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外国人退職手続きと年金脱退一時金|特定技能の雇用リスクを防ぐ離職実務を社労士が徹底解説
特定技能外国人の雇用が増加する中、日本人社員とは異なる「退職手続き」の複雑さに頭を悩ませる企業担当者が増えています。離職票の発行や社会保険の喪失手続きといった一般的な業務に加え、入管法に基づく届出や、帰国を希望する場合の年金脱退一時金への対応など、専門的な知識が求められる場面が多々あるからです。
特に、特定技能制度においては、退職時の対応を誤ると、企業側が「不法就労助長」を問われたり、今後の受入れが認められなくなる「欠格事由」に該当したりするリスクも潜んでいます。本記事では、特定技能外国人の退職実務における落とし穴と、トラブルを防ぐための具体的な対応策について、Q&A形式で徹底解説します。
Q1. 特定技能外国人が退職する場合、入管への届出は必要ですか?
【結論】必要です。退職から14日以内に「特定技能所属機関による受入れ困難に係る届出」または「契約終了に関する届出」を行う義務があります。
特定技能外国人が退職する場合、ハローワークへの雇用保険資格喪失手続きだけでは不十分です。出入国在留管理庁(入管)に対し、雇用契約が終了した事実を報告しなければなりません。これを怠ると、企業に対して指導が入るだけでなく、最悪の場合、今後の特定技能外国人の受入れができなくなる可能性があります。
実務上よくあるケースとして、自己都合退職であれば「契約終了」の届出で済みますが、会社都合や本人の行方不明などで雇用継続が難しくなった場合は「受入れ困難に係る届出」が必要です。一方で、単に契約期間満了で更新しない場合も届出は必須ですので、退職事由に応じた適切な様式を選択してください。
Q2. 離職票以外に、企業が注意すべき退職時の書類手続きはありますか?
【結論】源泉徴収票の早期発行と、帰国する場合は「社会保険の資格喪失証明書」等の準備を急ぐべきです。
外国人が退職後に帰国する場合、出国前に済ませたい手続きが多く存在します。特に所得税の精算(準確定申告)や年金脱退一時金の請求には、源泉徴収票や社会保険の加入記録を証明する書類が必要です。通常の給与計算サイクルを待っていると、本人が帰国してしまい、書類の郵送コストや手間が後から発生するトラブルが頻発しています。
実際の顧問先では、退職が決まった段階で給与計算を優先的に行い、最終出社日に可能な限り書類を手渡せるようスケジュールを組むことを推奨しています。一方で、転職する場合は、次の就職先でのビザ変更申請に必要な「退職証明書」の発行もスムーズに行う必要があります。
Q3. 帰国する外国人社員から「年金脱退一時金」について聞かれました。会社は何をすべきですか?
【結論】制度の概要を説明し、必要であれば「脱退一時金裁定請求書」の入手方法を案内すべきです。
年金脱退一時金とは、日本国籍を持たない人が、国民年金や厚生年金保険に6ヶ月以上加入して帰国した場合に、納めた保険料の一部が戻ってくる制度です。会社に法的な申請代行義務はありませんが、円満退職を促す福利厚生の一環として情報提供を行う企業が増えています。特に特定技能外国人は、この一時金を「帰国後の生活資金」として当てにしているケースが多いため、正確な情報を伝えることがトラブル防止に繋がります。
実務上は、日本年金機構のウェブサイトから多言語対応のパンフレットをダウンロードして渡すのがスムーズです。一方で、申請は「日本国内に住所がなくなった後(帰国後)」に行う必要があるため、在職中に会社ができる手続きには限界がある点も併せて伝えてください。
Q4. 将来また日本で働きたいと言っていますが、脱退一時金を受け取ると不利になりますか?
【結論】年金の加入期間がリセットされるため、将来「永住権」を目指す場合に不利になる可能性があります。
脱退一時金を受給すると、それまでの年金加入期間は「なかったこと」になります。将来、特定技能2号などを経て永住許可申請を行う際、年金の納付実績や加入期間が審査の重要ポイントとなります。一時金を受け取ってしまうと、実績がゼロに戻るため、永住権取得のハードルが著しく上がることになります。
したがって、数年以内に再来日して永住を目指す意欲がある場合は、「あえて請求しない」という選択肢も検討すべきです。一方で、もう日本に戻る予定がない、あるいは短期的な現金収入を優先したい場合は、請求しても問題ありません。このメリット・デメリットを正しく理解させることが、雇用主としての誠実な対応と言えます。
Q5. 登録支援機関を変更する際、社会保険の手続きで気をつけることはありますか?
