新着情報

特定技能外国人材の離職を防ぐには?企業が実践すべき5つの具体策と注意点

2025.12.21 外国人材の定着

人手不足が深刻化する中、即戦力として期待される「特定技能外国人材」。しかし、採用に多くのコストと時間をかけたにもかかわらず、短期間で離職してしまうケースが後を絶ちません。

「せっかく採用したのに、1年足らずで辞めてしまった」
「日本人社員とうまく馴染めず、孤立しているようだ」

このような悩みを抱える企業の担当者は少なくありません。実際、特定技能外国人材は転職が可能な在留資格であるため、より良い条件や環境を求めて移動するリスクが常にあります。

本記事では、特定技能外国人材が離職する本当の原因を深掘りし、定着率を劇的に高めるための「5つの具体策」を実務レベルで解説します。採用前のミスマッチ防止から、入社後のキャリア形成支援まで、企業が今すぐ取り組むべきアクションを整理しました。

特定技能外国人材の離職原因を深掘り:企業が知るべき背景とは

まず、なぜ特定技能外国人材が離職を選んでしまうのか、その背景にある根本的な原因を理解する必要があります。出入国在留管理庁の統計や民間の調査データによると、離職の主な理由は以下の3つに集約されます。

  • 賃金・待遇への不満(「手取り額」のギャップ)
    • 額面給与と、税金や社会保険料が引かれた後の「手取り額」の差を正しく理解していないケースが多く見られます。また、近年の円安進行により、母国通貨に換算した際の実質的な送金額が減少し、より高い賃金を求めて都市部や他社へ転職する動きが加速しています。
  • 職場の人間関係と孤立
    • 「日本人社員が話しかけてくれない」「仕事の指示が早口で聞き取れない」といったコミュニケーションの不全が、深刻な疎外感を生みます。特に、同国出身者がいない職場では、相談相手がおらず精神的に追い詰められやすくなります。
  • キャリアパスの不透明さ
    • 「この会社で働き続けて、将来どうなれるのか」というビジョンが見えないことも大きな要因です。特定技能2号への移行や、技能検定の合格といった目標に対し、企業側が具体的な支援や道筋を示せていない場合、将来への不安から離職につながります。

【具体策1】入社前・入社時の丁寧な情報共有でミスマッチを防ぐ方法

離職防止の最初のステップは、採用段階での「期待値調整」です。入社後の「こんなはずじゃなかった」をなくすために、以下の取り組みを徹底しましょう。

  • 「手取り額」と生活コストのシミュレーション提示
    • 雇用条件書に示す「総支給額」だけでなく、税金、社会保険料、家賃、光熱費などを差し引いた「手取り額(可処分所得)」を具体的に提示してください。
    • 特に地方企業の場合、「都市部より給与は低くても、家賃や生活費が安いため、手元に残るお金は変わらない(あるいは多い)」というメリットを数字で示すことが有効です。
  • 職場環境の可視化(動画・写真)
    • 実際の作業風景、寮の部屋、周辺環境(スーパーや駅までの距離)を動画や写真で包み隠さず見せましょう。「田舎で不便」というデメリットも正直に伝え、それでも納得して来てくれる人材を採用することが、結果的に定着につながります。
  • 母国語での雇用契約書・重要事項説明
    • 法律で義務付けられている部分以外も、可能な限り母国語の資料を用意し、本人が100%理解できる状態で契約を結んでください。

【具体策2】生活と日本語学習のサポート体制で定着率を高める秘訣

特定技能制度には「義務的支援」がありますが、定着率の高い企業は、義務の範囲を超えた「プラスアルファ」のサポートを行っています。

  • 生活立ち上げの同行サポート
    • 転入届、銀行口座開設、携帯電話の契約だけでなく、病院の受診方法やゴミ出しのルール、近隣の安売りスーパーの案内など、日本での生活にいち早く適応できるよう、担当者がきめ細かくサポートします。
  • 日本語学習の金銭的・時間的支援
    • 日本語能力試験(JLPT)の受験料負担や、合格時の一時金支給はモチベーション向上に直結します。
    • さらに効果的なのが、「勤務時間内」に日本語学習の時間を設けることです。週に1時間でも業務として日本語を学ぶ時間を作ることで、「会社が自分の成長を応援してくれている」という信頼感が醸成されます。
  • Wi-Fi環境の整備
    • 外国人材にとって、母国の家族と連絡を取るためのスマートフォンはライフラインです。寮に無料Wi-Fiを完備することは、今や必須の福利厚生と言えます。

【具体策3】日本人従業員との相互理解を促進し働きやすい環境を作る

外国人材だけの努力では、定着は実現しません。受け入れる側の日本人社員の意識改革と環境づくりが不可欠です。

  • 「やさしい日本語」の導入と研修
    • 「あした」「午後」といった簡単な言葉を使う、「〜してください」と短く区切って話すなど、日本人社員向けに「やさしい日本語」の研修を実施しましょう。
    • 伝わらない原因の多くは、外国人材の日本語力不足ではなく、日本人が使う「曖昧な表現」や「早口」にあります。
  • 文化・宗教への理解促進
    • お祈りの時間や場所への配慮、豚肉やお酒を避ける食習慣など、相手の文化的背景を日本人社員に周知します。
    • 「郷に入っては郷に従え」を押し付けるのではなく、互いの違いを認め合う姿勢を会社として示すことが重要です。
  • メンター制度の導入
    • 業務指導役とは別に、年齢の近い日本人社員を「メンター(相談役)」として配置します。業務以外の雑談や生活の悩みを聞ける関係を作ることで、職場での孤立を防ぎます。

