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パワハラ防止措置義務2025年改正動向:企業に必要な体制と実務ポイント
2022年4月に中小企業を含むすべての事業主に対して「パワハラ防止措置」が義務化されてから数年が経過しましたが、2025年はハラスメント対策における新たな「転換点」となる重要な年です。従来、雇用関係にある労働者のみが主な保護対象とされてきましたが、働き方の多様化や社会課題の変化に伴い、フリーランスなどの社外人材や、就職活動中の学生、さらには顧客からの著しい迷惑行為(カスタマーハラスメント)へと、企業が守るべき対象と範囲が劇的に拡大しています。
特に、パワハラ防止措置義務の概念は、単なる社内の人間関係トラブル処理にとどまらず、企業のリスクマネジメントそのものへと進化しています。2024年11月に施行されたフリーランス・事業者間取引適正化等法(フリーランス新法)によるハラスメント対策の義務化や、2025年4月の東京都カスタマー・ハラスメント防止条例の施行など、法制度はより包括的な環境整備を企業に求めています。本記事では、2025年の最新動向を踏まえ、企業が講ずべき具体的な体制整備と実務上の重要ポイントを解説します。
パワハラ防止措置義務の最新動向と全体像
2025年におけるハラスメント対策は、既存の労働施策総合推進法(パワハラ防止法)の枠組みを超え、関連法規との連携によって重層的な義務が課されています。企業は以下のトレンドを把握し、包括的な対策を講じる必要があります。
- フリーランス新法による保護対象の拡大
2024年11月の施行により、発注事業者は業務委託を行うフリーランスに対しても、従業員と同様のハラスメント防止体制(相談窓口の整備など)を構築することが義務付けられました。 - 東京都カスタマー・ハラスメント防止条例の施行
2025年4月1日より、全国初となるカスハラ防止条例が東京都で施行されました。すべての事業者に対し、カスハラに対する基本方針の策定や相談体制の整備が求められています。 - 国のカスハラ対策法制化への動き
厚生労働省は労働施策総合推進法の改正を見据え、カスタマーハラスメント対策を企業の「義務」とする法整備を進めています。2025年中には改正法が公布される見通しであり、法的強制力を持った対応が不可避となります。 - 就活ハラスメント防止措置の義務化
改正法により、採用選考中の学生やインターンシップ参加者に対するセクシュアルハラスメント等の防止措置も、企業の義務として明記される方向で進んでいます。
2025年改正パワハラ防止措置義務:企業への影響と対応策詳解
フリーランス新法対応:社外人材へのハラスメント相談体制の拡大
パワハラ防止措置義務の実務において、2025年に最も対応が急がれるのがフリーランス(特定受託事業者)への対応です。従来、ハラスメント対策は「雇用する労働者」が対象でしたが、フリーランス新法第14条により、業務委託を行う発注事業者には、フリーランスに対するハラスメント防止措置が義務付けられました。これは、社内の従業員に向けた措置と同様に、相談体制の整備や事後の迅速な対応を求めるものです。
具体的には、既存のハラスメント相談窓口をフリーランスも利用できるように規程を改定し、契約時や発注時にその旨を周知する必要があります。また、フリーランスから相談があった場合、契約解除を恐れて相談を躊躇させないよう、不利益取扱いの禁止を明文化することも重要です。企業は「外部人材だから関係ない」という姿勢を改め、サプライチェーン全体を含めた人権尊重の姿勢が問われます。
東京都条例施行とカスハラ対策:2025年4月までにすべき準備
2025年4月1日に施行された「東京都カスタマー・ハラスメント防止条例」は、都内に事業所を持つ企業だけでなく、都内で事業を行うすべての企業に影響を及ぼします。この条例は、顧客等からの著しい迷惑行為(暴行、脅迫、過度な要求など)から就業者を守ることを事業者の責務としています。国レベルでの法制化に先駆けたこの動きは、今後の全国的なスタンダードとなるでしょう。
企業に求められる対応策として、まずは「カスタマーハラスメントに対する基本方針」を策定し、Webサイトや店舗で社外に公表することが挙げられます。「どのような行為をカスハラとみなすか」「カスハラが行われた場合、取引停止や警察への通報も含めて毅然と対応する」といった姿勢を明確に示すことが、従業員を守る盾となります。また、カスハラ被害が発生した際の具体的な対応フロー(現場での記録、上長への報告ルート、弁護士等との連携)をマニュアル化し、従業員研修を実施することが不可欠です。
就活ハラスメント:採用活動における防止措置とコンプライアンス
就職活動中の学生に対する「就活ハラスメント(オワハラやセクハラ)」も、法改正により防止措置義務の対象となります。採用面接官やリクルーターが、優越的な地位を利用して不適切な言動を行うことは、企業のブランドイメージを毀損するだけでなく、法的な責任問題に発展するリスクが高まっています。
実務対応としては、採用担当者に対する専門的なハラスメント研修の実施が急務です。特に、会食やSNSでのやり取りなど、業務と私的な交流の境界が曖昧になりやすい場面での行動基準をガイドラインとして策定する必要があります。また、学生向けの相談窓口を設置し、万が一被害が発生した場合でも、選考への不利益を恐れずに通報できる仕組みを構築することで、クリーンな採用活動をアピールできます。
相談窓口の機能強化:社内外の一元管理とプライバシー保護
ハラスメントの相談窓口は「設置しているだけ」では不十分であり、2025年の改正動向に対応するためには機能のアップデートが必要です。従業員、フリーランス、就活生、そしてカスハラ被害を受けた従業員と、利用者層が拡大したことに伴い、窓口担当者にはより高度な知識と対応スキルが求められます。
