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外国人パワハラの定義と相談対応|特定技能の受入れ停止を招く「指導」の境界線を社労士が解説

2026.02.09 社労士コラム

「何度言っても分からないから、つい強い口調になってしまった」「日本式の厳しさを教えるのも愛情だと思っていた」。特定技能外国人の受入れ現場で、このような「良かれと思った指導」がパワハラと認定され、企業の存続を揺るがすケースが後を絶ちません。言葉や文化の壁がある外国人雇用において、日本人同士なら「あうんの呼吸」で済まされる指導も、深刻なハラスメントリスクとなり得ます。

本記事では、特定技能制度に精通した社会保険労務士が、外国人社員に対するパワハラの定義と、受入れ停止処分(行政処分)を回避するための実務対応を解説します。指導とパワハラの境界線、相談窓口の整備、そして登録支援機関の活用法まで、現場で即実践できるノウハウをお伝えします。

「良かれと思って」が命取り?外国人社員がパワハラと感じる3つの文化的ギャップ

【結論】日本特有の「察する文化」や「精神論」に基づく指導は、外国人社員にとってパワハラと受け取られる可能性が極めて高いです。

多くの日本企業では「背中を見て覚える」「厳しく叱責して育てる」といった指導が一部で残っていますが、これはハイコンテクストな日本文化の中でのみ成立するものです。一方で、合理性を重んじる文化圏出身の外国人材であれば、理由の不明確な叱責は単なる攻撃とみなされます。

  • 人前での叱責:「恥」の文化が強いアジア圏の人材であっても、同僚の前で怒鳴られることは名誉毀損レベルの屈辱と感じ、即時の離職や通報につながります。
  • 曖昧な指示と責任追及:「もっとうまくやって」といった具体的でない指示の後に「なぜできないんだ」と責めることは、理不尽な強要としてハラスメント認定されやすいポイントです。

実際の顧問先でも、「熱心に指導していたつもりが、本人にとっては恐怖でしかなかった」というケースが散見されます。指導する際は、感情ではなく「具体的な行動」に焦点を当てることが鉄則です。

特定技能制度における「パワハラ」は単なる労務問題ではない。受入れ停止に直結する行政処分のリスク

【結論】特定技能外国人にパワハラを行った場合、出入国在留管理庁から「受入れ停止処分」を受ける可能性があり、最悪の場合、今後5年間は新たな受入れができなくなります。

一般的な労務トラブルであれば、是正勧告や損害賠償で済むこともありますが、特定技能制度においては「不正行為」として厳格に扱われます。入管法に基づく運用要領では、人権侵害行為(暴行、脅迫、自由の制限など)があった場合、その企業は特定技能所属機関としての適格性を欠くと判断されます。

  • 受入れ停止の範囲:当該外国人だけでなく、現在雇用している他の特定技能外国人の更新も認められなくなるリスクがあります。
  • 企業名の公表:不正行為を行った受入れ機関として法務省のホームページ等で公表され、採用ブランディングに致命的なダメージを与えます。

一方で、早期に事実を把握し、適切な改善措置と報告を行っていれば、情状酌量の余地が生まれることもあります。パワハラは「個人の問題」ではなく「経営リスク」として捉える必要があります。

「厳しい指導」と「パワハラ」の分かれ道。外国人雇用で特に注意すべき6つの言動

【結論】業務の適正範囲を超えた「人格否定」や、日本語能力を嘲笑するような言動は、指導の意図があっても明確なパワハラに該当します。

厚生労働省が定めるパワハラの6類型(身体的攻撃、精神的攻撃、人間関係の切り離し、過大な要求、過小な要求、個の侵害)は、外国人雇用においても当然適用されます。しかし、現場では以下の言動が「指導」の名の下に行われがちです。

  • 能力の否定:「日本語が下手だから仕事ができない」「国に帰れ」といった発言は、業務指導の範囲を逸脱した精神的攻撃です。
  • 私生活への過干渉:寮生活の管理において、必要以上に私物を検査したり、休日の行動を制限したりすることは「個の侵害」にあたります。

実務上よくあるケースとして、安全管理上の注意(ヘルメット着用など)で大声を出すことは業務上必要と認められますが、その際に「バカ」「アホ」などの暴言が混ざればアウトです。指導記録を残し、客観的に見て適正範囲内であることを証明できる体制が求められます。

