新着情報
外国人労災事故の対応フロー|特定技能の受入れ停止を防ぐ社労士直伝の初動と報告義務
特定技能外国人の受入れ企業において、最も緊張が走る瞬間の一つが「労働災害(労災)」の発生です。言葉や文化の壁がある外国人材が現場で怪我をした際、日本人の従業員と同じ対応だけで済ませてしまうと、思わぬ落とし穴にはまることがあります。特に特定技能制度においては、労働基準監督署への報告だけでなく、出入国在留管理庁(入管庁)への届出義務や、支援計画に基づく対応が求められるため、初動のミスが「受入れ停止処分」という最悪の事態を招くリスクすらあるのです。
本記事では、外国人雇用に特化した社会保険労務士が、現場でパニックにならないための初動対応から、特定技能特有の報告義務、そしてコンプライアンスを守るための実務ポイントを解説します。企業の安全配慮義務を果たし、貴重な人材と受入れ体制を守るための「転ばぬ先の杖」としてお役立てください。
現場パニックを防ぐ「外国人労災」初動3ステップと母国語での状況把握
【結論】直ちに被災者の救護を行った上で、通訳や翻訳ツールを用いて「母国語」で状況を正確に把握・記録すべきです。
外国人材が労働災害に遭った際、現場責任者が最初に行うべきは、日本人同様に人命救助と安全確保ですが、その後の「状況把握」において特別な配慮が必要です。言葉の壁による誤解は、後の労災認定や再発防止策において致命的なズレを生じさせるからです。以下の3ステップを確実に実行してください。
- ステップ1:救護と医療機関への搬送・警察への連絡
最優先は治療です。救急車を呼ぶ際、日本語が不自由な場合は、同行者が症状や痛みの箇所を医師に正確に伝える必要があります。 - ステップ2:現場の保全と証拠の記録
事故直後の現場状況を写真や動画で保存します。機械の稼働状況、床の状態、保護具の着用有無などを客観的に記録してください。 - ステップ3:母国語での本人ヒアリング
「大丈夫?」と日本語で聞くと、遠慮や雇用打ち切りへの不安から、無理をして「大丈夫」と答えてしまうケースが多々あります。
実際の顧問先では、本人が「自分の不注意だった」と日本語で証言していたものの、詳しく母国語で聞き直すと「機械のセンサーが作動しなかった」「指示された手順が理解できていなかった」という事実が判明した事例があります。一方で、本人が意図的に安全装置を無効化していた場合などは、会社側の安全配慮義務違反の度合いが変わってきます。
初期段階で「言葉の壁」を放置すると、事実関係が曖昧なまま労基署の調査が進み、企業側に不利な認定がなされるリスクが高まります。必ず通訳を入れるか、精度の高い翻訳アプリを使用して、相互理解の齟齬をなくすことが重要です。
労働基準監督署だけでは不十分?特定技能特有の「入管庁への随時届出」の落とし穴
【結論】労働基準監督署への「労働者死傷病報告」に加え、特定技能では入管庁への「随時届出」が必要になるケースがあります。
日本人の労災事故であれば、労働基準監督署へ「労働者死傷病報告」を提出し、労災保険の給付申請を行えば手続きとしては一区切りです。しかし、特定技能外国人の場合は、入管法に基づく届出義務が課されていることを忘れてはいけません。
- 労働基準監督署への報告
休業4日以上の場合は遅滞なく、休業4日未満の場合は四半期ごとに「労働者死傷病報告」を提出します。これは全労働者共通の義務です。 - 入管庁への随時届出(特定技能)
雇用契約の内容に変更が生じた場合や、支援計画の実施が困難になった場合などに、事由発生から14日以内の届出が必要です。
実務上よくあるケースとして、労災事故により長期間の休業を余儀なくされ、その間の給与支払いや支援実施が通常通り行えなくなった場合に、届出漏れが発生しがちです。特に、労災をきっかけに退職となったり、帰国することになったりした場合は、契約終了の届出などが必須となります。
一方で、軽微な怪我で数日の休業で済み、雇用条件や支援体制に全く変更がない場合は、入管庁への届出までは求められないこともあります。しかし、判断に迷う場合は、登録支援機関や管轄の入管に確認を入れるのが安全です。「労基署に出したから終わり」と思い込んでいると、入管法違反(届出義務違反)を問われ、次回のビザ更新や受入れ人数枠に影響する可能性があるため注意が必要です。
調査官の聞き取りで「言葉の壁」が招くリスクと通訳手配の判断基準
【結論】労基署の調査官による聞き取り調査には、必ず中立的な通訳を同席させ、ニュアンスの不一致による事実誤認を防ぐべきです。
重大な労災事故が発生すると、労働基準監督署の調査官が現場検証や本人への聞き取り調査を行います。この際、調査官は基本的に日本語で質問を行いますが、被災した外国人が日本語能力試験(JLPT)のN3やN4レベルであったとしても、専門用語や事故時の複雑な状況を日本語で正確に説明するのは極めて困難です。
- 「指示」か「提案」かの取り違え
上司の「できればこうしてほしい」という発言を、絶対的な業務命令と受け取って無理な作業をしたのか、あるいは単なるアドバイスと受け取って無視したのか。 - 安全教育の理解度
「はい、わかりました」と返事をしていたが、実際には内容を理解していなかったことが露呈した場合、企業の安全教育不足が問われます。
これまで多くの企業を支援してきた中で、社内の日本人従業員や、同じ国籍の先輩社員を通訳として同席させるケースが見られますが、これは避けるべきです。「会社に迷惑をかけたくない」というバイアスがかかったり、通訳者の個人的な解釈が混ざったりする恐れがあるからです。
