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労基署調査で慌てない!事前準備チェックリストと当日聞かれる質問10選【社労士解説】

2025.12.26 労務管理

労基署調査とは?調査の目的と種類を理解する

「突然、労働基準監督署から電話があった」「調査官がアポなしで来社した」――。このような事態に直面したとき、経営者や労務担当者の多くは動揺してしまいます。しかし、労基署調査(臨検監督)は、企業が法令を遵守し、従業員が安心して働ける環境を整えるための重要なプロセスです。過度に恐れる必要はありませんが、正しい知識と準備は不可欠です。

労基署調査で慌てない!事前準備チェックリストと当日聞かれる質問10選【社労士解説】

労基署調査の主な目的は、労働基準法や労働安全衛生法などの労働関係法令が守られているかを確認し、違反があれば是正を促すことにあります。調査には主に以下の4つの種類があります。

  • 定期監督
    • 最も一般的な調査で、労基署が年度計画に基づき対象企業をランダムに選定して行います。
    • 法令全般にわたって広くチェックされます。
  • 申告監督
    • 従業員や退職者からの「残業代が支払われていない」「不当に解雇された」といった通報(申告)に基づいて行われます。
    • 特定の違反是正を目的とするため、調査官の追求が厳しくなる傾向があります。
  • 災害時監督
    • 一定規模以上の労働災害が発生した際に、原因究明と再発防止のために行われます。
  • 再監督
    • 過去の調査で是正勧告を受けたにもかかわらず、是正報告書が提出されない場合や、改善が不十分な場合に行われます。

まずは、今回の調査がどの種類に該当するのかを冷静に見極めることが第一歩です。

調査通知が届いたらすぐやるべきこと【初期対応の注意点】

労基署からの調査通知は、電話やFAX、郵送で届く「呼び出し調査」と、予告なく調査官が事業場を訪れる「立ち入り調査(臨検)」の2パターンがあります。

通知が届いた際、まずやるべきことは「日程の確保」と「社内体制の整備」です。

  • 日程調整は可能か?: 呼び出し調査の場合、指定された日時に担当者や責任者が不在であれば、誠実に事情を説明して日程変更を相談することは可能です。無理に対応しようとして準備不足のまま臨むのは避けましょう。
  • 突然の来訪(臨検)の場合: 原則として調査を拒否することはできませんが、責任者が不在等の正当な理由があれば、丁重に説明し、後日改めてもらうよう交渉できる場合があります。決して居留守を使ったり、感情的に追い返したりしてはいけません(法的な罰則対象となる可能性があります)。
  • 専門家への連絡: 顧問社労士がいる場合は、直ちに連絡を入れてください。調査への立ち会いや、事前準備のアドバイスを受けることで、リスクを大幅に軽減できます。

労基署調査の「事前準備」チェックリスト:提出書類と確認事項

調査日が決まったら、必要書類を漏れなく準備します。調査官はこれらの書類を通じて、労働時間管理や賃金支払いの実態をチェックします。以下は、一般的に提出を求められる書類のチェックリストです。

【必須提出書類チェックリスト】
  • 労働者名簿: 記載事項(生年月日、雇入年月日、従事する業務の種類など)に漏れがないか。
  • 賃金台帳: 過去1年〜2年分。残業代の計算根拠、控除項目が正しいか。
  • 出勤簿・タイムカード: 始業・終業時刻が打刻されているか。手書き修正が多い場合、その理由を説明できるか。
  • 就業規則: 最新の法令に合わせて改定し、労基署へ届け出ているか(意見書含む)。
  • 36協定(時間外・休日労働に関する協定届): 有効期間内か。実際の残業時間が協定の上限を超えていないか。
  • 雇用契約書(労働条件通知書): 全従業員分(パート・アルバイト含む)そろっているか。
  • 年次有給休暇管理簿: 「年5日の取得義務」が守られていることがわかるか。
  • 健康診断個人票: 直近の実施結果が保管されているか。
  • 変形労働時間制に関する協定届: 採用している場合、カレンダーやシフト表と整合性が取れているか。

これらの書類に不備や整合性の取れない点(例:タイムカードの打刻時間と賃金台帳の残業代が合わない)がある場合は、事前に事実関係を確認し、調査当日に説明できるように整理しておく必要があります。

厚生労働省の主要様式ダウンロードコーナーなども参考に、法定の様式を満たしているか確認しましょう。

当日聞かれる質問の傾向と従業員への対応ポイント

書類確認だけでなく、調査官からのヒアリングも行われます。ここでは、頻出の質問傾向と対策を解説します。

【よく聞かれる質問10選】
  1. 「タイムカードの打刻時刻と、実際の退社時刻に乖離はありませんか?」(サービス残業の有無)
  2. 「残業代の単価計算に、手当(精皆勤手当や家族手当など)を含めていますか?」(割増賃金の基礎計算)
  3. 「36協定の特別条項を発動する際の手続きは踏んでいますか?」
  4. 「管理監督者は、出退勤の時間を管理していますか?」
  5. 「休憩時間は電話番などをせず、完全に自由に過ごせていますか?」
  6. 「有給休暇の管理簿を見せてください。取得率が低い部署はどこですか?」
  7. 「健康診断後の医師からの意見聴取は実施していますか?」
  8. 「パートタイマーの雇用契約書は更新されていますか?」
  9. 「固定残業代を超えた分の差額は支払われていますか?」
  10. 「就業規則は従業員がいつでも見られる場所にありますか?」
従業員への対応ポイント

