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メンタル不調者の休職・復職判定、会社がトラブル回避する7つの手順

2025.12.26 メンタルヘルス対策

導入

近年、メンタルヘルスの不調を訴える従業員が増加傾向にあり、企業における対応の重要性はかつてないほど高まっています。「突然、部下から診断書を提出された」「復職させてもすぐに再休職してしまう」といった悩みを抱える人事担当者や管理職の方は少なくありません。メンタル不調者への対応を誤ると、症状の悪化を招くだけでなく、安全配慮義務違反として法的責任を問われるリスクや、他の従業員への悪影響といった深刻なトラブルに発展する可能性があります。

メンタル不調者の休職・復職判定、会社がトラブル回避する7つの手順

本記事では、メンタル不調者の休職から復職判定に至るまでのプロセスにおいて、会社が踏むべき具体的な手順と、トラブルを未然に防ぐための重要なポイントを解説します。厚生労働省のガイドラインに基づいた正しい実務対応を整理し、休職中のフォローから復職後の定着支援まで、現場で即座に活用できるノウハウを提供します。適切な対応フローを確立することは、従業員を守るだけでなく、会社のリスク管理としても不可欠です。ぜひ最後まで読み進め、自社の運用にお役立てください。

全体の流れ

メンタルヘルス不調により従業員が休業し、職場復帰するまでのプロセスは、会社と従業員双方が納得できる公正なルールに基づいて進める必要があります。厚生労働省の「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」を参考に、会社が主導すべき全体フローを以下の5つの主要ステップに分解しました。

  • ステップ1:病気休業の開始と休業中のケア
    • 診断書の受領と休職命令の発令、休職中の生活保障(傷病手当金など)の説明。
  • ステップ2:主治医による職場復帰可能の判断
    • 従業員からの復職希望の申し出と、主治医による「復職可」の診断書提出。
  • ステップ3:職場復帰の可否の判断と支援プラン作成
    • 産業医による精査、生活リズム表の確認、会社による最終的な復職判定
  • ステップ4:最終的な職場復帰の決定
    • リハビリ出勤等の結果を踏まえた正式な復職辞令と、具体的な就業条件の提示。
  • ステップ5:職場復帰後のフォローアップ
    • 復職後の定期面談、業務量の調整、再発防止に向けた継続的な観察。

メンタル不調者対応の基本原則と会社が取るべき初期対応

メンタル不調の兆候が見られた場合、または従業員から不調の訴えがあった場合、会社には安全配慮義務に基づいた迅速かつ適切な初期対応が求められます。ここで最も重要な原則は「早期発見・早期対応」と「医療専門家との連携」です。素人判断で「気の持ちようだ」と励ましたり、逆に安易に休ませたりすることは避けなければなりません。

まず、遅刻や欠勤の増加、業務効率の低下、表情の暗さなど、メンタル不調のサインに気づいた際は、管理監督者が個別に面談を行い、事実に基づいて状況を確認します。本人が不調を訴える場合は、速やかに心療内科等の専門医への受診を勧奨してください。この際、会社として「安心して療養に専念してほしい」というメッセージを伝え、受診への心理的ハードルを下げることが大切です。

医師から「休職を要する」旨の診断書が提出された場合は、その内容を確認し、業務起因性(労災の可能性)の有無を慎重に判断する必要があります。長時間労働やパワハラなどの事実がないかを確認し、もし業務が原因である疑いが強い場合は、労災申請の手続きも視野に入れた対応が必要です。初期段階での対応の遅れや不適切な言動は、後の紛争リスクを高める要因となるため、記録を正確に残しながら慎重に進めましょう。

休職判定の具体的な流れと会社が遵守すべき手続き

従業員を休職させるにあたり、会社は就業規則に基づいた厳格な手続きを遵守する必要があります。口頭でのやり取りだけで済ませず、書面を介した手続きを行うことが、後のトラブル回避(「言った言わない」の水掛け論防止)に直結します。休職判定から発令までの具体的な流れは以下の通りです。

1. 就業規則の「休職規定」の確認

まず、自社の就業規則における休職の定義、適用条件、期間を確認します。休職は法律で義務付けられた制度ではなく、会社の契約上のルールです。したがって、「勤続年数○年以上」「欠勤が○ヶ月続いた場合」など、規定された要件を満たしているかをチェックします。

2. 主治医の診断書の受領

従業員から提出された診断書を確認します。病名だけでなく、療養が必要な期間(「○ヶ月の休養を要する」など)が明記されているかを確認してください。診断書の内容が曖昧な場合は、本人の同意を得て主治医に問い合わせるか、産業医の意見を求めることが望ましいです。

3. 休職命令の通知と書面交付

休職要件を満たしていると判断した場合、会社として正式に「休職命令」または「休職承認」を行います。この際、以下の事項を記載した「休職通知書」を作成し、本人に交付(または郵送)して説明を行います。

