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外国人雇用:在留資格と社会保険手続きの複雑さを社労士が深掘り!企業が絶対知るべき法的注意点

2025.12.24 外国人雇用実務

外国人雇用における主要な在留資格の種類と選定の重要性

外国人材の採用において、最初の関門にして最大の落とし穴となるのが「在留資格(ビザ)」の選定です。現在、日本の在留資格は29種類存在しますが、企業が就労目的で採用できる資格は厳格に限定されています。

外国人雇用:在留資格と社会保険手続きの複雑さを社労士が深掘り!企業が絶対知るべき法的注意点

最も一般的な「技術・人文知識・国際業務」は、大学等で学んだ専門知識を活かすホワイトカラー業務が対象です。一方で、人手不足が深刻な現場業務(製造、建設、介護など)をカバーする「特定技能」や、国際貢献を目的とした「技能実習」など、資格ごとに許容される業務範囲(職務内容)は法律で細かく定義されています。

選定の重要性は、単なる手続きの問題にとどまりません。業務内容と在留資格が不一致の場合、それは「不法就労助長罪」という重大な犯罪を構成します。例えば、「技術・人文知識・国際業務」の資格を持つ外国人に、単純労働(工場のライン作業や飲食店のホール係など)を主たる業務として命じることは違法です。企業は採用段階で、自社の業務がどの在留資格に該当するかを法的根拠に基づいて判断しなければなりません。

各在留資格に応じた社会保険(健康保険・年金)加入要件と例外

「外国人は社会保険に入らなくていい」という認識は、現代においては致命的な誤りです。原則として、日本国内で就労する外国人は、日本人と同様に社会保険(健康保険・厚生年金保険)および労働保険(労災保険・雇用保険)の適用対象となります。国籍による区別はありません。

しかし、在留資格や勤務形態による「例外」が存在し、これが実務を複雑にしています。

  • 社会保障協定締結国からの派遣: 日本と社会保障協定を結んでいる国(アメリカ、ドイツ、韓国など)から一時的(原則5年以内)に日本へ派遣された社員は、出身国の社会保障制度に加入し続けることを条件に、日本の社会保険への加入が免除される場合があります。これは「二重加入の防止」を目的とした制度です。
  • 留学生(資格外活動): 「留学」の在留資格を持つ学生がアルバイトをする場合、週28時間以内という制限の下では、労働時間要件を満たさないため社会保険(健保・年金)の適用外となるケースが一般的です。ただし、労災保険はすべての労働者に適用されるため、留学生アルバイトであっても加入必須です。
  • 外交・公用: これらは日本の社会保険法制の適用除外となります。

外国人社員の社会保険加入手続きフローと共通する「見落としがちな」ポイント

外国人社員の入社手続きは、日本人の手続きに「在留管理」の要素が加わるため、フローが複雑化します。

  1. 基礎年金番号の確認: 初来日の場合は新規発番となりますが、再来日の場合は過去の番号が有効なケースがあります。ここでの確認漏れが、将来の「年金記録の未統合」トラブルを招きます。
  2. 氏名の届出: 住民票や在留カードに記載された「アルファベット氏名」と、社内管理上の「フリガナ(カタカナ)」の整合性が極めて重要です。特に中国籍や韓国籍の方で、漢字氏名とアルファベット氏名が混在する場合、日本年金機構への届出内容(ローマ字氏名届)が不正確だと、将来の脱退一時金請求時にスムーズに照合できないリスクがあります。
  3. マイナンバーの活用: 外国人であっても住民登録があればマイナンバーが付与されます。資格取得届にマイナンバーを記載することで、手続きの精度が向上しますが、入国直後はマイナンバーカードの交付に時間がかかる点に留意が必要です。

見落としがちなポイントとして、「扶養家族の認定」が挙げられます。海外に残してきた家族を扶養に入れる場合、送金証明や親族関係証明書の翻訳添付など、厳格な審査書類が求められます。

雇用形態(正社員・パート・アルバイト)による社会保険適用の違いとリスク

雇用形態による社会保険の適用ルールは、2022年10月および2024年10月の法改正により、適用範囲が拡大されています。これは外国人労働者にも等しく適用されます。

  • 正社員(フルタイム): 無条件で加入義務があります。
  • パート・アルバイト: 以下の要件(いわゆる「106万円の壁」に関連する要件)を満たす場合、加入義務が生じます。
    • 週の所定労働時間が20時間以上
    • 月額賃金が8.8万円以上
    • 2ヶ月を超える雇用の見込みがある
    • 学生ではない(休学中や夜間学部などは除く)
    • 従業員数51人以上の企業(特定適用事業所)

企業側のリスクとして、「本人が手取り減少を嫌がって加入を拒否する」ケースが多発しています。しかし、社会保険は公法上の義務であり、労使合意で加入しないという選択肢はありません。未加入が発覚した場合、最大2年間遡及して保険料を徴収されるだけでなく、在留資格の更新時に「納税・社会保険料納付の履行状況」が厳しく審査されるため、結果として外国人社員がビザ更新不許可となり、雇用継続が不可能になるリスクがあります。

