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残業代未払い問題発覚!労働基準監督署対応で企業が取るべき3つの対策を徹底比較

2025.11.26 労務管理

企業の経営において、残業代未払いの問題が発覚することは、社会的信用の失墜や巨額の金銭的負担につながる重大なリスクです。この記事では、万が一残業代未払いが発覚した際や労働基準監督署の調査が入った際に、企業が取るべき具体的な対応手順と、解決に向けた3つの選択肢を比較解説します。正しい知識でリスクを最小限に抑える方法を整理します。

残業代未払い問題発覚!労働基準監督署対応で企業が取るべき3つの対策を徹底比較

残業代未払い問題の基礎知識と企業が負う法的責任

残業代未払いの問題は、単なる給与計算のミスでは済まされない重大な法令違反です。まずは企業が負うことになる法的責任の重さを正確に理解する必要があります。

刑事罰と企業名公表のリスク

労働基準法第37条では、時間外・休日・深夜労働に対する割増賃金の支払いが義務付けられています。これに違反した場合、「6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金」という刑事罰が科される可能性があります(同法第119条)。重要なのは、この罰則は違反を実行した担当者や経営者個人だけでなく、法人としての企業そのものにも科される「両罰規定」がある点です。また、悪質な事案として厚生労働省に企業名が公表されれば、採用難や取引停止といった経営上のダメージは計り知れません。

民事上の金銭的負担(遅延損害金と付加金)

未払い賃金の支払い義務に加え、民事上では以下の金銭的ペナルティが発生します。

  • 遅延損害金: 在職中は年3%ですが、退職後の未払い分に関しては「賃金の支払の確保等に関する法律」により年14.6%という高率な利息が適用されます。
  • 付加金: 裁判所での解決となった場合、未払い額と同額の「付加金」の支払いを命じられることがあります。つまり、本来払うべき残業代未払い額の最大2倍を支払うリスクがあるのです。

消滅時効の延長

2020年4月の法改正により、残業代を含む賃金請求権の消滅時効は従来の2年から3年(当面の間)に延長されました。これにより、過去に遡って請求される金額が1.5倍に膨れ上がる可能性があり、企業のリスク管理における重要性が増しています。

労働基準監督署による調査の流れと是正勧告の実態

ある日突然、労働基準監督署の調査(臨検)が行われることがあります。残業代未払いの疑いがある場合、どのようなプロセスで是正が求められるのか、その実態を解説します。

  • 調査の予告と実施: 原則として事前の予告がありますが、通報に基づく「申告監督」や証拠隠滅の恐れがある場合は抜き打ちで行われることもあります。
  • 事実確認: タイムカード、賃金台帳、就業規則などの帳簿確認と、経営者や従業員へのヒアリングが行われます。
  • 是正勧告書の交付: 法令違反が確認されると「是正勧告書」が交付されます。違反ではないが改善が必要な場合は「指導票」が渡されます。
  • 是正報告: 指定された期日までに違反状態を解消(未払い分の支払いなど)し、「是正報告書」を提出する必要があります。

是正勧告自体に行政処力はありませんが、これを無視したり虚偽の報告を行ったりすると、再監督や検察庁への送検(逮捕)につながる極めて危険な行為となります。

残業代未払い問題解決へのアプローチ:3つの選択肢とその比較

残業代未払いが発覚した場合、企業が取るべき解決策は大きく分けて3つあります。状況やリソースに応じて最適な方法を選択してください。

1. 社内リソースによる自主調査と全額精算

社内の人事労務担当者が中心となり、過去の勤怠記録を精査して未払い分を計算し、支払う方法です。

  • メリット: 外部委託コストがかからず、迅速に動けば従業員の信頼回復も早まります。
  • デメリット: 複雑な割増賃金の計算ミスが起きやすく、客観性に欠けるため従業員が納得しない可能性があります。
  • 推奨ケース: 未払い額が少額で、計算ミスなどの原因が明確な場合。

2. 社会保険労務士への依頼(監査と是正対応)

労務の専門家である社会保険労務士に依頼し、客観的な立場から未払い額の算出と是正報告書の作成支援を受ける方法です。

  • メリット: 正確な法令知識に基づく計算が可能で、労基署対応もスムーズに進みます。再発防止に向けた就業規則の改定などもワンストップで相談できます。
  • デメリット: 専門家への報酬費用が発生します。また、従業員との間で紛争(裁判など)に発展している場合の代理交渉はできません(※紛争解決手続代理業務を行える特定社会保険労務士を除く)。
  • 推奨ケース: 労基署の調査が入った場合や、制度自体を見直して根本解決を図りたい場合。

