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2025年版 労基署調査対策:事前準備チェックリストと当日対応フローを徹底解説

2025.12.21 労務管理

労基署調査の基本:目的、対象企業、2025年の最新動向

労働基準監督署(労基署)による調査は、企業規模にかかわらず、どの企業にも突然行われる可能性があります。人事労務担当者にとって、この「臨検(りんけん)」と呼ばれる立ち入り調査は、日頃の労務管理の真価が問われる緊張の瞬間です。まずは労基署調査の基本的な目的と、2025年に向けて押さえておくべき最新トレンドを解説します。

労基署調査の目的と種類

労基署の調査は、企業が労働基準法や労働安全衛生法などの法令を遵守しているかを確認し、労働者の保護を図ることを目的としています。調査には主に以下の4つの種類があります。

  • 定期監督: その年の行政方針に基づき、無作為に抽出された企業に対して行われる調査。予告なく行われる場合と、事前に日程調整の連絡が入る場合があります。
  • 申告監督: 従業員や退職者からの「残業代が支払われていない」「不当解雇された」といった通報(申告)に基づいて行われる調査。問題の特定を目的とするため、抜き打ちで行われることが一般的です。
  • 災害時監督: 死亡事故や重大な労働災害が発生した際、その原因究明と再発防止のために行われる調査です。
  • 再監督: 過去の調査で是正勧告を受けた企業に対し、指摘事項が改善されたかを確認するために行われる再調査です。

2025年の最新動向と重点監督対象

2025年の労基署調査において、特に警戒が必要なのが「2024年問題」に関連する業種へのフォローアップです。2024年4月から、これまで猶予されていた建設業、運送業(トラック・バス・タクシー)、医師に対する時間外労働の上限規制が全面的に適用されました。2025年は、これらの新ルールが現場で守られているかを厳しくチェックするフェーズに入ります。

  • 建設・物流・医療業界: 上限規制(年960時間など)の遵守状況に加え、長時間労働の隠蔽がないか、勤怠管理の実効性が重点的に見られます。
  • 労働条件明示ルールの改正対応: 2024年4月に改正された労働条件通知書の記載事項(就業場所・業務の変更範囲など)が、最新の契約書に正しく反映されているかも調査のホットスポットです。
  • フリーランス新法の影響: 2024年11月に施行されたフリーランス新法に関連し、形式上は業務委託契約であっても、実態として「労働者」として扱われていないか(偽装請負の疑い)をチェックする動きも強まっています。

労基署が重点的に見る「調査項目」と企業が備えるべきポイント

調査官は限られた時間の中で、法令違反の有無を効率的に見極めるため、特定のポイントに絞って資料を確認します。ここでは、特に指摘を受けやすい重要調査項目を解説します。

1. 労働時間管理と36協定

最も指摘が多いのが労働時間に関する項目です。調査官はタイムカードや勤怠データと、36協定(時間外・休日労働に関する協定届)を突き合わせます。

  • 36協定の整合性: 実際の残業時間が36協定で定めた上限を超えていないか。特別条項付き協定の場合、年6回までの限度回数や、月100時間未満・2〜6ヶ月平均80時間以内のルールが守られているかが焦点です。
  • 適正な把握: 自己申告制の場合、パソコンのログや入退室記録と乖離がないか確認されます。「始業前の掃除」や「着替えの時間」が労働時間としてカウントされているかも厳しく見られます。

2. 割増賃金の計算と支払い

「未払い残業代」は是正勧告の定番項目です。計算ミスやルールの誤解が主な原因です。

  • 単価計算の誤り: 割増賃金の計算基礎となる「1時間あたりの賃金」から、除外してはいけない手当(一律支給の住宅手当や精皆勤手当など)を除外していないか。
  • 固定残業代の運用: 固定残業代(みなし残業代)を導入している場合、就業規則にその旨が明記されているか、設定時間を超えた分の差額が支払われているかが確認されます。

3. 健康管理と有給休暇

近年、労働者の健康確保に対する指導が強化されています。

  • 健康診断: 定期健康診断(年1回)を確実に実施し、有所見者に対して医師の意見聴取を行っているか。50人以上の事業場では報告書の提出も必須です。
  • 年次有給休暇: 「年10日以上付与される労働者に対し、年5日以上取得させる義務」が果たされているか。管理簿(取得状況がわかる帳簿)の提示が求められます。

