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特定技能外国人の生活支援、企業が避けるべき8つのトラブルと具体的な対策ステップ

2025.12.26 外国人材支援

特定技能外国人の生活支援は、単なる福利厚生ではなく、法律で定められた企業の「義務」です。しかし、文化や習慣の違いから予期せぬトラブルが発生し、早期離職や法令違反に直面する企業は少なくありません。

「現場でどのような支援が必要なのか」「法律違反にならないためのラインはどこか」

本記事では、HR BrEdge社会保険労務士法人の専門的知見に基づき、特定技能外国人の受入れ企業が直面しやすい8つのトラブル事例と、それを回避するための具体的な支援体制構築ステップを徹底解説します。2025年4月から強化される地域共生施策への対応も含め、実務に即したノウハウを提供します。

目次

特定技能外国人の生活支援義務とは?企業が知るべき法的枠組み

特定技能制度において、受入れ企業(特定技能所属機関)には、1号特定技能外国人が日本で安定的かつ円滑に生活・就労できるよう支援を行う法的義務が課されています。まずは基本となる法的枠組みを正しく理解しましょう。

支援の実施主体と法的責任

支援の実施主体は原則として受入れ企業自身ですが、社内に十分な体制がない場合は、「登録支援機関」に支援業務の全部または一部を委託することが可能です。

  • 自社実施の場合: 支援責任者および支援担当者を選任し、適合基準を満たす体制が必要。
  • 委託の場合: 支援業務の全部を登録支援機関に委託することで、支援体制基準を満たしているとみなされる。

義務的支援の対象範囲

支援義務は「特定技能1号」の外国人に適用されます(2号は対象外)。支援内容は入管法に基づき以下の3つの側面に分類されます。

  • 職業生活: 雇用契約の確実な履行、労働条件の説明など
  • 日常生活: 住居の確保、銀行口座開設、携帯電話契約など
  • 社会生活: 日本のルールの説明、日本語学習機会の提供、地域交流など

違反時のペナルティ

適切な支援を行わなかった場合、出入国在留管理庁から改善命令が出されるほか、最悪の場合は受入れ機関としての認定取り消しや、今後5年間の受入れ禁止処分を受ける可能性があります。

特定技能外国人の生活支援で発生しやすいトラブル事例とその背景

現場で実際によくあるトラブルを8つの事例として整理しました。これらは、単なる「言葉の壁」だけでなく、制度理解や生活習慣の認識ギャップから生じます。

1. 労働条件と手取り額の認識齟齬

  • トラブル: 「面接で聞いた給与より少ない」と不満を持つ。
  • 原因: 日本の税金・社会保険料の天引きシステムが理解されておらず、額面と手取りの差に驚くケース。

2. ゴミ出しや騒音による近隣トラブル

  • トラブル: 分別ルールを守らない、夜間の通話の声が大きいなどで近隣住民からクレームが入る。
  • 原因: 母国との生活習慣の違いや、入居時のルール説明が形式的なものに留まっていたこと。

3. 医療機関受診時の対応遅れ

  • トラブル: 体調不良時にどの病院へ行けばよいか分からず重症化、または高額な医療費請求に困惑する。
  • 原因: 日本の医療制度(保険証の提示、紹介状制度など)の知識不足や、通訳同伴の調整不足。

4. 携帯電話・Wi-Fi契約の不備

  • トラブル: 自分名義で契約ができず、高額なレンタルWi-Fiを使い続けて生活費を圧迫する。
  • 原因: クレジットカードがない、銀行口座がないなどの理由で契約ハードルが高いことへのサポート不足。

5. 職場での孤立とメンタルヘルス不調

  • トラブル: 「相談相手がいない」と感じてホームシックになり、無断欠勤や失踪につながる。
  • 原因: 業務上の会話以外にコミュニケーションがなく、心理的安全性が確保されていない。

6. 転職・退職時の手続きトラブル

  • トラブル: 転居届や国民健康保険の切り替えを行わずに帰国・転職し、後から督促状が届く。
  • 原因: 退職後の行政手続きに関するアナウンス漏れ。

7. 登録支援機関との連携ミス

  • トラブル: 企業は「支援機関がやっているはず」、支援機関は「現場のことは企業が」と思い込み、支援の空白が生まれる。
  • 原因: 役割分担の曖昧さと、定期的な情報共有不足。

8. 日本人従業員との摩擦

  • トラブル: 「外国人ばかり優遇されている(送迎や家賃補助など)」と日本人社員が不満を持つ。
  • 原因: 支援義務の背景(法令順守)について、日本人社員への周知と理解促進が不足している。