3. 弁護士への依頼(交渉・紛争対応)

すでに従業員側が弁護士を立てて請求してきた場合や、労働審判・訴訟に発展する可能性がある場合に、法律のプロである弁護士に依頼する方法です。

  • メリット: 代理人として交渉の窓口になれるため、企業の負担が軽減されます。「固定残業代が有効か否か」といった法的な争点がある場合に、減額交渉や正当性の主張が可能です。
  • デメリット: 依頼費用が比較的高額になりがちです。また、初期段階から弁護士が入ることで、対立構造が鮮明になり、穏便な解決が難しくなることもあります。
  • 推奨ケース: 請求額が多額で法的な争点がある場合や、退職者とのトラブルが泥沼化している場合。

3つの選択肢の比較まとめ

選択肢コスト正確性・法的対応従業員への印象向いている状況
社内対応低(リスクあり)普通〜不信軽微なミス、早期発見時
社労士高(実務・予防)信頼・安心残業代未払い調査対応、体制整備
弁護士高(紛争・交渉)警戒・対立訴訟リスク有、退職者請求

未払い残業代を未然に防ぐ!企業に求められる予防策

残業代未払い問題は、発生してからの対応よりも、未然に防ぐことが経営上最もコストパフォーマンスの高い対策です。

勤怠管理システムの導入と徹底

タイムカードやExcelでの自己申告は、打刻漏れや実態との乖離を生みやすい温床です。PCのログオン・ログオフ時間と連動する勤怠管理システムや、ICカード打刻などを導入し、客観的な労働時間を「1分単位」で把握する体制を整えましょう。

就業規則と賃金規定の整備

特に注意が必要なのが「固定残業代(みなし残業代)」の運用です。就業規則において、「固定残業代の金額」と「それに相当する時間数」が明確に区分され、超過分を支払う旨が規定されていなければ、裁判で無効と判断されるリスクが高まります。定期的に専門家のチェックを受けることをお勧めします。

管理監督者の範囲の適正化

「管理職だから残業代は不要」という認識は、多くの企業で誤解されています。労働基準法上の「管理監督者」と認められるには、経営者と一体的な権限や、出退勤の自由、十分な待遇が必要です。名ばかり管理職の状態になっていないか、実態を見直しましょう。

労働基準監督署対応を円滑に進めるための具体的な注意点

実際に労働基準監督署の調査対象となった場合、以下の点に注意して対応することで、不要なトラブルを回避できます。

  • 感情的な対応を避ける: 調査官は敵ではありません。法令遵守の姿勢を見せ、協力的・誠実に対応することが、結果的にスムーズな解決につながります。
  • 資料は整理して提示する: 求められた賃金台帳や出勤簿、36協定の控えなどは速やかに提出できるよう日頃から整理しておきましょう。資料の不備は管理能力の欠如とみなされます。
  • 虚偽の説明は絶対にしない: 不利な事実を隠そうとして虚偽の報告をすることは、最も重いペナルティの対象となります。事実は事実として認め、改善の意思を示すことが重要です。
  • 是正報告の期限を守る: 指定された期日までに是正(支払いや規定改定)が完了しない場合は、事前に相談してください。無断での遅延は指導を強化させる原因となります。

労働基準監督署への対応や、未払い賃金の計算は非常に専門的な知識を要します。自社だけで判断せず、早い段階で専門家の知見を取り入れることが、企業を守る確実な手段となります。

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まとめ

残業代未払い問題は、放置すればするほど遅延損害金や付加金によって企業のリスクが拡大します。万が一問題が発覚した際は、隠蔽しようとせず、以下のポイントを押さえて誠実に対応することが重要です。

  • 刑事罰や企業名公表のリスクを理解し、経営課題として捉えること。
  • 自社の状況に合わせて、社内対応・社労士・弁護士の適切なリソースを選択すること。
  • 勤怠管理や就業規則の見直しを行い、再発防止策を講じること。

正しい対応と予防策を実行することで、企業は法令遵守(コンプライアンス)を果たし、従業員が安心して働ける職場環境を取り戻すことができます。早期の残業代未払い対策こそが、企業の持続的な成長を支える土台となります。

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