言葉の壁が引き起こす「無視」と「孤立」。実務上よくあるコミュニケーション不全の罠

【結論】意図的な無視(ネグレクト)でなくとも、伝わらない日本語での指示を放置し、結果として孤立させることは「人間関係の切り離し」とみなされる恐れがあります。

日本人社員が「どうせ通じないから」と会話を諦め、外国人社員を蚊帳の外に置いてしまう状況は、現場で頻繁に起こります。これがいじめや嫌がらせの意図がなかったとしても、受け手にとっては「無視されている」「チームの一員として認められていない」という強い疎外感を生みます。

  • 情報の非対称性:日本人社員には口頭で伝える変更事項を、外国人社員には伝えないままミスを誘発させる状況は、パワハラの一種と判断されかねません。
  • 休憩時間の分離:言葉が通じないからといって、休憩や食事の席を意図的に分けるような雰囲気作りも要注意です。

一方で、翻訳ツールを活用したり、やさしい日本語で歩み寄る姿勢を見せていれば、信頼関係は構築できます。コミュニケーションの放棄は、ハラスメントの温床になることを認識しましょう。

相談窓口が機能しない本当の理由。外国人社員が「SOS」を出せる体制構築のポイント

【結論】社内窓口だけでは機能不全に陥りやすいため、母国語で相談でき、かつ不利益な扱いを受けないことが保証された「第三者の窓口」が不可欠です。

特定技能制度では、支援計画の中に「苦情・相談への対応」が含まれていますが、形式的に担当者を置いただけでは意味がありません。「上司に知られたら解雇されるかもしれない」「日本語でうまく説明できない」という不安が、相談のハードルを極端に上げているからです。

  • 多言語対応の重要性:微妙なニュアンスを伝えるには母国語対応が必須です。通訳人を介するか、多言語対応可能な登録支援機関と連携する必要があります。
  • 秘密保持の徹底:相談した事実が加害者(上司など)に漏れない仕組みを明示し、安心してSOSを出せる環境を作ることが先決です。

これまで多くの企業を支援してきた中で、相談箱を設置しても一件も投書がない企業ほど、水面下で深刻な問題が進行している傾向があります。相談がない=問題がない、ではありません。

登録支援機関の変更を検討すべきサイン?パワハラを未然に防ぐ「中立的な支援」の重要性

【結論】登録支援機関が企業寄りすぎて、外国人社員の正当な訴えを握りつぶしている場合は、即座に機関の変更や支援体制の見直しを検討すべきです。

登録支援機関は、受入れ企業と外国人社員の間に入り、中立的な立場で支援を行う役割を担っています。しかし、契約維持を優先するあまり、企業の顔色を伺って外国人社員の苦情を無視するケースも残念ながら存在します。これでは、トラブルが行政機関への通報という最悪の形で表面化するまで放置されてしまいます。

  • 定期面談の形骸化:3ヶ月に1回の定期面談が、単なる書類作成のための儀式になっていないか確認してください。本音を引き出せていない面談は無意味です。
  • 問題解決能力の欠如:小さなトラブルの芽を摘めず、常に事後対応に追われている機関であれば、パートナーとしての適性を疑う必要があります。

一方で、企業に対して耳の痛いことでも率直に指摘し、改善提案をしてくれる登録支援機関こそが、結果として企業を守ってくれる存在です。

もしパワハラが発生したら。初動対応で企業の命運を分ける調査手順と事実確認の進め方

【結論】被害者・加害者双方からの迅速かつ公平なヒアリングを行い、事実関係を特定した上で、就業規則に基づいた厳正な処分を行うことが最優先です。

パワハラの訴えがあった際、「外国人の勘違いだろう」と予断を持って対応を遅らせることは致命的です。初動の遅れは、SNSでの拡散やユニオン(労働組合)の介入、入管への通報など、事態を複雑化させる要因となります。

  • 隔離措置:事実確認が完了するまで、被害者と加害者の接触を避けるための配置転換や自宅待機を検討します。
  • 記録の保全:メール、LINE、防犯カメラの映像など、客観的な証拠を早期に確保します。言葉の解釈違いも考慮し、通訳を入れたヒアリングを実施してください。

