新着情報
固定残業代の給与計算で注意すべき点とは?社労士が100名以上の企業向けに運用実務を解説
固定残業代制度は、正しく運用すれば事務の効率化につながりますが、計算ミスや法的な要件不足があると、多額の未払い残業代請求に発展するリスクを孕んでいます。特に100名以上の規模では、一箇所のミスが全社的な労務問題になりかねません。本記事では、社労士の視点から実務上の重要ポイントをQ&A形式で詳しく解説します。
Q1. 固定残業代(みなし残業)制度を導入する際の基本的な法的要件は何ですか?
【結論】基本給と固定残業代の金額が明確に区別されており、かつ何時間分の残業代に相当するかが雇用契約書や就業規則で明示されていることが不可欠です。
実務上よくあるケースとして、給与明細に総額のみが記載され、内訳が不明瞭なために「固定残業代が否定される」という事態が散見されます。制度が有効と認められるためには、以下の要素が必須となります。
- 固定残業代を除いた基本給が、各都道府県の最低賃金を下回っていないこと
- 何時間分の時間外手当(深夜・休日を含むか否か)に該当するかを特定すること
例えば、月給30万円の中に固定残業代が含まれるとする場合、「月給30万円(45時間分の固定残業代5万円を含む)」のように、金額と時間の両方を明示しなければなりません。一方で、この明示を怠ると、30万円全額が基本給とみなされ、別途全額の残業代支払いを命じられるリスクがあります。
Q2. 固定残業代を超えて残業が発生した場合の計算はどのように行いますか?
【結論】あらかじめ設定された固定残業時間を1分でも超えた場合は、その超過分について別途割増賃金を計算し、当月の給与で支払う必要があります。
実際の顧問先では、固定残業代さえ払っていれば「残業させ放題」であると誤解されているケースがありますが、これは大きな間違いです。企業には労働時間の把握義務があり、毎月の実労働時間と固定残業時間を比較しなければなりません。
- 実残業時間が固定時間を下回っても、固定残業代を減額することは原則できません。
- 実残業時間が固定時間を超過した際は、差額を翌月以降に持ち越さず、当該月に支払います。
例えば、30時間分の固定残業代を設定している場合で、実残業が35時間であれば、超過した5時間分を別途支給します。一方で、実残業が20時間であっても、契約した30時間分の金額を全額支払う必要があり、これをカットすると不利益変更や賃金全額払いの原則違反となる恐れがあります。
Q3. 従業員100名以上の企業で固定残業代の給与計算を外注するメリットは何ですか?
【結論】複雑な割増賃金の単価計算や、法改正に伴う算定基礎の変更に正確に対応でき、属人化による計算ミスやコンプライアンス違反を防止できます。
これまで多くの企業を支援してきた中で、100名規模を超えると、中途採用や異動が頻繁に発生し、個別の賃金体系が複雑化している場面を多く見てきました。手作業や表計算ソフトでの管理では、固定残業代の「単価」の更新漏れが頻発します。
- 昇給時に基本給が変わった際、連動して固定残業代の単価(時給換算額)を再計算する体制が整う
- 社労士法人がチェックすることで、最新の判例に基づいた運用ができているか常にモニタリングできる
自社で計算している場合、担当者が変わったタイミングで計算式が壊れるケースがあります。一方で、外注化により専門的なシステムと第三者の視点を導入することで、将来的な労働基準監督署の調査にも耐えうるエビデンスを蓄積することが可能になります。
Q4. 固定残業代の計算対象となる手当と、ならない手当の区別はどうすべきですか?
【結論】役職手当や資格手当など、一律に支払われる性質のものは残業単価の算定基礎に含める必要があり、これを漏らすと過少払いになります。
制度と現場運用のズレが最も生じやすいのが、この「算定基礎賃金」の把握です。固定残業代を算出するための「1時間あたりの単価」を求める際、除外できる手当は家族手当や通勤手当など、法で限定されています。
- 役職手当、現場手当、精皆勤手当などは、原則として算定基礎に含めます。
- 住宅手当は、一律支給の場合は算定基礎に含まれるため、計算式に注意が必要です。
例えば、基本給だけでなく役職手当を支給している場合、その合計額を月平均所定労働時間で除して、1.25倍などの割増率を乗じる必要があります。一方で、算定基礎を基本給のみで設定してしまうと、実務上は未払い残業代が発生している状態となるため、定期的な給与体系の見直しが必要です。
Q5. 欠勤や遅刻があった場合、固定残業代を控除することは可能ですか?
【結論】就業規則の定めに従い、欠勤等の時間分に対応する基本給部分の控除は可能ですが、固定残業代そのものを安易にカットすることは避けるべきです。
実務上で誤解されやすいポイントですが、固定残業代は「あらかじめ定めた時間分の労働に対する対価」であるため、欠勤したからといって直ちに全額カットできるわけではありません。ノーワーク・ノーペイの原則との兼ね合いを慎重に判断する必要があります。
- 就業規則に「欠勤・遅刻等の時間に応じて固定残業代も日割り計算で控除する」旨の明文規定が必要です。
- 規定がないまま控除を行うと、賃金の不当な減額とみなされるリスクがあります。
例えば、月20日勤務のうち10日欠勤した場合に、固定残業代を半分にする運用は、明確な根拠規定があれば認められる傾向にあります。一方で、数分の遅刻に対して固定残業代を数千円単位で一律カットするような運用は、公序良俗に反すると判断される可能性が高いです。
Q6. 固定残業代の「時間設定」に上限や目安はありますか?
