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労務法改正対応2025年版:中小企業が見落としがちな落とし穴と対策

2025.12.30 労務法改正

導入

2025年は、中小企業の労務管理にとって極めて大きな転換点となる年です。「労務法改正対応」は、単なる法律の遵守にとどまらず、企業の人材戦略そのものを見直す好機でもあります。特に2025年4月からは、育児・介護休業法の大幅な改正や、高年齢者雇用安定法における経過措置の終了など、実務への影響が避けられない変更が相次いで施行されます。

これまでの運用を漫然と続けていると、思わぬコンプライアンス違反や、従業員とのトラブルを招く恐れがあります。本記事では、2025年に施行される法改正の全容を整理し、中小企業の経営者や人事労務担当者が「今」押さえておくべき実務上のポイントと、陥りやすい落とし穴について詳しく解説します。

主要な労務法改正ポイント:2025年以降の変更点を徹底解説

2025年の法改正は、少子高齢化対策と働き方の多様化への対応が主軸となっています。特に影響が大きいのが、育児・介護休業法の改正と高年齢者雇用のルール変更です。ここでは、実務担当者が必ず把握しておくべき主要な変更点を整理します。

  • 育児・介護休業法の改正(2025年4月・10月施行): 仕事と育児・介護の両立支援が大幅に強化されます。
  • 高年齢者雇用安定法の経過措置終了(2025年3月末): 65歳までの雇用確保義務において、対象者を限定する基準が廃止されます。
  • 雇用保険法の改正(2025年4月施行): 給付制限期間の短縮や、高年齢雇用継続給付の縮小などが実施されます。
  • 障害者雇用率の除外率引き下げ(2025年4月施行): 障害者雇用義務のある企業に対し、除外率が一律10ポイント引き下げられます。

a) 育児・介護休業法の大幅改正

今回の改正で最も実務負担が増えるのが、育児・介護休業法の改正です。労務法改正対応の要となるこの改正では、子の看護休暇や所定外労働の制限(残業免除)の対象範囲が拡大されます。

具体的には、これまで「3歳に達するまで」とされていた所定外労働の制限(残業免除)の対象が、「小学校就学の始期に達するまで(小学校入学前)」に引き上げられます。また、子の看護休暇については、対象となる子の範囲が「小学校3年生修了まで」に延長されるほか、取得事由として「感染症に伴う学級閉鎖」や「入園式・卒園式への参加」なども新たに追加されます。さらに、これまで労使協定で除外できた「勤続6ヶ月未満の労働者」も取得可能になります。

b) 高年齢者雇用安定法の経過措置終了

2025年3月31日をもって、高年齢者雇用安定法における「継続雇用制度の対象者を限定できる仕組み(経過措置)」が終了します。これまでは、2013年の法改正前から労使協定で定めていた基準に基づき、定年後の再雇用対象者を選別することが一部認められていました。

しかし、2025年4月1日以降は、この特例が完全に廃止されます。つまり、希望する高年齢者全員に対して、原則として65歳までの雇用確保措置(再雇用制度など)を講じることが義務化されます。企業側が一方的に「基準を満たさないから再雇用しない」という対応ができなくなるため、人事制度の再設計が急務となります。

c) 雇用保険制度の見直し

雇用保険法も複数の重要な改正が行われます。まず、自己都合退職者の基本手当(失業保険)の給付制限期間が、従来の「2ヶ月」から原則「1ヶ月」に短縮されます。これにより、労働者の転職活動がより活発になる可能性があります。

また、60歳以上の賃金低下を補填する「高年齢雇用継続給付」の給付率が、これまでの最大15%から10%に縮小されます(2025年4月以降に60歳に達する人が対象)。さらに、育児休業給付の財政基盤強化や、新たな「育児時短就業給付」の創設など、給付と負担の両面で変更が生じます。

中小企業が直面する課題と影響:見落としがちなリスクとは

法改正の内容自体は公表されていますが、それが自社の現場にどう影響するかを具体的にイメージできている企業は多くありません。ここでは、労務法改正対応において中小企業が直面する具体的な課題と、見落とされがちなリスクについて掘り下げます。

  • 要員管理の複雑化: 残業免除対象者の拡大により、夕方以降の業務体制維持が困難になる可能性があります。
  • 人件費コストの変動: 高年齢者の全員雇用や、社会保険適用拡大(継続案件)によるコスト増が経営を圧迫します。
  • 管理職の負担増: 制度が複雑化し、部下からの申請に対する判断や調整業務が現場マネージャーに集中します。

a) 現場の人手不足感の加速

育児・介護休業法の改正により、残業免除を申請できる従業員層が一気に広がります。これまでは「子どもが3歳になったから残業が可能になる」と想定していた人員が、小学校入学まで残業免除を継続するケースが増えるでしょう。

