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試用期間中の解雇トラブル事例:会社が陥る法的失敗と注意点、予防策

2026.01.10 人事労務

導入文

「試用期間中だから、能力不足ならすぐに解雇しても問題ないだろう」このように考えて安易に解雇(本採用拒否)を通告し、後に元従業員から不当解雇として訴えられるケースが後を絶ちません。試用期間であっても、企業と従業員の間には労働契約が成立しており、会社側が考えるほど自由な解雇は認められていないのが実情です。特に、「期待していた即戦力ではなかった」「社風に合わない」といった曖昧な理由での解雇は、法的リスクが非常に高い判断となります。

試用期間中の解雇トラブル事例:会社が陥る法的失敗と注意点、予防策

本記事では、人事労務の現場で頻発する試用期間中の解雇トラブルについて、法的な観点から詳しく解説します。実際に起きやすい失敗事例や、トラブルを未然に防ぐための具体的な手順、万が一解雇に踏み切る際の適正なプロセスを網羅しました。トラブルを回避し、健全な組織運営を行うための実務ガイドとしてご活用ください。

試用期間中の解雇トラブル事例:会社が陥りやすい典型ケース

試用期間中の解雇トラブルは、企業の「思い込み」と「法的な現実」のギャップから生まれます。ここでは、多くの企業が陥りやすい典型的なトラブルケースを紹介します。(※特定の企業を指すものではなく、一般的な事例として構成しています)

ケース1:能力不足を理由とした即時解雇(IT企業等の事例)

中途採用で即戦力として期待したエンジニアに対し、入社1ヶ月目で「スキルが履歴書の内容と乖離しており、業務レベルに達していない」と判断。現場マネージャーの強い要望により、具体的な指導記録を残さないまま、「能力不足」を理由に即日で解雇を通告したケースです。この場合、会社側は「試用期間なのだから適性がないなら解雇は当然」と考えがちですが、具体的な改善指導の事実や、会社が求めていた能力基準の明確な提示がなかったため、不当解雇と判断されるリスクが高まります。

ケース2:勤務態度不良とコミュニケーション不足(製造業等の事例)

入社2ヶ月目の社員が、遅刻を数回繰り返し、上司への報告・連絡・相談(ホウレンソウ)も不十分だった事例です。会社側は「協調性がない」「社会人としての常識に欠ける」として本採用拒否を決定しました。しかし、遅刻に対して口頭で軽く注意した程度で、書面による厳重注意や面談を行っていなかった場合、「改善の機会を与えていない」とみなされ、トラブルに発展することがあります。

ケース3:14日以内の解雇における誤解(中小企業の事例)

「試用期間開始から14日以内なら、解雇予告手当も理由の説明も不要で自由に解雇できる」と誤解し、入社10日目で「なんとなく合わない」という理由で解雇したケースです。労働基準法上の予告義務が免除される「14日以内」であっても、解雇そのものには「客観的合理的理由」と「社会通念上の相当性」が必要です。理由のない解雇は権利濫用となり、法的紛争の火種となります。

試用期間中の解雇トラブルが発生する背景と見落としがちな原因

なぜ、こうしたトラブルが繰り返されるのでしょうか。その背景には、企業側の制度理解の不足や、運用の甘さが潜んでいます。

「解約権留保付労働契約」への過度な期待

試用期間の法的性質は「解約権留保付労働契約」とされ、判例(三菱樹脂事件など)により、本採用後よりは広い範囲で解雇の自由が認められています。しかし、これは「無条件に解雇できる」という意味ではありません。多くの企業担当者が「試用期間=お試し期間=自由に契約解除可能」と拡大解釈してしまっていることが、トラブルの最大の背景です。

指導・教育プロセスの欠如

「採用したのだから、仕事ができて当たり前」という姿勢で、現場が新人への指導を放棄しているケースが見られます。特に中途採用の場合、「即戦力」という言葉に依存し、自社の業務フローやルールを教えずに結果だけを求め、達成できないと即座に「能力不足」と断定してしまう傾向があります。裁判所は「会社側が十分な指導や教育を行ったか」を重視するため、この認識のズレが致命傷となります。

就業規則と評価基準の曖昧さ

どのような状態であれば本採用を拒否するのか、具体的な基準が就業規則や雇用契約書に明記されていないことも原因の一つです。「協調性」「適格性」といった抽象的な言葉だけで運用していると、解雇の正当性を証明する際に客観的な根拠を示すことができず、トラブルを招きます。

試用期間中の解雇における法的リスクと根本原因の分析

試用期間中の解雇が法的に無効とされる根本原因は、以下の要素が不足していることに集約されます。

  • 客観的合理性の欠如
    • 解雇に至る理由が、第三者から見ても「もっともだ」と納得できる事実に基づいているか。
    • 単なる「性格が合わない」「上司の主観的な低評価」だけでは、合理性は認められません。
  • 社会的相当性の欠如
    • その程度の理由で、雇用を奪う(解雇する)ことが社会通念上妥当か。
    • 配置転換や降格など、解雇以外の手段で対処する余地はなかったか。
  • 手続的適正の欠如
    • 就業規則上の解雇事由に該当しているか。
    • 弁明の機会(本人の言い分を聞く場)を与えたか。
    • 解雇予告義務(30日前の予告または解雇予告手当の支払い)を守っているか。※入社14日を超えた場合。

解雇が無効となる主な要因(チェックリスト)