【結論】「月45時間」を一つの目安とすべきですが、36協定の限度時間や、健康障害防止の観点から公序良俗に反しない範囲に留める必要があります。
実務上よくあるケースとして、残業代を抑制するために「月80時間分」といった極端な設定をする企業がありますが、これは非常に危険です。長時間のみなし時間は、裁判において「公序良俗違反」として制度そのものが無効とされるリスクを高めます。
- 原則として「月45時間」を超える設定は、特別条項を考慮しても慎重に行うべきです。
- あまりに長い時間を設定すると、採用活動においても「ブラック企業」との疑念を持たれる要因になります。
例えば、月30時間から45時間程度の設定が一般的です。一方で、繁忙期だけ残業が増える業種であっても、固定時間を変動させる運用は事務負担が激増するため、平均的な残業時間に合わせた固定枠の設定を推奨しています。
Q7. 固定残業代制度を採用している場合でも、36協定の締結は必要ですか?
【結論】必須です。固定残業代はあくまで「賃金の支払い方法」に関する制度であり、法定労働時間を超えて働かせるための「36協定」とは全く別の議論です。
企業の状況によって判断が異なる部分もありますが、36協定なしに1分でも残業をさせれば、たとえ高額な固定残業代を払っていても労働基準法違反となります。制度の有無にかかわらず、労働時間の適正な管理義務は免除されません。
- 36協定で定めた延長時間を超えて労働させることはできません。
- 固定残業代の対象時間が40時間であっても、36協定の届出を怠れば違法となります。
この点は、経営者や現場責任者が混同しがちなポイントです。給与計算を外注する際は、単に金額を出すだけでなく、36協定の範囲内に労働時間が収まっているかというアラート機能を含めてアウトソーシングすることが理想的です。
Q8. 求人票や労働条件通知書への記載で、特に注意すべきキーワードは何ですか?
【結論】若者雇用促進法等に基づき、「固定残業代を除いた基本給」「固定残業代の金額」「積算の根拠(時間数)」「超過分の別途支給」の4点を明示せねばなりません。
これまで多くの企業を支援してきた中で、求人広告の記載不備から応募者とのトラブルになる例を多く見てきました。「月給30万円(みなし残業含む)」といった曖昧な書き方は、現在は法的にも不適切とされています。
- 「基本給:250,000円、固定残業手当(30時間分):50,000円」のように分解して記載します。
- 「30時間を超える時間外労働分は追加で支給する」という一文を必ず加えます。
求人段階で適切な情報を開示していないと、入社後に「説明と違う」として早期離職を招く原因になります。一方で、正しく明示することで、採用段階でのミスマッチを防ぎ、コンプライアンスを重視する企業姿勢をアピールすることにつながります。
Q9. 既存の「基本給」の一部を「固定残業代」に振り替えることはできますか?
【結論】原則として労働者の個別同意が必要であり、かつ全体の賃金水準や計算方法について不利益が生じないよう慎重な手続きが求められます。
実務上よくあるケースとして、残業代の総額を抑える目的で勝手に基本給の内訳を書き換える企業がありますが、これは労働条件の不利益変更に該当し、極めてリスクが高い行為です。制度の導入や切替には、合理的な理由と適正なプロセスが不可欠です。
- 全従業員への丁寧な説明会を実施し、個別の同意書を回収することが望ましいです。
- 基本給を下げて固定残業代を設ける場合、賞与や退職金の算定基礎が減らないか等の配慮も必要です。
例えば、基本給30万円を「基本給25万円+固定残業代5万円」に変更する場合、見かけの総額は同じでも、残業を全くしない月には手取りが増える一方、非常に多く残業する場合には以前より不利になる可能性があります。こうした分岐点を明確にし、最終的な判断は専門家への個別相談を経て慎重に行うべきです。
関連する詳しい情報はこちらのブログ一覧もご参照ください。
まとめ
固定残業代制度は、正しく運用すれば労使双方にメリットのある仕組みですが、その適正な維持には高度な専門知識と継続的なモニタリングが欠かせません。特に従業員100名以上の企業では、法改正や昇給、手当の新設に伴う計算単価の変動を正確に反映し続ける必要があります。自社内での管理に限界を感じている、あるいは現在の運用が法的に有効か不安がある場合は、一度専門家によるチェックを受けることを強くお勧めします。企業の状況や職種によって最適な制度設計は異なるため、個別の事情に応じたカスタマイズが重要です。最終的な制度導入や運用の判断については、必ず社会保険労務士などの専門家へ個別相談を行ってください。
監修者プロフィール
本記事は、HR BrEdge社会保険労務士法人に所属する 特定社会保険労務士・渡辺俊一が監修しています。 法人顧問業務を中心に、給与計算、労務相談、就業規則整備など、 企業のバックオフィス全体を支える実務に携わってきました。
日常的な労務相談から、制度設計、実務運用、トラブル予防まで、 「現場で実際に起こること」を前提とした支援を行っています。 特に、従業員100名以上規模の企業における 実務の属人化や判断が分かれやすい場面への対応を得意としています。
- 社会保険労務士(登録番号:第27070207号・平成19年11月1日登録・平成24年5月1日特定社会保険労務士付記)
- キャリアコンサルタント(登録番号:16131446・平成28年8月23日登録)
- HR BrEdge社会保険労務士法人 代表社員
- 法人顧問を中心とした労務管理・給与計算の実務支援
- 就業規則・社内ルール整備を含む制度運用支援
- 企業向け労務管理に関する書籍・実務資料の執筆・監修
- 経営者・人事担当者向け研修・セミナー講師実績
制度の解説にとどまらず、 「このケースではどう判断すべきか」 「どこでトラブルになりやすいか」 といった実務上の判断ポイントを重視した情報提供を行っています。
大阪なんば駅徒歩1分
給与計算からIPO・M&Aに向けた労務監査まで
【全国対応】HR BrEdge社会保険労務士法人

