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完全歩合給とは何?100人企業の経営者が知るべき制度設計と法的リスク

2025.10.09 スタッフブログ

「営業成績に応じた給与制度を作りたいけれど、完全歩合給って法律的に大丈夫なの?」

従業員100人を抱える企業の経営者から、このような相談を受けることが非常に多くなっています。完全歩合給とは、従業員の成果に応じて給与を決定する制度ですが、「導入したいけれど法的リスクが心配」「最低賃金との関係はどうなるのか」「社会保険の取り扱いは」といった疑問をお持ちの方がほとんどです。

特に営業職の多い企業では、「優秀な営業マンのモチベーション向上を図りたい」「成果に見合った報酬を支払いたい」という思いがある一方で、「労働基準法違反になるのでは」「従業員とのトラブルが心配」といった不安も拭えないでしょう。

また、給与計算の実務面でも、「毎月の計算が複雑になるのでは」「社会保険料の算定はどうすればいいのか」「年末調整への影響は」といった課題があります。総務担当者からは「就業規則にどう記載すればいいのか」「労働基準監督署からの指導が心配」という声もよく伺います。

「現在の顧問社労士からは『リスクが高い』と言われたけれど、本当にそうなのか」「他社の事例を知りたい」「適法な制度設計の方法はないのか」そんな疑問をお持ちではありませんか。

本記事では、完全歩合給とは何かという基本的な概念から、法的な制約、適法な制度設計の方法、実務上の注意点まで、全国対応のHR BrEdge(エイチアールブレッジ)社会保険労務士法人が豊富な実務経験に基づいて詳しく解説いたします。リスクを回避しながら効果的な成果報酬制度を構築する方法をお伝えします。

完全歩合給の定義と法的制約:企業が理解すべき基本原則

「完全歩合給って、そもそもどんな制度?法律的には問題ないの?」

まず、完全歩合給とは何かを正確に理解し、法的な制約を把握することから始めましょう。多くの経営者が混乱する理由は、「歩合給」と「完全歩合給」の違い、そして労働法上の位置づけが複雑であるためです。

【完全歩合給の定義と種類】

完全歩合給とは
従業員の労働成果(売上、契約件数等)に完全に連動して給与を決定する制度です。固定給部分がなく、成果がゼロの場合は給与もゼロになる仕組みが「完全」歩合給の特徴です。

一般的な歩合給との違い:
・一般的な歩合給:基本給+歩合給の組み合わせ
・完全歩合給:歩合給のみで構成

【労働基準法上の重要な制約】

1. 最低賃金法の適用
完全歩合給制度であっても、労働者である以上は最低賃金法の適用を受けます。つまり、実働時間に最低賃金を乗じた金額を下回ってはいけません。「成果がないから給与ゼロ」は違法です。

具体例:
・月160時間労働、最低賃金900円の地域の場合
・最低保障額:160時間×900円=144,000円
・歩合給がこの金額を下回る場合は差額の支払いが必要

2. 労働時間管理の義務
歩合給制度であっても、労働時間の管理義務は免除されません。36協定の締結、時間外労働の割増賃金支払い等、すべて適用されます。

3. 社会保険の取り扱い
完全歩合給制度の従業員も社会保険の加入対象となります。標準報酬月額は過去3ヶ月の平均額で算定し、変動が大きい場合は随時改定の対象となります。

【適法な完全歩合給制度の要件】

1. 労働者性の明確化
完全歩合給制度を導入する場合でも、雇用契約である以上は労働者として扱う必要があります。「業務委託契約だから最低賃金は関係ない」という解釈は危険です。

労働者性の判断基準:
・指揮命令下での労働か
・時間的・場所的拘束があるか
・報酬の労務対価性
・機械・器具の負担関係
・専属性の程度

2. 就業規則への明記
完全歩合給制度を導入する場合は、就業規則に以下の事項を明記する必要があります:
・歩合給の計算方法
・支給時期・支給方法
・最低保障額の定め
・労働時間管理の方法

3. 労働契約書での明示
労働基準法第15条により、賃金の決定方法は労働契約締結時に明示する必要があります。歩合給の計算式、支給条件等を具体的に記載してください。

経営者の視点から見ると、完全歩合給制度は従業員のモチベーション向上と人件費の変動費化という大きなメリットがありますが、同時に法的リスクも伴います。適切な制度設計により、リスクを最小化しながらメリットを享受することが重要です。

