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【社労士解説】特定技能の転職妨害は違法?受入れ停止リスクを回避する健全な雇用管理の境界線

2026.02.10 社労士コラム

特定技能外国人の「転職の自由」を侵害する行為が企業にもたらす致命的な法的リスク

特定技能制度の活用が進む中、企業にとって頭を悩ませるのが「せっかく採用した外国人がすぐに転職してしまう」というリスクです。しかし、その離職を恐れるあまり、行き過ぎた引き止めや管理を行ってしまうと、法律違反として厳しい処分を受ける可能性があります。

特定技能外国人は、技能実習生とは異なり、原則として「転職の自由」が認められています。この権利を不当に制限することは、入管法や労働基準法に抵触するだけでなく、最悪の場合、企業名が公表されたり、今後5年間にわたり新たな外国人の受け入れができなくなったりするリスクをはらんでいます。

本記事では、外国人雇用に強い社会保険労務士が、どこからが「転職妨害」になるのかという法的な境界線と、トラブルを未然に防ぎながら定着率を高めるための健全なマネジメント手法について、実務的な観点から解説します。

Q1. 特定技能外国人の転職を自社の就業規則や契約で禁止することはできますか?

【結論】一切できません。特定技能外国人には日本人と同様に「職業選択の自由」があり、転職を禁止する契約は無効です。

特定技能制度において、企業が最も誤解しやすいポイントの一つがこの「転職の自由」です。技能実習制度では、原則として実習期間中の転籍(転職)が認められていませんでしたが、特定技能はあくまで「就労」を目的とした在留資格であるため、日本人社員と同様に、本人の意思で自由に転職先を選ぶ権利が保障されています。

実務上の注意点として、雇用契約書に「契約期間中は退職できない」といった条項を設けても、民法や労働基準法に照らして無効となります。一方で、民法第627条に基づき「退職の申し出は2週間前までに行うこと」といった、日本人社員と同様の合理的な退職手続きルールを就業規則で定めることは可能です。企業側は「辞めさせない」ことではなく、「辞めたくないと思わせる」環境づくりに注力する必要があります。

Q2. 逃亡や急な退職を防ぐために、パスポートや在留カードを会社で管理・保管してもよいですか?

【結論】違法です。本人の意思に関わらず、パスポートや在留カードを保管することは入管法で厳しく禁止されています。

「失踪されたら困る」「管理の一環として」という理由で、企業や登録支援機関が外国人のパスポートや在留カードを取り上げるケースが稀に見受けられますが、これは絶対に行ってはいけません。入管法(出入国管理及び難民認定法)において、これらの書類を預かる行為は明確に禁止されており、違反した場合は処罰の対象となります。

実務上よくあるケースとして、「金庫で大切に保管してあげている」という善意のつもりであっても、本人が自由に持ち出せない状態であれば違法とみなされます。一方で、コピー(写し)を人事台帳として保管することは雇用管理上必要かつ適法ですので、原本管理と混同しないよう注意が必要です。

Q3. 採用や支援にかかった費用が高額なため、早期退職時に違約金や研修費を請求することはできますか?

【結論】違法です。労働契約の不履行について違約金を定めたり、損害賠償を予定する契約を結ぶことは労働基準法第16条で禁止されています。

特定技能外国人の採用には、紹介料や渡航費、事前ガイダンスなどの初期費用がかかります。しかし、「1年以内に辞めたら30万円支払うこと」といった違約金契約や、「毎月の給与から積立金をして、満期まで勤めたら返金する」といった強制貯金は法律で禁止されています。

実際の顧問先では、正当な「貸付金」と「違約金」の区別がつかずトラブルになるケースがあります。例えば、本人が個人的に負担すべき渡航費を会社が一時的に立て替え、合意の上で分割返済することは可能ですが、これを「辞めるなら一括で返せ、返せないなら働け」と強要すれば、強制労働(労働基準法第5条違反)とみなされるリスクが高まります。費用の取り扱いについては、必ず専門家に相談し、適法な契約書を作成してください。

Q4. 優秀な人材を引き止めるための交渉はどこまで許されますか?「妨害」になる境界線を知りたいです。

【結論】待遇改善の提案や慰留の説得は可能ですが、退職手続きの拒否や威圧的な言動を行った時点で「妨害」となります。

企業として、戦力である人材に「残ってほしい」と伝えること自体は問題ありません。「給与を見直す」「希望の部署に異動させる」といったポジティブな提案を行い、本人が納得して残留を決めるのであれば、それは健全な労務管理です。

一方で、以下のような行為は「転職妨害」とみなされる可能性が高いデッドラインです。

  • 退職届の受け取りを拒否する
  • 「この業界で働けなくしてやる」などと脅す
  • 離職票や源泉徴収票の発行を遅らせる
  • 新しい受入れ機関(転職先)からの必要書類の求めに応じない

特に特定技能の場合、転職先でのビザ変更申請に「退職証明書」や「源泉徴収票」が必要になるため、これらの発行を故意に遅らせることは、新しい就労機会を直接的に阻害する悪質な行為と判断されます。

Q5. 転職妨害とみなされた場合、企業にはどのようなペナルティがありますか?