トラブル回避!特定技能外国人の生活支援体制を構築する5つのステップ

トラブルを未然に防ぎ、法令を遵守した支援体制を構築するための実務ステップを解説します。

Step 1: 支援計画の策定と委託判断

まずは自社で支援を行うか、登録支援機関に委託するかを決定します。

  • 自社支援の要件: 過去2年間に中長期在留外国人の受入れ実績があるか、生活相談員を配置できるか等を確認。
  • 支援計画書(1号特定技能外国人支援計画書): 入管庁の様式に従い、誰が・いつ・どのように支援するかを具体的に記載します。

Step 2: 入国前の環境整備と事前ガイダンス

受入れが決まったら、来日前に準備を進めます。

  • 住居確保: 社宅の用意、または賃貸契約の連帯保証人となる。居室の広さは1人当たり7.5㎡以上が必要です。
  • 事前ガイダンス: 労働条件、入国手続き、保証金の有無(徴収禁止)などを、外国人が十分に理解できる言語で、対面またはテレビ電話で行います(最低3時間程度)。

Step 3: 入国時の送迎と初期セットアップ

入国当日から生活の立ち上げをサポートします。

  • 空港送迎: 入国時は空港から事業所(または住居)まで送迎必須。
  • ライフライン契約: 電気・ガス・水道の開通、銀行口座開設、携帯電話契約の同行サポート。

Step 4: 生活オリエンテーションの実施

入国後、遅滞なく(おおむね2週間以内)実施します。

  • 所要時間: 8時間以上が目安。
  • 内容: ゴミ出し、交通ルール、110番・119番のかけ方、防災知識、医療機関の利用法など。実際の現場(ゴミ捨て場やスーパー)を案内しながら行うと効果的です。

Step 5: 定期的なモニタリングと報告

就労開始後は継続的なフォローが必要です。

  • 定期面談: 3ヶ月に1回以上、支援責任者等が面談を実施。
  • 行政報告: 四半期ごとに定期届出書を入管庁へ提出します。

義務的支援項目:各フェーズで企業が行うべき具体的支援

ここでは、必ず実施しなければならない「義務的支援10項目」をフェーズごとに整理します。チェックリストとしてご活用ください。

【入国前フェーズ】

  1. 事前ガイダンスの提供
    • 在留資格認定証明書交付申請の前に実施。雇用条件や生活情報を母国語で説明。

【入国・開始時フェーズ】

  1. 出入国する際の送迎
    • 入国時の出迎えだけでなく、帰国時(保安検査場への入場まで)の見送りも義務。
  2. 住居確保・生活に必要な契約支援
    • 物件探し、連帯保証人への就任、銀行口座、携帯電話、ライフライン契約の補助。
  3. 生活オリエンテーション
    • 日本のルール、マナー、公共機関の利用法、災害対応などの教育。
  4. 公的手続き等への同行
    • 転入届、国民健康保険、国民年金、マイナンバーなどの手続き同行と書類作成補助。

【就労・生活フェーズ】

  1. 日本語学習の機会の提供
    • 日本語教室の案内、教材の提供、学習費用の補助など。
  2. 相談・苦情への対応
    • 職場や生活に関する相談に、母国語で対応できる体制整備。
  3. 日本人との交流促進
    • 地域行事(お祭り、ボランティア)への参加案内や同行、自治会への加入支援。
  4. 定期的な面談・行政機関への通報
    • 3ヶ月に1回の定期面談で労働状況や生活状況を確認し、法令違反があれば通報する。

【退職・非自発的離職フェーズ】

  1. 転職支援(人員整理等の場合)
    • 会社都合での解雇等の場合、次の受入れ先を探す補助、推薦状の作成、求職活動のための有給付与など。

特定技能外国人への効果的な日本語学習支援とコミュニケーション改善策

法的義務を満たすだけでなく、業務効率と定着率を上げるためには「言葉の壁」への積極的な介入が不可欠です。

企業ができる具体的な学習支援

  • オンライン日本語講座の活用: 仕事終わりに通学するのが難しい場合、スマホで学べるeラーニング等の受講費を補助する。
  • 資格取得インセンティブ: 日本語能力試験(JLPT)のN3・N2合格時に報奨金を出す制度を設ける。
  • 社内日本語教室: 昼休みや就業時間内に、短時間の日本語レッスンを設ける。

「やさしい日本語」の導入

外国人だけに努力を求めるのではなく、日本人社員側も歩み寄る必要があります。

  • 言い換えの工夫: 「至急対応して」→「すぐにやってください」、「携行する」→「持っていく」。
  • 社内掲示の多言語化: 安全マニュアルや注意書きにふりがなや翻訳を併記する。

