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人事評価制度で従業員のモチベーションは上がる?失敗を避ける4つの落とし穴と社労士の助言

2025.12.06 人事評価

「今期は過去最高の売上を達成した。間違いなく評価されるはずだ」そう確信して臨んだ評価面談。しかし、上司から告げられたのは予想を裏切る「標準評価」という言葉でした。「チーム全体のバランスもあるから」「まだ君には期待している段階だから」といった曖昧な説明に、胸の奥で何かが冷めていく感覚――。

人事評価制度で従業員のモチベーションは上がる?失敗を避ける4つの落とし穴と社労士の助言

あなたは自社の従業員に、このような思いをさせてはいないでしょうか?

人事評価制度は、本来であれば従業員の成長を促し、組織の活力を高めるためのエンジンとなるべきものです。しかし、実際には多くの企業で、逆にモチベーションを削ぐ「足かせ」となってしまっている現状があります。最新の調査でも、約8割のビジネスパーソンが人事評価によってモチベーションが低下した経験を持つという衝撃的なデータもあります。

本記事では、社労士の専門的知見に基づき、なぜ人事評価制度が失敗してしまうのか、その「落とし穴」を解明するとともに、従業員の心に火をつける制度設計と運用の極意を、実践的なストーリーとともに解説します。

「頑張っても報われない…」従業員の心が折れる人事評価、その背景と課題

「なぜ、あの人が自分より評価が高いのか?」職場のモチベーションを最も大きく損なう要因の一つが、評価に対する「不透明さ」と「不公平感」です。

株式会社ワークポートが2024年に実施した調査によると、対象者の76.4%が「会社からの人事評価によって仕事のモチベーションが下がった経験がある」と回答しています。さらに、その理由として最も多く挙げられたのが、「評価基準が不明瞭」「上司の主観で判断されている」という納得感の欠如でした。

「静かな退職」を引き起こす評価への絶望

従業員が評価制度に対して不信感を抱くと、どうなるでしょうか。かつてのように激しく反発して退職届を叩きつけるだけではありません。近年問題視されているのは、「静かな退職(Quiet Quitting)」という現象です。

「頑張っても評価されないなら、必要最低限の仕事だけこなせばいい」

彼らは会社には残りますが、心はすでに離れています。会議での発言は減り、自発的な提案はなくなり、組織全体の熱量が徐々に奪われていきます。この「見えない損失」こそが、機能不全に陥った人事評価制度がもたらす最大の経営リスクなのです。

評価制度が形骸化する構造的要因

なぜ、多くの企業でこのような事態が起きるのでしょうか。背景には以下の3つの構造的な課題があります。

  • 評価基準のブラックボックス化:数値化できない定性的な業務(後輩指導やチームへの貢献など)が評価されず、目に見える数字だけが追われる。
  • 評価者(上司)のスキル不足:プレイングマネージャーが増加し、部下を観察する時間が不足。結果として「印象評価」や「ハロー効果(一つの特徴に引きずられて全体を評価してしまう心理)」に陥る。
  • フィードバックの欠如:結果だけが通知され、「なぜその評価になったのか」「次はどうすればいいのか」という対話が不足している。

従業員の心が折れるのは、低い評価を受けたからではありません。「自分の努力が正当に見られていない」と感じた時なのです。

理想と現実のギャップを埋める!従業員の「本音」に寄り添う評価制度設計の極意

「社員のために」と導入したはずの評価制度が、なぜか社員を苦しめる。この「理想と現実のギャップ」を埋めるために必要なのは、経営側の論理だけでなく、従業員の「感情」と「本音」に寄り添った設計思想です。

「納得感」を生み出す2つの公正性

組織心理学の分野では、人が評価に対して納得感を持つためには、2つの「公正性(Fairness)」が必要だとされています。

  • 分配的公正(Distributive Justice):評価結果や報酬の配分が公平であること。
  • 手続き的公正(Procedural Justice):評価が決まるまでの「プロセス」が公平であること。

実は、人は結果そのもの(分配的公正)よりも、プロセスが正しかったか(手続き的公正)を重視する傾向があります。たとえ評価結果が期待より低くても、「自分の意見を聞いてもらえた」「基準が事前に明確にされていた」「上司が普段の行動をしっかり見てくれていた」というプロセスへの信頼があれば、モチベーションは維持されるのです。

従業員参加型のアプローチ

制度設計の段階から従業員を巻き込むことも有効です。ある中小企業では、評価項目を決める際に全社員アンケートを実施し、「どのような行動が評価されるべきか」を現場から吸い上げました。「顧客からの感謝の言葉を共有した人を評価してほしい」「失敗しても挑戦した姿勢を認めてほしい」といった現場のリアルな声を反映させることで、制度への当事者意識が劇的に高まりました。

「会社から押し付けられたルール」ではなく、「自分たちが大切にしたい価値観を反映したルール」にする。これこそが、魂の入った評価制度を作る第一歩です。

単なる評価で終わらせない!モチベーションを引き出す「目標設定」と「公正な運用」の秘訣

評価制度は「通信簿」をつけるためのツールではありません。企業のビジョンと個人の目標をリンクさせ、成長のベクトルを合わせるためのマネジメントツールです。

失敗しないための「4つの落とし穴」

制度運用において、多くの企業が陥る「4つの落とし穴」があります。これらを避けることが成功への近道です。

  • 目的の喪失:本来の目的(人材育成、業績向上)を忘れ、査定(給与決定)のみが目的化してしまう。
  • 過度な複雑化:評価項目が細かすぎて運用が回らない。現場の負担が増え、形式的な入力作業になってしまう。
  • 寛大化傾向・中心化傾向:評価者が部下に嫌われるのを恐れて全員に甘い評価をつけたり、差がつかないよう中心に評価を集めたりする。
  • 結果至上主義:プロセスや行動プロセスを無視し、結果のみを評価することで、チームワークの悪化や不正の誘発を招く。

