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技能実習から特定技能への移行費用は?社労士が明かす隠れコストと支援体制の選び方

2026.02.03 社労士コラム

技能実習2号修了者を特定技能1号へ移行させることは、採用コストを抑えつつ、自社の業務に精通した即戦力を確保できる非常に有効な手段です。しかし、経営者や人事担当者の方々から「移行にかかる費用は具体的にいくらなのか」「登録支援機関への委託料は適正なのか」といった相談を頻繁に受けます。

実は、特定技能への移行には、目に見える申請費用だけでなく、支援体制の構築や労務管理の見直しに伴う「隠れたコスト」が存在します。ここを見誤ると、後々のトラブル対応で想定外の出費を強いられることになりかねません。本記事では、外国人雇用に強い社会保険労務士の視点から、移行にかかる費用の全貌と、失敗しない支援体制の選び方について具体的に解説します。

Q1. 技能実習から特定技能への移行で、企業が支払うべき費用の全項目を教えてください。

【結論】入管への申請手数料、健康診断費用、翻訳費用に加え、支援委託料または自社支援の運用コストが必須となります。

特定技能への移行において、企業が予算化しておくべき費用は多岐にわたります。大きく分けると「初期費用(移行時)」と「ランニングコスト(雇用継続中)」の2つがあります。

  • 初期費用:在留資格変更許可申請の手数料(印紙代4,000円)、申請書類の作成を行政書士に依頼する場合の報酬(10万〜20万円程度)、母国の公的書類の翻訳費用、特定技能独自の健康診断費用(1万〜2万円程度)など。
  • ランニングコスト:登録支援機関に委託する場合の月額支援委託料(2万〜3万円/月)、または自社支援を行う場合の人件費や交通費、協議会への加入費用など。

登録支援機関に委託する場合は委託料が明確ですが、自社支援を行う場合は、担当者の工数という見えにくいコストが発生します。一方で、これらを適切に予算化できていないと、移行直前になって「誰が負担するのか」というトラブルになりかねません。

Q2. 自社支援でコストを抑えようと考えていますが、リスクはありますか?

【結論】専門知識不足による書類不備や期限管理のミスが多発し、結果的に外部委託以上のコストがかかるリスクがあります。

「毎月の委託料を節約したい」という理由で自社支援を選択する企業は多いですが、特定技能の支援業務は非常に煩雑です。四半期ごとの定期届出や、母国語での相談対応、生活オリエンテーションなど、専門的な対応が求められます。

実際の顧問先では、担当者が退職してしまい、支援業務がストップしていることに気づかず、在留期限ギリギリになって慌てて相談に来られるケースがありました。この場合、急遽外部の専門家を投入するための特急料金や、最悪の場合はビザ更新が間に合わず一度帰国させるための渡航費など、当初の節約額を遥かに超える損失が発生します。自社に十分なノウハウとバックアップ体制がない場合は、安易な自社支援は避けるべきです。

Q3. 登録支援機関の「月額支援委託料」の相場はどれくらいですか?

【結論】外国人1名あたり月額2万円〜3万円が一般的な相場ですが、支援内容の範囲によって異なります。

登録支援機関の委託料は自由競争のため幅がありますが、フルサポートを依頼する場合、月額2万5千円前後がひとつの目安となります。この費用には、定期面談(3ヶ月に1回)、関係行政機関への通報・届出、生活相談対応などが含まれます。

一方で、地方の企業や数十名単位でまとめて委託する場合であれば、ボリュームディスカウントで月額2万円以下になることもあります。逆に、通訳対応が難しい希少言語の場合や、住居の確保・送迎などのオプションを含める場合は、相場よりも高くなる傾向があります。金額だけで判断せず、「どこまでやってくれるのか」という契約内容の詳細を確認することが重要です。

Q4. 委託料が安すぎる登録支援機関には、どのような問題が潜んでいますか?

【結論】法定の義務的支援(定期面談など)が実施されず、受入れ企業が指導勧告を受けるコンプラ違反のリスクがあります。

「月額1万円以下」など、相場より極端に安い登録支援機関には注意が必要です。コストを削るために、法律で義務付けられている「3ヶ月に1回の対面面談」を電話で済ませたり、母国語対応できるスタッフを配置していなかったりするケースがあるからです。

実務上よくあるケースとして、支援機関が適切な支援を行っていないことが入管の調査で発覚し、委託元である受入れ企業も「管理監督責任」を問われる事態があります。支援業務の不履行は、特定技能外国人の受入れ停止処分(5年間)につながる重大な違反です。安さの裏に「手抜き」がないか、支援実施体制表や過去の実績を必ず確認してください。

Q5. 移行時の賃金設定で「同一労働同一賃金」はどう判断すればよいですか?

【結論】技能実習期間を「経験年数」として評価し、同等の経験を持つ日本人社員と同等以上の報酬を設定すべきです。

特定技能制度では「日本人と同等以上の報酬額」が絶対条件です。ここで誤解されやすいのが、「新入社員(初任給)と同じで良い」という考え方です。技能実習2号を修了した外国人は、すでにその業務で3年間の実務経験を持っています。

したがって、未経験の日本人新入社員と比較するのではなく、入社3年目の日本人社員と同等の基本給や手当を設定する必要があります。もし、3年目の日本人社員よりも低い賃金を設定する場合は、「日本語能力の差」や「担当業務の範囲」など、合理的な理由を説明できなければなりません。入管審査でも厳しくチェックされるポイントですので、慎重な検討が必要です。

Q6. 日本人社員との賃金バランスでトラブルにならないための対策は?

