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外国人雇用での就業規則、トラブル回避の疑問を解決する5つのポイント

2025.12.29 外国人雇用

外国人労働者の受け入れが拡大する中、「日本人向けの就業規則のままで良いのか」「母国語への翻訳は義務なのか」といった疑問を持つ人事担当者は少なくありません。外国人雇用において就業規則を整備することは、単なる法令順守だけでなく、文化や習慣の違いによるトラブルを未然に防ぐための最重要課題です。

本記事では、外国人労働者に適用される法律の基礎から、多言語対応の具体的な選択肢、トラブルを防ぐための規定例までを網羅的に解説します。曖昧になりがちな一時帰国や宗教的配慮についても、実務的な視点で整理しました。

外国人雇用における就業規則整備の全体像と主要ステップ

外国人労働者であっても、日本の企業で働く以上は日本の労働基準法が適用されます。常時10人以上の労働者を使用する事業場では、日本人・外国人を問わず就業規則を作成し、労働基準監督署へ届け出る義務があります。しかし、既存の規則をそのまま適用するだけでは、運用面で多くの摩擦が生じます。ここでは、整備に向けた全体像をステップごとに解説します。

  • ステップ1:現状分析とリスクの洗い出し現在の就業規則が「日本人の正社員」のみを想定していないか確認します。在留資格の更新手続きや、長期の一時帰国など、外国人特有の事情に対応できているかをチェックします。
  • ステップ2:追加・修正規定の作成不法就労防止のための在留カード確認義務や、帰国時の退職手続きなど、外国人雇用に不可欠な条項を追加します。必要に応じて「外国人社員規定」として別個に作成する方法もあります。
  • ステップ3:周知方法(多言語対応)の決定作成した規則をどのように理解させるかを決めます。全文翻訳、重要事項の抜粋翻訳、やさしい日本語への書き換えなど、コストと効果を比較して選択します。
  • ステップ4:説明会と同意の取得入社時研修などで内容を説明し、理解したことの証跡(署名など)を残します。「渡したけれど読んでいない」という状況を防ぐ運用フローを構築します。

外国人雇用で失敗しないための多言語対応と説明義務の選択肢

労働基準法では、就業規則を労働者に「周知」させることが効力発生の要件となっています。法律上、翻訳の義務までは明記されていませんが、日本語が読めない外国人労働者に対して日本語の規則を見せるだけでは、実質的な周知が行われたとは認められず、トラブル時に会社側の主張が通らないリスクが高まります。

ここでは、多言語対応の3つの主要な選択肢を比較し、それぞれのメリット・デメリットを整理します。

1. プロの翻訳会社への依頼

法的リスクを最小限に抑えたい場合に最も確実な方法です。

  • メリット: 法律用語の正確性が担保され、誤訳によるトラブルを防げる。
  • デメリット: コストが高額になりがちで、法改正のたびに修正費用が発生する。

2. AI翻訳ツールの活用と社内チェック

コストを抑えつつスピーディーに対応したい場合の選択肢です。

  • メリット: 低コストかつ即座に翻訳が可能。多言語展開もしやすい。
  • デメリット: 専門用語や文脈の誤訳リスクがあるため、必ず社内のネイティブスピーカーや専門家によるダブルチェックが必要。

3. 「やさしい日本語」への書き換え

日本語能力試験(JLPT)N3〜N4レベルの労働者を対象とする場合に有効です。

  • メリット: 翻訳コストがかからず、日本人社員にとっても分かりやすい規則になる。
  • デメリット: 複雑な法的権利義務関係を、平易な言葉だけで正確に表現するのには限界がある。

コストと効果のバランスを取る「ハイブリッド手法」

すべての条文を完璧に翻訳するのが難しい場合、「重要事項抜粋アプローチ」を推奨します。就業規則の全文は日本語(またはAI翻訳による参考訳)とし、賃金、解雇理由、服務規律などのトラブルになりやすい重要箇所のみを、プロ翻訳または母国語で正確に説明した要約版を作成する方法です。これにより、コストを抑えつつリスク管理の実効性を高めることが可能です。

就業規則に定めるべき外国人雇用特有のルールと配慮事項

日本人社員のみの環境では想定しにくい事態も、外国人雇用では日常的に起こり得ます。就業規則には、以下の特有ルールを明確に定めておく必要があります。

在留資格管理と不法就労防止に関する規定

会社は不法就労助長罪に問われないよう、在留期限の管理を徹底しなければなりません。就業規則には以下の義務を明記しましょう。

  • 採用時および在留期間更新時の「在留カード」提示・確認義務。
  • 在留資格の変更や更新が不許可となった場合の取り扱い(自然退職または解雇など)。
  • 資格外活動(副業)を行う場合の許可申請ルール。