【具体策4】キャリア形成支援とスキルアップで「長く働きたい」を引き出す

「稼ぐ」だけでなく「成長する」ことを重視する外国人材が増えています。長期的なキャリアビジョンを共有することで、エンゲージメントを高めましょう。

  • 「特定技能2号」へのロードマップ提示
    • 在留期間の上限がない「特定技能2号」への移行を会社として全面的にバックアップする姿勢を示しましょう。
    • 必要な技能検定や実務経験の要件を整理し、「いつまでに、何をクリアすれば昇給・昇格できるか」を可視化したロードマップを個別に作成します。
  • 明確な人事評価制度の運用
    • 「頑張れば給料が上がる」という仕組みが明確でなければ、モチベーションは維持できません。
    • 日本人と同様の評価テーブルを適用するか、あるいは技能習得度に応じた独自の手当を設定し、評価の公平性を担保してください。
  • 資格取得支援
    • フォークリフト、玉掛け、介護福祉士など、業務に必要な資格取得にかかる費用を会社が負担し、講習への参加を勤務扱いにするなどの支援を行います。

【具体策5】定期的な面談とフィードバックで特定技能外国人材の課題を早期解決

法律で義務付けられている「3ヶ月に1回の定期面談」は最低ラインです。離職を防ぐには、より高頻度で質の高いコミュニケーションが必要です。

  • 1on1ミーティング(月1回推奨)
    • 業務の進捗確認だけでなく、体調や人間関係の悩みがないかを毎月確認します。
    • 不満が爆発して「辞めます」と言われてからでは手遅れです。小さな不満の芽を早期に摘み取ることが目的です。
  • 母国語での相談窓口の活用
    • 微妙なニュアンスや深い悩みは、日本語では伝えきれないことがあります。社内に通訳ができるスタッフがいない場合は、登録支援機関の通訳サポートなどを活用し、本音で話せる場を定期的に設けてください。
  • フィードバックの具体化
    • 「もっと頑張って」といった抽象的な指示は避け、「今の作業スピードは〇〇個/時間なので、来月は〇〇個を目指そう」といった具体的な数値目標と、達成のためのアドバイスを行います。

特定技能外国人材の離職防止で企業が陥りがちな「つまずきポイント」

良かれと思って行った対策が逆効果になったり、重要な視点が抜けていたりするケースがあります。以下のポイントに注意してください。

  • 「日本人と同じ扱い」を履き違える
    • 「日本人と同じように厳しく指導する」ことが平等ではありません。言語や文化のハンディキャップを考慮した上で、公平な機会を提供することが真の平等です。
  • 現場への丸投げ
    • 人事部だけで採用を決め、現場の日本人社員に準備や説明をせずに配属すると、必ず軋轢が生まれます。現場のリーダーを巻き込み、受け入れ体制を整えてから配属することが鉄則です。
  • 日本人社員からの不満を放置
    • 「外国人材ばかり優遇されている」と日本人社員が感じると、職場の雰囲気が悪化します。外国人材への支援を行う背景(人材確保の重要性など)を日本人社員にも丁寧に説明し、理解を得る努力を怠らないでください。
  • 円安の影響を軽視する
    • 「給与は変わっていないから大丈夫」と思っていても、母国への送金額は目減りしています。可能な範囲でのベースアップや、物価手当の支給などを検討する必要があります。

特定技能外国人材の定着を確実にする「離職防止チェックリスト」

自社の取り組み状況を振り返るためのチェックリストです。これらを網羅することで、離職リスクを大幅に低減できます。

  • 採用時に「手取り額」と「生活費」のシミュレーションを提示し、合意を得ているか?
  • 入社直後の生活立ち上げ(役所・銀行・通信)に担当者が同行し、不安を解消したか?
  • 日本人社員向けに「やさしい日本語」や「異文化理解」の研修を実施したか?
  • 業務マニュアルは、写真や動画を多用し、母国語併記などで分かりやすく整備されているか?
  • 「特定技能2号」取得や昇給に向けた、具体的なキャリアプランを本人と共有しているか?
  • 最低でも月1回程度、本人と1対1で話す機会(面談・雑談)を設けているか?
  • 職場で孤立しないよう、メンターや相談役を配置しているか?

関連する詳しい情報はこちらのブログ一覧もご参照ください。

まとめ

特定技能外国人材の離職を防ぐには、単に給与を上げるだけでは不十分です。「この会社なら安心して生活できる」「自分のキャリアが成長する」と実感できる環境を整えることが、定着への最短ルートです。

今回紹介した5つの具体策は、一度にすべて完璧に行う必要はありません。まずは「定期的な面談の頻度を上げる」「日本人社員にやさしい日本語を周知する」といった、すぐにできることから始めてみてください。外国人材が「長く働きたい」と思える職場は、結果として日本人社員にとっても働きやすい、魅力的な職場になるはずです。

LINE お問合せ

大阪なんば駅徒歩1分
給与計算からIPO・M&Aに向けた労務監査まで
【全国対応】HR BrEdge社会保険労務士法人