総務担当者の視点から見ると、完全歩合給制度は給与計算の複雑化、労働時間管理の重要性増大、社会保険手続きの煩雑化など、実務負荷が大幅に増加します。DX化による効率化や、専門家との連携が不可欠です。

【近年の動向と注意点】

働き方改革関連法の施行により、労働時間管理がより厳格になっています。完全歩合給制度であっても例外ではなく、適切な労働時間把握と割増賃金の支払いが求められます。

また、同一労働同一賃金の観点から、正社員と非正社員の処遇格差についても注意が必要です。完全歩合給制度を一部の従業員のみに適用する場合は、合理的な理由が必要となります。

助成金の活用についても、完全歩合給制度の導入により一部の助成金が対象外となる可能性があります。事前の確認が重要です。

適法な完全歩合給制度の設計方法と企業事例

「法的リスクを避けながら、効果的な歩合給制度を作るにはどうすればいいの?」

ここでは、当事務所が支援してきた企業の実例を交えながら、適法で効果的な完全歩合給制度の設計方法をご紹介します。

【成功事例1:不動産業Z社(従業員95名)の場合】

Z社は営業職30名に完全歩合給制度を導入し、売上向上と離職率削減を同時に実現しました。

制度設計のポイント:
・基本保障額:月額20万円(地域最低賃金×170時間×1.2倍)
・歩合率:売上の3~8%(経験年数・役職により変動)
・支給方法:基本保障額を毎月支給、歩合給は翌月に追加支給
・労働時間管理:ICカードによる客観的な記録

法的配慮事項:
・最低賃金を上回る基本保障額の設定
・36協定に基づく時間外労働管理
・歩合給計算の透明性確保
・社会保険の適正な算定

効果:
・営業部門の売上30%向上
・優秀な営業マンの定着率向上
・人件費の変動費化により収益性改善
・労働基準監督署からの指導なし

【成功事例2:保険代理店A社(従業員45名)の段階的導入】

A社は従来の固定給制度から段階的に完全歩合給制度に移行しました。

移行スケジュール:
第1段階(6ヶ月):固定給70%+歩合給30%
第2段階(6ヶ月):固定給50%+歩合給50%
第3段階(継続):基本保障額+歩合給(完全歩合給)

導入時の配慮:
・従業員説明会の実施(計3回)
・個別面談による不安解消
・先行導入者によるサポート体制
給与計算システムの段階的改修

段階的な導入により、従業員の理解と協力を得ながら、円滑に制度変更を実現できました。

【失敗例:IT企業B社(従業員80名)の場合】

B社は営業職に完全歩合給制度を導入しましたが、制度設計に問題があり、トラブルが発生しました。

問題点:
・最低保障額の設定が不十分(最低賃金ギリギリ)
・歩合給の計算根拠が不明確
・労働時間管理が曖昧
・社会保険の随時改定手続きの遅延

発生したトラブル:
・従業員からの労働基準監督署への申告
・未払い賃金の請求
・優秀な営業マンの離職
・企業イメージの悪化

この事例から学べるのは、「制度設計の重要性と法的配慮の必要性」です。

【実践的な制度設計手順】

ステップ1:現状分析と方針決定(2ヶ月)
・現在の給与制度の分析
・従業員の意識調査
・導入目的の明確化
・法的リスクの評価

ステップ2:制度設計(2ヶ月)
・基本保障額の設定
・歩合率・計算方法の決定
・支給時期・方法の確定
・労働時間管理方法の整備

ステップ3:規程整備(1ヶ月)
就業規則の改定
・給与規程の作成
・労働契約書の改定
・運用マニュアルの作成

ステップ4:システム対応(1ヶ月)
給与計算システムの設定
・勤怠管理システムの改修
・社会保険管理の整備
・帳票類の準備

ステップ5:導入・運用開始(継続)
・従業員説明会の実施
・試行運用(3ヶ月)
・本格運用開始
・定期的な見直し

【業種別の導入ポイント】

不動産業:契約金額ベース、季節変動への配慮
保険業:継続率重視、長期インセンティブ
IT業:プロジェクト成功報酬、技術力評価の併用
小売業:店舗売上貢献度、接客評価の組み合わせ

