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【完全解説】育児介護休業法改正で中小企業がすべき対応|実務ステップと注意点

2025.12.03 労務管理

「育児介護休業法」改正の全体像と中小企業への影響

2025年(令和7年)4月1日および10月1日より、改正育児・介護休業法が段階的に施行されます。今回の改正は、急速に進む少子高齢化と労働力不足を背景に、「男女ともに仕事と育児・介護を両立できる柔軟な働き方の実現」と「介護離職の防止」を強力に推進することを目的としています。

【完全解説】育児介護休業法改正で中小企業がすべき対応|実務ステップと注意点

中小企業にとって特に影響が大きいのは、これまで「努力義務」であった項目の多くが「義務化」される点や、対象となる子の年齢範囲が大幅に拡大される点です。

施行スケジュールと主な影響範囲

今回の改正は2段階で施行されます。それぞれの時期に合わせて、就業規則の改定や社内体制の整備を完了させる必要があります。

  • 2025年(令和7年)4月1日施行
    • 子の看護休暇の見直し(対象拡大・事由追加など)
    • 所定外労働の制限(残業免除)の対象拡大
    • 育児のためのテレワーク導入(努力義務)
    • 介護離職防止のための雇用環境整備・個別周知等の義務化
    • 育児休業取得状況の公表義務拡大(従業員数300人超の企業)
  • 2025年(令和7年)10月1日施行
    • 柔軟な働き方を実現するための措置の義務化(3歳〜小学校就学前)
    • 仕事と育児の両立に関する個別の意向聴取・配慮の義務化

これらの変更は、従業員規模に関わらず多くの中小企業に適用されます。「知らなかった」では済まされない法的義務が含まれているため、早急な対応が必要です。

主要な改正ポイントを徹底解説:何が変わった?

ここでは、実務への影響が大きい主要な変更点を解説します。

1. 「子の看護休暇」の大幅な拡充(2025年4月〜)

名称が「子の看護休暇」に変更され、使いやすさが向上します。

  • 対象年齢の拡大: 「小学校就学前」から「小学校3年生修了まで」に延長。
  • 取得事由の追加: 病気・けがに加え、「感染症に伴う学級閉鎖等」「入園(入学)式、卒園式への参加」も対象となります。
  • 除外規定の撤廃: 労使協定により除外できた「入社6ヶ月未満の労働者」も取得可能になります(※週の所定労働日数が2日以下の労働者は引き続き除外可能)。

2. 残業免除(所定外労働の制限)の対象拡大(2025年4月〜)

  • 対象年齢: 「3歳に満たない子」から「小学校就学前の子」を養育する労働者まで拡大されます。これにより、小学校入学前までの期間、本人が請求すれば残業を免除させる義務が生じます。

3. 介護離職防止措置の強化(2025年4月〜)

  • 個別の周知・意向確認の義務化: 労働者から「家族の介護に直面した」旨の申出があった場合、事業主は介護休業等の制度を個別に周知し、利用意向を確認しなければなりません。
  • 早期の情報提供: 40歳に達した年度など、介護に直面する前の早い段階での情報提供も義務付けられます。
  • 雇用環境の整備: 研修の実施、相談窓口の設置などの措置が義務化されます。

4. 柔軟な働き方を実現するための措置(2025年10月〜)

3歳から小学校就学前の子を養育する労働者に対して、以下の5つの選択肢から2つ以上を選んで措置を講じることが義務化されます。

  1. 始業時刻等の変更(フレックスタイム制、時差出勤など)
  2. テレワーク等(月10日以上)
  3. 短時間勤務制度
  4. 新たな休暇制度(保育園の送迎や行事参加などに使えるもの/年10日以上)
  5. 保育施設の設置運営等

中小企業がすぐに始めるべき準備と社内体制構築のステップ

法改正に対応するため、以下のステップで準備を進めましょう。特に就業規則の変更は時間がかかるため、計画的な進行が不可欠です。

  1. 現状の就業規則と労使協定の確認
    • 現行の育児・介護休業規程が最新の法令(令和4年改正等)に対応しているか確認する。
    • 「入社6ヶ月未満」を除外する労使協定がある場合、見直しの準備をする。
  2. 対応方針の決定
    • 10月施行の「柔軟な働き方措置」で、自社はどの選択肢(テレワーク、時差出勤など)を導入するか検討する。
    • システムの改修が必要か(勤怠管理システムの設定変更など)を確認する。
  3. 就業規則(育児・介護休業規程)の改定案作成
    • 「子の看護等休暇」への名称変更、対象年齢の書き換え。
    • 残業免除の対象年齢変更。
    • 介護関連の個別周知・意向確認フローの規定化。
  4. 従業員代表への意見聴取・労使協定の締結
    • 新たな労使協定(除外規定の見直し等)を締結する。
  5. 労働基準監督署への届出と社内周知
    • 改定した就業規則を届出し、全従業員へ説明会や書面で周知する。