コミュニケーション不全を防ぐ仕組み

  • バディ(メンター)制度: 年齢の近い日本人社員を相談役として任命し、業務以外の些細な質問をしやすくする。
  • 翻訳ツールの活用: ポケトークやスマホの翻訳アプリを現場に常備し、意思疎通のストレスを減らす。

地域との連携強化:特定技能外国人の孤立を防ぐ支援方法

2025年4月より、特定技能制度において「地域の共生施策」との連携が強化されます。外国人が地域社会から孤立しないよう、企業は地域との架け橋になることが求められます。

新たに求められる「協力確認書」とは

2025年度の制度改正により、受入れ企業は事業所や外国人の住居がある自治体の「共生施策」を確認し、協力する意思を示す協力確認書の提出が求められるようになります。

  • 目的: 外国人と地域住民とのトラブル防止、災害時の安全確保。
  • 内容: ゴミ出しルールの遵守、町内会費の支払い、防災訓練への参加などへの協力。

地域孤立を防ぐ具体的なアクション

  • 自治会・町内会への挨拶: 入居時に担当者が同行し、近隣住民や自治会長へ挨拶回りを行う。
  • 地域イベントへの参加: 地域のお祭りや清掃活動の情報を掲示板で周知し、参加を促す(担当者が同行すると安心)。
  • 防災情報の共有: 地域のハザードマップを母国語で説明し、避難場所を実際に歩いて確認する。

生活支援で「困った」ときに企業が取るべき行動と連絡先

自社だけで解決できない問題が発生した場合、抱え込まずに専門機関や窓口を頼ることが重要です。

1. まずは登録支援機関へ相談

委託している場合は、登録支援機関が一次対応窓口です。トラブルの兆候があれば速やかに連絡し、通訳を介した面談を依頼しましょう。

2. 地方出入国在留管理局

在留資格の手続きや、制度運用に関する不明点は管轄の入管へ問い合わせます。受入れ企業の不正に関する通報窓口も設置されています。

3. 公的支援・相談窓口

  • 外国人技能実習機構(OTIT): 技能実習だけでなく特定技能に関する相談も一部対応しており、母国語相談窓口の案内があります。
  • 法テラス(日本司法支援センター): 多言語通訳サービスを利用した法的トラブルの相談が可能。
  • FRESC(外国人在留支援センター): 新宿にある政府の外国人支援窓口。電話相談も可能です。

4. 社内の緊急連絡網の整備

夜間や休日の病気・事故に備え、支援責任者だけでなく、代行者も含めた24時間対応可能な緊急連絡体制図を作成し、本人に渡しておきましょう。

成功事例に学ぶ!特定技能外国人の定着率を高める支援のポイント

最後に、義務的支援以上の取り組みで外国人の定着率向上に成功している企業の事例を紹介します。

事例A:介護施設(ベネッセスタイルケア等)

取り組み: 入国前から専門用語を含む日本語教育を徹底し、入社後は「介護日本語」の研修を継続。また、日本人スタッフ向けに「やさしい日本語研修」を実施。
成果: 言葉のストレスが減り、日本人職員とのチームワークが向上。離職率が大幅に低下。

事例B:地方の製造業

取り組み: 地域の空き家を社宅としてリノベーションし、地域住民との交流会を定期開催。
成果: 「地域の顔見知り」が増えたことで外国人が安心感を持ち、プライベートも充実。

定着率を高める共通ポイント

  1. キャリアパスの提示: 「特定技能2号」や将来のリーダー職への道筋を見せることで、モチベーションを維持させる。
  2. 公平な評価: 日本人と区別しない評価制度を導入し、努力が給与や昇進に反映される仕組みを作る。
  3. 家族のような心理的サポート: 業務外の悩み(家族の病気、恋愛など)にも耳を傾ける姿勢を持つ。

関連する詳しい情報は外部リンク: ブログ一覧URLもご参照ください。

まとめ

特定技能外国人の生活支援は、法令で定められた義務であると同時に、企業のリスク管理そのものです。適切な支援を行うことで、以下のようなメリットが生まれます。

  • トラブルの未然防止: 近隣トラブルや失踪リスクの低減。
  • 生産性の向上: 生活の不安を取り除くことで業務に集中できる。
  • 定着率のアップ: 「この会社なら安心」という信頼関係が長期就労に繋がる。

2025年からの地域共生施策の強化も踏まえ、形式的な対応にとどまらず、外国人材を一人の生活者として尊重した支援体制を構築していきましょう。

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