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メンタル不調者復職判定トラブル:企業が陥る失敗事例と回避のための具体的ステップ
導入文
メンタルヘルスの不調により休職していた従業員から「復職したい」という申し出があった際、企業は非常に難しい判断を迫られます。「主治医の診断書があるから大丈夫だろう」と安易に復職を認めた結果、わずか数日で再休職に至ったり、業務パフォーマンスが戻らず現場が混乱したりするケースは後を絶ちません。これらは典型的な復職判定トラブルであり、企業の対応によっては安全配慮義務違反を問われる法的リスクすらあります。
本記事では、人事労務の現場で頻発するメンタル不調者の復職判定トラブルについて、具体的な失敗事例をもとにその原因と影響を深く掘り下げます。その上で、厚生労働省のガイドラインや判例の考え方を踏まえた、法的に適正かつ実務的な復職判定のステップと予防戦略を解説します。
メンタル不調者の復職判定、その難しさと企業のリスク
メンタルヘルス不調者の復職判定が、身体的な怪我や病気に比べて格段に難しい理由は、回復の程度が客観的に見えにくい点にあります。骨折であればレントゲンで治癒を確認できますが、うつ病や適応障害などのメンタル不調には明確な数値基準が存在しません。
ここで最大のリスク要因となるのが、「主治医」と「企業(産業医・人事)」の視点のズレです。主治医はあくまで患者の日常生活における回復を診ており、企業の求められる「職務遂行能力」まで詳細に把握しているわけではありません。この認識のギャップを埋めずにプロセスを進めることが、多くの復職判定トラブルの入り口となります。企業には、従業員を安全に就労させる法的義務(安全配慮義務)があり、不適切な判定で症状が悪化した場合、損害賠償責任を負う可能性も否定できません。
企業が失敗する『復職判定トラブル事例』:見過ごされる落とし穴
ここでは、多くの企業で実際に起こり得る、典型的な復職判定トラブルの事例を一般化して紹介します。
事例:診断書を鵜呑みにし、現場が大混乱したケース(製造業・中堅企業)
ある中堅製造業の従業員Aさんは、業務過多によるうつ状態で6ヶ月間休職していました。休職期間満了が近づいた頃、Aさんは主治医から「復職可能」との診断書を取得し、会社に提出しました。人事担当者は診断書を根拠に、産業医との詳細な連携や現場との調整を行わず、翌週からの原職復帰を決定しました。
しかし、復帰初日からAさんは遅刻を繰り返し、業務中のミスも頻発。現場の上司は「まだ無理なのではないか」と懸念しましたが、人事は「医師が許可している」として特段の措置を取りませんでした。結果、Aさんは復職から2週間後に症状が再発し、再び長期休職へ。現場の士気は低下し、Aさん自身も「会社に見捨てられた」という不信感を抱く最悪の結果となりました。この事例は、医学的な「治癒」と、企業が求める「労務提供の可否」を混同したことによる典型的な失敗です。
なぜトラブルは起こるのか?復職判定の背景にある根本的な課題
このような復職判定トラブルが発生する背景には、単なる確認不足では済まされない、構造的な課題が存在します。
- 主治医と産業医の役割の違い: 主治医は「日常生活が送れるか」を基準にする傾向がある一方、企業側は「8時間フルタイムで責任ある業務ができるか」を求めます。この基準の不一致がトラブルの根本原因です。
- 「治癒」の定義の曖昧さ: 就業規則において、復職の条件となる「治癒」が具体的に定義されていない(例:「従前の業務を通常通り遂行できる状態」など)ため、判断が個人の裁量に委ねられてしまいます。
- 現場との連携不足: 受け入れ先の管理監督者が、メンタル不調者の特性や配慮事項を理解していない場合、過度な配慮や逆に過剰な負荷を与えてしまい、再発を招きます。
- 試し出勤制度の運用不備: 制度があっても、評価基準や期間中の処遇が不明確なため、単なる「出社練習」に留まり、実質的な判定機能を果たしていないケースが多く見られます。
原因の分析
復職判定トラブルを引き起こす原因を整理すると、以下の5つの要素に集約されます。これらは相互に関連しており、一つでも欠けるとリスクが高まります。
- 情報の非対称性: 主治医が職場の実情(ストレス要因や業務負荷)を知らず、人事側も従業員の正確な病状や生活リズムを把握できていないこと。
- プロセス規定の欠如: 復職までの手順が属人的で、誰がいつ何を判断するかがルール化されていないこと。
- 主治医診断への過信: 「診断書=絶対的な通行手形」という誤った認識を持ち、産業医の意見や本人の生活記録を軽視すること。
- 準備不足の復職: 通勤訓練や生活リズムの整えが不十分なまま、いきなりフルタイム勤務に戻そうとすること。
- 現場の受入体制不備: 復職者に対する「腫れ物扱い」や「放置」、あるいは「即戦力扱い」といった極端な対応。
メンタル不調者の復職判定トラブルが招く、企業経営への深刻な影響
不適切な復職判定によるトラブルは、単に一人の従業員が再休職するだけの問題に留まりません。企業経営全体に深刻なダメージを与える可能性があります。