  • 指導不足: 能力不足を指摘しながら、具体的な指導や改善策を提示していない。
  • 記録の不在: 注意指導を行った日時、内容、本人の反応などの記録(証拠)が残っていない。
  • 短絡的な判断: わずかなミスや一度の遅刻で、即座に解雇を決断している。
  • 比較対象の誤り: 新入社員に対し、ベテラン社員と同等の成果を求めている。

試用期間中の解雇トラブルが会社に与える多角的な影響

安易な解雇によって発生するトラブルは、単に「一人の社員がいなくなる」だけで終わりません。企業経営全体に深刻なダメージを与える可能性があります。

金銭的損失(バックペイと解決金)

不当解雇として訴えられ敗訴した場合、解雇時点に遡って賃金を支払う「バックペイ」が発生します。裁判が長期化すれば、数百万円単位の支払いを命じられることも珍しくありません。また、和解で解決する場合でも、解決金の支払いや弁護士費用が発生します。

採用・教育コストの喪失

その社員を採用するためにかけた求人広告費、紹介手数料、面接担当者の工数、入社後の手続きや研修コストがすべて無駄になります。頻繁に解雇を繰り返す組織では、採用コストが経営を圧迫し続けます。

組織への悪影響と信用の低下

「試用期間で簡単にクビにする会社」という噂は、SNSや口コミサイトを通じて瞬く間に広がります。

  • 従業員の士気低下: 「明日は我が身」と不安を感じた既存社員のモチベーションが下がり、連鎖退職を招く恐れがあります。
  • 採用難: 企業ブランディングが毀損され、優秀な人材の応募が激減します。
  • ブラック企業認定: 労働基準監督署の調査対象となったり、厚生労働省により社名が公表されたりするリスクもあります。

試用期間中の解雇トラブルを回避するための具体的な改善策と手順

試用期間中のトラブルを回避し、万が一解雇が必要になった場合でも法的リスクを最小限に抑えるためには、適正なプロセスを踏むことが不可欠です。以下に、実務で即座に活用できる具体的な改善策を提示します。

1. 入社時のルール明確化と合意形成

トラブルの多くは、入社時の期待値調整不足から始まります。

  • 就業規則の整備: 「本採用拒否」の事由を具体的かつ網羅的に記載します(例:無断欠勤の回数、経歴詐称、著しい能力不足など)。
  • 雇用契約書への明記: 試用期間の長さ、延長の可能性、本採用の条件を契約書に明記し、入社時に読み合わせて合意を得ます。
  • 業務目標の設定: 具体的にどのような成果や行動を求めているのか、数値や状態目標で明確に伝えます。

2. 指導・教育と記録の徹底(証拠化)

「指導したつもり」をなくし、客観的な証拠を残すことが最重要です。

  • 指導記録の作成: 日々の注意指導の内容、日時、相手の反応をノートやデータに残します。
  • メールや書面での注意: 口頭での注意で改善が見られない場合、メールや「注意指導書」などの書面で課題を伝え、本人に受領のサインをもらいます。
  • 定期面談の実施: 1ヶ月ごとなどに面談を行い、達成度と課題をフィードバックします。この記録も必ず残します。

3. 解雇検討時の適正プロセス(ステップ)

改善が見られず、やむを得ず解雇(本採用拒否)を検討する場合の手順です。

  • ステップ1:改善機会の最終付与
    • 具体的な期限を切って改善課題を提示し、「改善されなければ本採用できない可能性がある」と明確に警告します(退職勧奨の検討もこの段階で行います)。
  • ステップ2:解雇事由の検証
    • 就業規則のどの条文に該当するか、証拠は揃っているかを確認します。
  • ステップ3:弁明の機会の付与
    • 本人と面談し、会社側の評価を伝えた上で、本人の言い分を聞きます。誤解や酌むべき事情がないか最終確認します。
  • ステップ4:解雇予告の手続き
    • 入社14日以内の場合: 即時解雇が可能ですが、解雇理由は口頭でも明確に伝えます。
    • 入社14日を超えている場合: 少なくとも30日前に予告するか、30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払って即時解雇します。
  • ステップ5:解雇通知書・理由証明書の交付
    • 「解雇通知書」を交付し、後日の言った言わないを防ぎます。本人が希望すれば「解雇理由証明書」の発行も義務となります。

試用期間中の解雇で類似トラブルを未然に防ぐ予防ポイント

今後のトラブルを未然に防ぐために、日常業務で意識すべき予防ポイントを整理します。

  • 採用精度の向上: 面接でのスキルチェックを厳格化し、入社後のミスマッチを減らすことが根本的な解決策です。
  • 試用期間の長さの適正化: 職種や職責に応じて、能力を見極めるのに十分かつ適切な期間(通常3〜6ヶ月)を設定します。
  • 試用期間の延長規定: 判断に迷う場合のために、就業規則に「試用期間を延長する場合がある」旨の規定を設けておきます。
  • 現場管理者への教育: 「試用期間でも簡単に解雇できない」「指導記録が必須である」という法的知識を、現場マネージャー層に教育します。

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まとめ

試用期間中の解雇は、企業にとって法的リスクの高い行為です。「お試し期間」という軽い認識を捨て、「解約権留保付労働契約」という法的性質を正しく理解する必要があります。

トラブルを防ぐ鍵は、「明確な基準の設定」「十分な指導と改善機会の付与」「プロセスの記録化」の3点に尽きます。会社が誠実に対応し、適正な手順を踏んでいれば、万が一の際にも正当性を主張することができます。従業員と会社双方にとって不幸な結末を避けるためにも、日頃から就業規則の整備や管理職への教育など、予防策を徹底していきましょう。

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