【結論】基本給だけでなく、手当や評価制度を含めたトータルの処遇で公平性を説明できる根拠を整備することです。

外国人の賃金を上げると、既存の日本人社員から「なぜ彼らだけ優遇されるのか」という不満が出ることがあります。これを防ぐためには、賃金テーブルを明確にし、国籍に関係なく「能力」や「役割」に基づいて賃金が決まる仕組みを作ることが重要です。

例えば、日本人社員には「職務手当」や「リーダー手当」を厚くし、外国人社員には「住宅手当」を調整するなど、総額でのバランスを取りつつ、それぞれの事情に合わせた手当の構成を検討します。一方で、合理的な理由なく外国人だけを低く設定することは違法ですので、就業規則や賃金規程の整備が不可欠です。企業の状況によって判断が異なるため、不安な場合は専門家への相談をお勧めします。

Q7. 移行手続きにおける健康診断費用は会社が負担すべきですか?

【結論】特定技能ビザ申請に必要な健康診断費用は、円滑な移行のために会社が負担することが一般的かつ推奨されます。

特定技能の申請には、指定された様式での健康診断書が必要です。この費用は法的負担義務までは定められていませんが、実務上は会社が負担するケースがほとんどです。

技能実習生は経済的に余裕がないことが多く、数万円の健診費用を自己負担させると、移行へのモチベーション低下や不信感につながる恐れがあります。一方で、直近(3ヶ月以内)に実施した定期健康診断の結果があり、かつ特定技能の必須項目(結核検査など)を網羅していれば、それを流用してコストを抑えることも可能です。無駄な出費を防ぐためにも、定期健診のタイミングと移行時期を調整することをお勧めします。

Q8. 特定技能への移行に合わせて、一時帰国を希望された場合の費用は?

【結論】一時帰国の旅費負担は法的義務ではありませんが、福利厚生として規定化することで定着率向上に寄与します。

技能実習3年を終えて特定技能へ移行する際、多くの外国人が一時帰国を希望します。この際の渡航費を会社が出すかどうかは、企業の判断に委ねられています。

これまで多くの企業を支援してきた中で、一時帰国の費用を会社が負担(または一部補助)している企業は、その後の定着率が明らかに高い傾向にあります。「長く働いてほしい」というメッセージとして伝わるからです。一方で、全額負担が難しい場合は、「往路のみ負担」や「勤続祝い金として支給」するなど、柔軟なルールを設けるのも一つの方法です。重要なのは、事前にルールを明確にし、不公平感が出ないようにすることです。

Q9. 費用対効果を最大化するために、どのような教育・福利厚生が必要ですか?

【結論】日本語教育やキャリアアップ支援への投資は、離職防止と生産性向上に直結し、再採用コストを削減します。

特定技能外国人は転職が可能です。せっかく費用をかけて移行させても、すぐに他社へ転職されてしまっては元も子もありません。離職を防ぐための最も効果的な投資は、日本語教育と生活サポートの充実です。

例えば、日本語能力試験(JLPT)の受験料補助や、合格時の報奨金制度などは、比較的低コストで高いモチベーションアップ効果が期待できます。また、社宅のWi-Fi環境整備や、生活備品の支給なども喜ばれます。これらを「コスト」ではなく、人材流出を防ぐための「投資」と捉えられる企業が、特定技能制度を最大限に活用できています。

まとめ

技能実習から特定技能への移行は、単なるビザの切り替えではなく、長期的な雇用関係のスタートです。目先の費用を削ることばかりに目を向けると、コンプライアンス違反や早期離職といった大きなリスクを招くことになります。

適正なコストをかけ、しっかりとした支援体制と待遇を用意することが、結果として企業の成長と安定につながります。自社に最適な支援体制や賃金設計について迷われた際は、ぜひ専門家にご相談ください。

特定技能・外国人雇用に関する詳しい情報はこちらのブログ一覧もご参照ください。

監修者プロフィール

本記事は、HR BrEdge社会保険労務士法人に所属する特定社会保険労務士・渡辺俊一が監修しています。法人顧問業務を中心に、給与計算、労務相談、就業規則整備など、企業のバックオフィス全体を支える実務に携わってきました。

日常的な労務相談から、制度設計、実務運用、トラブル予防まで、「現場で実際に起こること」を前提とした支援を行っています。特に、従業員100名以上規模の企業における実務の属人化や判断が分かれやすい場面への対応を得意としています。

  • 社会保険労務士(登録番号:第27070207号・平成19年11月1日登録・平成24年5月1日特定社会保険労務士付記)
  • キャリアコンサルタント(登録番号:16131446・平成28年8月23日登録)
  • HR BrEdge社会保険労務士法人 代表社員
  • 法人顧問を中心とした労務管理・給与計算の実務支援
  • 就業規則・社内ルール整備を含む制度運用支援
  • 企業向け労務管理に関する書籍・実務資料の執筆・監修
  • 経営者・人事担当者向け研修・セミナー講師実績

制度の解説にとどまらず、「このケースではどう判断すべきか」「どこでトラブルになりやすいか」といった実務上の判断ポイントを重視した情報提供を行っています。

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