  • 休職期間の開始日と終了日(予定)
  • 休職期間中の給与の取り扱い(無給か有給か)
  • 社会保険料の負担方法(住民税や本人負担分の徴収方法)
  • 休職中の連絡方法や報告義務
  • 復職の要件および休職期間満了時の取り扱い(自然退職など)

これらの条件を曖昧にしたまま休職に入ると、休職中に「給料が入っていない」「保険証が使えない」といった誤解や不安が生じ、メンタルの回復を妨げる原因になります。事務的な手続きであっても、本人にとっては生活に関わる重大事であると認識し、丁寧な説明を心がけましょう。

休職期間中の適切なフォローと情報共有の注意点

休職期間に入った従業員に対し、会社は「放置」も「過干渉」も避けなければなりません。適切な距離感でのフォローが、円滑な復職への架け橋となります。

連絡頻度と方法の最適化

休職初期(最初の1〜2ヶ月)は、療養に専念させるために会社からの連絡は事務手続きなど必要最低限に留めます。頻繁な状況確認は、本人に「早く戻らなければ」というプレッシャーを与え、回復を遅らせる可能性があります。一方、病状が安定してきた回復期(復職の1〜2ヶ月前)には、2週間に1回程度のペースで連絡を取り、生活リズムの改善状況などを共有してもらうと良いでしょう。連絡手段はメールを基本とし、本人の負担が少ない方法を選びます。

安心して療養できる環境づくり(情報共有)

休職中の従業員が抱える最大の不安は「経済的なこと」と「自分の居場所がなくなること」です。傷病手当金の申請サポートを迅速に行うことはもちろん、職場の変更点や会社のニュースなどを定期的に(負担にならない程度に)共有することで、組織との繋がりを感じさせることができます。ただし、人事異動や組織変更など、本人に動揺を与える可能性のある情報は、伝えるタイミングを慎重に検討し、産業医とも相談の上で判断してください。

復職に向けた準備プロセスと適切なリハビリ期間の考え方

主治医から「復職可」の診断が出ても、すぐに翌日からフルタイム勤務に戻すことはリスクが高すぎます。再休職を防ぐためには、計画的な準備プロセス(リハビリ期間)が必要です。

生活リズム表による客観的評価

復職の前提条件として、まずは「通勤して勤務できる体力と生活リズム」が整っているかを確認します。これを確認するために、起床・就寝時間、日中の活動内容(散歩、図書館での勉強など)を記録した「生活リズム表」の提出を求めます。昼夜逆転していないか、決まった時間に活動できているかを、産業医と共にチェックします。

リハビリ出勤(試し出勤)制度の活用

いきなり業務に就くのではなく、まずは「会社に来るだけ」や「軽作業のみ」を行うリハビリ出勤制度(試し出勤)を設けることが有効です。例えば、午前中のみ出社し、会議室で自習をする、といったステップを踏むことで、本人も会社も復職への自信を深めることができます。この期間はあくまで「治療の一環(リハビリ)」と位置づけ、原則として給与は発生せず傷病手当金を継続受給する形をとるのが一般的ですが、労災リスクを考慮し、指揮命令下の業務はさせないよう厳格に管理する必要があります。

復職判定で会社が見落としがちな重要ポイントとリスク回避策

復職判定は、メンタル不調者対応において最も重要な意思決定ポイントです。ここで会社が絶対に理解しておくべきことは、「主治医の診断書にある『復職可能』は、必ずしも『以前と同じ業務ができる』ことを意味しない」という点です。

主治医と産業医の視点の違い

主治医は、患者の日常生活における回復度を見て「復職可」と判断することが多く、職場で求められる具体的な業務負荷やストレス強度まで把握していないケースがほとんどです。一方、産業医は職場の実情を理解した上で「就業可能性」を判断します。したがって、会社は主治医の診断書を鵜呑みにせず、必ず産業医との面談を実施し、産業医の意見を重視して判定を行う必要があります。

「治癒」の定義と安全配慮義務

法的な観点や就業規則上の「治癒」とは、一般的に「従前の業務を通常程度に行える状態に回復すること」を指します。薬を飲みながらであれば働けるのか、残業も含めて完全に元通りでなければならないのか、この基準は会社の規定や過去の判例によっても左右されますが、基本的には「安全配慮義務」の観点から、会社が最終的な決定権を持ちます。「本人が戻りたいと言っているから」という理由だけで復職を認め、その結果症状が悪化した場合、会社は責任を問われる可能性があります。

したがって、リスク回避のためには以下のプロセスを徹底してください。

  1. 主治医の診断書(就業上の配慮事項が書かれていることが望ましい)を提出させる。
  2. 本人、産業医、人事担当者(必要に応じて直属上司)で面談を行う。
  3. 産業医から「復職に関する意見書」を取得する。
  4. これらを総合的に勘案し、会社として復職の可否を最終決定する。

