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外国人労働時間管理と36協定の罠|特定技能の受入停止を防ぐ社労士直伝のコンプラ対策
特定技能外国人の受入れ企業が増加する中、現場で最もトラブルになりやすいのが「労働時間管理」と「36協定」の運用です。「日本人社員と同じように管理していれば大丈夫」という認識は、実は大きなリスクを孕んでいます。なぜなら、外国人労働者の場合、労働基準法違反が入管法上の「受入停止処分」に直結するからです。
本記事では、特定技能の受入停止を防ぐために企業が押さえておくべき労働時間管理のポイントや、登録支援機関との役割分担、36協定遵守の重要性について、外国人雇用に強い社会保険労務士が実務的な視点で解説します。コンプライアンスを遵守し、安定した雇用体制を築くための参考にしてください。
Q1. 外国人社員の労働時間管理は、日本人社員と全く同じ運用で問題ありませんか?
【結論】基本的には同じ労働基準法が適用されますが、違反時のペナルティが「在留資格」に及ぶため、より厳格な管理が必要です。
労働基準法は国籍を問わず、日本国内で働くすべての労働者に適用されます。したがって、法定労働時間(1日8時間、週40時間)や休憩、休日の原則は日本人社員と同じです。しかし、リスクの質が異なります。日本人社員の場合、労基法違反は是正勧告や罰金等の処分にとどまることが多いですが、外国人社員(特に特定技能)の場合、労働関係法令違反は「不正行為」とみなされ、最悪の場合、特定技能外国人の受入れが停止される可能性があります。
一方で、管理手法においては配慮が必要です。日本の労働慣行(例えば「空気を読んで残業する」「準備・後片付けは労働時間外」など)は、外国人材には通用しません。これらを労働時間としてカウントせずに未払い残業が発生した場合、外国人材側から通報されるリスクも高まります。したがって、運用ルールは日本人と同じでも、その説明と記録方法はより透明性を高めるべきです。
Q2. 36協定違反(違法残業)が発覚した場合、特定技能の受入れにどのような影響がありますか?
【結論】特定技能所属機関(受入れ企業)としての適格性を欠くと判断され、最長5年間の受入れ停止処分を受ける可能性があります。
特定技能制度では、受入れ企業の要件として「労働関係法令を遵守していること」が厳しく求められます。36協定を締結せずに残業させた場合や、協定の上限時間を超えて働かせた場合は、労働基準法違反となります。これが悪質と判断された場合、入管法に基づき、現在雇用している特定技能外国人の在留資格更新が不許可になるだけでなく、今後5年間、新たな特定技能外国人の受入れができなくなります。
また、特定技能外国人に限らず、技能実習生など他の在留資格の外国人を雇用している場合も影響が及ぶことがあります。企業全体の存続に関わる重大なリスクであることを認識し、36協定の締結・届出・周知・遵守を徹底してください。
Q3. 労働基準監督署が外国人雇用企業を調査する際、重点的に見るポイントはどこですか?
【結論】「労働時間の客観的な把握状況」と「賃金台帳とタイムカードの整合性」が重点的にチェックされます。
実際の顧問先での調査対応や、実務上よくあるケースとして、監督署は「自己申告制」の勤怠管理を厳しく見る傾向にあります。特に外国人労働者の場合、言葉の壁による指示の誤認や、「稼ぎたい」という意欲から休憩時間を削って働くケースが散見されます。監督署は、タイムカードの打刻時間とPCのログ、あるいは入退館記録などを突き合わせ、サービス残業(未払い残業)がないかを徹底的に確認します。
- 打刻時刻と実労働時間の乖離理由が説明できるか
- 休憩時間が法定通り(6時間超で45分、8時間超で1時間)確保されているか
これらが曖昧な場合、是正勧告の対象となります。一方で、しっかりと1分単位で労働時間を管理し、36協定の範囲内に収まっている記録があれば、過度な指摘を受けることはありません。管理監督者が日々の勤怠を承認するフローを確立することが重要です。
Q4. 登録支援機関に支援業務を委託していれば、労働時間管理の責任も任せられますか?