調査前日までに準備すべきこと:労基署調査「事前準備」チェックリスト

調査の連絡が来たら、あるいは抜き打ち調査に備えて、以下の書類がすぐに取り出せる状態になっているか確認しましょう。これらは調査官が最初に「見せてください」と言う可能性が高い書類です。

必須書類・帳簿チェックリスト

以下の書類について、過去2〜3年分(賃金台帳などは法改正により当面3年保存)整理されているか確認してください。

  • 組織図・会社案内: 事業場の全体像、人員配置を説明するために必要。
  • 労働者名簿: 全従業員の氏名、生年月日、履歴、雇用年月日などが記載されたもの。
  • 就業規則および諸規程: 賃金規程、育児介護休業規程など、最新の法改正に対応して変更届が提出されているか(控があるか)。
  • 36協定届(控): 有効期間切れがないか、労働者代表の選出方法が適正か。
  • 賃金台帳: 労働日数、労働時間数、残業時間数、深夜労働時間数などが正しく区分して記載されているか。
  • 出勤簿・タイムカード: 始業・終業時刻が客観的に記録されているか。
  • 雇用契約書(労働条件通知書): 特にパート・アルバイト等の条件明示が適切か。
  • 健康診断個人票: 実施結果が保存されているか。
  • 年次有給休暇管理簿: 取得日数が一目でわかるか。

現場の実態確認チェック

書類が整っていても、現場の実態と異なれば虚偽記載とみなされます。

  • タイムカードの打刻時刻と、実際の退社時刻に大幅なズレはないか?(サービス残業の疑い)
  • 休憩時間は実際に取得できているか?(電話番をさせていないか)
  • 「管理監督者」として残業代を支払っていない社員は、法的な要件(経営への参画、権限、待遇)を満たしているか?

調査当日の流れとスムーズな質疑応答・資料提示のコツ

調査当日に慌てないために、標準的なフローと心構えをシミュレーションしておきましょう。

調査当日の標準フロー

  1. 調査官の到着・身分証明書の提示: 2名一組で来訪することが一般的です。まずは名刺交換を行い、身分証明書(労働基準監督官証)を確認します。
  2. 調査趣旨の説明: 定期監督なのか、申告に基づくものなのか、目的が告げられます(申告監督の場合、その事実は伏せられることもあります)。
  3. 帳簿・書類の確認: 準備した書類に基づき、調査官がチェックを行います。
  4. ヒアリング(質疑応答): 経営者や担当者に対し、勤務実態や給与計算の方法について質問が行われます。必要に応じて従業員への直接ヒアリングが行われることもあります。
  5. 現場巡視: 工場や執務スペースの安全衛生状況(照度、避難経路、機械の防護措置など)を確認します。
  6. 講評(口頭指導): 調査終了後、その場で判明した問題点について口頭での指摘や指導が行われます。

スムーズな対応のコツ

  • 誠実な対応を心がける: 調査を拒否したり、威圧的な態度をとったりすることは絶対に避けてください。心象を悪くするだけでなく、公務執行妨害や法令違反(臨検拒否罪)に問われるリスクがあります。
  • キーマンが同席する: 労務管理の実態を把握している責任者(人事部長や経営者)が同席しましょう。事情を知らない担当者だけでは、調査が長引く原因になります。
  • 「分かりません」は持ち帰る: 調査官の質問に対し、あやふやな記憶で答えるのは危険です。事実と異なる回答をすると「虚偽の陳述」とみなされる恐れがあります。即答できない場合は「確認して後ほど報告します」と伝え、正確な情報を提出しましょう。

調査後も安心!是正勧告・指導への適切な対応と改善策

調査後日、問題点があった場合は書面が交付されます。この書面を受け取ってからが、本当の対応のスタートです。

「是正勧告書」と「指導票」の違い

  • 是正勧告書: 明らかな法令違反が確認された場合に交付されます。「○月○日までに是正し、報告せよ」という命令に近い性質を持ちます。違反条項、違反内容、是正期日が明記されます。
  • 指導票: 法令違反とまでは言えないものの、改善が望ましい事項について交付されます。