MBO(目標管理制度)の正しい運用法

モチベーションを引き出すためには、MBO(Management By Objectives)などの目標管理手法を正しく運用することが不可欠です。

重要なのは「握り」です。期初の目標設定面談で、上司と部下が徹底的に話し合い、部下が「この目標ならチャレンジしたい」「自分のキャリアに繋がる」と心から思える状態(コミットメント)を作ることです。単なるノルマの割り当て(カスケードダウン)では、やらされ仕事にしかなりません。「Will(やりたいこと)」「Can(できること)」「Must(やるべきこと)」の重なりを見つけ、個人の目標に意味づけを行う支援がリーダーには求められます。

「伝わる」フィードバックが鍵!評価面談で従業員の成長を加速させる対話術

どれほど精緻な制度を作っても、最後の「伝え方」で失敗すれば全てが水泡に帰します。評価面談は、判決を言い渡す場ではなく、未来に向けた作戦会議の場であるべきです。

心理的安全性を確保する

面談の冒頭でいきなり「今回の評価はCだ」と告げるのは得策ではありません。まずは部下の自己評価や、この期間に苦労したこと、工夫したことに耳を傾けましょう。「話を聴いてもらえている」という心理的安全性が確保されて初めて、部下は上司の言葉を受け入れる準備ができます。

具体的な行動に焦点を当てる「SBI型フィードバック」

フィードバックの質を高めるフレームワークとして、SBI型が有効です。

  • Situation(状況):「先週のクライアント会議で…」
  • Behavior(行動):「君が競合他社のデータまで分析して提案資料に盛り込んでいた行動は…」
  • Impact(影響):「顧客の信頼を大きく高め、受注の決定打になったね」

このように、「いつ、どんな行動が、どんな影響を与えたか」を具体的に伝えることで、部下は「自分の行動をしっかり見てくれている」と実感できます。改善点を伝える際も同様です。「もっと積極性が欲しい」という抽象的な指摘ではなく、「会議の場で、自分の意見を最初に発言する頻度を増やしてみよう」と具体的な行動レベルに落とし込むことで、部下は次のアクションをイメージしやすくなります。

ネガティブフィードバックの作法

厳しい評価を伝えなければならない時こそ、上司の真価が問われます。「人格」を否定するのではなく、あくまで「事象」や「目標とのギャップ」に焦点を当ててください。「期待しているからこそ、この課題を乗り越えてほしい」というメッセージ(アイメッセージ)を添えることで、厳しい指摘も成長への期待として伝わります。

「うちの会社でもできた!」成功事例から学ぶ、人事評価制度導入後の変化と効果

ここでは、実際に人事評価制度を見直し、組織風土を劇的に変革させた中小企業の成功事例をご紹介します。

事例:離職率20%からの脱却(IT企業 A社・従業員50名)

【導入前の課題】
創業以来、社長の感覚で給与を決めていたA社。社員数が30名を超えたあたりから「社長のお気に入りが出世する」という不満が広がり、若手の離職率が20%を超えていました。

【取り組み】
社労士の支援を受け、全社員参加のワークショップを開催。「A社らしい行動規範(バリュー)」を言語化し、それを評価項目に落とし込みました。また、評価者研修を徹底し、四半期ごとの1on1ミーティングを義務化しました。

【導入後の変化】
制度導入から1年後、離職率は5%以下に低下。社員からは「何を頑張れば評価されるかが明確になった」「上司との対話が増え、キャリアが見えるようになった」という声が上がりました。さらに、行動指針が浸透したことでチーム間の連携がスムーズになり、生産効率(一人当たり粗利)も前年比で15%向上しました。

成功の共通点

成功する企業に共通しているのは、「制度を作って終わり」にしていない点です。運用しながら出てきた不満や課題に対して誠実に向き合い、半年や1年単位で制度を微修正(チューニング)し続けています。この「運用を育てていく姿勢」こそが、成功への最大の鍵と言えます。

未来を見据える経営者へ:人事評価制度で「強い組織」を育むための社労士活用術

人事評価制度は、企業の文化そのものです。しかし、自社だけで客観的かつ法的に適切な制度を構築・運用するのは容易ではありません。ここで頼りになるのが、人事労務のプロフェッショナルである社会保険労務士(社労士)です。

社労士を活用する3つのメリット

  • 法改正への適応とリスク回避
    「同一労働同一賃金」への対応や、ハラスメント防止の観点など、最新の労働法制に基づいた制度設計が可能です。法的な落とし穴を未然に防ぎ、無用な労使トラブルを回避できます。
  • 第三者視点による客観性の担保
    社内の人間関係に縛られない外部の専門家が入ることで、しがらみのない客観的なアドバイスが可能になります。経営者と従業員の間に立ち、双方の納得感を高める調整役としても機能します。
  • 運用定着までの伴走支援
    制度設計だけでなく、評価者研修(考課者訓練)の実施や、運用状況のモニタリングなど、制度が定着し成果が出るまで継続的なサポートを受けられます。

「人」への投資が未来を創る

人事評価制度への投資は、単なる管理コストではありません。「人」という最大の経営資源に対する、最もリターンの高い投資です。

従業員一人ひとりが「自分の努力は正当に報われる」と信じられ、成長を実感できる組織。そんな「強い組織」を作るために、ぜひ専門家の知見を借りながら、あなたの会社に最適な人事評価制度を築き上げてください。それは必ず、企業の持続的な成長という果実となって返ってくるはずです。

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