【結論】「不正行為」として認定され、今後5年間、特定技能外国人だけでなく技能実習生の受け入れも停止される可能性があります。

出入国在留管理庁は、特定技能外国人の受入れ機関(企業)に対して厳しい適合要件を設けています。転職妨害などの人権侵害行為や、入管法・労働関係法令違反があった場合、その企業は「欠格事由」に該当すると判断されます。

最も恐ろしいのは、この処分が「特定技能」だけにとどまらない点です。一度「不正行為を行った機関」として認定されると、特定技能外国人の受入れが取り消されるだけでなく、技能実習生の受入れもできなくなります。さらに、企業名が公表されることで、日本人求職者や取引先からの信頼も失墜し、企業ブランドに甚大なダメージを与えることになります。たった1人の転職を無理に止めようとした結果、会社全体の外国人雇用が5年間ストップするという最悪の事態は絶対に避けなければなりません。

Q6. 賃金アップ以外で離職を防ぐ効果的な方法はありますか?

【結論】キャリアパスの明確化と、生活面での孤立を防ぐ手厚い支援体制がエンゲージメントを高めます。

「給料が高いところへ転職するのは仕方がない」と諦めている企業も多いですが、実は離職理由は金銭面だけではありません。将来のビジョンが見えない不安や、職場での孤立感が引き金になることが多々あります。

これまで多くの企業を支援してきた中で、定着率の高い企業は共通して「あなたに期待している役割」を明確に伝えています。「特定技能2号」へのステップアップや、リーダー職への登用など、長期的なキャリアパスを示すことで、帰属意識を高めることができます。また、日本語学習のサポートや、母国語で相談できるメンターの配置など、業務外の不安を取り除く取り組みも非常に効果的です。

Q7. 日本人社員との待遇差が離職原因になることはありますか?

【結論】大いにあります。特定技能外国人は日本人と同等以上の報酬が義務付けられており、不合理な待遇差は違法かつ離職の主因となります。

特定技能制度では、同じ業務に従事する日本人と同等額以上の報酬を支払うことが要件となっています。しかし、現場では「外国人だから」という理由で、手当がつかなかったり、昇給の対象外になっていたりするケースが見受けられます。

実務上、本人は「日本人社員の給与明細」を見せ合って比較していることがよくあります。説明のつかない格差があると、会社への不信感は決定的になります。一方で、経験年数や日本語能力に応じた合理的な等級制度に基づく差であれば問題ありません。重要なのは、評価基準を透明化し、本人に納得感のある説明ができる状態にしておくことです。

Q8. 登録支援機関のサポート不足で転職されるケースはありますか?

【結論】頻繁にあります。義務的支援が実施されていない、相談に乗ってくれないといった不満は、会社への不信感に直結します。

特定技能1号の場合、企業は自社または登録支援機関に委託して、事前ガイダンスや定期面談などの支援を行う義務があります。しかし、委託した登録支援機関が「名ばかり」で、実際には3ヶ月に1回の面談も行っていなかったり、緊急時の対応をしなかったりするケースが後を絶ちません。

外国人本人からすれば、登録支援機関は「会社が選んだパートナー」です。支援機関の対応が悪いと、「会社は自分を大切にしていない」と受け取られ、転職の動機になります。実際に、支援機関を切り替えてサポート体制を手厚くしただけで、外国人の表情が明るくなり、定着率が改善した事例は数多く存在します。

Q9. 登録支援機関を変更する際、トラブルを防ぐにはどうすればよいですか?

【結論】契約解除の条件を事前に確認し、支援業務のデータ引き継ぎを確実に行うことが重要です。

現在の登録支援機関に不満がある場合、委託先を変更することは可能です。しかし、スムーズに移行できないと、支援の空白期間が生まれ、法令違反になるリスクがあります。

実務上のポイントとして、まずは現在の委託契約書を確認し、解約予告期間(例:3ヶ月前通知など)や違約金の有無をチェックしてください。その上で、新しい支援機関を選定し、過去の支援実施記録や生活オリエンテーションのデータなどを確実に引き継ぐ必要があります。特に、定期届出の時期と重なると手続きが煩雑になるため、特定技能に精通した社労士や、信頼できる新しい登録支援機関のサポートを受けながら進めることを強く推奨します。

まとめ

特定技能外国人の転職を防ぐために必要なのは、法的な強制力ではなく、働きやすい環境づくりと信頼関係の構築です。転職妨害は企業にとって百害あって一利なしのリスク行為であり、コンプライアンスを遵守した健全な雇用管理こそが、結果として長く働いてもらうための近道となります。

もし現在の登録支援機関の対応に疑問を感じている場合や、自社の雇用管理が法的に問題ないか不安な場合は、特定技能制度に精通した専門家への相談をお勧めします。

特定技能・外国人雇用に関する詳しい情報はこちらのブログ一覧もご参照ください。

監修者プロフィール

本記事は、HR BrEdge社会保険労務士法人に所属する特定社会保険労務士・渡辺俊一が監修しています。法人顧問業務を中心に、給与計算、労務相談、就業規則整備など、企業のバックオフィス全体を支える実務に携わってきました。

日常的な労務相談から、制度設計、実務運用、トラブル予防まで、「現場で実際に起こること」を前提とした支援を行っています。特に、従業員100名以上規模の企業における実務の属人化や判断が分かれやすい場面への対応を得意としています。

  • 社会保険労務士(登録番号:第27070207号・平成19年11月1日登録・平成24年5月1日特定社会保険労務士付記)
  • キャリアコンサルタント(登録番号:16131446・平成28年8月23日登録)
  • HR BrEdge社会保険労務士法人 代表社員
  • 法人顧問を中心とした労務管理・給与計算の実務支援
  • 就業規則・社内ルール整備を含む制度運用支援
  • 企業向け労務管理に関する書籍・実務資料の執筆・監修
  • 経営者・人事担当者向け研修・セミナー講師実績

制度の解説にとどまらず、「このケースではどう判断すべきか」「どこでトラブルになりやすいか」といった実務上の判断ポイントを重視した情報提供を行っています。

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