新着情報
外国人賃金控除の労使協定書き方|特定技能の手取りトラブル防ぐ社労士解説
特定技能外国人の受け入れにおいて、最も頻繁に発生し、かつ深刻なトラブルに発展しやすいのが「給与の手取り額」に関する問題です。「約束された給料より振り込みが少ない」という誤解や不信感は、モチベーションの低下だけでなく、最悪の場合は失踪の原因にもなり得ます。
日本の労働基準法に基づく適正な賃金控除の手続きと、入管法が求める特定技能特有の厳格な運用ルールは、似て非なるものです。本記事では、外国人雇用に強い社会保険労務士が、トラブルを防ぐための労使協定の書き方や、実費精算の具体的な実務ポイントについて解説します。
「手取りが少なすぎる」と失踪を招く前に|外国人雇用の賃金控除に潜むリスク
【結論】不明瞭な賃金控除は、外国人材の不信感を招き、早期離職や失踪の最大のリスク要因となります。
日本人従業員であれば「会社の寮費だからこれくらい引かれるのは当然」と受け入れられることでも、来日したばかりの外国人にとっては「不当に搾取されている」と感じられることがあります。一方で、事前に母国語で丁寧に説明し、納得を得ていれば、こうしたトラブルの多くは回避可能です。
実際の顧問先でも、給与明細にある「使途不明な控除項目」が原因で、SNSを通じて外部のユニオンやブローカーに相談され、大きな労使紛争に発展しかけたケースがありました。彼らにとっての手取り額は、母国の家族への送金原資そのものであり、1円単位のズレが生活に直結するという認識を持つことが重要です。
労働基準法24条の原則を超えて|特定技能で求められる「控除の明示」と「実費」の壁
【結論】特定技能制度では、労基法の「労使協定」に加え、控除額が「実費を超えないこと」が厳格に求められます。
労働基準法第24条では「賃金全額払いの原則」が定められており、税金や社会保険料以外のものを控除するには労使協定が必要です。しかし、特定技能においてはこれだけでは不十分です。入管庁の運用要領では、宿舎費や水道光熱費などを控除する場合、その額が実費(実際に企業が負担した額)を超えてはならないと明記されています。
一方で、管理費や事務手数料といった名目で企業側が利益を上乗せすることは一切認められません。この「実費の原則」を理解せずに、日本人社員と同様の定額控除を行っていると、入管法違反として受入れ停止処分を受けるリスクがあります。
【実務解説】外国人向け賃金控除に関する労使協定書の具体的な書き方と記載項目
【結論】「控除の対象となる項目」と「具体的な計算方法」を、誰が見ても明確に分かるように記載すべきです。
労使協定書には、以下の項目を網羅する必要があります。
- 控除の対象となる労働者の範囲(「特定技能外国人」などと限定も可)
- 控除する項目(宿舎費、水道光熱費、食費など)
- 各項目の控除額の計算方法または具体的金額
- 賃金の支払日(控除を行う日)
一方で、単に「その他会社が認めたもの」といった包括的な記載は無効となる可能性が高いです。実務上は、後々のトラブルを防ぐため、別紙として詳細な内訳リストを添付し、協定書本体と一体として運用することをお勧めします。これにより、行政調査が入った際も透明性を証明しやすくなります。
宿舎費(家賃)控除の落とし穴|「利益上乗せ」と見なされないための適正額の算定根拠
【結論】会社借上げ物件の場合は「家賃+共益費」の会社支払額が控除の上限となります。
企業がアパートを借り上げて外国人に貸与する場合、本人から徴収できるのは、企業が大家に支払っている賃料等の実費までです。敷金・礼金、仲介手数料、保証料などを月々の家賃に上乗せして徴収することは、原則として認められません。
一方で、社有物件(自社寮)の場合は、近隣の同等物件の相場家賃を上限としつつ、建設費や耐用年数などを考慮した合理的な算出根拠が必要です。実際の顧問先では、社有寮の控除額が高すぎると入管から指摘を受け、近隣相場資料の提出を求められた事例があります。利益を出さない設定にすることが鉄則です。
労使協定だけでは不十分?「個別の同意書」を母国語で作成すべき法的・実務的理由
【結論】労使協定は「控除しても違法にならない」ための要件であり、実際に控除するには「個別の同意」が不可欠です。
労使協定を締結したからといって、会社が一方的に給与から天引きできるわけではありません。特に特定技能外国人の場合、雇用契約書や雇用条件書において、控除する額や項目について本人が十分に理解し、同意していることが求められます。
一方で、日本語だけの同意書では「理解していなかった」と主張されるリスクが残ります。実務上は、必ず母国語が併記された「賃金控除に関する協定書」および「同意書」を作成し、署名をもらう運用を徹底してください。これが、後のトラブルから会社を守る最強の盾となります。
実際の顧問先で起きた事例|入管・労基署調査で指摘を受けやすい控除項目の境界線
