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ハラスメント申告トラブル事例:会社が失敗しない初期対応と具体的な解決ステップ

2025.12.27 ハラスメント対応

ハラスメント申告トラブル事例:会社が失敗しない初期対応と具体的な解決ステップ

近年、企業におけるハラスメント相談窓口の設置が進む一方で、「相談したが適切に対応してもらえなかった」「申告後に不利益な扱いを受けた」といったトラブルが後を絶ちません。ハラスメント申告への初期対応を誤ると、問題が解決しないばかりか、被害者のメンタルヘルス悪化、貴重な人材の離職、さらには訴訟による損害賠償請求といった深刻な経営リスクに発展する恐れがあります。

本記事では、ハラスメント申告において企業が陥りやすい典型的なトラブル事例を解説し、人事担当者が失敗しないための具体的な初期対応フローと解決へのステップを提示します。

ハラスメント申告トラブル事例:典型的な発生ケースとその特徴

多くの企業で実際に発生しているトラブル事例を、一般化したケースとして紹介します。自社で同様の事態が起きていないか確認してください。

ケース1:事実確認なき「ケンカ両成敗」による解決の強要

製造業の中小企業A社で、若手社員から「上司に暴言を吐かれ、無視されている」とハラスメント相談窓口に申告がありました。相談担当者は、双方から話を聞くのが面倒だと感じ、上司と部下を同席させた話し合いの場を設定。「お互いに悪いところがあったのではないか」「握手して水に流そう」と、事実確認を行わないまま無理やり和解を迫りました。

結果、被害者は「会社は守ってくれない」と絶望し、翌月から休職。その後、安全配慮義務違反を理由に会社を提訴する事態となりました。

ケース2:調査中の情報漏洩と二次被害

IT企業のB社人事部に、女性社員から「先輩社員から執拗にプライベートな連絡が来る」とセクハラの相談がありました。担当者は善意のつもりで、被害者の承諾を得ずに加害者とされる先輩社員へ事情聴取を行い、「○○さんが君からメールが来て困っていると言っている」と伝えてしまいました。

その後、加害者は「なぜ会社にチクリを入れたのか」と被害者を逆恨みし、職場で被害者の悪評を流布。被害者は職場にいられなくなり退職しました。これはプライバシー保護の観点から決定的なミスであり、深刻な二次被害を生んだ事例です。

初期対応が失敗する背景:トラブル発生の共通要因

なぜ、このような不適切な対応が起きてしまうのでしょうか。トラブルが発生する企業には、共通する背景があります。

相談担当者のスキル・知識不足

多くの企業では、ハラスメント相談窓口の担当者が通常業務と兼任しており、専門的なトレーニングを受けていません。「傾聴」の基本スキルや、守秘義務の重要性、中立的な事実確認の手法を知らないまま対応にあたることで、相談者を傷つけたり、初動を誤ったりするケースが散見されます。

「事なかれ主義」とバイアス

「波風を立てたくない」「優秀な管理職(加害者)を失いたくない」という組織の心理が働き、無意識のうちに被害者の訴えを軽視する傾向があります。「指導の一環だろう」「あの人がそんなことをするはずがない」といった確証バイアス(先入観)を持って調査を行うと、公正な判断ができず、被害者の不信感を招きます。

ハラスメント申告トラブルの根本原因分析と対策の視点

表面的な対応ミスだけでなく、組織の構造的な問題に目を向ける必要があります。

根本原因の分析

  • ハラスメント定義の誤解: 「業務上の指導」と「パワーハラスメント」の境界線が曖昧で、会社として明確な判断基準を持っていない。
  • 中立性の欠如: 調査担当者が加害者と親しい関係にあったり、人事評価権限を持っていたりするため、公正な調査が阻害される。
  • プロセスの不透明性: 申告後、どのような手順で調査が進み、いつ結論が出るのかが相談者に明示されていないため、不安が増幅する。

対策の視点

トラブルを防ぐためには、「事実(ファクト)ベースのアプローチ」「プロセスの透明化」が不可欠です。感情や推測で判断せず、客観的な証拠と証言に基づいて事実を認定し、そのプロセスをルール化しておくことが求められます。