特にギリギリの人員で回している中小企業では、特定の従業員に残業できない期間が数年単位で延びることの影響は甚大です。代替要員の確保や、業務フローの抜本的な見直しを行わない限り、他の従業員へのしわ寄せがいき、離職の連鎖を招くリスクがあります。

b) 高年齢者雇用の質的変化

経過措置の終了により、これまでは再雇用していなかった評価の低い従業員や、健康面に不安のある従業員も含め、希望者全員を雇用しなければならなくなります。これは単なる人件費の増加だけでなく、組織の活性化や安全配慮義務の観点からも新たな課題を生みます。

また、高年齢雇用継続給付の縮小に伴い、再雇用後の手取り額が減少することへの不満も予想されます。企業としては、給与制度の見直しや、シニア層が意欲を持って働ける役割分担の明確化など、質の高い雇用管理が求められます。

c) 制度周知不足によるトラブル

法改正の情報が従業員に正しく伝わっていないこともリスク要因です。例えば、「子の看護休暇」が行事参加でも使えるようになったことを知らずに有給休暇を消化させてしまった場合、後から法令違反を指摘される可能性があります。

また、管理職が改正内容を理解しておらず、制度利用を申し出た部下に対して「そんな制度はない」「忙しい時期に困る」といった不適切な発言をしてしまうと、パタニティハラスメント(パタハラ)やマタニティハラスメント(マタハラ)として訴訟リスクに発展しかねません。

改正対応で「やってはいけない」失敗事例と対策

多くの企業が良かれと思って行う対応が、実は法的には不十分だったり、逆効果になったりすることがあります。ここでは、労務法改正対応で陥りやすい失敗事例を挙げ、正しい対策を解説します。

  • 就業規則の変更漏れ: 法律が変わっても、自社の規定を変えなければ現場は混乱します。
  • 「制度はあるが使わせない」空気: 制度周知を行わず、申請しにくい雰囲気を作ることは法違反と同義です。
  • 一律の対応: 個々の事情を無視した画一的な運用は、トラブルの元になります。

a) 就業規則を「後回し」にする失敗

よくある失敗の一つが、「法律が変われば自動的に適用されるから、就業規則の改定は後でいい」という判断です。しかし、育児・介護休業法や雇用保険法の変更点は、具体的な申請手続きや期限、対象範囲など、社内ルールとして明文化しておかなければ運用できないものばかりです。

就業規則が古いまま運用を行うと、従業員との認識のズレが生じ、「規則に書いていないから却下した」といった対応が違法となるケースがあります。必ず施行日までに規定を改定し、労働基準監督署への届出と従業員への周知を行う必要があります。

b) 管理職への教育不足による失敗

人事担当者だけが法改正を理解していても、現場の管理職が理解していなければ制度は機能しません。「小学校3年生までの子の看護休暇? 知らないな」と現場の上司が申請を拒否してしまうケースは典型的な失敗例です。

対策として、改正内容をまとめた管理職向けのマニュアル作成や、研修の実施が不可欠です。「これは法律で決まった権利である」ということを管理職に周知徹底させ、個人の感情や従来の慣習で判断させない仕組み作りが重要です。

c) 高年齢者の処遇に関する説明不足

高年齢者雇用安定法の改正に伴い、再雇用条件を変更する場合、対象者への丁寧な説明を怠るとトラブルになります。「法改正だから仕方ない」と一方的に条件を通知するだけでは、モチベーションの低下や訴訟リスクを招きます。

特に給付金の縮小などは、従業員の生活設計に直結する問題です。個別の面談機会を設け、新しい制度における期待役割や賃金体系について、十分な時間をかけて説明し、合意形成を図るプロセスが求められます。

今すぐ始めるべき準備と実務対応ステップ

施行日が近づいてから慌てないために、今すぐ着手すべき準備事項をステップごとに解説します。労務法改正対応は、以下の手順で計画的に進めてください。

  • 現状把握と課題の洗い出し: 自社の規定と新法のギャップを確認します。
  • 就業規則・労使協定の改定案作成: 専門家のチェックを受けつつ案を作成します。
  • 社内体制の整備と周知: 業務フローの見直しと従業員説明会を実施します。

a) ステップ1:影響範囲の特定とコスト試算

まず、2025年4月以降に育児・介護休業の対象となりそうな従業員数や、定年を迎える従業員数をリストアップします。その上で、残業免除者が増えた場合の業務配分や、高年齢者の全員雇用にかかる人件費のシミュレーションを行います。

