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2025年最新版:未払い残業代請求トラブルを防ぐ!企業が陥る「よくある間違い」と具体的な対策

2025.11.23 労務管理

近年、未払い残業代を巡るトラブルは増加の一途をたどっています。2020年の民法改正に伴う賃金請求権の消滅時効延長(2年から3年へ)の影響が2025年現在、企業経営に重くのしかかっています。さらに、2024年4月から適用された「働き方改革関連法」による時間外労働の上限規制の拡大や、中小企業における月60時間超の割増賃金率引き上げなど、企業を取り巻く環境は激変しました。

2025年最新版:未払い残業代請求トラブルを防ぐ!企業が陥る「よくある間違い」と具体的な対策

「うちは固定残業代を導入しているから大丈夫」「管理職には残業代は発生しない」といった認識は、多くの場合、法的な誤解を含んでおり、ある日突然、数百万円規模の請求を受けるリスクを孕んでいます。特に、デジタルツールによる証拠収集が容易になった現代において、曖昧な勤怠管理は命取りとなります。

この記事では、HR BrEdge社会保険労務士法人の専門的知見に基づき、2025年時点での未払い残業代請求の最新動向と、企業が陥りやすい「よくある間違い」、そしてトラブルを未然に防ぐための具体的な対策を徹底解説します。経営者や人事労務担当者が今すぐ確認すべきポイントを整理しましたので、ぜひ貴社のリスクマネジメントにお役立てください。

2025年最新版:未払い残業代請求の最新動向と企業への影響

2025年現在、未払い残業代請求を取り巻く環境は、かつてないほど厳格化しています。法改正の経過措置終了や新たな規制の適用により、企業が負担するリスクの総額は増大傾向にあります。ここでは、特に重要な3つの動向を解説します。

  • 消滅時効「3年」の完全定着と高額化
    2020年4月の改正労働基準法施行により、賃金請求権の消滅時効が2年から当面3年に延長されました。2025年時点では、請求可能な期間が完全に3年分(36ヶ月分)となっており、過去の「2年分」時代と比較して請求額が単純計算で1.5倍に膨れ上がっています。
  • 中小企業の「月60時間超」割増賃金率50%適用の常態化
    2023年4月より、中小企業に対しても月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が25%から50%へと引き上げられました。これにより、恒常的な長時間労働がある企業では、未払い額が加速度的に増加する構造となっています。
  • 2024年問題(建設・物流・医師)の影響拡大
    2024年4月から建設業、運送業、医師に対しても時間外労働の上限規制が適用されました。これに伴い、労働時間の管理がより厳格に求められるようになり、これまで曖昧だった「手待ち時間」や「移動時間」が労働時間として顕在化し、請求に繋がるケースが増えています。
  • デジタル証拠による立証の容易化
    スマホのGPS履歴、交通系ICカードの乗車記録、チャットツールの送信ログなど、労働者が労働時間を客観的に証明できるツールが増加しています。タイムカードの打刻時間と実態が乖離している場合、これらのデジタル証拠が裁判で採用される傾向が強まっています。

なぜ未払い残業代は発生するのか?企業が抱える法的リスク

多くの企業は悪意を持って残業代を支払わないわけではありません。しかし、制度設計の不備や運用の甘さが、結果として「違法状態」を生み出しています。ここでは、企業が直面する法的リスクの構造を解説します。

固定残業代(みなし残業)制度の無効リスク

固定残業代制度は、正しく運用されていれば有効ですが、単に「手当」として支給しているだけでは不十分です。最高裁判例(国際自動車事件など)においても、「通常の労働時間の賃金」と「割増賃金部分」が明確に区分されていること(判別可能性)や、その手当が実質的に時間外労働の対価としての性質を持っていること(対価性)が厳しく問われます。これらが満たされていないと判断された場合、支払ったはずの固定残業代が「基礎賃金」の一部とみなされ、それをベースに再計算された膨大な残業代を請求される「ダブルパンチ」のリスクがあります。

