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最低賃金引き上げ2025年最新動向:企業が今すぐ着手すべき対策と実務のポイント

2025.12.04 労務管理

最低賃金の引き上げは、企業経営にとって避けては通れない最重要課題の一つです。2024年度には全国加重平均が1,055円となり、過去最大の引き上げ幅(51円増)を記録しました。そして2025年に向けて、政府は「2020年代中の全国平均1,500円達成」という新たな目標を掲げ、賃上げのペースをさらに加速させる議論を進めています。

最低賃金引き上げ2025年最新動向:企業が今すぐ着手すべき対策と実務のポイント

この動きは、大企業だけでなく、中小企業や小規模事業者にとっても人件費の大幅な増加を意味します。単なるコスト増として捉えるだけでなく、人材確保や生産性向上のための投資機会として前向きに対応策を講じることが、企業の存続と成長を左右する局面に来ています。

本記事では、2025年の最低賃金引き上げに関する最新動向と予測、企業への具体的な影響、そして実務担当者が今すぐ着手すべき規定改定や助成金活用などの対策について、専門的な視点からわかりやすく解説します。

2025年最低賃金引き上げの全体像と主要な変更点

2025年の最低賃金をめぐる議論は、これまでの延長線上にはない、より急進的なフェーズに入っています。政府の方針転換や経済情勢を踏まえ、以下の主要なポイントを押さえておく必要があります。

  • 「1,500円」目標の前倒しと加速従来の「2030年代半ば」という目標から、「2020年代中」に全国平均1,500円を達成する方向へ方針が修正されつつあります。これを実現するためには、今後数年にわたり年率7%前後の大幅な引き上げが必要となります。
  • 過去最大となった2024年度改定の影響2024年10月の改定では、全都道府県で50円以上の引き上げが実施され、徳島県では84円もの大幅アップが行われました。この「地域間格差是正」の流れは2025年も継続し、地方部での引き上げ圧力が強まる見通しです。
  • 春闘の結果との連動大企業の賃上げ率が高い水準で推移する中、最低賃金の審議においても春闘の結果(賃上げ率)が重要な指標として重視される傾向が強まっています。
  • 「年収の壁」対策とのセット議論最低賃金の上昇により、扶養内で働くパート従業員が労働時間を抑制せざるを得ない「年収の壁」問題が深刻化しています。これに対する制度改正の議論も並行して進んでいます。

【企業への影響】コスト増とその具体的な試算方法

最低賃金の引き上げは、対象となる従業員の時給アップだけに留まりません。企業全体の人件費構造に波及する影響を、具体的な数値で把握しておくことが重要です。

人件費総額へのインパクト

最低賃金が引き上げられると、その水準未満の従業員だけでなく、既存の従業員との賃金バランス(処遇差)を保つために、全体的なベースアップが必要となるケースが多くあります。これを怠ると、既存社員のモチベーション低下や離職を招くリスクがあります。

社会保険料負担の増加

賃金総額が増えれば、会社負担分の社会保険料(法定福利費)も連動して増加します。特に、社会保険の適用拡大が進む中、これまで対象外だったパート従業員が加入要件を満たすケースも増え、ダブルパンチとなる可能性があります。

具体的なコスト試算シミュレーション

例えば、時給1,050円で働くパート従業員(週30時間勤務)が10名いる企業で、最低賃金改定により時給を70円引き上げ、1,120円にした場合のコスト増を試算します。

  • 1人あたりの月間賃金増: 70円 × 30時間 × 4.3週 = 約9,030円
  • 1人あたりの年間賃金増: 9,030円 × 12ヶ月 = 約108,360円
  • 10名分の年間影響額: 約108万円 + 社会保険料増加分(約15%) = 約124万円

このように、わずか数十円の引き上げであっても、人数や労働時間によっては年間で百万円単位のコスト増となります。早急に自社の影響額を試算し、予算を確保する必要があります。

中小企業が直面する課題と対応策の方向性

資金力のある大企業とは異なり、中小企業にとって急激な賃上げは経営を圧迫する要因となります。現場で起きている課題と、取るべき対策の方向性を整理します。

価格転嫁の難しさと「下請けいじめ」

原材料費やエネルギー価格の高騰に加え、労務費の上昇分を取引価格に転嫁できていない中小企業が依然として多く存在します。公正取引委員会の指針に基づき、発注元に対して根拠ある価格交渉を行うことが不可欠です。

「人手不足倒産」のリスク

賃上げに対応できなければ、より好条件の企業へ人材が流出し、採用難による事業継続困難(人手不足倒産)に陥るリスクが高まります。もはや「賃上げ」はコストではなく、人材確保のための「必要経費」と割り切る意識改革が求められます。

生産性向上による原資確保

賃上げ原資を確保するためには、生産性の向上が唯一の解です。具体的には以下の取り組みが挙げられます。

  • DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進: 勤怠管理や給与計算の自動化、受発注システムの導入などによる業務効率化。
  • 多能工化と業務フローの見直し: 属人化した業務を標準化し、少人数でも回せる体制を構築する。
  • 高付加価値化: 低収益な事業や商品を見直し、利益率の高い分野へリソースを集中させる。

