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2025年版同一労働同一賃金ガイドライン最新動向:企業が取るべき対応策
この記事では2025年版同一労働同一賃金ガイドラインの改正ポイントと、企業に求められる【7つの待遇】見直し等の実務対応を解説します。
2025年11月、厚生労働省より「同一労働同一賃金ガイドライン」の新たな見直し案が公表され、企業実務に大きな影響を与えています。今回の改正は、近年の最高裁判決を色濃く反映しており、これまで曖昧だった退職手当や賞与の判断基準が明確化されました。

人手不足が深刻化する中、非正規雇用労働者の待遇改善は単なるコンプライアンス対応を超え、人材確保のための必須条件となりつつあります。本記事では、2025年版ガイドラインの変更点と、企業が直ちに取り組むべき具体的な対応策を、社会保険労務士の視点からわかりやすく解説します。
2025年版 同一労働同一賃金ガイドラインの主要変更点
2025年11月21日の労働政策審議会で示されたガイドライン見直し案は、過去の判例法理を実務レベルに落とし込んだ内容となっています。特に注目すべきは、以下の3つの主要な変更点です。
- 「7つの待遇」に関する具体的判断基準の明記:賞与、退職手当など主要な待遇について、差を設ける際の「合理的な理由」が詳細に示されました。
- 「無期雇用かつフルタイム」非正規社員の比較対象化:正社員と同等の働き方をする非正規社員について、より厳格な均等待遇が求められるようになりました。
- 正社員待遇の引き下げに対する牽制:格差是正を理由とした安易な正社員の労働条件引き下げは「望ましくない」との記述が強化されています。
「7つの待遇」に関する新指針の明文化
今回の改正で最も実務への影響が大きいのが、これまで争点となりやすかった以下の7項目について、最高裁判決(長澤運輸事件、メトロコマース事件、日本郵便事件など)を踏まえた具体的な指針が盛り込まれた点です。
- 賞与(ボーナス)
- 退職手当
- 住宅手当
- 家族手当
- 病気休職・休暇
- 夏季・冬季休暇
- 無事故手当
例えば、賞与については、「会社の業績への貢献」という趣旨が含まれる場合、非正規社員にも何らかの支給(またはそれに代わる措置)が必要となる可能性が高まっています。また、退職手当についても、長期間勤務している非正規社員に対しては、正社員との均衡を考慮する必要性が明記されました。
退職手当と賞与における判断基準の具体化
従来、退職手当は「長期雇用のインセンティブ」として正社員のみに支給されることが一般的でした。しかし、2025年版ガイドラインでは、「職務の内容や配置の変更範囲が正社員と同一であり、かつ長期間勤務している」場合など、実態として正社員と変わらない非正規社員に対して不合理な相違を設けることが難しくなっています。
企業は、「なぜ正社員には支給し、非正規には支給しないのか」という問いに対し、「長期勤続への功労報償」「人材確保の必要性」といった抽象的な理由だけでなく、具体的な職務や責任の違いに基づいた説明を用意しなければなりません。
正社員待遇の引き下げに対する規制強化
格差是正のために正社員の手当を廃止したり減額したりする手法(いわゆる「不利益変更」)に対し、ガイドラインはより慎重な姿勢を示しています。労使合意のない一方的な引き下げは、労働契約法違反のリスクがあるだけでなく、組織全体のモチベーション低下を招きます。改正ガイドラインでは、待遇改善は「非正規社員の引き上げ」によって行うことが基本原則であると改めて強調されています。
企業が直面する影響と対応の緊急性
ガイドラインの明確化は、企業にとって「言い逃れができなくなる」ことを意味します。対応を後回しにすることで生じるリスクは、年々増大しています。
- 行政による是正指導の増加:労働局の調査において、新ガイドラインに基づいた厳格なチェックが行われます。
- 損害賠償請求のリスク:退職した元従業員から、過去に遡って差額賃金を請求される訴訟リスクが高まります。
労務リスクの増大と是正指導の活発化
2025年の改正により、労働局の指導方針も変化しています。これまでは「説明できるようにしてください」という指導が中心でしたが、今後は「この手当の差異はガイドラインの〇〇項に照らして不合理である可能性が高い」といった、より踏み込んだ指摘がなされることが予想されます。特に、同一労働同一賃金に関する是正指導件数は増加傾向にあり、是正勧告に従わない場合の企業名公表のリスクも無視できません。
人材確保競争と「選ばれる企業」への転換
法的なリスクだけでなく、経営戦略としての重要性も増しています。少子高齢化により労働力人口が減少する中、非正規社員から「待遇が公正な企業」として選ばれるかどうかが、企業の存続を左右します。賃金や手当の公平性は、採用競争力に直結する要素であり、適切な対応を行うことで、優秀な非正規社員の定着と正社員転換を促進することができます。