【結論】いいえ、労働時間管理と36協定遵守の責任は、雇用主である受入れ企業にあり、登録支援機関に丸投げはできません。
登録支援機関の役割は、あくまで入管法に基づく「1号特定技能外国人支援計画」の実施(生活オリエンテーションや公的手続きの補助など)です。労働基準法上の使用者責任、つまり労働時間の把握や残業代の支払いは、雇用契約を結んでいる企業の義務です。登録支援機関が定期面談で「残業が多い」という不満を聞き取ることはあっても、日々の労務管理まで代行する権限はありません。
一方で、登録支援機関と密に連携することは有効です。例えば、通訳を介して36協定の内容を本人に説明してもらったり、残業ルールの理解度を確認してもらうことは可能です。しかし、「登録支援機関に任せているから知らなかった」という言い訳は、労基署にも入管にも通用しないと肝に銘じてください。
Q5. タイムカードや勤怠データの管理で、外国人材特有のトラブルを防ぐにはどうすべきですか?
【結論】多言語対応の勤怠システムを導入するか、母国語でのルール説明を徹底し、打刻漏れや修正のルールを明確化すべきです。
これまで多くの企業を支援してきた中で、トラブルの原因の多くは「ルールの未周知」にあります。例えば、「着替え時間は労働時間に含まれるか」「朝礼前の掃除はどうか」といった細かい認識のズレが、積み重なって未払い残業問題に発展します。また、外国人材の中には「たくさん働けば評価される」と誤解し、勝手に残業をしてしまうケースもあります。
- 残業は「許可制」または「命令制」であることを母国語で明記する
- 打刻修正が必要な場合は、必ず理由を記載させ、上長が確認する
実務上は、このような運用を徹底することが重要です。一方で、システム導入が難しい場合は、就業規則や36協定の重要部分を翻訳し、入社時に読み合わせを行うだけでも、後のトラブルリスクを大幅に軽減できます。
Q6. 繁忙期に「特別条項」を適用して残業させる際、外国人労働者に対して特に注意すべき点は?
【結論】特別条項の発動要件を丁寧に説明し、過重労働による健康障害防止措置を確実に実施する必要があります。
36協定の特別条項付き協定を締結していれば、年6回まで月45時間を超える残業が可能ですが、これはあくまで「臨時的な特別な事情」がある場合に限られます。外国人労働者に対しては、単に「忙しいから残業して」と指示するのではなく、「なぜ今月は残業が必要なのか」「上限は何時間までか」「割増賃金はどうなるか」を明確に伝える必要があります。
また、実務で誤解されやすいポイントとして、特別条項を適用しても「月100時間未満(休日労働含む)」「2〜6ヶ月平均80時間以内」という絶対的な上限は超えられません。日本語でのコミュニケーションにストレスを感じやすい外国人材の場合、長時間労働がメンタルヘルス不調に直結しやすいため、日本人以上に産業医面談などのケアを積極的に行うべきです。
Q7. 外国人労働者のメンタルヘルスと過重労働を防ぐために、現場でできる具体的対策は?
【結論】業務量の可視化と、日本人社員とのコミュニケーション頻度の向上、そして「断れる環境」を作ることです。
実際の顧問先では、真面目な外国人材ほど「No」と言えず、日本人社員から頼まれた仕事をすべて引き受けてしまい、結果として一人だけ長時間労働になっているケースが見受けられます。これを防ぐためには、管理職が定期的に業務の棚卸しを行い、特定の個人に負荷が偏っていないかを確認する必要があります。
一方で、メンタルヘルスの観点からは「孤立させない」ことが重要です。業務上の指示だけでなく、雑談や体調確認の声をかけることで、不調のサインを早期に発見できます。また、母国語で相談できる窓口(登録支援機関や社内のメンター)を周知し、過重労働になる前に相談できる体制を整えておくことが、離職防止とコンプライアンス遵守の両立につながります。
Q8. 未払い残業代があると、特定技能1号から2号への移行やビザ更新に影響しますか?
