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外国人雇用の賃金規程作成ポイント|特定技能の「日本人と同等以上」を実務で実現する5ステップ
特定技能外国人の受け入れを検討する際、多くの企業様が最初につまずく壁が「賃金設定」と「就業規則(賃金規程)の整備」です。「日本人と同等以上の報酬」という要件は知っていても、「具体的に自社の誰と比較すればよいのか」「既存の賃金規程をそのまま適用して問題ないのか」という実務レベルの疑問で手が止まってしまうケースが後を絶ちません。
この記事では、外国人雇用の賃金規程作成ポイントに焦点を当て、入管法の要件を満たしつつ、労務トラブルを未然に防ぐための具体的な手順を5つのステップで解説します。これから特定技能の雇用を始める企業様や、受け入れ人数を増やしたい人事担当者様が、迷わず適正な運用体制を構築できるよう、現場の事例を交えてガイドします。
Step1:特定技能における「日本人と同等以上の報酬」の定義と実務的な比較対象の選定
【結論】このステップでは、入管法が求める報酬要件を満たすために、自社内の適切な「比較対象日本人」を選定し、賃金設定の根拠を明確にします。
特定技能外国人の報酬額は「日本人が従事する場合と同等以上」であることが必須です。これは単に最低賃金を上回っていれば良いという意味ではなく、同じ業務を行う日本人従業員と比較して不当に低くないことを証明する必要があります。
- 比較対象者の選定基準:職務内容、責任の程度、役職、経験年数が近い日本人従業員を選定します。
- 比較対象者がいない場合:賃金構造基本統計調査(賃金センサス)などの公的な統計データを参照し、同地域の同職種・同年齢層の平均賃金を基準にします。
- 確認書類:比較対象者の賃金台帳、雇用契約書、または賃金センサスの該当ページ。
【社労士視点の重要ポイント】
実務でよくあるミスは、「新卒初任給」と比較してしまうケースです。特定技能外国人は一定の技能・経験を持っていることが前提(試験合格者や技能実習修了者)であるため、全くの未経験者である新卒社員と同列に扱うと、入管から「不当に低い」と判断されるリスクがあります。「経験者採用」の日本人と同等の基準で設定するのが安全です。
Step2:既存の賃金規程に潜む「外国人差別」と見なされるリスク箇所の総点検
【結論】このステップでは、自社の既存の賃金規程を見直し、国籍を理由とした差別的な取り扱いが含まれていないかを確認・修正します。
労働基準法第3条は、国籍を理由とする賃金差別を禁止しています。意図的でなくとも、規定の書き方一つで「差別」とみなされ、コンプライアンス違反となる恐れがあります。
- 家族手当・扶養手当:「国内に居住する家族に限る」といった要件がないか確認します。海外に家族がいる場合でも、扶養の実態があれば支給対象とするのが原則です。
- 住宅手当:「実家から通勤できない者」などの条件が、外国人にとって不利に働かないか確認します。会社が寮を用意する場合の規定との整合性も重要です。
- 賞与・退職金:「正社員に限る」としている場合、特定技能外国人を「契約社員」として雇用するなら、その区分に応じた規定が別途必要です。
【条件分岐の判断】
もし、特定技能外国人を「正社員」として雇用する場合は、既存の正社員用就業規則がそのまま適用されます。一方で、「嘱託社員」や「契約社員」として雇用する場合は、正社員との待遇差(同一労働同一賃金)について合理的な説明ができる状態にしておく必要があります。
Step3:食費・居住費の控除をめぐる「合意書」と「賃金規程」の整合性確保
【結論】このステップでは、給与から控除する家賃や水道光熱費について、労使協定(24協定)および個別の合意書を整備し、賃金規程との整合性を図ります。
賃金は「全額払い」が原則であり、法定控除(税金・社会保険料)以外を天引きするには、労使協定が必要です。特に外国人雇用では、社宅や寮費の控除に関するトラブルが頻発しています。
- 労使協定の締結:賃金控除に関する労使協定書を作成し、控除項目(寮費、水道光熱費など)を明記します。
- 実費徴収の原則:会社が借り上げたアパートの家賃を徴収する場合、会社が負担している実費を超えて徴収することはできません(利益を乗せてはいけません)。
- 書面による合意:雇用契約書や別紙の「控除に関する合意書」で、具体的な金額と内訳を本人に説明し、署名をもらいます。
【実務上の注意点】
「管理費」という名目で不明瞭な金額を控除するのはNGです。入管への申請時にも、住居費の金額が適正か(近隣相場と比較して高すぎないか、広さは十分か)は厳しくチェックされます。「規程」「協定書」「雇用契約書」の3点で金額やルールが一致していることを必ず確認してください。
