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IT企業が陥るフリーランス活用の落とし穴!労働時間管理のリスクと法的対策【社労士が解説】

2025.12.16 フリーランス法務

導入

IT企業において、プロジェクト単位で柔軟に専門スキルを調達できるフリーランスの活用は欠かせない戦略となっています。しかし、現場での曖昧な指揮命令や労働時間管理が、深刻な「偽装請負」リスクを招いているケースが後を絶ちません。本記事では、2024年11月施行のフリーランス新法や最新の法的判断基準を踏まえ、IT企業が直面する法的リスクと、持続可能な契約関係を築くための具体的な対策を、社会保険労務士の視点から徹底解説します。

IT企業が陥るフリーランス活用の落とし穴!労働時間管理のリスクと法的対策【社労士が解説】

IT企業におけるフリーランス活用の現状と法的な位置づけ

IT業界では、慢性的なエンジニア不足を補うため、準委任契約(SES含む)や請負契約を用いたフリーランス活用が一般的です。法的には、これらの契約は民法上の「業務委託」に分類され、労働基準法が適用される「労働契約(雇用)」とは明確に区別されます。

業務委託の最大の特徴は、発注者(企業)に指揮命令権がないこと、そして受注者(フリーランス)が独立した事業者として裁量を持って業務を遂行することにあります。しかし、開発現場ではアジャイル開発のようにチームで密に連携する必要性が高く、発注者の担当者がフリーランスに対して直接的な作業指示を出してしまいがちです。

形式上は「業務委託」であっても、実態として指揮命令が存在すれば、法的には「労働者派遣」または「直接雇用」とみなされるリスクがあります。特にIT業界特有の常駐型開発(オンサイト)では、正社員とフリーランスが混在して働くため、この境界線が極めて曖昧になりやすいのが現状です。

見過ごされがちな「偽装請負」のリスクと具体的な判断基準

「偽装請負」とは、契約形式が業務委託であるにもかかわらず、実態は労働者派遣と同じように発注者が指揮命令を行っている状態を指します。これは労働者派遣法違反(偽装請負)や職業安定法違反(労働者供給事業)に問われる重大なコンプライアンス違反です。

厚生労働省の「労働者派遣・請負を適正に行うためのガイド」および過去の裁判例に基づくと、偽装請負か否かは以下の要素を総合的に判断されます。

  • 業務の遂行方法への指示: 発注者が詳細な作業手順を指示したり、業務の順序を決定したりしていないか。
  • 労働時間の管理: 始業・終業時刻を指定したり、遅刻・早退に対して承認を求めたりしていないか。
  • 勤務場所の拘束: 業務の性質上必然性がないにもかかわらず、作業場所を指定・拘束していないか。
  • 労務提供の代替性: 特定の個人を指定しており、他の者による代替が認められない契約になっていないか。

特にIT開発現場では、SlackやTeamsなどのチャットツールで「〇〇さん、至急このバグを修正してください」といった具体的な指示を日常的に行うことが、指揮命令権の行使とみなされるリスクが高いため注意が必要です。

労働時間管理の盲点:指揮命令関係と「実態」のリスク

多くのIT企業が陥る最大の落とし穴が、「労働時間管理」です。本来、業務委託契約においてフリーランスは成果や業務遂行に対して責任を負うものであり、労働時間に対して報酬を受け取るものではありません(準委任の成果完成型を除く)。

しかし、報酬計算の便宜上「月140時間〜180時間」といった精算幅を設けたり、タイムシートで詳細な勤怠管理を行ったりするケースが散見されます。このような時間管理は、以下の理由から労働者性(指揮命令関係)を推認させる強力な証拠となり得ます。

  • 時間拘束の証明: 始業・終業時間の指定や、残業・休日出勤の指示は、明らかに指揮命令下の労働であることを示します。
  • 報酬の労務対価性: 成果物の質や量ではなく、稼働時間そのものに報酬が支払われている場合、それは「賃金」に近い性質を帯びます。