【結論】はい、労働関係法令の遵守状況は審査の重要項目であり、未払い残業は不許可の直接的な原因になり得ます。
特定技能2号への移行や在留期間の更新申請時には、課税証明書や納税証明書に加え、労働条件通知書や賃金台帳の提出が求められることがあります。入管はこれらの資料から、適切な賃金支払いがなされているかをチェックします。もし未払い残業代の存在が発覚したり、最低賃金を下回っている実態が明らかになれば、「素行善良要件」や「契約機関の適格性」を満たさないとして、申請が不許可になるリスクが高いです。
特に特定技能2号は、家族帯同が可能になるなど永住に繋がる資格であるため、審査は1号よりも厳格になる傾向があります。将来的に長く活躍してもらうためにも、日々の給与計算と労働時間管理は1円、1分のズレもなく適正に行う必要があります。
Q9. 1年単位の変形労働時間制を導入する場合、外国人雇用で気をつけるべきことは?
【結論】年間カレンダーの事前周知と、変形期間途中での入退社時の賃金精算ルールを明確にしておくことです。
1年単位の変形労働時間制を採用する場合、事前に年間の休日カレンダーを定め、労働基準監督署に届け出る必要があります。実務上の注意点として、このカレンダーを外国人労働者にも母国語などで確実に周知し、理解を得ておくことが必須です。「今日は8時間、明日は9時間」といった変則的な勤務シフトは、事前の説明がないと「契約違反ではないか」という不信感を招きやすいからです。
一方で、特定技能外国人は3年や5年といった期間で帰国や転職をするケースも多いです。変形期間の途中で退職する場合、実際に働いた時間が週平均40時間を超えていれば、その分の割増賃金を精算して支払う義務が生じます。この精算ルールを就業規則に明記し、退職時にトラブルにならないよう準備しておくことが、企業の防衛策となります。
まとめ
外国人労働者の労働時間管理と36協定の遵守は、単なる労務管理の問題にとどまらず、企業の「採用力」と「事業継続性」に直結する経営課題です。特定技能制度はルールが複雑であり、悪意がなくても「知らなかった」では済まされない厳しい処分が待っています。
企業の状況によって、最適な勤怠管理方法や36協定の運用(特別条項の有無など)は異なります。リスクを最小限に抑え、外国人材が安心して働ける環境を整備するためには、専門的な知見に基づいた判断が不可欠です。不安な点があれば、自己判断せずに専門家へ個別にご相談ください。
特定技能・外国人雇用に関する詳しい情報はこちらのブログ一覧もご参照ください。
監修者プロフィール
本記事は、HR BrEdge社会保険労務士法人に所属する特定社会保険労務士・渡辺俊一が監修しています。法人顧問業務を中心に、給与計算、労務相談、就業規則整備など、企業のバックオフィス全体を支える実務に携わってきました。
日常的な労務相談から、制度設計、実務運用、トラブル予防まで、「現場で実際に起こること」を前提とした支援を行っています。特に、従業員100名以上規模の企業における実務の属人化や判断が分かれやすい場面への対応を得意としています。
- 社会保険労務士(登録番号:第27070207号・平成19年11月1日登録・平成24年5月1日特定社会保険労務士付記)
- キャリアコンサルタント(登録番号:16131446・平成28年8月23日登録)
- HR BrEdge社会保険労務士法人 代表社員
- 法人顧問を中心とした労務管理・給与計算の実務支援
- 就業規則・社内ルール整備を含む制度運用支援
- 企業向け労務管理に関する書籍・実務資料の執筆・監修
- 経営者・人事担当者向け研修・セミナー講師実績
制度の解説にとどまらず、「このケースではどう判断すべきか」「どこでトラブルになりやすいか」といった実務上の判断ポイントを重視した情報提供を行っています。
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