非正規雇用者待遇改善のための具体的なステップ
では、企業は具体的にどのように対応を進めればよいのでしょうか。無計画な賃上げは人件費を圧迫するため、以下の3ステップで論理的に進めることが重要です。
- Step 1:雇用形態ごとの待遇差を可視化する
- Step 2:各手当の「目的」を再定義する
- Step 3:不合理な差を埋めるための制度改定を行う
【Step1】現状の雇用形態と待遇差の完全洗い出し
まず、社内に存在する全ての雇用形態(契約社員、パート、アルバイト、嘱託社員など)を洗い出し、正社員と比較して「どの待遇に差があるか」を一覧表にします。基本給だけでなく、全ての手当、休暇制度、福利厚生、教育訓練に至るまで、網羅的にチェックすることが出発点です。
【Step2】手当ごとの「支給目的」と「性質」の再定義
次に、差がある待遇について、その「支給目的」を明確にします。ここが同一労働同一賃金対応の核心です。
例えば「住宅手当」の場合、その目的が「転居を伴う転勤への配慮」であれば、転勤のないパート社員に支給しなくても合理的な説明がつく可能性があります。しかし、「住宅費の補助」という生活給的な目的であれば、フルタイムの契約社員に支給しないのは不合理と判断されるリスクが高まります。自社の賃金規定における各手当の定義を見直しましょう。
【Step3】不合理性の解消に向けた是正計画の策定
目的と照らし合わせて「説明がつかない(不合理な)」差が見つかった場合、是正を行います。方法は主に2つです。
- 非正規社員にも支給する:最もリスクが低い方法ですが、原資が必要です。
- 手当の支給要件を見直す:例えば「皆勤手当」を廃止し、その分を基本給に組み込むなど、時代に合わない手当を再編します。
賃金・評価制度の見直しと最適な導入手順
手当だけでなく、基本給の決定方法についても透明性が求められます。これまでの「年功序列型」から、職務や役割に基づく「役割給(ジョブ型要素)」への転換が有効な解決策となります。
- 職務内容の棚卸しにより、正社員と非正規社員の仕事の境界線を明確にする。
- 同じ仕事をしている場合は、同じ賃金テーブルを適用する検討を行う。
職務内容の棚卸しとジョブ型要素の検討
「正社員は責任が重いから給与が高い」という説明は、具体性を欠く場合、通用しにくくなっています。「どのような責任(トラブル対応、目標達成責任、部下指導など)が違うのか」を職務記述書(ジョブディスクリプション)レベルで整理する必要があります。もし、現場実態として正社員とパートが全く同じ業務を行っているなら、職務に応じた同一の評価基準を導入するか、業務分担を見直して明確な差をつける必要があります。
評価基準の統一と透明性確保
非正規社員にも評価制度を導入し、昇給のチャンスを設けることが推奨されます。正社員と同じ評価シートを使う必要はありませんが、「何を頑張れば時給が上がるのか」が明確になっていることは、均等・均衡待遇の観点からも、従業員のモチベーション向上の観点からも極めて重要です。
福利厚生・教育訓練における均等・均衡待遇の実現策
賃金以外の待遇についても、2025年版ガイドラインでは注意が必要です。特に福利厚生や教育訓練は、コストをかけずに改善できる部分も多いため、優先的に着手すべき領域です。
- 食堂、休憩室、更衣室などの施設利用
- 慶弔休暇、病気休暇などの法定外休暇
- 業務遂行に必要なスキルアップ研修
食堂・更衣室・慶弔休暇等の利用格差解消
会社の食堂や休憩室、更衣室の利用について、正社員と非正規社員で差をつけることは、特段の理由がない限り認められません。また、慶弔休暇や健康診断の法定上乗せ分についても、勤務日数や時間に比例した付与(均衡待遇)や、同一の付与(均等待遇)が求められます。「パートだから使えない」というルールが残っていないか、就業規則を点検してください。
キャリアアップに資する教育訓練の平等な提供
現在の業務を遂行するために必要な教育訓練(例:新しいレジの操作研修、安全衛生教育など)については、雇用形態にかかわらず同一に実施しなければなりません。また、キャリアアップを望む非正規社員に対して、正社員転換につながる研修機会を提供することも、改正法の趣旨に沿った望ましい対応です。
同一労働同一賃金でよくある誤解とその解消法
実務現場では、制度に対する誤解により、過剰な対応をしたり、逆に対応不足になったりするケースが散見されます。ここでは代表的な誤解を解消します。
- 誤解1:すべての待遇を正社員と全く同じ金額にしなければならない。
- 誤解2:パート社員には賞与や退職金を出す必要は一切ない。
- 誤解3:定年再雇用者は年金をもらうので給与を大幅に下げても良い。
「正社員と全く同じ金額」にする必要はない?
