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外国人社員のメンタルヘルス相談窓口を構築する手順|支援義務と安全配慮の実務
特定技能外国人の受け入れが拡大する中、現場で急増しているのが「メンタルヘルス不調」に関するトラブルです。言葉の壁や文化的なギャップ、そして「相談したら帰国させられるのではないか」という不安から、深刻化するまで誰にも相談できず、突然の出社拒否や失踪に繋がるケースが後を絶ちません。
この記事では、特定技能外国人を雇用する企業や支援担当者が、実効性のあるメンタルヘルス相談窓口を構築するための具体的な手順を解説します。入管法上の支援義務と労働契約法上の安全配慮義務、この2つを確実に満たしながら、外国人社員が安心して働ける環境を作るための実務ノウハウをお伝えします。
Step1:既存窓口の「心理的障壁」を確認する
【結論】まずは、日本人社員向けに設置している既存の相談窓口が、なぜ外国人社員には機能しないのか、その阻害要因(ボトルネック)を特定します。
多くの企業で「相談窓口はあるが、外国人からの相談はゼロ」という状況が見られます。しかし、これは「悩みがない」のではなく、「相談できない」状態であることがほとんどです。私が関与した現場でも、以下の3つの壁が相談を阻んでいるケースが多々ありました。
- 言語の壁:日本語で細かいニュアンスを伝える自信がなく、通訳を通すと「通訳の人に知られる」ことを恐れる。
- 文化の壁:「精神的な不調を訴えることは恥」「弱みを見せると評価が下がる」という文化的背景を持つ国籍の方も多い。
- 在留資格の不安:「メンタル不調がバレたらビザが更新できないのでは」「強制帰国させられるのでは」という誤解。
注意点:「日本語が話せるから大丈夫だろう」という判断は危険です。日常会話ができても、内面の葛藤を異言語で表現するストレスは計り知れません。まずは「現状の窓口では届かない声がある」という前提に立つことがスタートです。
Step2:義務的支援と専門相談の役割を分担する
【結論】特定技能制度で求められる「義務的支援(生活オリエンテーションや苦情相談)」と、医療的なアプローチが必要な「メンタルヘルス相談」の境界線を明確にし、誰が何を担当するかを定義します。
特定技能所属機関(受入れ企業)には、職業生活や日常生活上の相談に応じる義務があります。しかし、登録支援機関の担当者や社内の支援担当者は、メンタルヘルスの専門家ではありません。
- 支援担当者の役割:日常的な不満や生活トラブルの吸い上げ、初期の変調(遅刻が増えた、表情が暗い等)の気づき。
- 専門窓口の役割:不眠、鬱症状、適応障害などの兆候が見られた際のカウンセリング、医療機関への接続。
実務のポイント:支援担当者が良かれと思って抱え込み、共倒れになるケースが散見されます。「ここからは産業医や外部EAP(従業員支援プログラム)に繋ぐ」というラインを事前に決めておくことが、担当者を守ることにも繋がります。
Step3:多言語対応の外部相談窓口を選定・導入する
【結論】社内リソースだけで対応が難しい場合、外国人対応に特化した外部相談窓口(EAPサービス等)を選定し、導入契約を結びます。
安全配慮義務の観点からも、母国語で相談できる環境整備は重要です。選定時は以下の基準を確認してください。
- 対応言語と手段:対象となる外国人社員の母国語に対応しているか。電話だけでなく、SNSやチャットで気軽に相談できるか。
- 匿名性の担保:「会社には相談内容が筒抜けにならない」ことが明確に保証されているか。
- フィードバック体制:個人の特定は避けつつも、組織的な課題(ハラスメントの兆候など)については企業側にレポートがあるか。
一方で、予算が限られる場合は、公的機関(「よりそいホットライン」や自治体の外国人相談窓口)の情報を整理し、周知するだけでも第一歩となります。
Step4:休職発生時の在留資格と労務管理を整備する
【結論】メンタル不調により休職が必要になった場合に備え、就業規則(休職規定)の適用ルールと、在留資格上の取り扱いを整理します。
外国人社員が休職する場合、日本人社員とは異なる法的リスクが発生します。
- 在留資格の維持:特定技能の場合、正当な理由なく3ヶ月以上活動を行わないと在留資格取消の対象となりますが、「病気療養」は正当な理由として認められます。診断書や休職命令書を保管し、入管へ説明できる準備が必要です。
- 傷病手当金の申請:日本の健康保険に加入しているため、要件を満たせば受給可能です。本人に制度を説明し、申請をサポートします。
- 復職の判断:「働きたい(稼ぎたい)」という焦りから、完治していないのに復職を希望するケースが多いです。産業医の意見を必須とするなど、慎重なフローを定めてください。
注意点:休職期間満了による退職(自然退職)となる場合、在留期限が残っていても就労資格を失うことになります。帰国費用や手続きについて、事前に規定を確認しておく必要があります。
Step5:オンボーディングで「心理的安全性」を周知する
【結論】相談窓口を作って終わりではなく、入社直後のオンボーディングや定期面談で「相談しても不利益にならない」ことを繰り返し伝えます。
特定技能1号の場合、3ヶ月に1回の定期面談が義務付けられています。この場を単なる形式的な確認で終わらせず、メンタルヘルスのチェックポイントとして活用します。
- 入社時説明:「日本では、体調が悪い時に休むことや相談することは悪いことではない」と、日本の労働慣行を含めて説明する。
- 相談カードの配布:母国語で書かれた相談窓口の連絡先カード(QRコード付きなど)を、社員証と一緒に携帯させる。
- 管理職への教育:現場の日本人上司に対し、外国人特有のストレスサイン(急に無口になる、母国語での電話が増える等)を共有する。
制度があっても、現場の空気が「相談=甘え」であれば機能しません。現場の管理職を巻き込み、心理的安全性を高めることが、離職防止の最大の鍵となります。
特定技能・外国人雇用に関する詳しい情報はこちらのブログ一覧もご参照ください。
監修者プロフィール
本記事は、HR BrEdge社会保険労務士法人に所属する 特定社会保険労務士・渡辺俊一が監修しています。 法人顧問業務を中心に、給与計算、労務相談、就業規則整備など、 企業のバックオフィス全体を支える実務に携わってきました。
日常的な労務相談から、制度設計、実務運用、トラブル予防まで、 「現場で実際に起こること」を前提とした支援を行っています。 特に、従業員100名以上規模の企業における 実務の属人化や判断が分かれやすい場面への対応を得意としています。
- 社会保険労務士(登録番号:第27070207号・平成19年11月1日登録・平成24年5月1日特定社会保険労務士付記)
- キャリアコンサルタント(登録番号:16131446・平成28年8月23日登録)
- HR BrEdge社会保険労務士法人 代表社員
- 法人顧問を中心とした労務管理・給与計算の実務支援
- 就業規則・社内ルール整備を含む制度運用支援
- 企業向け労務管理に関する書籍・実務資料の執筆・監修
- 経営者・人事担当者向け研修・セミナー講師実績
制度の解説にとどまらず、 「このケースではどう判断すべきか」 「どこでトラブルになりやすいか」 といった実務上の判断ポイントを重視した情報提供を行っています。
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