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就業規則作成の壁を乗り越える!従業員10人以下の企業が初めてでも安心できる5つの手順
導入
「従業員が少し増えてきたけれど、まだ数人だし就業規則なんて大げさかな……」

「法律で義務付けられているのは10人以上と聞いたけれど、ウチのような小規模な会社にも必要なのだろうか?」
経営者の皆様、日々の業務に追われる中で、このような漠然とした不安を抱えてはいませんか?会社が成長し、新しい仲間が増えることは本来喜ばしいことですが、同時に「ルール作り」という新たな経営課題に直面する瞬間でもあります。
実は、就業規則の作成義務がない従業員10人以下の企業こそ、明確なルールを設けることで得られるメリットは計り知れません。逆に、ルールが曖昧なままでいると、些細な認識の違いが大きなトラブルに発展してしまうリスクも潜んでいます。
この記事では、初めて就業規則を作成する経営者様に向けて、専門用語をできるだけ使わずに、作成から運用までの道のりを5つの具体的な手順として整理しました。ひな形をそのまま使うことのリスクや、作成後の「周知」の重要性など、実務の現場でしか分からないポイントも余すところなくお伝えします。
「法律のため」ではなく、「会社と従業員が安心して働くため」のルール作り。その第一歩を、この記事と一緒に踏み出してみましょう。
「まさかウチに必要?」従業員10人以下の小規模企業が就業規則を導入すべき理由
「うちは家族経営に近いし、みんな気心が知れているから大丈夫」
そう思っていた経営者の方ほど、いざトラブルが起きたときに「もっと早くルールを決めておけばよかった」と後悔されるケースが後を絶ちません。
労働基準法では、常時10人以上の労働者を使用する事業場に対して就業規則の作成・届出を義務付けていますが、10人未満の企業にはその義務はありません。しかし、義務がないことと、必要がないことはイコールではないのです。ここでは、小規模企業こそ就業規則を導入すべき3つの理由を解説します。
- トラブル発生時の「防波堤」となる口約束や慣習だけで運営していると、いざ「言った・言わない」の争いになったとき、会社を守る根拠が何もありません。例えば、問題行動を繰り返す社員に対して懲戒処分を行おうとしても、就業規則に根拠となる規定がなければ、その処分が無効と判断されるリスクが高まります。ルールを明文化することは、会社と真面目に働く従業員双方を守る最強の防波堤となります。
- 助成金の活用チャンスが広がるキャリアアップ助成金など、国が用意している多くの助成金は、申請要件として「就業規則の作成・届出」を求めています。たとえ10人未満であっても、就業規則を整備し労働基準監督署へ届け出ることで、数百万円単位の支援を受けられる可能性が生まれます。これは経営基盤を強化する上で見逃せないメリットです。
- 採用力と定着率の向上につながる求職者は、給与だけでなく「安心して長く働ける環境か」を厳しく見ています。「当社には明確な就業規則があります」と提示できることは、企業の信頼性を大きく高めます。また、入社後のルールが明確であれば、従業員も無用な不安を感じることなく業務に集中でき、結果として離職率の低下にもつながります。
「難しい、時間がない…」初めての就業規則作成で感じる不安とよくある誤解を解消
誤解1:「専門家に頼むと高額だし、自分で作ると違法になりそう」
確かに、社会保険労務士などの専門家に依頼すれば数十万円の費用がかかることもあります。しかし、現在は厚生労働省が提供する「モデル就業規則」などのテンプレートが充実しており、これらをベースに自社に合わせて調整すれば、自力で作成することも不可能ではありません。重要なのは、「テンプレートをそのまま使わない」ことです。自社の実態に合わせて修正を加えるプロセスさえ踏めば、過度なコストをかけずに作成をスタートできます。
誤解2:「一度決めたら、簡単に変えられないのでは?」
「一度ルールを決めてしまうと、経営が苦しい時でも賞与を出さなければならなくなるのでは?」と心配される方もいます。しかし、就業規則は「石に刻んだ文字」ではありません。法改正や会社の状況変化に合わせて、適切な手続き(意見聴取や周知など)を経れば変更は可能です。むしろ、ルールがない状態で場当たり的に条件を変える方が、法的なリスク(不利益変更など)は高まります。
誤解3:「10人未満なら、作った後の届出はいらない?」
法的な義務はありませんが、作成した就業規則は労働基準監督署へ届け出ることを強く推奨します。届出を行うことで、公的な機関に認められたルールとしての客観性が担保され、前述した助成金の申請要件を満たすことにもなります。また、従業員に対して「会社は法令を遵守する意思がある」という強いメッセージにもなります。
就業規則作成の第一歩:準備から着手までの「はじめの一歩」を丁寧に解説
ここからは、実際に就業規則を作成するための具体的な手順に入っていきます。いきなり文章を書き始めるのではなく、まずは材料を集める「下準備」が成功の鍵を握ります。
ステップ1:現状の「暗黙のルール」を書き出す
まずは、現在社内で運用されている労働条件や慣習を洗い出してみましょう。メモ書き程度で構いませんので、以下の項目について現状を整理します。
- 始業・終業時刻、休憩時間は何時から何時までか?