一方で、外部のプロ通訳や登録支援機関の通訳担当者であれば、客観的な立場から通訳を行うことができます。調査官に対して「本人はこう言っているが、母国語のニュアンスではこういう意味が含まれる」といった補足説明ができるかどうかが、調査結果を左右します。言葉の壁が原因で「会社が安全配慮を怠った」と認定されないよう、通訳の手配はコストを惜しまず行うべきです。
労災隠しは「5年間の受入れ停止」に直結する|特定技能におけるコンプライアンスの境界線
【結論】いわゆる「労災隠し」は犯罪であるだけでなく、特定技能制度においては「受入れ機関の欠格事由」に該当し、5年間の受入れ停止に直結します。
「労災を使うと保険料が上がる」「手続きが面倒だ」といった理由で、会社が治療費を負担して健康保険を使わせたり、自費診療にさせたりする行為は「労災隠し」と呼ばれ、労働安全衛生法違反となります。これは日本人雇用でも重大な問題ですが、特定技能においては企業の存続に関わるペナルティが待っています。
- 欠格事由への該当
労働関係法令違反により罰金刑以上の刑に処せられた場合、その企業は「特定技能所属機関」としての要件を満たさなくなります。 - 5年間の受入れ停止
一度欠格事由に該当すると、その後5年間は新たな特定技能外国人の受入れができないだけでなく、現在雇用している特定技能外国人のビザ更新も認められなくなる可能性があります。
実務上、建設業や製造業の現場では、元請け企業への配慮から労災報告を躊躇する空気が生まれることがあります。しかし、特定技能制度はコンプライアンス(法令遵守)を極めて重視する制度です。入管庁は労働局とも連携を強化しており、労災隠しが発覚すれば、技能実習制度も含めた外国人材全体の受入れがストップします。
一方で、本人が「病院に行きたくない」と言った場合でも、会社として受診を命じ、適正に手続きを進める姿勢が必要です。目先の保険料や手間の回避が、将来の外国人雇用そのものを不可能にするリスクがあることを、経営層は強く認識しなければなりません。
登録支援機関と連携すべき「被災者のメンタルケア」と再発防止策の策定実務
【結論】事故後の被災者には登録支援機関と連携して母国語でのメンタルケアを行い、再発防止策は「多言語化」と「視覚化」を徹底すべきです。
異国で怪我をして働けなくなることは、外国人材にとって日本人以上の不安と孤独感をもたらします。「母国に仕送りができなくなる」「解雇されて帰国させられるのではないか」といった不安が、メンタル不調や会社への不信感につながります。
- 登録支援機関との連携
自社支援を行っている企業であっても、労災発生時は外部の専門家や通訳を交えて、本人の不安を母国語で傾聴する機会を設けてください。休業補償の仕組みや治療の見通しを丁寧に説明することで、安心感を与えられます。 - 再発防止策の多言語化
事故報告書を作成して終わりではなく、なぜ事故が起きたのかを全従業員に共有する必要があります。その際、日本語のマニュアルだけでなく、母国語併記や写真・イラストを多用した「見てわかる」資料を作成することが不可欠です。
実際の顧問先では、労災事故をきっかけに安全衛生マニュアルを動画化し、スマホでいつでも確認できるようにした結果、その後の事故率が大幅に低下した事例があります。また、ヒヤリハット情報の収集においても、外国人が母国語で投稿できる仕組みを作ることで、潜在的なリスクを洗い出すことができます。
一方で、再発防止策が形式的なものにとどまり、現場の外国人が理解できないままであれば、同様の事故が繰り返されるでしょう。それは再び「受入れ停止リスク」に直面することを意味します。登録支援機関のサポートを最大限に活用し、外国人材が安心して働ける環境を再構築することが、企業の責務であり、安定した雇用継続への近道です。
まとめ
外国人材の労災事故対応は、初動のスピードと正確な状況把握、そして入管法まで見据えたコンプライアンス対応が求められます。一つのミスが、企業の外国人雇用全体を揺るがす事態になりかねません。万が一の事故発生時や、安全管理体制の構築に不安がある場合は、外国人雇用に精通した社会保険労務士へご相談ください。
特定技能・外国人雇用に関する詳しい情報はこちらのブログ一覧もご参照ください。
監修者プロフィール
本記事は、HR BrEdge社会保険労務士法人に所属する特定社会保険労務士・渡辺俊一が監修しています。法人顧問業務を中心に、給与計算、労務相談、就業規則整備など、企業のバックオフィス全体を支える実務に携わってきました。
日常的な労務相談から、制度設計、実務運用、トラブル予防まで、「現場で実際に起こること」を前提とした支援を行っています。特に、従業員100名以上規模の企業における実務の属人化や判断が分かれやすい場面への対応を得意としています。
- 社会保険労務士(登録番号:第27070207号・平成19年11月1日登録・平成24年5月1日特定社会保険労務士付記)
- キャリアコンサルタント(登録番号:16131446・平成28年8月23日登録)
- HR BrEdge社会保険労務士法人 代表社員
- 法人顧問を中心とした労務管理・給与計算の実務支援
- 就業規則・社内ルール整備を含む制度運用支援
- 企業向け労務管理に関する書籍・実務資料の執筆・監修
- 経営者・人事担当者向け研修・セミナー講師実績
制度の解説にとどまらず、「このケースではどう判断すべきか」「どこでトラブルになりやすいか」といった実務上の判断ポイントを重視した情報提供を行っています。
大阪なんば駅徒歩1分
給与計算からIPO・M&Aに向けた労務監査まで
【全国対応】HR BrEdge社会保険労務士法人