同一労働同一賃金は、「結果としての賃金額」を揃えることではありません。職務内容、責任の程度、配置転換の有無などの違いに応じて、バランスの取れた(均衡のとれた)処遇をすることを求めています。したがって、合理的な理由(例:正社員は全国転勤があるが、パートは地域限定である等)があれば、差を設けることは問題ありません。
パート・アルバイトへの賞与支給は義務か?
法的に「必ず賞与を出せ」と定めているわけではありません。しかし、正社員への賞与支給目的が「会社全体の業績配分」である場合、業績に貢献しているパート社員にも、寸志や一時金といった形であれ、何らかの配分を行うことが求められる傾向にあります。全くのゼロにする場合は、「正社員の賞与は月例給の後払い的性格が強く、パートは時給でその分がカバーされている」といった論理的な整理が必要です。
定年再雇用者なら待遇を下げても問題ないか?
定年後の再雇用においても、業務内容が定年前と全く同じであるにもかかわらず、賃金を大幅に引き下げることは不合理と判断されるリスクがあります(長澤運輸事件判決)。ただし、定年退職によるリセットや、業務負担の軽減(役職定年、ノルマ免除など)がある場合は、一定の減額は容認されています。重要なのは「仕事の中身が変わったかどうか」です。
専門家が提言する実践的対応と今後の展望
2025年版ガイドラインへの対応は、人事制度のパッチワーク的な修正ではなく、全体最適の視点で行うべきです。社会保険労務士の視点から、今すぐ着手すべきポイントを整理します。
- 説明義務を果たすための文書整備
- 将来的な「多様な正社員」制度の導入
- コスト増を見越した生産性向上の取り組み
説明義務を果たすための「待遇差説明書」の整備
パートタイム・有期雇用労働法では、労働者から求めがあった場合の「説明義務」が課されています。いざ聞かれてから慌てないよう、あらかじめ各待遇の差異の理由を記載した「待遇差説明書」やQ&Aを作成しておくことを強く推奨します。これは、管理者自身が制度の合理性を再確認するツールとしても有効です。
2026年以降を見据えた「多様な正社員」制度の活用
今後は「正社員か非正規か」という二元論ではなく、「勤務地限定正社員」「職務限定正社員」といった多様な正社員制度が広がっていくでしょう。非正規社員をこうした枠組みに取り込むことで、待遇差の問題を根本的に解消しつつ、柔軟な働き方を提供することが可能になります。2025年の見直しを機に、雇用区分そのものの再設計を検討してみてください。
関連する詳しい情報はこちらのブログ一覧もご参照ください。
まとめ
2025年版同一労働同一賃金ガイドラインの改正は、企業に対し、より具体的かつ厳格な対応を求めています。特に退職手当や賞与に関する判断基準の明確化は、多くの企業で規定の見直しを迫るものです。重要なのは、「なぜ差があるのか」を全ての待遇において自分の言葉で説明できるようにすることです。この取り組みを通じて、公正な処遇を実現し、人材に選ばれる強い組織を作っていきましょう。
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