スムーズな職場復帰支援と再休職を予防する継続的フォロー

復職が決定したら、「職場復帰支援プラン」を作成し、計画的な受け入れを行います。このプランには、復職等の日付、就業上の配慮内容(短時間勤務、残業禁止、出張制限など)、人事労務管理上の措置、フォローアップ体制などを明記します。

段階的な業務負荷の調整

復職直後は、質・量ともに軽減された業務からスタートし、数ヶ月かけて段階的に通常業務へ戻していく「慣らし運転」が不可欠です。例えば、最初の1ヶ月は残業ゼロ・定型業務のみとし、産業医との面談で問題がないことを確認してから、徐々に業務範囲を広げるといった運用です。このプロセスを可視化し、本人と上司が共有しておくことで、無理な業務割り当てを防ぐことができます。

職場ぐるみの支援体制

受け入れ側の職場(上司や同僚)への配慮も忘れてはいけません。復職者の業務を誰かがカバーしなければならない場合、周囲の不満が蓄積し、職場の雰囲気が悪化することは避けたい事態です。プライバシーに配慮しつつ、上司を通じて「現在はリハビリ期間であり、段階的に戻していく方針であること」を周囲に理解してもらい、協力体制を築くことが、復職者にとっても居心地の良い環境となります。

メンタルヘルス対応で会社が陥りやすい5つの落とし穴と対策

多くの企業が良かれと思ってやってしまう対応が、実はトラブルの火種になることがあります。ここでは代表的な5つの落とし穴と、その対策を紹介します。

  • 落とし穴1:主治医の「復職可」を無条件に信じる
    • 対策: 主治医は患者の味方であり、本人の「戻りたい」という希望を優先して診断書を書くことがあります。必ず産業医の意見を聞き、職場の実態に即した判断を行ってください。
  • 落とし穴2:本人の「大丈夫です」を真に受けて急がせる
    • 対策: 休職者は「早く戻らないと居場所がなくなる」という焦りから、無理をしがちです。本人の自己申告よりも、生活リズム表や産業医の客観的な所見を優先してください。
  • 落とし穴3:復職プランなしで、いきなり現場任せにする
    • 対策: 現場の上司に丸投げすると、配慮不足で再発するか、逆に腫れ物扱いで孤立するかのどちらかになりがちです。人事が主導して具体的な支援プランを作成し、現場をコントロールしてください。
  • 落とし穴4:休職期間満了時のルールが曖昧
    • 対策: 休職期間が満了しても復職できない場合、自然退職となるのか解雇となるのか、就業規則に明記し、休職開始時に本人に周知しておくことが不可欠です。直前になって通告するとトラブルになります。
  • 落とし穴5:試し出勤中の給与や労災の扱いが不明確
    • 対策: リハビリ出勤中に事故があった場合や、給与支払いの有無で揉めるケースがあります。制度利用に関する覚書を交わし、あくまで治療の一環であることを明確にしてください。

法的リスクを最小化するための休職・復職対応チェックリスト

最後に、会社が法的リスクを最小限に抑え、適正な休職・復職対応を行うためのチェックリストを提示します。これらを確認し、抜け漏れがないように運用してください。

  • [ ] 就業規則の整備: 休職の定義、期間、復職の要件、リハビリ出勤制度などが明確に規定されているか。
  • [ ] 記録の保存: 面談記録、連絡の履歴、診断書、通知書の写しなど、すべての対応を文書で保存しているか。
  • [ ] 専門家との連携: 産業医、社会保険労務士、弁護士など、判断に迷った際に相談できる体制があるか。
  • [ ] プライバシー保護: 診断名や病状などのセンシティブ情報は、本人の同意なく関係者以外に漏らしていないか(原則は「要配慮個人情報」として厳格に管理)。
  • [ ] プロセスの透明性: 復職判定の基準や手順は、本人に対して事前に説明され、納得感を得られるものになっているか。
  • [ ] 安全配慮義務の履行: 会社は、本人の健康回復と職場環境の調整に対して、可能な限りの配慮を行ったと言える実績があるか。

メンタル不調者の対応は、一律の正解がなく、個別の事情に応じた丁寧な判断が求められます。しかし、基本となる手順と法的根拠を押さえておけば、不必要なトラブルを回避し、従業員と会社双方にとって最善の結果を導くことができます。

関連する詳しい情報はこちらのブログ一覧もご参照ください。

まとめ

メンタル不調者の休職・復職対応は、企業の危機管理能力が問われる重要な局面です。初期対応での信頼関係構築から始まり、主治医・産業医と連携した厳格な休職判定、そして計画的な復職支援まで、一貫したプロセスを踏むことがトラブル回避の鍵となります。特に、復職判定においては、主治医の診断だけでなく、職場で求められる業務遂行能力を基準に、会社が主体的に判断する姿勢が不可欠です。

今回解説した7つの手順とチェックリストを活用し、従業員が安心して療養し、万全の状態で職場に復帰できる体制を整えてください。適切な対応は、個人のキャリアを守るだけでなく、組織全体の健全性と生産性を守ることにも繋がります。

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