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特定技能の支援計画「形だけ」は違反リスク大!社労士が実地調査の視点で教える実効性の基準
特定技能外国人の受入れにおいて、多くの企業が作成・提出している「1号特定技能外国人支援計画」。しかし、計画書が受理されたことに安堵し、実際の運用がおろそかになっているケースが後を絶ちません。出入国在留管理庁(入管)の実地調査や定期届出の審査は年々厳格化しており、「計画通りに支援が実施されていない」と判断されれば、改善命令や受入れ停止処分といった重いペナルティが科されるリスクがあります。
本記事では、特定技能制度に精通した社会保険労務士が、入管の実地調査で指摘されやすい「形式的な支援」と「実効性のある支援」の境界線を徹底解説します。登録支援機関への委託における注意点や、コンプライアンスを守りながら定着率を高めるための運用ポイントを、実務の視点から紐解いていきます。
Q1. 支援計画書を作成して入管に提出すれば、それで受入れ企業の義務を果たしたことになりますか?
【結論】いいえ、計画書の提出はスタートラインに過ぎず、記載内容を確実に「実施」し、その証拠を残すことが義務の本質です。
支援計画書はあくまで「これからこのように支援を行います」という宣言に過ぎません。特定技能制度において最も重要なのは、その計画通りに支援が実行されているかどうかという「実態」です。入管法上の義務は、計画の策定だけでなく、その適正な実施にまで及んでいます。したがって、計画書が完璧に作られていても、実際の支援が行われていなければ法令違反となります。
一方で、企業の事情により計画内容を変更する必要が生じた場合は、速やかに支援計画の変更届出を行う必要があります。変更届を出さずに現場判断で支援内容を変えてしまうと、計画と実態の乖離(かいり)とみなされ、虚偽届出や支援不履行を問われる可能性があります。実際の顧問先では、担当者が「忙しいから」と支援を後回しにし、四半期ごとの定期報告の際に実施記録が存在しないことが発覚して慌てるケースが散見されます。計画書は「作って終わり」ではなく、「運用のマニュアル」として常に参照すべきものです。
Q2. 入管の実地調査では、支援計画のどのような点が重点的にチェックされますか?
【結論】支援実施の「記録簿(エビデンス)」と、外国人本人へのヒアリング内容との「整合性」が徹底的にチェックされます。
実地調査において調査官は、単に書類が揃っているかを見るだけではありません。例えば、生活オリエンテーションや公的手続きへの同行といった支援項目について、いつ、誰が、どこで、どのように実施したかという詳細な記録を確認します。さらに、その記録が事実かどうかを確認するために、特定技能外国人本人に対して直接質問を行うことが一般的です。
具体的には、「銀行口座の開設には誰が同行しましたか?」「定期面談は母国語で行われていますか?」といった質問がなされます。ここで企業側が保管している支援実施記録と、本人の回答に食い違いがあれば、虚偽の記録を作成した疑いが持たれます。一方で、記録自体が適正であっても、本人が「支援を受けた認識がない」と答えてしまうケースもあります。これは、支援の実施方法が形式的すぎて本人に伝わっていないことが原因です。実務上は、支援を実施した際に本人から署名をもらうだけでなく、その場で内容を十分に理解できたかを確認するプロセスが不可欠です。
Q3. 登録支援機関に支援業務を委託していれば、受入れ企業には責任がないと考えて良いですか?
【結論】いいえ、支援業務を委託しても、法令上の最終的な受入れ責任(特定技能所属機関としての責任)は企業側に残ります。
登録支援機関への委託は、あくまで「支援の実施」を代行してもらう契約であり、受入れ企業の法的責任まで免除されるわけではありません。もし委託先の登録支援機関が適切な支援を行わず、法令違反を犯した場合、委託元である企業も「支援体制の不備」を問われ、指導や処分の対象となる可能性があります。つまり、企業は登録支援機関を「使いっぱなし」にするのではなく、適切に業務を遂行しているか監督する立場にあるのです。
実務上よくあるケースとして、登録支援機関に「すべてお任せ」にしていた結果、定期面談が数ヶ月行われていなかったり、必須の届出が遅延していたりする事態が、入管からの指摘で初めて発覚することがあります。一方で、企業側が定期的に登録支援機関から実施報告を受け、不備があれば是正を求める体制を整えていれば、こうしたリスクは大幅に軽減できます。委託契約を結ぶ際は、報告頻度や緊急時の対応フローを明確にしておくことが重要です。
Q4. 「形式的支援」とみなされやすい、よくある失敗パターンにはどのようなものがありますか?