企業の状況によって判断が異なりますが、事実であれば加害者の処分を躊躇してはいけません。「会社は不正を許さない」という姿勢を示すことが、他の外国人社員の安心感と定着につながります。最終的な判断に迷う場合は、弁護士や社労士への個別相談が必要です。

「やさしい日本語」がパワハラを防ぐ。誤解を生まない業務指示のルール化と定着支援

【結論】曖昧な指示を排除し、「短く、はっきりと、具体的に」伝える「やさしい日本語」を社内公用語としてルール化することが、予防策として極めて有効です。

多くのパワハラ事案は、悪意ではなく「伝わらないイライラ」から始まります。「適当にやっておいて」「あれ取って」といった指示は、外国人社員にとって解読不能な暗号です。これを理解できないことを叱責するのは、指示を出す側のスキル不足と言えます。

  • 指示の具体化:「きれいに掃除して」ではなく「ゴミを拾って、モップをかけてください」と伝えます。
  • 確認の徹底:「わかりましたか?」と聞くのではなく、「何をしますか?」と復唱させて理解度を確認します。

実務上、日本人社員向けに「やさしい日本語研修」を実施した企業では、業務ミスが減少し、結果として怒鳴り声が消え、職場の雰囲気が劇的に改善した事例が多数あります。

特定技能の定着率を最大化する。パワハラ防止を「リスク管理」から「成長戦略」へ変える視点

【結論】パワハラ防止対策を単なるコンプライアンス遵守と捉えず、生産性と定着率を高めるための「人材投資」と位置づけることで、企業の競争力は向上します。

特定技能外国人は、転職が可能な在留資格です。劣悪な環境であれば、より条件の良い、人間関係の良い職場へと簡単に移ってしまいます。採用コストや教育コストを無駄にしないためにも、心理的安全性の高い職場づくりは経営課題そのものです。

  • リテンション効果:「この会社は自分たちを大切にしてくれる」という評判は、外国人コミュニティ内で広まり、優秀な人材が集まるリファラル採用にもつながります。
  • 日本人社員への波及:わかりやすい指示やハラスメントのない環境は、外国人だけでなく、若手日本人社員にとっても働きやすい職場となります。

一方で、対策を怠れば「ブラック企業」のレッテルを貼られ、人材不足倒産のリスクが高まります。多様な人材が活躍できる土壌を作ることこそが、これからの時代を生き抜く最強の戦略です。

まとめ

特定技能外国人の受入れにおいて、パワハラ問題は単なる人間関係のトラブルではなく、事業継続に関わる重大なリスクです。文化的ギャップや言葉の壁を理解し、適切な指導とコミュニケーション体制を構築することが、受入れ停止処分を防ぎ、企業の成長を支える鍵となります。

登録支援機関の選定や社内ルールの整備など、自社だけで対応が難しい場合は、専門家のサポートを受けることも有効な手段です。外国人社員が能力を最大限に発揮できる環境を整え、共に成長できる企業を目指しましょう。

特定技能・外国人雇用に関する詳しい情報はこちらのブログ一覧もご参照ください。

監修者プロフィール

本記事は、HR BrEdge社会保険労務士法人に所属する特定社会保険労務士・渡辺俊一が監修しています。法人顧問業務を中心に、給与計算、労務相談、就業規則整備など、企業のバックオフィス全体を支える実務に携わってきました。

日常的な労務相談から、制度設計、実務運用、トラブル予防まで、「現場で実際に起こること」を前提とした支援を行っています。特に、従業員100名以上規模の企業における実務の属人化や判断が分かれやすい場面への対応を得意としています。

  • 社会保険労務士(登録番号:第27070207号・平成19年11月1日登録・平成24年5月1日特定社会保険労務士付記)
  • キャリアコンサルタント(登録番号:16131446・平成28年8月23日登録)
  • HR BrEdge社会保険労務士法人 代表社員
  • 法人顧問を中心とした労務管理・給与計算の実務支援
  • 就業規則・社内ルール整備を含む制度運用支援
  • 企業向け労務管理に関する書籍・実務資料の執筆・監修
  • 経営者・人事担当者向け研修・セミナー講師実績

制度の解説にとどまらず、「このケースではどう判断すべきか」「どこでトラブルになりやすいか」といった実務上の判断ポイントを重視した情報提供を行っています。

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