単に「許可する・しない」の二元論で捉えるのではなく、労務リスクをコントロールしながら従業員の自律的なキャリア形成を支援する仕組み作りが求められます。法改正の動向を常に注視し、就業規則や運用フローの定期的な見直しを行いましょう。
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