経営者の視点からは、完全歩合給制度の導入は短期的にはコストが発生しますが、中長期的には人件費の最適化と生産性向上により、大きなリターンが期待できます。ただし、適切な制度設計と運用が前提となります。

総務担当者の視点からは、制度導入により業務が複雑化するため、DX化による効率化が不可欠です。また、法的リスク管理の観点から、顧問社労士との密な連携や、場合によっては業務のアウトソースも検討すべきでしょう。内製化だけでは対応困難な専門性が求められます。

よくある疑問をQ&A形式で解決

Q1. 完全歩合給とは具体的にどのような制度でしょうか?従来の固定給制度と比べてどのようなメリット・デメリットがありますか?

A1. 完全歩合給とは、固定給部分を設けず、従業員の成果に完全に連動して給与を決定する制度です。メリットは人件費の変動費化、従業員のモチベーション向上、優秀な人材の確保などがあります。デメリットは最低賃金保障の複雑さ、給与計算の煩雑化、労務管理の困難さなどです。総務担当者の立場では、制度運用の複雑さが大幅に増加するため、システム化や専門家との連携が不可欠です。経営者の視点では、適切に設計・運用できれば大きな効果が期待できますが、法的リスクも高いため慎重な検討が必要です。

Q2. 完全歩合給制度でも最低賃金の保障は必要なのでしょうか?具体的にはどのように計算すればよいですか?

A2. はい、完全歩合給制度であっても最低賃金法の適用を受けるため、実労働時間に最低賃金を乗じた金額の保障が必要です。例えば、月160時間労働、最低賃金900円の地域では、最低144,000円の保障が必要となります。歩合給がこの金額を下回る場合は差額の支払いが義務となります。総務担当者としては、毎月の労働時間を正確に把握し、最低賃金額との比較計算を行う必要があります。経営者の立場では、この最低保障額を考慮した事業計画と収益性の検討が重要です。

Q3. 完全歩合給制度を導入する場合、就業規則にはどのような内容を記載すべきでしょうか?

A3. 就業規則には最低限以下の内容を記載する必要があります:歩合給の計算方法・計算期間、支給時期・支給方法、最低保障額とその計算方法、労働時間管理の方法、歩合給の対象となる成果の定義、支給停止・減額の条件などです。また、労働契約書でも個別に詳細な条件を明示する必要があります。総務担当者としては、法改正への対応や運用の実態に合わせた定期的な見直しが重要です。経営者の視点では、従業員とのトラブル防止のため、可能な限り具体的で分かりやすい規定とすることが大切です。

まとめ:完全歩合給制度で従業員のモチベーション向上と法的リスク管理を両立

完全歩合給とは何かを正しく理解し、適法な制度設計を行うことで、従業員のモチベーション向上と企業の収益性改善を同時に実現できます。100人規模の企業では、営業職を中心とした一部の職種への導入から始めることで、リスクを最小化しながら効果を検証することが可能です。

重要なのは、完全歩合給制度を「単なる成果報酬制度」ではなく、「法的要件を満たした適正な労働条件」として設計することです。最低賃金の保障、適切な労働時間管理、透明性の高い計算方法など、労働基準法を遵守した制度運営が不可欠です。

また、DX化の進展により、複雑な歩合給計算や労働時間管理も効率化が可能になっています。適切なシステム導入により、制度運用の負荷を軽減しながら、正確性と透明性を確保することができます。

完全歩合給制度の成功は、制度設計の段階で決まると言っても過言ではありません。従業員の理解と協力を得ながら、法的リスクを回避し、企業の成長につなげるためには、専門家との連携が不可欠です。

もし現在、完全歩合給制度の導入を検討されている場合、または現在の制度に課題を感じている場合は、ぜひ専門家にご相談ください。HR BrEdge社会保険労務士法人では、業種特性と企業規模に応じた最適な歩合給制度の設計から運用支援まで、総合的なサポートを提供しています。

今すぐ無料相談をご希望の方は、お電話またはWebフォームからお気軽にお問い合わせください。250社以上の企業様をサポートしてきた豊富な経験をもとに、貴社に最適な成果報酬制度をご提案いたします。法的リスクを回避しながら、従業員のモチベーション向上と企業の持続的成長を一緒に実現してまいりましょう。【全国対応・オンライン相談OK】

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