是正報告書の作成と提出プロセス

  1. 内容の精査: 指摘された違反内容を正確に理解します。不明点があれば監督官に確認してください。
  2. 是正措置の実行:
    • 未払い残業代の指摘であれば、過去に遡って再計算し、対象者に支払います。
    • 36協定の不備であれば、速やかに締結し直し届け出ます。
    • 長時間労働であれば、原因を分析し、削減のための具体策(ノー残業デーの徹底など)を講じます。
  3. 是正報告書の作成: 指定された期日までに「いつ、どのように改善したか」を記載した報告書(是正報告書)を作成します。決まった書式がない場合もありますが、支払いを証明する振込明細の写しや、改定した就業規則などを添付資料として用意します。
  4. 提出: 労基署へ持参または郵送します。郵送の場合は、到着確認ができる方法(特定記録など)が推奨されます。

注意点: 指定された期日に間に合わない場合は、放置せずに必ず事前に担当監督官へ連絡し、状況を説明して期限の延長を相談してください。無断での遅延は厳禁です。

労基署調査で陥りがちな「よくある誤解」と正しい知識

労基署調査には多くの噂や都市伝説があります。誤った認識で対応すると取り返しのつかない事態になりかねません。

誤解1:「うちは小さいから調査なんて来ない」

事実: 従業員数数名の小規模企業でも調査は入ります。特に従業員からの申告(通報)があれば、規模に関係なく調査が行われます。また、特定の業種(建設、運送など)を対象とした一斉監督も実施されています。

誤解2:「抜き打ち調査は違法だ」

事実: 労働基準監督官には、予告なしに事業場へ立ち入る権限(労働基準法第101条)が認められています。むしろ、ありのままの実態を確認するために抜き打ちが原則とも言えます。業務の都合でどうしても対応できない場合は日程変更を申し出ることは可能ですが、調査自体を拒否することはできません。

誤解3:「是正勧告を受けたら前科がつく」

事実: 是正勧告は行政指導の一種であり、これを受けただけで直ちに逮捕されたり前科がついたりすることはありません。ただし、是正勧告を無視し続けたり、悪質な隠蔽工作(タイムカードの改ざん、虚偽報告など)を行ったりした場合は、書類送検され刑事罰を受ける可能性があります。

誤解4:「社労士に任せれば責任はない」

事実: 顧問社労士が立ち会うことは推奨されますが、法令遵守の責任主体はあくまで「事業者(会社)」です。「社労士に任せていたから知らなかった」という言い訳は通用しません。経営者自身が自社の労務リスクを把握しておく必要があります。

専門家が提言!労基署調査対策を成功させるための重要視点

最後に、労基署調査を単なる「危機」で終わらせず、組織を強くする機会に変えるための専門的な視点をお伝えします。

「隠蔽」は最大のリスク

調査対応で最もやってはいけないことは、事実を隠すこと、資料を改ざんすることです。調査官はプロフェッショナルです。不自然な整合性のない記録はすぐに見抜かれます。改ざんが発覚すれば「悪質」と判断され、指導で済むはずの案件が送検事案に発展しかねません。「今の悪い状態」を正直に開示し、改善の意思を示すことが、結果として最もダメージを少なく抑える方法です。

プロセスの整備と運用の徹底

就業規則や36協定があっても、実態と乖離していれば意味がありません。「残業申請のルールはあるが、誰も守っていない」「休憩時間は決まっているが、電話が鳴れば取っている」といった運用の形骸化が、最大の是正ポイントになります。調査対策の本質は、書類作成ではなく、「決めたルールを現場で運用し続ける体制」を作ることです。

経営陣の意識改革

労基署調査は、経営者が自社の労働環境を見直す絶好のチャンスです。長時間労働の是正や適正な賃金支払いは、法的義務であると同時に、従業員のエンゲージメント向上や採用力の強化に直結します。「言われたから直す」という受動的な姿勢ではなく、「従業員を守るために改善する」という能動的な姿勢で対応することが、2025年以降の厳しい人材獲得競争を勝ち抜く鍵となるでしょう。

免責事項:本記事の内容は執筆時点(2025年)の法令および一般的な実務慣行に基づいています。個別の事案に対する具体的な法的判断や対応については、所轄の労働基準監督署または社会保険労務士、弁護士等の専門家にご相談ください。

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