特に重要なのがプライバシー保護の徹底です。相談者が特定されることを恐れて相談を躊躇するケースは依然として多いため、匿名相談が可能なシステムの導入や、外部の専門機関への委託(EAP等の活用)を検討すべき時期に来ています。また、パワハラ防止措置義務の一環として、相談内容の記録・保存に関するルールを厳格化し、情報漏洩リスクを最小限に抑えるセキュリティ体制の構築も求められます。
ハラスメント防止規定の改定:対象範囲と禁止行為の明確化
法改正や条例施行に伴い、就業規則やハラスメント防止規程の抜本的な見直しが必要です。従来の規定では「従業員間のトラブル」を想定した内容が主でしたが、これに「取引先や顧客からのハラスメント(カスハラ)」「業務委託先(フリーランス)へのハラスメント」に関する条項を追加しなければなりません。
具体的には、禁止行為として「優越的な関係を背景とした言動」の定義に、発注者としての地位利用を含めることや、カスハラを受けた際の従業員の安全確保(業務の中断権限など)を明記することが推奨されます。また、懲戒規定においても、社外の人材に対するハラスメント行為が懲戒対象となることを明確にし、抑止力を高めることが重要です。
管理職・従業員研修のアップデート:カスハラ・フリーランス対応の追加
制度や規程を整えても、現場の意識が変わらなければハラスメントはなくなりません。2025年版の研修プログラムでは、従来のパワハラ・セクハラに加え、「無意識のアンコンシャス・バイアス」や「フリーランスとの適切な距離感」、「カスハラ遭遇時の護身術的対応」をカリキュラムに組み込む必要があります。
特に管理職に対しては、部下がカスハラ被害に遭った際のケアや、組織としての毅然とした対応方法を教育することが不可欠です。「お客様は神様」という古い価値観を払拭し、従業員の安全を最優先する組織文化を醸成することは、経営層や管理職の重要な責務です。定期的なeラーニングやケーススタディを用いたワークショップを実施し、知識の定着を図りましょう。
パワハラ防止措置義務に関するよくある誤解と正しい理解
ハラスメント対策が進む中で、現場では依然として古い知識や誤った解釈が散見されます。法令遵守のリスクを回避するためにも、以下のよくある誤解を正しく理解しておく必要があります。
- 「フリーランスは労働法適用外だから対策は不要?」
誤りです。フリーランス新法の施行により、発注事業者にはハラスメント防止のための体制整備が法的に義務付けられました。放置すれば指導や勧告の対象となります。 - 「お客様からのクレームは業務の一環だから我慢すべき?」
誤りです。正当なクレームと著しい迷惑行為(カスハラ)は区別されます。企業には従業員の安全配慮義務があり、悪質な行為からは組織として従業員を守る必要があります。 - 「相談窓口さえ設置しておけば義務を果たしたことになる?」
誤りです。窓口は「適切に機能していること」が要件です。相談後の事実確認、行為者への措置、再発防止策までを一連の流れとして実施しなければ、義務違反とみなされます。 - 「加害者を処分すれば問題は解決する?」
不十分です。処分は重要ですが、なぜその行為が起きたのかという背景(職場環境、過重労働、コミュニケーション不全)を分析し、再発防止策を講じなければ根本解決にはなりません。
専門家が解説するパワハラ防止措置義務対策の重要ポイント
形式的な整備から「実効性」重視への転換
多くの企業で規定や窓口の設置は完了していますが、2025年はその「中身」が問われる年となります。相談実績がゼロであることは、ハラスメントがないことの証明ではなく、窓口が機能していない(信用されていない)可能性を示唆します。定期的なアンケート調査や、相談しやすい雰囲気作りといった運用面でのPDCAを回し、実効性を高めることがパワハラ防止措置義務の本質です。
「加害者」を作らないための予防的アプローチ
ハラスメント対策は事後対応に注目が集まりがちですが、最もコストが低く効果が高いのは「予防」です。コミュニケーション研修や怒りの感情をコントロールするアンガーマネジメント研修などを通じて、従業員の対人スキルを向上させることが重要です。特に、リモートワークやチャットツールの普及により、テキストコミュニケーションでの齟齬がハラスメントの火種になるケースが増えています。現代の働き方に即したビジネスマナーの再教育が、結果としてハラスメント予防につながります。
記録の保存とデジタルフォレンジックの視点
万が一、ハラスメント事案が訴訟や労働審判に発展した場合、企業の対応の是非を左右するのは「客観的な証拠」です。相談内容の記録はもちろん、メールやチャットの履歴、業務日報などを適切に保存・管理する体制が求められます。特にカスハラ対策においては、通話録音装置やウェアラブルカメラの導入など、事実関係を正確に把握するためのハード面での投資も、従業員を守るための重要な経営判断となります。
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まとめ
2025年は、パワハラ防止措置義務の範囲が、フリーランスや就活生、そして顧客対応へと大きく広がる変革の年です。企業は、従来の「社内の労働問題」という認識を改め、ステークホルダー全体を含めた人権尊重と就業環境の整備に取り組む必要があります。
法改正や条例への対応は、一見すると企業の負担増に見えますが、従業員が安心して働ける環境を作ることは、人材定着率の向上や採用力の強化、ひいては企業の持続的な成長に直結します。形式的な対応にとどまらず、実効性のあるハラスメント防止体制を構築し、2025年の新しいコンプライアンス基準に適応していきましょう。
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