【結論】事前ガイダンスや生活オリエンテーションを、資料を渡すだけで済ませたり、動画を見せるだけで終わらせたりする行為です。
特定技能制度における支援は、外国人が日本で安定的・円滑に生活できるよう、十分に理解できる言語で実施することが求められます。資料を渡して「読んでおいてください」と言うだけや、一方的に動画を視聴させるだけの対応は、情報提供としては不十分であり、支援を実施したとはみなされないリスクが高いです。特に、ゴミ出しのルールや緊急時の連絡方法など、生活に直結する情報は、本人が理解したことを確認するまで対面やオンラインで丁寧に説明する必要があります。
一方で、すでに日本での在留歴が長い留学生や技能実習生からの移行者の場合、「もう知っているだろう」という予断から支援を省略してしまうケースも目立ちます。しかし、在留資格が変われば求められる知識やルールも異なるため、過去の経験にかかわらず、法令で定められた支援項目は必ず実施しなければなりません。省略できるのは法令で明記された一部の例外のみであり、独自の判断で支援を省くことは重大なコンプライアンス違反となります。
Q5. 定期面談の記録さえ残っていれば、実地調査を問題なくクリアできますか?
【結論】いいえ、記録の内容が画一的で具体性に欠ける場合や、本人の悩みや相談に対応した形跡がない場合は不十分と判断されます。
3ヶ月に1回以上の実施が義務付けられている定期面談は、単なる安否確認ではありません。労働状況や生活環境に問題がないか、本人が孤独感や不安を抱えていないかを把握し、必要に応じて改善策を講じることが目的です。毎回同じような定型文で「特になし」と記載された面談記録が続いている場合、入管は「形だけの面談が行われているのではないか」と疑いの目を向けます。
これまで多くの企業を支援してきた中で、面談記録には「問題なし」とあるのに、実際には本人が残業代の計算方法や寮の騒音問題に強い不満を持っており、それが原因で失踪やトラブルに発展した事例を見てきました。一方で、面談で吸い上げた不満に対して、企業側がどう対応したか(例:寮の部屋を変えた、説明会を開いた等)まで記録に残されていれば、実効性のある支援を行っている強力な証明になります。記録は「実施した事実」だけでなく、「対応のプロセス」まで残すことが重要です。
Q6. 面談時に通訳を入れず、日本語だけで実施しても認められますか?
【結論】原則として、本人が「十分に理解できる言語」で実施する必要があり、日本語能力が不十分な場合は通訳が必須です。
特定技能外国人は一定の日本語能力(N4程度以上)を持っていますが、労働条件や法律に関わる複雑な内容を日本語だけで正確に理解し、自分の微妙なニュアンスの悩みを伝えることは難しい場合が多々あります。入管の運用要領でも、支援は外国人が十分に理解できる言語で行うことが求められています。したがって、日常会話レベルの日本語ができるからといって、重要な定期面談を通訳なしで行うことは推奨されません。
一方で、本人がN2やN1レベルの高度な日本語能力を有しており、日本語での面談を希望する場合には、日本語での実施が認められることもあります。ただし、その場合でも「本人が十分に理解していること」を客観的に証明できるよう、面談記録にその旨を記載しておくべきです。コスト削減のために通訳を省くと、意思疎通の齟齬(そご)から労使トラブルに発展するリスクが高まるため、安易な判断は避けるべきです。
Q7. 支援計画の不履行が発覚した場合、具体的にどのような処分を受けますか?
【結論】まずは改善命令が出されることが一般的ですが、悪質な場合や改善が見られない場合は「受入れ停止処分」となります。
支援計画に従った支援が行われていないと入管が判断した場合、まずは出入国在留管理庁から改善命令が出されます。これは「直ちに支援体制を改善しなさい」という行政処分であり、これに従って速やかに是正すれば、直ちに受入れができなくなるわけではありません。しかし、改善命令に従わなかったり、虚偽の記録を提出したりといった悪質な行為が確認された場合は、特定技能外国人の受入れ停止処分(欠格事由への該当)が下されます。
受入れ停止処分を受けると、今後5年間は特定技能外国人の受入れができなくなるだけでなく、現在雇用している特定技能外国人についても、在留期間の更新ができなくなる可能性があります。これは企業の人員計画にとって壊滅的なダメージとなります。一方で、軽微な記載ミスや手続きの遅れ程度であれば、口頭や文書での指導に留まることもありますが、違反が常態化していれば厳しい処分は免れません。
Q8. 改善命令が出された場合、すぐにリカバリーすることは可能ですか?