企業と従業員への影響:トラブルがもたらすリスク

ハラスメント申告への対応を誤ると、その影響は全社に波及します。

企業への金銭的・社会的ダメージ

被害者からの損害賠償請求(民事訴訟)だけでなく、労働局からの助言・指導・勧告の対象となる可能性があります。また、SNSなどで「ハラスメントを隠蔽する会社」という悪評が広がれば、採用活動に致命的な影響を与え、ブランドイメージが失墜します。

組織崩壊と人材流出(離職ドミノ)

ハラスメントが放置される職場では、従業員の心理的安全性が損なわれます。「明日は我が身」と感じた他の優秀な社員までもが連鎖的に退職する「離職ドミノ」が発生し、組織の存続に関わる事態になりかねません。

ハラスメント申告後の具体的な改善策と実践ステップ

トラブルを未然に防ぎ、適切に解決へ導くための実務フローを解説します。この手順に従って対応を進めてください。

ステップ1:相談受付と一次ヒアリング(傾聴)

まずは相談者の安全確保と心情の理解に努めます。

  • 個室の確保: プライバシーが守られる場所で行います。
  • 傾聴に徹する: 事実関係の追求よりも、まずは「辛かったですね」と共感し、話しやすい雰囲気を作ります。
  • 意向の確認: 「会社にどうしてほしいか(調査してほしいか、話を聞いてほしいだけか)」を確認します。
  • 不利益取扱いの禁止を明言: 「相談したことで不利益な扱いは絶対にしない」と伝え、安心感を与えます。

ステップ2:事実関係の調査(客観性の確保)

相談者の承諾を得た上で、調査を開始します。

  • 調査委員会の設置: 公正さを保つため、複数名(人事、法務、外部専門家など)で調査チームを組みます。
  • 当事者・第三者ヒアリング: 相談者、行為者(加害者)、目撃者などの第三者から個別に話を聞きます。5W1H(いつ、どこで、誰が、何を、どのように)を明確にし、記録に残します。
    • 重要: 行為者へのヒアリングは、相談者の同意を得てから行い、報復行動を厳禁する旨を伝えます。
  • 証拠の収集: メール、LINEの履歴、録音データ、業務日報などの客観的証拠を集めます。

ステップ3:事実認定と措置の検討

集めた情報に基づき、ハラスメントの有無を判定します。

  • 定義との照合: 厚生労働省の定義や自社の就業規則に照らし合わせ、該当するかを判断します。意見が割れる場合は、弁護士や社会保険労務士のアドバイスを仰ぎます。
  • 処分の決定: ハラスメントが認定された場合、就業規則に基づき、行為者への懲戒処分(けん責、減給、出勤停止など)や配置転換を検討します。

ステップ4:結果のフィードバックとフォロー

  • 双方への通知: 調査結果と会社の判断を、相談者と行為者の双方に個別に伝えます。
    • 注意: プライバシーに配慮し、すべてを詳らかにするのではなく、必要な範囲で説明します。
  • アフターフォロー: 相談者の職場環境が改善されたか、報復受けていないかを定期的に確認します。行為者には再発防止研修を実施します。

詳しくは厚生労働省「あかるい職場応援団」のマニュアルもご参照ください。

類似トラブルを未然に防ぐための予防ポイントとチェックリスト

自社の体制に不備がないか、以下のリストで点検しましょう。

  • 相談窓口の周知: 窓口の連絡先や利用方法が、全従業員に周知されているか(イントラネット、ポスター等)。
  • 外部窓口の設置: 社内の人には相談しにくい場合に備え、外部(EAP機関、社労士事務所等)にも窓口を設けているか。
  • 担当者の教育: 相談担当者は、定期的にハラスメント対応研修を受けているか。
  • 規定の整備: 就業規則に、ハラスメントの禁止規定と懲戒規定が明記されているか。
  • 不利益取扱いの禁止: 相談者や協力者が不利益な扱いを受けない旨が規定され、周知されているか。

まとめ

ハラスメント申告への対応は、企業のコンプライアンス体制と「人を大切にする姿勢」が問われる重要な局面です。初期対応での「事実確認の徹底」と「中立的な姿勢」が、トラブルを防ぐ鍵となります。

万が一の事態に備え、対応フローを整備し、日頃から風通しの良い職場環境づくりに努めることが、企業と従業員の双方を守ることにつながります。自己判断で処理せず、必要に応じて専門家と連携しながら、誠実な対応を心がけてください。

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