まず法的リスクです。無理な復職で症状が悪化した場合、企業は安全配慮義務違反として訴えられるリスクがあります。過去の判例でも、企業側の確認不足や配慮不足を指摘し、多額の賠償を命じるケースが存在します。
次に組織への悪影響です。再休職が繰り返されると、その穴埋めをする周囲の従業員の負担が増大し、現場の疲弊や不満(モラールダウン)を招きます。「この会社は社員を大切にしない」という不信感が広がれば、離職率の増加にもつながりかねません。さらに、採用活動における風評被害や、休職期間の長期化による社会保険料等のコスト負担増も無視できない経営課題となります。
確実な復職判定のためのステップと法的に適正な対応策
復職判定トラブルを防ぎ、円滑な職場復帰を実現するためには、厚生労働省の「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」に基づいた、以下の段階的なステップを踏むことが不可欠です。
1. 従業員からの復職申し出と主治医診断書の提出
まず、従業員本人から復職の意思表示とともに、主治医による「復職可能」の診断書を提出してもらいます。ここで重要なのは、診断書を受け取っても即座に復職を決定しないことです。
2. 生活記録表(生活リズム表)の確認
従業員に、睡眠時間や活動内容を記録した「生活記録表」の提出を求めます。昼夜逆転していないか、日中に活動できているかを確認し、基礎的な体力が回復しているかを客観的に判断します。
3. 産業医による面談と意見聴取
ここが最重要ステップです。産業医面談を実施し、主治医の診断書、生活記録表、そして本人の様子を総合的に確認します。産業医は職場の状況を理解している専門家です。主治医と意見が割れる場合は、本人の同意を得て産業医が主治医と情報連携(診療情報提供依頼)を行うことが有効です。
4. 試し出勤(リハビリ出勤)の実施
必要に応じて、模擬出勤や通勤訓練、短時間勤務などの「試し出勤」を行います。実際に職場に来て、簡単な作業を行えるか、疲労度はどうかを観察します。この期間の評価は、最終的な判定の重要な根拠となります。
5. 復職判定委員会の開催と最終決定
主治医の診断、産業医の意見、現場管理職の意見、人事の情報を持ち寄り、正式に復職可否を審議・決定します。組織として決定することで、判断の客観性と透明性を担保します。
6. 職場復帰支援プランの策定
復職決定後は、具体的な就業上の配慮(残業禁止、業務軽減など)やフォローアップ体制を文書化したプランを作成し、本人および現場責任者に周知します。
復職判定トラブルを未然に防ぐ!組織で取り組むべき予防戦略
復職判定トラブルを未然に防ぐためには、個別の対応だけでなく、組織全体での予防戦略が求められます。
- 就業規則(休職・復職規定)の整備: 「治癒」の定義を明確にし、復職判定において会社が指定する医師(産業医等)の診断を必須とする旨を規定します。また、リハビリ出勤制度の導入も検討しましょう。
- 「復職=完治」ではないという共通認識の醸成: 復職直後はパフォーマンスが落ちて当然であり、段階的に戻していくものであるという認識を、経営層から現場まで浸透させます。
- 管理監督者への教育: メンタルヘルス不調者への接し方や、ラインケアの重要性に関する研修を定期的に実施します。現場の上司が「相談しやすい環境」を作ることが、再発防止の鍵です。
- 外部リソースの活用: 社内に専門家がいない場合は、EAP(従業員支援プログラム)や地域産業保健センターなどの外部機関を活用し、専門的なアドバイスを受ける体制を整えます。
- 職場のストレス要因の低減: ストレスチェックの結果を活用し、職場環境自体の改善に取り組むことで、新たな不調者の発生を防ぎます。
類似トラブルの予防ポイント
最後に、同様のトラブルを防ぐためのチェックポイントを整理します。
- 主治医の診断書だけでなく、産業医の意見を必ず取得しているか?
- 本人の生活リズムは整っているか(睡眠、食事、日中の活動)?
- 復職後の業務内容や配慮事項について、現場と本人の合意形成はできているか?
- 「とりあえず来てみれば?」という安易な復職誘導をしていないか?
- 復職判定のプロセスと責任の所在は明確になっているか?
関連する詳しい情報はこちらのブログ一覧もご参照ください。
まとめ
本記事では、企業にとって大きなリスクとなるメンタル不調者の復職判定トラブルについて、事例を交えて解説しました。
復職判定は、医学的な判断と労務管理的な判断が交錯する非常にデリケートなプロセスです。「主治医が言ったから」という理由だけで復職を進めることは、従業員本人にとっても企業にとっても不幸な結果を招きかねません。復職判定トラブルを回避するためには、産業医との連携を強化し、客観的なデータに基づいた慎重なプロセスを踏むことが何より重要です。
企業は、従業員が安心して戻れる環境を整えるとともに、法的なリスク管理も徹底しなければなりません。今回ご紹介したステップと予防戦略を参考に、自社の復職支援体制を今一度見直してみてください。適切な復職支援は、貴重な人材を守り、組織の健全な発展につながる重要な投資です。
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