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特定技能(農業)の派遣・直接雇用の違いと失敗しない選択手順【社労士が実務解説】
農業分野における特定技能外国人の受け入れでは、他の多くの分野とは異なり「直接雇用」だけでなく「派遣形態」での雇用が認められています。しかし、自社の経営状況や農繁期の波に合わせてどちらを選択すべきか、判断に迷う経営者様も少なくありません。
この記事では、特定技能(農業)における派遣と直接雇用の違いを整理し、失敗しない選択手順を社労士の視点で解説します。コスト面や労務管理のリスク、派遣先責任者の設置義務など、実務で直面する具体的な課題をクリアにし、貴社の体制に最適な導入方法を決定するための判断材料を提供します。
Step1:農業分野特有の「直接雇用」と「派遣」の法的違いを理解する
【結論】このステップでは、農業分野においてなぜ派遣が認められているのか、その法的枠組みと実務上の違いを正しく理解します。
特定技能制度において、原則として雇用形態は「直接雇用」に限られています。しかし、農業と漁業の2分野については、季節による繁閑の差が激しく、通年雇用が困難なケースが多いことから、特例として「労働者派遣形態」が認められています。
- 直接雇用:受入れ機関(農家・農業法人)が外国人と直接雇用契約を結ぶ。支援業務は自社で行うか、登録支援機関に委託する。
- 派遣雇用:派遣元(特定技能外国人派遣業者)が外国人を雇用し、農家へ派遣する。支援業務は派遣元が行う。
- 対象地域:農業派遣は全国で可能だが、派遣元は農業特定技能協議会への加入が必要。
社労士視点の注意点:
実務の現場でよく見られる誤解として、「派遣なら面倒な支援計画を作らなくて良いから楽だ」と安易に選択してしまうケースがあります。確かに書類作成の負担は減りますが、派遣料金にはマージンが含まれるため、通年で雇用する場合のトータルコストは直接雇用(+登録支援機関への委託費)よりも割高になる傾向があります。まずは「法的責任の所在」が雇用主(派遣元)にあるか、自社(受入れ機関)にあるかという違いを明確に認識してください。
Step2:農繁期の波とコストから「最適な雇用形態」を判定する
【結論】このステップでは、自社の年間の作業スケジュールと予算を照らし合わせ、直接雇用と派遣のどちらが合理的かを判定します。
農業経営において最も重要なのは、収穫期などの「農繁期」に必要な労働力を確保しつつ、仕事が少ない「農閑期」の固定費をどう抑えるかです。以下の基準で自社の状況を分析してください。
- 通年雇用の可否:年間を通じて安定した作業がある場合は「直接雇用」がコスト面で有利です。
- スポット利用の必要性:「収穫期の3ヶ月だけ人が欲しい」といった場合は、契約期間を柔軟に設定できる「派遣」が最適です。
- 初期費用と管理コスト:直接雇用は採用活動費や渡航費の負担が発生しやすい一方、派遣はそれらが派遣料金に含まれ、初期投資を抑えられます。
判断のポイント:
通年で3名以上受け入れるなら直接雇用を検討する価値が高まります。一方で、「初めて外国人を雇うので、まずはリスクを最小限にしたい」「冬場は全く仕事がない」という場合は派遣からスタートするのが安全です。実際に私が支援したケースでも、初年度は派遣で様子を見て、体制が整った2年目から直接雇用に切り替える(※転籍には本人の同意と手続きが必要)というステップを踏む農家様もいらっしゃいます。
Step3:派遣を選ぶ場合の「派遣先責任者」と「同一労働同一賃金」を確認する
【結論】このステップでは、派遣形態を選択する場合に必須となる社内体制の整備と待遇の確認を行います。
派遣形態を選ぶ場合、丸投げできるわけではありません。労働者派遣法に基づき、派遣先(農家側)にも厳格な義務が課されます。特に重要なのが「派遣先責任者」の選任と「待遇情報の提供」です。
- 派遣先責任者の選任:派遣労働者の労務管理窓口となる担当者を1名選任する必要があります(農場主自身でも可)。
- 比較対象労働者の待遇情報提供:派遣元に対し、自社で同じ業務に従事する正規雇用労働者(いない場合は標準的なモデル賃金)の待遇情報を提供しなければなりません。
- 台帳管理:派遣先管理台帳を作成し、労働時間や休憩などを記録・保存する義務があります。
社労士視点の注意点:
特定技能は「日本人と同等以上の報酬」が要件ですが、派遣の場合、これに加えて「同一労働同一賃金(派遣法第30条の4)」の観点もクリアする必要があります。派遣元から提示された時給が、地域の最低賃金ギリギリではなく、同種の業務を行う日本人の賃金水準と均衡が取れているか必ず確認してください。ここが適正でない場合、派遣契約自体が法的不備を問われるリスクがあります。
Step4:信頼できる「農業特定技能派遣会社」を見極める
【結論】このステップでは、トラブルを避けるために、法令遵守と支援体制が整った派遣会社(登録支援機関)を選定します。