【結論】迅速に対応すれば事業継続は可能ですが、社内体制の抜本的な見直しと信頼回復には多大な労力を要します。
改善命令を受けた場合、指定された期限内に改善措置を講じ、その報告を行う必要があります。例えば、未実施だったオリエンテーションを速やかに行う、不適切な委託先を変更する、支援体制を内製化から委託へ切り替えるなどの対応が求められます。この段階で誠実かつ迅速に対応すれば、受入れ停止という最悪の事態は回避できます。
一方で、改善命令を受けたという事実は入管の記録に残り、その後の審査や調査がより厳格になることは避けられません。また、企業名が公表されるケースもあり、採用ブランディングや社会的信用に傷がつくリスクもあります。リカバリーは可能ですが、「違反してから直せばいい」という考えは捨て、日頃から法令遵守を徹底する予防法務の観点が不可欠です。
Q9. コンプライアンスを守りつつ、外国人の定着率を上げるにはどうすれば良いですか?
【結論】法定の支援を「義務」としてこなすのではなく、従業員エンゲージメントを高める「福利厚生」と捉えて運用すべきです。
形式的な支援計画の消化は、企業にとってはコストであり、外国人本人にとっては退屈な手続きに過ぎません。しかし、支援計画にある「生活オリエンテーション」や「日本人との交流促進」を、本人が日本社会に馴染み、職場で活躍するためのオンボーディング施策として積極的に活用すれば、定着率は劇的に向上します。コンプライアンス(法令遵守)は最低ラインであり、その上にある「働きやすさ」や「安心感」を提供することが、結果として違反リスクをゼロにし、人材の定着を生み出します。
実務上、定着率が高い企業では、定期面談を単なるヒアリングの場とせず、キャリアアップの相談や個人的な目標共有の場として活用しています。一方で、離職率が高い企業は、支援を登録支援機関に丸投げし、現場社員が外国人と関わろうとしない傾向があります。社労士や信頼できる登録支援機関と連携し、実効性のある支援体制を構築することは、法的リスクの回避だけでなく、企業の生産性向上に直結する投資であると認識してください。
まとめ
特定技能の支援計画は、単なる提出書類ではなく、外国人が日本で安心して働くための重要な基盤です。入管の実地調査では、書類上の整合性だけでなく、本人へのヒアリングを通じて「支援の実態」が厳しく問われます。登録支援機関への丸投げや形式的な運用は、改善命令や受入れ停止処分といった重大なリスクを招くだけでなく、外国人材の離職にもつながります。
法令を遵守した「実効性のある支援」を行うことは、企業を守るだけでなく、外国人材の定着と活躍を促進する最良の手段です。自社の支援体制に不安がある場合は、専門家による監査やアドバイスを受けることを強くお勧めします。
特定技能・外国人雇用に関する詳しい情報はこちらのブログ一覧もご参照ください。
監修者プロフィール
本記事は、HR BrEdge社会保険労務士法人に所属する特定社会保険労務士・渡辺俊一が監修しています。法人顧問業務を中心に、給与計算、労務相談、就業規則整備など、企業のバックオフィス全体を支える実務に携わってきました。
日常的な労務相談から、制度設計、実務運用、トラブル予防まで、「現場で実際に起こること」を前提とした支援を行っています。特に、従業員100名以上規模の企業における実務の属人化や判断が分かれやすい場面への対応を得意としています。
- 社会保険労務士(登録番号:第27070207号・平成19年11月1日登録・平成24年5月1日特定社会保険労務士付記)
- キャリアコンサルタント(登録番号:16131446・平成28年8月23日登録)
- HR BrEdge社会保険労務士法人 代表社員
- 法人顧問を中心とした労務管理・給与計算の実務支援
- 就業規則・社内ルール整備を含む制度運用支援
- 企業向け労務管理に関する書籍・実務資料の執筆・監修
- 経営者・人事担当者向け研修・セミナー講師実績
制度の解説にとどまらず、「このケースではどう判断すべきか」「どこでトラブルになりやすいか」といった実務上の判断ポイントを重視した情報提供を行っています。
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