調査官は、経営者だけでなく従業員への直接ヒアリングを求めることがあります。「普段通りに答えてください」と従業員に伝えるのが基本ですが、「記憶があいまいな時は『分かりません』と答える」よう指導しておくことが重要です。推測や不確かな記憶で答えると、事実と異なる違反を疑われる原因になります。決して「嘘をつくように」と指示してはいけません。

調査当日を乗り切る!調査官とのコミュニケーション術とNG行動

調査官も人間です。当日の対応態度が、その後の指導内容や心証に大きく影響します。

推奨されるコミュニケーション
  • 誠実な対応: 質問には正直に答え、資料は隠さず提示します。
  • 「確認します」の活用: 即答できない質問や、自信がない内容については、無理に答えず「確認して後日回答いたします」と伝えましょう。誤った回答をするより遥かに賢明です。
  • メモを取る: 指摘された内容や根拠となる条文をその場でメモし、認識のズレを防ぎます。
絶対にしてはいけないNG行動
  • 虚偽の陳述: 嘘をつくことは労働基準法違反(第120条)であり、罰則の対象です。
  • 書類の隠蔽・改ざん: タイムカードを書き換えたり、二重帳簿を作ったりすることは最も悪質な行為とみなされ、書類送検や逮捕のリスクが一気に高まります。
  • 敵対的な態度: 「忙しいのに何しに来たんだ」といった高圧的な態度は百害あって一利なしです。
  • 調査拒否: 正当な理由なく立ち入りを拒むことも罰則の対象です。

労基署調査で「よくある間違い」5選とその回避策

多くの企業が陥りやすい「落とし穴」があります。これらは調査で真っ先に指摘されるポイントです。

  1. 「管理職だから残業代は不要」の誤解
    • 間違い: 課長や店長という肩書きだけで「管理監督者」として扱い、残業代を支払っていない。
    • 回避策: 労働基準法上の管理監督者は「経営と一体的な立場にあるか」「権限と責任があるか」などで厳格に判断されます。実態が伴わない「名ばかり管理職」は即是正対象です。
  2. 固定残業代の運用ミス
    • 間違い: 「基本給に全部込み」として、何時間残業しても追加手当を払わない。
    • 回避策: 就業規則等で「固定残業代の金額」と「対応する時間数」を明記し、それを超えた分は必ず差額を支払う必要があります。
  3. 36協定の届出忘れ・期間切れ
    • 間違い: 毎年更新が必要なことを知らず、期限が切れたまま残業させている。
    • 回避策: 担当者のカレンダーにリマインダーを設定し、期限切れの1ヶ月前には準備を始めましょう。
  4. 休憩時間の未取得
    • 間違い: 昼休み中の電話対応や来客対応を義務付けているのに、労働時間としてカウントしていない。
    • 回避策: 休憩中は業務から完全に解放する必要があります。電話番が必要なら、当番制にして時間をずらすか、その時間は労働時間として賃金を支払います。
  5. 有給休暇の時季指定義務違反
    • 間違い: 従業員から申請がないからと、年5日の取得を放置している。
    • 回避策: 有給管理簿で取得日数を常に把握し、期限が迫っている従業員には会社から時季を指定して休ませる仕組みを作ります。

調査後の対応:是正勧告と指導票への適切な対処法

調査が終了すると、後日(またはその場で)結果が通知されます。主に以下の2種類の文書が交付されます。

  • 是正勧告書: 明らかな法令違反があった場合に交付されます。違反条項、是正期日が記載されています。
  • 指導票: 法令違反とまでは言えないが、改善が望ましい点について交付されます。
対処の流れ
  1. 内容の確認: 指摘された違反内容と、指定された「是正期日」を確認します。
  2. 是正措置の実施: 未払い残業代の支払いや、就業規則の変更など、具体的な対応を行います。
  3. 是正報告書の提出: 指定された期日までに「是正報告書(または改善報告書)」を作成し、労基署へ提出します。報告書には、「いつ、どのように改善したか」を記載し、証拠書類(改定後の就業規則や支払いを証明する振込明細の写しなど)を添付します。

期日までの対応が難しい場合は、放置せずに必ず担当調査官に連絡し、進捗状況を伝えて期限延長の相談をしてください。無視を続けると「再監督」の対象となり、事態が悪化します。

労基署調査を未然に防ぐ!日頃から実施すべき労務管理のポイント

労基署調査は「怖いもの」ではなく、自社の労務管理を見直す良い機会です。しかし、日頃から適切な管理を行っていれば、調査におびえる必要はありません。

  • 労働時間の適正把握: 1分単位での時間管理を徹底し、自己申告制と実態の乖離がないか定期的にチェックする。
  • 36協定の遵守: 特別条項を含め、限度時間を超えないよう勤怠システムでアラートを出すなどの仕組みを導入する。
  • 就業規則の定期的な見直し: 法改正(育児介護休業法やハラスメント関連法など)に対応できているか、社労士によるリーガルチェックを受ける。
  • 良好な職場環境の構築: 実は、調査のきっかけとなる「申告監督」は、会社への不信感から生じることが多いです。ハラスメントのない職場づくりや、従業員との対話を大切にすることが、結果として最大のリスクヘッジになります。

労務管理は「転ばぬ先の杖」。日々の積み重ねが、会社と従業員の両方を守ることにつながります。不安な点があれば、早めに専門家である社会保険労務士にご相談ください。

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