- 残業代の計算方法や支払日はいつか?
- 休日は何曜日か?年間で何日あるか?
- 有給休暇はどのように管理しているか?
- 退職時のルール(何ヶ月前に申し出るか)はどうなっているか?
小規模な会社では、これらが「なんとなく」決まっているケースが多いものです。これを文字に起こすだけでも、矛盾点や曖昧な点が見えてくるはずです。
ステップ2:労働基準法の最低ラインを確認する
書き出した現状のルールが、法律の基準を下回っていないか確認します。例えば、「1日8時間、週40時間」という法定労働時間を超えていないか、残業代の割増率(通常1.25倍)は正しいか、などです。就業規則で法律を下回る条件を定めても、その部分は無効となり、法律の基準が適用されます。この段階で、無理のない適法なラインを見極めることが重要です。
就業規則の核を作る:必ず盛り込みたい「基本ルール」とそのポイント
準備が整ったら、いよいよ条文の作成に入ります。就業規則には、法律で必ず記載しなければならない「絶対的必要記載事項」と、制度がある場合に記載する「相対的必要記載事項」があります。これらが就業規則の骨組みとなります。
必ず書くべき「絶対的必要記載事項」
これらが欠けていると、就業規則として認められない可能性があります。以下の3点は必ず網羅しましょう。
- 労働時間関係:始業・終業時刻、休憩時間、休日、休暇について。変形労働時間制などを導入する場合は、その詳細も必須です。
- 賃金関係:給与の決定方法、計算方法、支払日、昇給に関する事項。「月末締め翌月15日払い」など具体的に明記します。
- 退職関係:退職の手続き、解雇の事由。特に「解雇」に関する規定は、トラブル防止の観点から具体的かつ厳格に定めておく必要があります。
制度があるなら書くべき「相対的必要記載事項」
以下の項目は、会社で制度を設ける場合にのみ記載が必要ですが、多くの会社で設定されている項目です。
- 退職金:支給される対象者、計算方法、支払時期など。
- 賞与(ボーナス):支給基準や時期。「会社の業績により支給しないことがある」といった但し書きを入れるのが一般的です。
- 安全衛生・職業訓練:健康診断の受診義務や教育訓練に関する事項。
これらの項目を作成する際は、「主語」と「述語」を明確にすることを意識してください。曖昧な表現は解釈のズレを生み、将来の火種となります。
「ウチならでは」の就業規則へ:会社の特色を反映させる独自ルール設定ガイド
法律で求められる項目を埋めるだけでは、味気ないだけでなく、自社の実情に合わない使いにくい規則になってしまいます。ここで、会社の個性や想いを反映させる「独自ルール(任意的記載事項)」を盛り込みましょう。
服務規律で「会社の品格」を守る
従業員に守ってほしいマナーや行動規範を定めます。最近では以下のような条項を盛り込む企業が増えています。
- SNSの利用ガイドライン:業務中の私的利用の禁止や、会社情報の書き込みに関する制限。
- 副業・兼業の取り扱い:許可制にするのか、届出制にするのか、全面的に禁止するのか。
- 身だしなみ:接客業であれば服装や髪型に関する具体的な基準。
独自の休暇制度で満足度アップ
コストをかけずに従業員のモチベーションを高める工夫として、法定の有給休暇とは別に、独自の特別休暇を設けるのも手です。
- アニバーサリー休暇:誕生日や結婚記念日の休暇。
- リフレッシュ休暇:勤続○年の節目に付与する休暇。
- 慶弔休暇:結婚や忌引きの際の日数設定。
これらの「ウチならでは」のルールを加えることで、就業規則は単なる法律文書から、会社の文化を伝えるメッセージブックへと進化します。
安心運用のための落とし穴対策:就業規則作成で避けるべき注意点とQ&A
ここまでくれば完成まであと一息ですが、ここで多くの企業が陥りやすい「落とし穴」があります。後々のトラブルを防ぐための重要なチェックポイントを確認しましょう。
注意点1:ネット上のひな形を「コピペ」する危険性
「同業他社の就業規則がネットにあったから、社名だけ変えて使おう」