育児休業取得対応の具体的な流れと手続き手順

改正法下での育児休業対応は、単に休みを与えるだけでなく、復帰後の働き方まで見据えた「対話」が重要になります。

  1. 妊娠・出産の申出
    • 従業員から妊娠・出産の報告を受ける。
  2. 個別の意向聴取・配慮(※2025年10月〜義務化)
    • 今後の働き方や育休取得の意向を聴取する面談を実施する。
    • この際、改正法で義務付けられた「柔軟な働き方」の選択肢などを説明する。
  3. 育児休業の申出・受理
    • 「育児休業申出書」を受理し、会社から「育児休業取扱通知書」を交付する。
    • 社会保険料免除の手続き準備を行う。
  4. 休業中のフォローと復職準備
    • 定期的に情報共有を行い、復帰時期が近づいたら再度面談を行う。
    • 復帰後の働き方(短時間勤務、残業免除、子の看護等休暇の活用など)を具体的に決定する。

介護休業取得対応の具体的な流れと手続き手順

今回の改正で最も対応強化が求められるのが「介護」分野です。従業員が急に介護に直面しても離職を選ばないよう、以下のフローを整備してください。

  1. 早期の情報提供(40歳到達時など)
    • 全従業員に対し、40歳時点などで介護休業制度の概要や相談窓口の情報を周知しておく(※2025年4月〜義務化)。
  2. 介護に直面した旨の申出
    • 従業員から「親の介護が必要になった」等の相談を受ける。
  3. 個別の周知・利用意向の確認(※2025年4月〜義務化)
    • 以下の事項を書面や面談で個別に明示し、意向を確認する。
      • 介護休業、介護休暇、短時間勤務等の制度内容
      • 申出先(人事部など)
      • 介護休業給付金の内容
    • ポイント: ここで「休みますか?」だけでなく、「両立しながらどう働くか」を相談することが重要。
  4. 介護休業・両立支援制度の利用開始
    • 申出書を受理し、業務の引き継ぎや代替要員の配置を行う。

知っておきたい両立支援助成金の活用法と申請ステップ

法改正への対応はコストもかかりますが、国の「両立支援等助成金」を活用することで負担を軽減できる場合があります。2025年度も制度の拡充が予定されています。

注目すべき助成金コース(2025年度の動向)

  • 育休中等業務代替支援コース
    • 育児休業や短時間勤務を取得する従業員の業務を、代替要員の新規雇用や既存社員への手当支給でカバーした場合に助成されます。2024年度から大幅に拡充されており、中小企業にとって使いやすい制度です。
  • 介護離職防止支援コース
    • 「介護支援プラン」を作成し、介護休業の取得・復帰や、柔軟な働き方の利用を支援した場合に支給されます。今回の法改正で義務化される「個別周知・意向確認」を適切に行うことが、申請の前提要件となる可能性があります。

基本的な申請ステップ

  1. 制度導入: 就業規則を改正し、育休や介護休業の規定を整備する。
  2. 計画策定(介護コース等): 介護支援プランなどを作成し、認定を受ける。
  3. 制度利用・実績: 実際に対象となる従業員が休暇を取得したり、業務代替を実施したりする。
  4. 支給申請: 復職後などの定められた期間内に、労働局へ申請書類を提出する。

改正対応で陥りやすい落とし穴と事前対策

多くの企業が見落としがちなポイントをまとめました。

  • 「入社6ヶ月未満」の除外規定の消し忘れ
    • 労使協定を結んでいても、改正後は「入社6ヶ月未満」を理由に子の看護等休暇や介護休暇を拒否することはできなくなります(2025年4月〜)。協定書の更新が必要です。
  • 「周知義務」の不履行
    • 介護の申出があったのに、制度説明(個別周知)をした記録が残っていないと法違反になります。「個別周知・意向確認書」のひな形を作成し、必ず記録を残す運用にしましょう。
  • 「柔軟な働き方」の選択肢不足(2025年10月〜)
    • 2つ以上の選択肢を用意する必要があります。「うちは短時間勤務しかない」では不十分です。テレワークや時差出勤の導入が難しい場合は、新たな有給休暇制度(法廷外の休暇)の導入を検討してください。

専門家と連携!スムーズな法改正対応のためのリソース活用術

今回の改正は項目が多岐にわたり、システム対応や規程変更の負担が大きくなります。自社だけで抱え込まず、外部リソースを有効活用しましょう。

  • 厚生労働省・都道府県労働局: モデル就業規則や、改正内容の解説パンフレット、社内様式のひな形が無料でダウンロードできます。
  • 社会保険労務士(社労士): 就業規則の改定実務や、助成金の申請代行、労基署への届出を依頼できます。特に助成金は要件が複雑なため、プロへの相談が受給への近道です。
  • 勤怠管理システムベンダー: 「子の看護等休暇」の時間単位取得や、新しい残業免除ルールに対応しているか、システムの設定変更について早めに問い合わせましょう。

法改正は、単なる義務対応ではなく、「従業員が長く安心して働ける会社」へと進化するチャンスでもあります。早めの準備で、スムーズな移行を目指しましょう。

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