特に、育児休業取得状況の公表義務が従業員300人超の企業に拡大される点には注意が必要です。自社が対象になる場合、過去の取得実績を集計し、公表に向けた数値目標の設定などの準備を進める必要があります。

b) ステップ2:規定類の整備と労使協定の締結

次に、就業規則(育児・介護休業規程、定年再雇用規程など)の改定作業に入ります。特に「子の看護等休暇」の名称変更や対象拡大、高年齢者雇用の選定基準削除などは必須項目です。

また、今回の改正では、テレワークや短時間勤務など「柔軟な働き方を実現するための措置」の導入が義務化されます。これらを運用するための詳細なルール作りも併せて行う必要があります。労使協定の締結が必要な項目(除外要件など)についても、従業員代表との協議を開始しましょう。

c) ステップ3:周知徹底と相談窓口の設置

規定ができたら、全従業員への周知を行います。説明会の開催や、社内イントラネットでの掲示、ハンドブックの配布などが有効です。特に育児・介護に関しては、制度が複雑なため、気軽に相談できる窓口を設置し、周知することが法改正でも求められています(40歳到達時の周知義務など)。

また、対象者だけでなく、周囲の従業員に対しても「お互い様」の意識醸成を図ることが、制度を利用しやすい環境作りには欠かせません。業務の属人化を解消し、誰が休んでも業務が回る体制づくりを進めることが、究極の対策となります。

専門家が指南する法改正対応の落とし穴と回避策

最後に、実務の最前線にいる専門家の視点から、多くの企業が陥りがちな落とし穴と、それを回避するためのポイントを解説します。労務法改正対応を成功させるためには、表面的な法令順守だけでなく、実質的な運用改善が鍵となります。

1. 「努力義務」を軽視しない

法改正には「義務」と「努力義務」があります。例えば、介護のためのテレワーク導入は努力義務ですが、これを「やらなくていい」と解釈するのは危険です。努力義務は将来的な義務化の布石であることが多く、また、人材確保の観点からは求職者が企業を選ぶ重要な指標となります。労務法改正対応の一環として、努力義務項目にも積極的に取り組むことで、採用競争力を高めることができます。

2. 助成金の活用機会を逃さない

法改正に対応した制度導入は、国の助成金(両立支援等助成金や特定求職者雇用開発助成金など)の対象となるケースがあります。しかし、助成金は「制度導入前の計画届」が必要な場合が多く、後から申請しようとしても手遅れになることがよくあります。改正対応の準備段階で、活用できる助成金がないか必ず確認してください。

3. 実務運用と規定の乖離を防ぐ

最も避けるべきは、立派な規定を作ったものの、実態が伴っていない「名ばかり制度」になることです。例えば、育児短時間勤務を認めておきながら、業務量はフルタイム時代と同じままにしていれば、従業員は疲弊し退職してしまいます。規定改定と同時に、業務量の調整や評価制度の見直し(時間当たりの生産性を評価するなど)をセットで行うことが、制度を定着させる回避策となります。

よくある誤解

  • 誤解: 「高年齢者雇用は定年を65歳に延長しなければならない。」
    • 正解: 定年延長は選択肢の一つですが、定年を60歳のまま維持し、その後65歳まで「再雇用制度」で雇用することでも義務を果たせます。ただし、希望者全員が対象となります。
  • 誤解: 「子の看護休暇は、子供が病気の時しか使えない。」
    • 正解: 改正により、入園式・卒園式や学級閉鎖などの理由でも取得可能になります。また、対象年齢も小学校3年生修了までに拡大されます。
  • 誤解: 「自己都合退職だと、すぐに失業保険はもらえない。」
    • 正解:: 2025年4月からは、給付制限期間が原則1ヶ月に短縮されます(5年間で2回まで等の条件あり)。退職者が増える要因になり得るため注意が必要です。
  • 誤解:: 「うちは中小企業だから、育休取得率の公表は関係ない。」
    • 正解:: 公表義務の対象は従業員1,000人超から300人超へ拡大されます。多くの中堅・中小企業が新たに対象となります。

まとめ

2025年の労務法改正対応は、育児・介護休業法の対象拡大や高年齢者雇用の完全義務化など、企業の人事戦略に直結する変更が目白押しです。これらの改正は、単なるコスト増要因と捉えるのではなく、多様な人材が活躍できる環境を整え、人手不足時代を生き抜くための投資と考えるべきです。

まずは自社への影響を正しく把握し、就業規則の改定や管理職への研修など、具体的な準備を早急に進めましょう。法改正の波に乗り遅れることなく、適切な対応を行うことが、企業の持続的な成長につながります。

関連する詳しい情報は日本年金機構厚生労働省の公式サイトもご参照ください。

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