これは最も危険な行為です。例えば、大企業のひな形には「休職期間は3年」や「退職金は基本給×勤続年数」といった、体力のある企業だからこそできる手厚い条件が書かれていることがあります。これに気付かずそのまま採用してしまうと、いざその状況になったときに支払い義務が生じ、会社の経営を圧迫することになります。必ず「自社で実行可能な内容か」を一語一句確認してください。
注意点2:パート・アルバイトへの適用範囲
「正社員用の就業規則を作ったつもりだったのに、記載が曖昧でパート社員にも退職金や賞与を請求された」というケースがあります。これを防ぐためには、就業規則の冒頭で「本規則は正社員に適用する」と明確に定義し、パートタイマーについては「パートタイマー就業規則」を別途作成するか、適用除外規定を設ける必要があります。
よくある疑問を解消(Q&A)
ここでは、作成中に迷いやすいポイントをQ&A形式ではなく、文章の流れの中で解説します。
まず、「作成にかかる期間はどれくらい?」という疑問ですが、自社で作成する場合は、準備から完成まで1〜3ヶ月程度を見込んでおくと良いでしょう。焦って作ると重要な項目の漏れにつながります。
次に、「専門家(社労士)のチェックは必要?」という点です。必須ではありませんが、作成したドラフト(原案)だけでも専門家に見てもらうことを強くお勧めします。法的な不備やリスクの所在を指摘してもらうだけで、安心感が全く違います。「スポット契約」でチェックのみを請け負う社労士も多いため、検討する価値は十分にあります。
完成から周知まで:作成した就業規則を「生きたルール」にする最終ステップ
素晴らしい就業規則ができあがっても、それを机の中にしまっておいては意味がありません。法律的にも、そして組織運営的にも、最も重要なのがこの「周知」のプロセスです。
手順1:従業員代表からの意見聴取
完成した就業規則案について、従業員の過半数を代表する者(過半数代表者)の意見を聴きます。法律上、同意を得る必要まではありせんが、意見書に署名をもらい、意見があれば記載してもらう必要があります。これは「勝手に決めた」という不信感を拭うための大切なプロセスです。
手順2:労働基準監督署への届出(推奨)
10人未満の企業に義務はありませんが、就業規則(正本・副本)、意見書、届出書をセットにして所轄の労働基準監督署へ届け出ます。副本には受付印が押されて返却されます。これが「ちゃんとしたルールがある会社」という証明になります。
手順3:従業員への「周知」の徹底(最重要)
ここが最大のポイントです。就業規則は、従業員に「周知」されて初めてその効力を持ちます。 過去の判例(フジ興産事件など)でも、周知されていない就業規則の効力は否定されています。
周知とは、単に「作ったよ」と伝えるだけでは不十分です。以下のいずれかの方法で、「従業員が見たいときにいつでも見られる状態」にしておく必要があります。
- 休憩室や執務スペースなど、見やすい場所に掲示・備え付ける。
- 書面として従業員一人ひとりに配布する。
- 共有サーバーや社内ポータルにデータを保存し、誰でもアクセスできるようにする。
社長の机の引き出しに鍵をかけて保管している状態は「周知」とは認められません。作成した就業規則は、堂々とオープンにし、会社と従業員の約束事として共有しましょう。
まとめ
就業規則の作成は、従業員10人以下の企業にとって法的な義務ではありませんが、会社を守り、成長させるためには不可欠なステップです。
- 現状のルールを洗い出す
- 法的な最低基準を確認する
- 絶対的記載事項などの核を作る
- 会社独自のルールを盛り込む
- 従業員への周知を徹底する
この5つの手順を踏めば、初めてでも実効性のある就業規則を作成することができます。就業規則は作って終わりではなく、会社の成長に合わせて育てていくものです。まずは第一歩を踏み出し、会社と従業員の信頼の架け橋となる「生きたルール」を作っていきましょう。
関連する詳しい情報はこちらのブログ一覧もご参照ください。
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