【結論】業務遂行に必須となる制服や道具代の強制的な控除は、是正勧告の対象となりやすいポイントです。
これまで多くの企業を支援してきた中で、よく問題になるのが「制服代」「安全靴代」「社員旅行積立金」の控除です。業務に必須であり、着用が義務付けられている制服の費用を労働者に負担させることは、実質的な賃金の目減りとみなされる可能性があります。
一方で、私服でも可だが本人が希望して購入する場合などは、その旨を明確にした同意書があれば控除可能なケースもあります。しかし、特定技能においては「日本人と同等以上」の待遇が求められるため、日本人社員には無償貸与しているものを外国人からのみ徴収するのは完全にNGです。
水道光熱費の定額控除はNG?実費精算が難しい現場での「合理的な算出方法」
【結論】水道光熱費は原則として「実費精算」ですが、定額とする場合は定期的な差額精算が必要です。
毎月の検針票に基づいて実費を請求するのが最も確実ですが、シェアハウス形式でメーターが分かれていない場合などは計算が困難です。その場合は、入居人数で頭割り計算を行うか、過去の実績に基づいた合理的な定額を設定し、半年に1回などの頻度で過不足を精算する運用が求められます。
一方で、精算を行わずに高めの定額を徴収し続けることは「実費の原則」に反します。実務上よくあるケースとして、夏場や冬場の光熱費変動を考慮せず一律1万円などを控除し、実際にかかった費用との差額が会社の利益になってしまっている状態は、入管法違反のリスクが高いです。
賃金控除の変更手続き|昇給や引越しに伴う協定・同意書の再締結タイミング
【結論】控除項目や金額(定額部分)に変更が生じるたびに、協定の改定と本人への説明・同意が必要です。
引越しによって家賃が変わる場合や、新たに食費の控除を始める場合などは、速やかに労使協定を結び直し、本人から新たな同意書を取得する必要があります。これを怠り、古い協定のまま新しい金額を控除すると、賃金不払い(違法控除)となります。
一方で、税金や社会保険料のように法律で決まっている控除額の変動については、協定の再締結は不要です。変更が必要なのは「協定控除」の部分であることを理解しておきましょう。実務的には、毎年の定期昇給時や契約更新時に、控除内容に変更がないかセットで確認するフローを組むのが効率的です。
登録支援機関の質が問われるコンプライアンス|適正な給与管理を実現する支援体制の選び方
【結論】複雑な賃金控除の計算と法的整合性を担保できる、労務管理に強い登録支援機関を選ぶべきです。
特定技能の運用は、入管法と労働関係法令の両方をクリアする必要があります。単に通訳ができるだけの登録支援機関では、こまかい賃金計算の適法性までチェックしきれないのが現状です。
一方で、社会保険労務士が母体となっている支援機関や、労務監査の機能を持つ機関であれば、給与計算のミスや違法な控除を未然に防ぐことができます。自社で完璧な管理を行う自信がない場合は、こうした専門性の高い外部パートナーと連携することが、企業のコンプライアンスを守る最短ルートです。
まとめ
外国人雇用の賃金控除は、単なる事務処理ではなく、外国人材との信頼関係を築くための重要なプロセスです。労使協定の正しい締結、実費原則の遵守、そして母国語での丁寧な説明と同意。これらを徹底することで、トラブルを未然に防ぎ、長期的な定着につなげることができます。
特定技能・外国人雇用に関する詳しい情報はこちらのブログ一覧もご参照ください。
監修者プロフィール
本記事は、HR BrEdge社会保険労務士法人に所属する特定社会保険労務士・渡辺俊一が監修しています。法人顧問業務を中心に、給与計算、労務相談、就業規則整備など、企業のバックオフィス全体を支える実務に携わってきました。
日常的な労務相談から、制度設計、実務運用、トラブル予防まで、「現場で実際に起こること」を前提とした支援を行っています。特に、従業員100名以上規模の企業における実務の属人化や判断が分かれやすい場面への対応を得意としています。
- 社会保険労務士(登録番号:第27070207号・平成19年11月1日登録・平成24年5月1日特定社会保険労務士付記)
- キャリアコンサルタント(登録番号:16131446・平成28年8月23日登録)
- HR BrEdge社会保険労務士法人 代表社員
- 法人顧問を中心とした労務管理・給与計算の実務支援
- 就業規則・社内ルール整備を含む制度運用支援
- 企業向け労務管理に関する書籍・実務資料の執筆・監修
- 経営者・人事担当者向け研修・セミナー講師実績
制度の解説にとどまらず、「このケースではどう判断すべきか」「どこでトラブルになりやすいか」といった実務上の判断ポイントを重視した情報提供を行っています。
大阪なんば駅徒歩1分
給与計算からIPO・M&Aに向けた労務監査まで
【全国対応】HR BrEdge社会保険労務士法人