【実務対応】就業規則・賃金規定の見直しと改定手順

最低賃金の改定に伴い、企業の実務担当者は就業規則や賃金規定の変更手続きを適切に行う必要があります。以下に具体的な手順を示します。

1. 現状の把握と対象者の洗い出し

まず、自社の事業所が所在する都道府県の「地域別最低賃金」と、業種によっては適用される「特定最低賃金」の最新額を確認します。その上で、現在の賃金が改定額を下回ることになる従業員をリストアップします。

2. 改定額の決定とシミュレーション

最低賃金ギリギリに設定するか、あるいは採用競争力を考慮して一定額を上乗せするかを経営判断します。同時に、既存社員とのバランスを考慮した賃金テーブルの修正案を作成します。

3. 就業規則(賃金規定)の変更案作成

賃金額の変更だけでなく、もし賃金体系(手当の廃止や統合など)を変更する場合は、就業規則そのものの改定が必要です。不利益変更にならないよう、合理的な理由と十分な説明が求められます。

4. 従業員代表からの意見聴取

就業規則を変更する場合、労働者の過半数代表者からの意見を聞き、「意見書」を作成する必要があります。これは労働基準監督署への届出に必須の書類です。

5. 労働基準監督署への届出と周知

変更した就業規則と意見書を管轄の労働基準監督署へ届け出ます(電子申請も可能です)。届け出後は、必ず全従業員に周知(掲示、配布、社内イントラへの掲載など)しなければ効力が発生しません。

活用できる助成金・支援制度と申請のポイント

政府は賃上げに取り組む中小企業を支援するため、様々な助成金制度を用意しています。これらを有効活用することで、最低賃金対応の負担を軽減できます。

業務改善助成金

事業場内の最低賃金を一定額(コースにより異なる)以上引き上げ、かつ生産性向上のための設備投資(機械導入、POSレジ、コンサルティングなど)を行った場合に、その費用の一部を助成する制度です。

  • ポイント: 賃金引き上げ前に「交付申請」を行い、承認を受けてから設備投資を行う必要があります(※特例を除く)。2025年も引き続き中小企業の賃上げ支援の柱となる制度です。

キャリアアップ助成金(賃金規定等改定コース)

有期雇用労働者等の基本給を3%以上増額改定した場合に助成されます。非正規雇用の処遇改善を行う場合に適しています。

働き方改革推進支援助成金

労働時間の短縮や年休取得促進に取り組み、成果を上げた企業に対して助成されます。賃上げと同時に労働環境の改善を目指す場合に有効です。

最低賃金引き上げに関する企業担当者のよくある誤解

実務現場では、最低賃金制度に関する誤解により、知らず知らずのうちに法律違反(最低賃金法違反)を犯してしまうケースがあります。以下の点に注意してください。

  • 「基本給」だけで判断してしまう最低賃金の対象となる賃金には、毎月支払われる基本給や諸手当が含まれますが、「精皆勤手当」「通勤手当」「家族手当」「時間外労働手当」「賞与」などは除外されます。これらを含めて「最低賃金以上」と判断するのは間違いです。
  • 「試用期間中は低くても良い」という思い込み試用期間中であっても、原則として最低賃金以上の支払いが必要です。特例として減額が認められるには、都道府県労働局長の許可が必要であり、ハードルは非常に高いです。
  • 「特定最低賃金」を見落とす地域別最低賃金とは別に、特定の産業(自動車小売業、製造業の一部など)に設定される「特定最低賃金」が存在します。両方が適用される場合は、高い方の金額を支払う義務があります。
  • 月給制だから関係ない月給制の従業員も、月給額を「1ヶ月の平均所定労働時間」で割って時給換算し、最低賃金を上回っているか確認する必要があります。

専門家が推奨する2025年最低賃金対応のロードマップ

最後に、2025年の最低賃金引き上げに向けて、企業がどのようなスケジュールで動くべきか、専門家視点でのロードマップを提示します。

【4月~6月】情報収集と予算策定

春闘の結果や政府の「骨太の方針」などのニュースを注視し、今年度の引き上げ幅を予測します。予測に基づき、人件費予算の見直しや業務改善計画(助成金申請の準備)を開始します。

【7月~8月】審議会目安の発表とシミュレーション

厚生労働省の中央最低賃金審議会から「目安」が発表されます。これを受けて、自社の対象人数やコスト増の最終シミュレーションを行い、具体的な改定額を検討します。

【9月】改定額の決定と実務準備

各都道府県の改定額が決定・公示されます(例年10月施行)。これに合わせて、就業規則や賃金規定の改定案を作成し、従業員代表への意見聴取、契約書の変更準備などを進めます。

【10月~】施行と事後チェック

改定された最低賃金が施行されます。給与計算システムの設定変更を確実に行い、10月稼働分(支払いは翌月等の場合も)から新単価が適用されているか厳重にチェックします。助成金の申請期限などもこの時期に確認しましょう。

まとめ

2025年の最低賃金引き上げは、「1,500円」という大きな目標に向けた重要な通過点となります。企業にとってはコスト増という厳しい側面がありますが、同時に業務効率化や生産性向上に着手する絶好の機会でもあります。

単に法律を守るための受動的な対応ではなく、助成金を活用しながら戦略的に賃上げを行い、人材確保と定着につなげることが、これからの時代を生き抜く企業の条件となります。早めの情報収集と準備で、この波を乗り越えていきましょう。

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