「名ばかり管理職」の否定リスク

「課長だから」「店長だから」という理由だけで残業代を支払っていないケースは非常に危険です。労働基準法上の「管理監督者」として認められるには、経営者と一体的な立場にあること、自身の労働時間をコントロールできる裁量があること、ふさわしい待遇を受けていることなど、極めて高いハードルを越える必要があります。実態として権限がない場合、過去に遡って一般社員と同様に残業代の支払い義務が生じます。

労働時間の「黙示の指示」認定

「残業は許可制にしている」と主張しても、客観的に業務が終わらない量を割り振っていたり、部下の残業を知りながら是正措置を講じなかったりした場合、会社が黙示的に残業を指示した(黙認した)とみなされます。特に、PCのログオフ時間と退勤打刻時間に大きな乖離がある場合、PC稼働時間が労働時間と推定されるリスクが高まります。

付加金による倍返しリスク

裁判で未払い残業代の支払いが命じられる際、その未払いが悪質であると判断されると、裁判所は未払い額と同額の「付加金」の支払いを命じることがあります。つまり、企業は元々の未払い額の最大2倍の金額に加えて、遅延損害金(退職後は年14.6%)を支払うことになり、経営に甚大なダメージを与えます。

客観的な記録義務違反のリスク

労働安全衛生法の改正により、企業には労働時間の客観的な把握義務が課されています。自己申告制のみに依存し、その申告が実態と乖離している場合、安全配慮義務違反を問われるだけでなく、労働基準監督署からの是正勧告の対象となります。適切な記録がないことは、紛争時に企業側の反証を困難にします。

振替休日と代休の混同

休日労働への対応として「振替休日」と「代休」を混同しているケースも多々あります。振替休日は事前に休日を指定して入れ替えるもので、割増賃金は不要(週をまたぐ場合は週40時間超えの残業代が必要な場合あり)ですが、代休は休日労働後に休みを与えるものであり、休日労働に対する35%以上の割増賃金の支払いは消えません。この処理を誤ると、未払いが発生します。

未払い残業代トラブルを未然に防ぐ具体的な予防策と社内体制

リスクを最小化するためには、就業規則の整備だけでなく、日々の運用における「証拠作り」と「意識改革」が不可欠です。

労働時間管理の「客観化」を徹底する

自己申告やタイムカードだけに頼らず、PCのログオン・ログオフ記録や入退室記録と勤怠データを突合する仕組みを導入してください。乖離がある場合は、その理由(私用、休憩など)をその都度、本人に申告させ記録に残す運用が必要です。これが将来的な紛争時の有力な反証材料となります。

固定残業代規定の厳格な見直し

固定残業代を導入している場合は、以下の3点を徹底してください。
1. 就業規則および雇用契約書に、「〇時間分の時間外労働手当として〇〇円を支給する」と明記する。
2. 給与明細において、基本給と固定残業代を別項目で明確に記載する。
3. 実際の残業時間が固定分を超過した場合は、その差額を必ず支払い、明細にも「超過分」として記載する。特に3点目の「精算」の実績作りが、制度の有効性を担保する上で極めて重要です。

残業許可制の実効性を高める

残業を原則禁止とし、必要な場合のみ事前の申請・承認を義務付ける「事前許可制」を徹底します。突発的な業務で事後申請になる場合でも、理由を明確にさせ、承認プロセスを経るようにします。ダラダラ残業を防ぐだけでなく、会社が労働時間を管理しているという実績になります。

就業規則と実態の乖離を解消する

始業時刻前の朝礼や掃除、終業後の着替え時間などが「労働時間」として扱われているか確認してください。これらが指揮命令下にあると判断されれば労働時間です。実態として強制参加であれば、労働時間としてカウントするか、あるいは完全に任意参加であることを周知徹底し、不参加による不利益取り扱いを禁止する必要があります。

管理監督者の範囲を再考する

社内で「管理監督者」として扱っている社員が、法的な要件を満たしているか定期的に棚卸しを行います。要件を満たすのが難しい場合は、管理監督者から外し、適正に残業代を支払う運用に切り替えるか、権限移譲と待遇改善を行い実態を伴わせる必要があります。リスク回避としては、前者の対応が現実的な場合が多いです。