特定技能、技能実習生など特定在留資格者の社会保険適用と実務上の注意点

技能実習生および特定技能外国人については、制度設計上、社会保険の加入がより厳格に監視されています。

  • 技能実習生: 入国直後の講習期間中は雇用関係がないため国民健康保険・国民年金(または民間保険)が適用され、配属(実習開始)と同時に社会保険(健保・厚生年金・雇用保険・労災)に切り替わります。この「切り替えタイミング」の管理が実務上の肝です。また、監理団体による定期監査において、適正な加入状況がチェックされます。
  • 特定技能: 特定技能所属機関(受入企業)には、法令遵守が強く求められます。出入国在留管理庁への定期届出(四半期ごと)において、社会保険料の納付状況を報告する義務があります。未納や滞納がある場合、特定技能外国人の受け入れ自体が停止される恐れがあるため、給与天引きと納付の管理は絶対にミスが許されません。

外国人社員の離職・帰国時の社会保険手続きと企業が負うべき責任

外国人社員が退職し、帰国する場合の手続きは、スピードと正確性が求められます。

  1. 資格喪失手続き: 退職日の翌日に資格を喪失します。
  2. 保険証の回収: 帰国直前まで使用したいという要望がありますが、資格喪失後の使用は不当利得となり、後日医療費(7割〜全額)の返還請求が発生します。出国前に確実に回収し、回収不能な場合は「回収不能届」を提出します。
  3. 外国人雇用状況の届出: ハローワークに対し、離職した事実、在留カード番号などを届け出る義務があります(怠ると30万円以下の罰金)。
  4. 住民税の清算: 住民税は後払い方式のため、帰国時に未払い分を一括徴収するか、納税管理人の選任が必要です。これを怠ると、本人が再入国する際のビザ審査に悪影響を及ぼします。

企業としては、これらを「本人の責任」と放置せず、スムーズな帰国をサポートすることが、企業のレピュテーションリスク管理としても重要です。

社会保険関連で企業が直面しやすいトラブル事例と法的な解決策

事例1:手取り額を理由にした加入拒否

外国人社員が「年金は将来もらえないから払いたくない」と主張し、加入を拒むケースです。

解決策: 日本の法律で加入義務があること、将来「脱退一時金」として掛金の一部が戻ってくる仕組みがあることを丁寧に説明します。誓約書などで「本人の希望で加入しなかった」としても、法的には企業側の義務違反となるため、毅然とした態度で加入手続きを進める必要があります。

事例2:無断帰国と保険証の持ち逃げ

退職手続きをせずに帰国し、保険証も返却されないケースです。

解決策: 速やかに資格喪失届を提出し、備考欄等に「本人帰国により回収不能」と明記します。同時に、雇用状況届出も行います。就業規則において、退職時の手続き不備に対する損害賠償規定を定めておくことも抑止力になります。

国際社会保険協定の活用と二重加入・脱退一時金に関する深い知識

グローバルな人材交流において、社会保障協定脱退一時金の知識は不可欠です。

  • 社会保障協定: 日本は現在、アメリカ、ドイツ、フランス、中国、韓国など23ヶ国(発効済み)と協定を結んでいます。協定の内容は「二重加入の防止」と「年金加入期間の通算」の2本柱です。例えば、協定国から5年以内の予定で派遣される場合、相手国の適用証明書を提出することで日本の社会保険が免除されます。
  • 脱退一時金: 厚生年金に6ヶ月以上加入していた外国人が、受給資格期間(10年)を満たさずに帰国する場合、出国後2年以内に請求することで、納付した保険料に応じた一時金が支給されます。2021年の法改正により、支給上限年数が「3年」から「5年」に引き上げられました。この制度を正しく説明することは、保険料負担に対する外国人社員の不満を解消する強力な材料になります。

適法かつ円滑な外国人雇用を実現するための社内体制構築と専門家連携

外国人雇用は、労働基準法、入管法、社会保険各法が複雑に絡み合う領域です。人事担当者だけの知識で全てをカバーするのは限界があります。

  1. 社内体制: 「外国人雇用管理責任者」を選任し、在留期限の管理や生活支援の窓口を一元化します。クラウド型の人事管理システムを導入し、在留期限のアラート機能を活用することも有効です。
  2. 専門家連携: 就労ビザの申請は行政書士、社会保険の手続きや労務管理は社会保険労務士(社労士)といった専門家との連携が必須です。特に、更新申請時にトラブルにならないよう、日常的な労務管理の適法性を社労士にチェックしてもらう体制が、コンプライアンス経営の要です。

外国人材を単なる「労働力」としてではなく、法的に守られた「権利の主体」として尊重し、適正な手続きを行うことが、企業の持続的な成長と人材確保につながります。

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