一時帰国休暇(長期休暇)の取り扱いルール

正月(旧正月含む)や宗教上のイベント、家族の事情などで、2週間以上の長期帰国を希望するケースは頻繁にあります。業務への支障を防ぐため、以下のルール化が必要です。

  • 長期休暇の申請期限(例:1ヶ月前までに申請)。
  • 年次有給休暇の計画的付与との兼ね合い。
  • 有給日数が不足する場合の欠勤(無給休暇)扱いの可否。
  • 繁忙期の取得制限に関する規定。

宗教上の配慮と業務のバランス

イスラム教の礼拝やラマダン(断食)、食事制限などへの配慮は、多様性尊重の観点から重要ですが、業務に支障が出ては本末転倒です。

  • 礼拝: 休憩時間を活用して行うことを原則とし、業務時間中に抜ける場合のルール(時間の限度や代替業務など)を定めます。
  • 服装: 安全衛生や衛生管理(食品工場など)に問題がない範囲で、ヒジャブ等の着用を認めるかどうかの基準を設けます。
  • これらは一律に禁止するのではなく、「業務に支障がない範囲で認める」とし、具体的な運用は個別相談とするのが現実的です。

退職・帰国時の手続きと費用負担

帰国に伴う退職時には、住民税の精算や社会保険の脱退手続きなどが必要です。

  • 退職の申し出時期(民法上は2週間前ですが、引継ぎを考慮し1ヶ月前などを推奨)。
  • 帰国費用の負担区分(原則は本人負担だが、特定技能など会社負担が義務付けられるケースを除く)。
  • 貸与物品の返却や、公的手続き完了の確認を退職時の要件とする。

外国人雇用で遭遇しやすい就業規則トラブルと対策のポイント

どれほど立派な就業規則を作成しても、現場での運用でつまずくことがあります。ここでは、よくあるトラブル事例と、就業規則を盾にした対策ポイントを解説します。

「聞いていない・分からない」の壁を突破する

最も多いトラブルは、懲戒処分や解雇、給与控除の際に「そんなルールは聞いていない」「日本語が分からなかった」と主張されるケースです。対策として、入社時に母国語またはやさしい日本語で書かれた労働条件通知書を交付し、就業規則の重要部分を読み合わせた上で、「母国語で理解し、同意しました」という文言入りの署名を取得することが極めて有効です。

文化の違いによる「遅刻・欠勤・報連相」への対応

「時間は大まかな目安」という文化圏出身者の場合、遅刻に対する意識が日本人と異なることがあります。また、体調不良時の無断欠勤も散見されます。就業規則の服務規律において、「始業時刻とは業務を開始できる状態にあること」「欠勤時は始業◯分前までに必ず連絡すること」と具体的に定義し、違反時のペナルティ(評価への反映や懲戒の段階)を明確にしておくことが重要です。

失踪や無断帰国が発生した際の実務対応

連絡が取れなくなり、そのまま退職扱いになるケースです。就業規則には「◯日以上無断欠勤し、連絡が取れない場合は自然退職とする」という規定(自動退職条項)を設けておきましょう。これにより、解雇予告手当の問題などを回避しつつ、事務的な退職処理を進めることができます。

外国人雇用における就業規則遵守のための最終チェックリスト

最後に、外国人労働者を受け入れる体制が整っているか、法的・実務的観点から確認するためのチェックリストを提示します。これらをクリアすることで、コンプライアンスリスクを大幅に低減できます。

  • 就業規則に、在留カードの確認・提示義務に関する条項が含まれているか。
  • 不法就労(在留期限切れ、資格外活動)が解雇事由として明記されているか。
  • 外国人労働者が理解できる言語(母国語、英語、やさしい日本語等)で規則の内容を周知しているか。
  • 一時帰国(長期休暇)の申請ルールと、その間の賃金・社会保険料の扱いが明確か。
  • 宗教的活動(礼拝等)に関する取り扱いについて、現場の運用方針が決まっているか。
  • 入社時に就業規則の説明を行い、本人から署名等の同意を得ているか。
  • ハローワークへの「外国人雇用状況届出」を適切に行う体制ができているか。

これらの項目を一つひとつ確認し、不備がある場合は速やかに専門家のアドバイスを仰ぐことをお勧めします。適切なルールの整備は、外国人労働者が安心して能力を発揮できる環境作りにつながり、結果として企業の成長を支える力となります。

関連する詳しい情報はこちらのブログ一覧もご参照ください。

まとめ

外国人雇用における就業規則の整備は、企業を守る盾であると同時に、多様な人材が活躍するための土台でもあります。日本語の規則をそのまま適用するのではなく、在留資格管理や一時帰国、宗教的配慮など、特有の事情に合わせたカスタマイズが不可欠です。

また、規則を作るだけでなく、多言語対応や丁寧な説明を通じて「実質的な周知」を行うことが、後のトラブル回避の鍵となります。まずは現状の規則を見直し、できるところから環境整備を進めていきましょう。

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