定期的かつ詳細な給与計算チェック

割増賃金の基礎となる「賃金総額」から除外できる手当(家族手当、通勤手当、住宅手当など)は限定的です。一律支給の手当を誤って除外していないか、また、歩合給がある場合の残業代計算(計算式が異なります)が正しいかなど、専門家を交えた定期的な監査を行うことを推奨します。

担当者が陥りがちな「よくある誤解」と正しい知識の重要性

実務の現場では、法的な根拠のない「思い込み」がトラブルの火種になっています。ここでは代表的な誤解を解消します。

  • 誤解:「年俸制だから残業代は支払わなくていい」
    正解:年俸制であっても、労働基準法の時間外労働規制は適用されます。年俸に残業代を含める契約(固定残業代)になっていない限り、別途残業代の支払いが必要です。含める場合でも、金額と時間数の明示が必要です。
  • 誤解:「基本給にすべての手当を含んでいるから大丈夫」
    正解:いわゆる「まるめ」給与は非常に危険です。基本給と割増賃金が明確に区分されていないと、給与全体が基礎賃金とみなされ、そこから算出される割増賃金が全額未払いと判断される可能性があります。
  • 誤解:「テレワーク(在宅勤務)は見えないから残業代不要」
    正解:テレワークであっても労働時間の管理義務は免除されません。「事業場外みなし労働時間制」の適用も要件が厳しく(常時通信可能な状態なら適用不可など)、原則通り実労働時間に基づいた支払いが必要です。
  • 誤解:「30分未満の残業は切り捨てて計算してもよい」
    正解:労働時間は「1分単位」で計算するのが原則です。日々の労働時間を切り捨てることは違法です(月単位での集計時に30分未満を切り捨て、30分以上を1時間に切り上げる事務処理は特例として認められています)。
  • 誤解:「社員が納得してサインすれば残業代を放棄させられる」
    正解:労働基準法は強行法規であり、個人の合意よりも優先されます。たとえ「残業代はいりません」という念書を取っていたとしても、法的に無効であり、後から請求されれば支払う義務があります。

専門家が語る!未払い残業代問題で企業が押さえるべき重要ポイント

最後に、多くの労務トラブルを解決してきた専門家の視点から、企業が今すぐ取り組むべき優先順位を整理します。

「未払い」の事実を作らない精算の実績

最も重要なのは、固定残業代制度などを採用していても、それを超過した分は「1円単位でも支払う」という実績を毎月積み上げることです。これにより、制度が形骸化していないことの強力な証明となり、裁判等の紛争時にも有利に働きます。「今月は数時間オーバーしただけだから」と見逃すことが最大のリスク要因です。

「1分単位」の勤怠管理への移行

勤怠システムの設定を見直し、1分単位での打刻・集計ができるようにしてください。15分単位や30分単位での切り捨て運用は、過去に遡って未払い分を請求される典型的なパターンです。クラウド型勤怠システムの導入は、法改正対応や客観的な記録保持の観点からも推奨されます。

「休憩時間」の自由利用の確保

休憩時間中に電話番や来客対応をさせている場合、それは「手待ち時間」として労働時間とみなされます。休憩時間は完全に業務から解放させるか、当番制にしてその時間は労働時間としてカウントするなどの明確な区分けが必要です。

管理職の「名ばかり」解消と職務権限の見直し

管理監督者扱いとしている社員に対し、本当に出退勤の自由があるか、経営会議への参加など重要な意思決定に関与しているか再確認してください。もし不安があるなら、深夜残業手当(管理監督者でも支払い義務あり)だけでなく、通常の残業代も支給する一般管理職への変更を検討する時期かもしれません。

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まとめ

2025年における未払い残業代請求は、消滅時効の3年延長や各種法改正により、企業にとって過去最大級のリスクとなっています。固定残業代の適切な運用1分単位の勤怠管理管理監督者の実態把握など、なすべき対策は多岐にわたりますが、これらを放置することは、将来的な経営基盤を揺るがすことに他なりません。

「知らなかった」では済まされないのが労働法規の世界です。今回の記事で紹介した「よくある誤解」を解消し、客観的な証拠に基づく正しい労務管理体制を構築することで、企業と従業員の双方が安心して働ける環境を作り上げてください。

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