農業分野の特定技能派遣を行えるのは、要件を満たした派遣事業者に限られます。しかし、中には管理体制がずさんな業者も存在するため、以下のポイントでチェックを行います。
- 農業分野での実績:農業特有の作業内容や安全衛生(熱中症対策など)を理解しているか。
- 協議会への加入:「農業特定技能協議会」に加入していることは必須要件です。加入証を確認しましょう。
- 支援体制の具体性:住居の確保や生活オリエンテーション、緊急時の対応(通院同行など)をどこまでカバーしてくれるか。
失敗しない選び方:
単に「時給が安い」「マージン率が低い」だけで選ぶのは危険です。私が相談を受けた事例では、派遣元が外国人の生活サポートを怠り、派遣先である農家様が夜中にトラブル対応に追われるというケースがありました。「何かあった時にすぐに現地に来てくれるか」「通訳スタッフは常駐しているか」など、現場レベルでのサポート力を重視して選定することをお勧めします。
Step5:派遣・直接雇用それぞれの「導入・申請手続き」を進める
【結論】このステップでは、決定した雇用形態に基づいて、具体的な受け入れ手続きを開始します。
方針が決まったら、入国管理局(出入国在留管理庁)への申請準備に入ります。直接雇用と派遣では、準備すべき書類や主体が異なります。
- 直接雇用の場合:自社(または行政書士・登録支援機関)が主体となり、雇用契約書、支援計画書、事前ガイダンスの実施記録などを作成し、在留資格認定証明書(または変更許可)を申請します。
- 派遣の場合:基本契約書・個別契約書を締結します。在留資格の申請自体は派遣元が行いますが、派遣先(農家)は「就業条件明示書」や「事業所の概要書」などの協力書類を用意する必要があります。
- 共通事項:どちらの場合も、社会保険・労働保険の加入状況や納税証明など、コンプライアンス要件のクリアが前提です。
実務上のポイント:
申請から許可が下りるまで、通常2〜3ヶ月程度かかります。農繁期に合わせて受け入れたい場合は、逆算して4ヶ月前には動き出す必要があります。「明日から来てほしい」という要望には応えられない制度ですので、計画的なスケジュール管理が不可欠です。
Step6:トラブルを防ぐ「指揮命令」と「労務管理」の役割分担を整備する
【結論】このステップでは、受け入れ後の現場トラブルを防ぐため、指揮命令系統と労務管理のルールを明確化します。
いざ外国人が働き始めた後に最も揉めるのが、「誰が指示を出すのか」「労働時間の管理はどうするか」という点です。特に派遣の場合、雇用主と使用者が異なるため注意が必要です。
- 指揮命令権の行使:派遣の場合、業務の指示(指揮命令)は派遣先(農家)が行います。派遣元の営業担当者が現場にいない場合、直接指示を出すのは現場の責任者です。
- 労働時間と休憩:農業は天候に左右されやすいため、変形労働時間制や休憩時間の管理が曖昧になりがちです。36協定(時間外労働協定)の範囲内で運用されているか、派遣元と連携して管理します。
- 安全衛生管理:農機具の操作指導や農薬の取り扱いなど、現場での安全教育は派遣先(農家)の責任で実施します。
社労士視点の注意点:
「言葉の壁」による労働災害が多発しています。直接雇用・派遣に関わらず、作業手順書を母国語や「やさしい日本語」で作成し、写真や動画を使って指導する工夫が必要です。また、派遣の場合でも、現場の人間関係やモチベーション管理は派遣先に委ねられます。「派遣さんだから」と疎外せず、チームの一員としてコミュニケーションをとることが、生産性向上と定着の鍵となります。
特定技能・外国人雇用に関する詳しい情報はこちらのブログ一覧もご参照ください。
監修者プロフィール
本記事は、HR BrEdge社会保険労務士法人に所属する特定社会保険労務士・渡辺俊一が監修しています。法人顧問業務を中心に、給与計算、労務相談、就業規則整備など、企業のバックオフィス全体を支える実務に携わってきました。
日常的な労務相談から、制度設計、実務運用、トラブル予防まで、「現場で実際に起こること」を前提とした支援を行っています。特に、従業員100名以上規模の企業における実務の属人化や判断が分かれやすい場面への対応を得意としています。
- 社会保険労務士(登録番号:第27070207号・平成19年11月1日登録・平成24年5月1日特定社会保険労務士付記)
- キャリアコンサルタント(登録番号:16131446・平成28年8月23日登録)
- HR BrEdge社会保険労務士法人 代表社員
- 法人顧問を中心とした労務管理・給与計算の実務支援
- 就業規則・社内ルール整備を含む制度運用支援
- 企業向け労務管理に関する書籍・実務資料の執筆・監修
- 経営者・人事担当者向け研修・セミナー講師実績
制度の解説にとどまらず、「このケースではどう判断すべきか」「どこでトラブルになりやすいか」といった実務上の判断ポイントを重視した情報提供を行っています。
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