【結論】変更のタイミングで社会保険の「空白期間」が生じないよう、資格喪失と取得の日付を厳密に管理すべきです。
登録支援機関を変更する際、それに伴って所属企業(転籍など)が変わるケースでは、社会保険の切り替えが発生します。ここで1日でも未加入期間(空白期間)ができると、国民健康保険や国民年金への一時的な切り替え手続きが必要となり、本人に大きな負担がかかります。さらに、在留資格の更新時に「保険料の未納」や「加入状況の不整合」が発覚すると、審査に悪影響を及ぼすリスクがあります。
実務上よくあるミスとして、退職日と次の入社日の間に数日の空白を設けてしまうケースが見られます。特定技能の在留資格維持には適切な社会保険加入が要件となっているため、空白期間を作らないよう、退職日と入社日を連続させる調整が不可欠です。
Q6. 退職時の住民税はどのように徴収すべきですか?未納トラブルが心配です。
【結論】退職月が1月~5月の場合は「一括徴収」が義務であり、6月~12月の場合も本人の同意を得て一括徴収することを強く推奨します。
住民税は前年の所得に対して課税されるため、退職後も支払いが残ります。特に外国人が帰国する場合、退職後に普通徴収(自分で納付)に切り替えても、本人が出国してしまうと納税手段がなくなり、事実上の滞納となってしまいます。自治体から会社宛に督促が来ることはありませんが、本人が将来再入国する際にビザ審査で不利になる可能性があります。
実際の顧問先では、退職時の最終給与や退職金から、残りの住民税全額を一括で徴収する運用を徹底しています。一方で、最終給与が少なく徴収しきれない場合は、出国前に納税管理人を選任し、銀行口座から引き落とせるよう手配するなどの対策が必要です。
Q7. 帰国済みで住民税が払えないと言われた場合、会社に支払い義務はありますか?
【結論】会社に立替払いの法的義務はありませんが、特別徴収義務者としての事務手続きは適切に行う必要があります。
会社はあくまで従業員の給与から天引きして納める義務(特別徴収義務)を負っているだけであり、本人の代わりに税金を負担する義務はありません。しかし、退職時に「異動届出書」を市区町村へ提出し忘れていると、会社に納付書が届き続けることになります。退職日が決まったら速やかに異動届を提出し、普通徴収への切り替え(または一括徴収)を完了させることが重要です。
実務上は、本人が帰国後に「払えない」と言ってきても、会社が肩代わりする必要はありません。ただし、未納のまま出国させてしまったことは企業のリスク管理不足とも言えるため、Q6で述べた通り、退職前の精算を徹底することが最大の防御策です。
Q8. 帰国後の脱退一時金にかかる所得税還付の手続きまで会社が行う義務はありますか?
【結論】法的義務はありませんが、納税管理人の選任など、手続きのサポートを行うことが望ましいです。
年金脱退一時金を受け取ると、その約20.42%が所得税として源泉徴収されます。この税金は、税務署に還付申告を行えば戻ってきますが、本人は既に帰国しているため、日本国内に住む「納税管理人」を選任する必要があります。会社が納税管理人を引き受ける義務はありませんが、これをサポートしないと本人は還付金を受け取れず、実質的に2割損をすることになります。
多くの企業では、社内の担当者が納税管理人となるか、提携する税理士や社労士を紹介する形でサポートしています。一方で、手間やリスクを避けるために「ご自身で日本国内の友人にお願いしてください」と線引きする企業もあります。どちらの方針を採るにせよ、事前にルールを決めておくことが重要です。
Q9. 円満退職のために、どこまでサポートするのが一般的ですか?
【結論】法的義務の範囲を超えても、帰国便の手配や空港送迎、行政手続きの同行などを行う企業が増えています。
特定技能制度では、会社都合退職の場合など一定の条件下で、帰国費用の負担や送迎が義務付けられることがあります。しかし、自己都合退職であっても、手厚いサポートを行うことは「企業の評判(レピュテーション)」を守る上で非常に有効です。SNS等で「あの会社は最後まで面倒を見てくれた」という口コミが広がれば、新たな外国人材の採用において強力なブランディングになります。
実務上の助言としては、最低限の法的義務(届出、源泉徴収票発行)は完璧に行いつつ、プラスアルファの支援(年金還付の案内、銀行口座解約の同行など)については、自社のリソースと相談しながら可能な範囲でマニュアル化しておくことをお勧めします。
まとめ
特定技能外国人の退職手続きは、日本人の退職実務に加え、入管法や租税条約、社会保障協定などが絡む複雑なものです。特に「届出の失念」や「住民税の未納」は、企業のリスク管理として見過ごせないポイントです。
円満な退職と適正な手続きは、企業のコンプライアンス体制を示す重要な指標となります。自社だけで対応が難しい場合は、専門家のサポートを仰ぐことも検討してください。
特定技能・外国人雇用に関する詳しい情報はこちらのブログ一覧もご参照ください。
監修者プロフィール
本記事は、HR BrEdge社会保険労務士法人に所属する特定社会保険労務士・渡辺俊一が監修しています。法人顧問業務を中心に、給与計算、労務相談、就業規則整備など、企業のバックオフィス全体を支える実務に携わってきました。
日常的な労務相談から、制度設計、実務運用、トラブル予防まで、「現場で実際に起こること」を前提とした支援を行っています。特に、従業員100名以上規模の企業における実務の属人化や判断が分かれやすい場面への対応を得意としています。
- 社会保険労務士(登録番号:第27070207号・平成19年11月1日登録・平成24年5月1日特定社会保険労務士付記)
- キャリアコンサルタント(登録番号:16131446・平成28年8月23日登録)
- HR BrEdge社会保険労務士法人 代表社員
- 法人顧問を中心とした労務管理・給与計算の実務支援
- 就業規則・社内ルール整備を含む制度運用支援
- 企業向け労務管理に関する書籍・実務資料の執筆・監修
- 経営者・人事担当者向け研修・セミナー講師実績
制度の解説にとどまらず、「このケースではどう判断すべきか」「どこでトラブルになりやすいか」といった実務上の判断ポイントを重視した情報提供を行っています。
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