Step4:技能習得に応じた「昇給ルール」を明文化し入管への説明根拠を作る
【結論】このステップでは、どのような条件で昇給するのかを賃金規程に明記し、外国人のモチベーション維持と入管への説明責任を果たせるようにします。
特定技能制度では、技能の習熟に応じた昇給が推奨されています。曖昧な評価ではなく、客観的な指標を設けることで、定着率向上にも繋がります。
- 評価基準の設定:「日本語能力試験N2合格で月額〇円アップ」「特定の技能検定合格で昇給」など、明確な基準を設けます。
- 定期昇給と随時昇給:年1回の定期昇給だけでなく、資格取得時などの随時昇給のルールも検討します。
- 規程への記載:「昇給は会社の業績および本人の勤務成績による」という定型文だけでなく、具体的な評価要素を別表などで示せるとベストです。
【社労士視点の補足】
在留期間更新の際、入管から「賃金台帳」の提出を求められます。このとき、雇用契約時の予定額通り、あるいは昇給が適切に行われているかが見られます。もし昇給していない場合、その合理的な理由(評価記録など)を説明できなければ、受け入れ体制に疑義を持たれる可能性があります。
Step5:賃金規程の多言語化と「不利益変更」にならないための合意形成手順
【結論】このステップでは、作成・変更した賃金規程を外国人が理解できる言語で周知し、法的な効力を発生させます。
就業規則(賃金規程)は、従業員に「周知」されて初めて効力を持ちます。日本語が十分に読めない外国人従業員に対しては、母国語や英語など、理解できる言語での周知が実務上必須となります。
- 翻訳の実施:賃金規程の全文、または少なくとも賃金・労働時間・退職に関する重要部分を翻訳します。
- 周知の方法:翻訳した規程をいつでも見られる場所に掲示、または配布します。
- 説明会の実施:入社時オリエンテーションなどで、翻訳版を用いて内容を口頭で説明し、理解した旨の署名をもらうのが確実です。
【不利益変更への対応】
もし、新たな規程を作成することで既存の外国人従業員にとって条件が下がる(例:手当の廃止など)場合は、労働契約法上の「不利益変更」に該当するリスクがあります。この場合、変更の必要性と合理性を丁寧に説明し、個別の同意を得るプロセスが絶対に欠かせません。一方的に変更を通知するだけでは無効となる可能性が高いため注意してください。
まとめ
外国人雇用のための賃金規程作成は、単なる書類作成作業ではなく、「日本人と同等以上の待遇」を実証し、長期的な定着を促すための基盤づくりです。
- 比較対象となる日本人従業員を適切に選定する
- 手当や控除における差別的・不明瞭な取り扱いを排除する
- 昇給ルールを明確化し、キャリアパスを示す
- 母国語での周知を徹底し、合意形成を図る
これらを一つひとつクリアすることで、入管法の要件を満たすだけでなく、外国人材が安心して働ける職場環境が整います。企業の状況によって最適な規定内容は異なるため、迷った際は専門家への相談をお勧めします。
特定技能・外国人雇用に関する詳しい情報はこちらのブログ一覧もご参照ください。
監修者プロフィール
本記事は、HR BrEdge社会保険労務士法人に所属する特定社会保険労務士・渡辺俊一が監修しています。法人顧問業務を中心に、給与計算、労務相談、就業規則整備など、企業のバックオフィス全体を支える実務に携わってきました。
日常的な労務相談から、制度設計、実務運用、トラブル予防まで、「現場で実際に起こること」を前提とした支援を行っています。特に、従業員100名以上規模の企業における実務の属人化や判断が分かれやすい場面への対応を得意としています。
- 社会保険労務士(登録番号:第27070207号・平成19年11月1日登録・平成24年5月1日特定社会保険労務士付記)
- キャリアコンサルタント(登録番号:16131446・平成28年8月23日登録)
- HR BrEdge社会保険労務士法人 代表社員
- 法人顧問を中心とした労務管理・給与計算の実務支援
- 就業規則・社内ルール整備を含む制度運用支援
- 企業向け労務管理に関する書籍・実務資料の執筆・監修
- 経営者・人事担当者向け研修・セミナー講師実績
制度の解説にとどまらず、「このケースではどう判断すべきか」「どこでトラブルになりやすいか」といった実務上の判断ポイントを重視した情報提供を行っています。
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