企業側が良かれと思って行う「勤怠管理(過重労働防止のための把握など)」であっても、それが契約解除や報酬減額の根拠に使われる場合、指揮命令の一環と判断される危険性があります。

ITフリーランス特有の契約形態とトラブル防止策

ITフリーランスとの契約は主に「請負契約」と「準委任契約」の2種類に大別されますが、それぞれの性質を正しく理解し使い分けることがトラブル防止の鍵です。

  • 請負契約: 「仕事の完成」を目的とします。バグのないシステムを納品して初めて報酬が発生し、完成義務と契約不適合責任(旧:瑕疵担保責任)を負います。発注者はプロセスに関与せず、成果物のみを評価する必要があります。
  • 準委任契約: 「事務処理の遂行」を目的とします。システム開発支援やコンサルティングなどが該当し、仕事の完成義務は負いませんが、専門家としての「善管注意義務」が求められます。

トラブルを防ぐには、契約書内で「業務の完了要件」を明確に定義することが不可欠です。請負であれば検収基準を具体化し、準委任であれば毎月の業務報告書の提出を義務付けるなど、契約形態に応じた運用を徹底しましょう。

フリーランスへの労災・社会保険適用問題と企業の責任範囲

原則として、フリーランスは個人事業主であるため、労働基準法上の労働者ではなく、労災保険や雇用保険の適用対象外です。しかし、前述の「偽装請負」等により実質的な労働者と認定された場合、企業には以下の責任が生じます。

  • 過去に遡った保険料の徴収: 雇用保険料や社会保険料の会社負担分を、過去2年(時効分)に遡って請求される可能性があります。
  • 残業代の支払い義務: 労働者と認定されれば、労働基準法が適用され、割増賃金(残業代)の未払い問題に発展します。
  • 労災事故への対応: 業務中の怪我や病気が労災と認定された場合、企業が安全配慮義務違反を問われ、損害賠償請求を受けるリスクがあります。

なお、2024年11月より、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス新法)や、労災保険の特別加入制度の対象拡大など、フリーランス保護の動きが加速しています。ITエンジニアも特別加入の対象となっているため、契約時に加入状況を確認することもリスクヘッジの一つです。

IT企業が取るべきフリーランス契約書作成の重要ポイント

フリーランス新法の施行に伴い、契約書(または発注書)の記載事項はより厳格化されました。以下のポイントを網羅した契約書の整備が急務です。

  1. 業務委託である旨の明記: 雇用契約ではなく、指揮命令権がないことを条文で明確にします。
  2. 給付の内容と報酬額: どのような業務を行うか(要件定義、設計、実装など)を具体的に記載し、報酬の決定基準(成果報酬か稼働報酬か)と支払期日(60日以内ルールに対応)を明記します。
  3. 再委託の可否: 再委託を禁止するか、承諾があれば認めるかを定めます。IT業界では多重下請け構造になりやすいため、セキュリティ観点からも重要です。
  4. 知的財産権の帰属: 成果物の著作権がいつ企業に移転するか(納品時か代金完済時か)、特許権の扱いはどうするかを定めます。
  5. 秘密保持条項(NDA): 開発データの持ち出し禁止や、個人情報の取り扱いについて厳格に定めます。

特に「フリーランス新法」では、取引条件(業務内容、報酬、支払期日など)を書面または電磁的方法で明示することが義務付けられました。口頭発注は法令違反となるため、必ずエビデンスを残すフローを構築してください。

フリーランス活用におけるトラブル事例と対応策

事例1:仕様変更による追加報酬トラブル
アジャイル開発などで仕様が頻繁に変更された結果、当初の想定工数を大幅に超過したにもかかわらず、追加報酬が支払われないケースです。

  • 対応策: 契約書に「仕様変更時の報酬調整ルール」を盛り込み、変更が発生した都度、変更管理書(チェンジログ)を取り交わす運用を徹底します。

事例2:突然の契約解除(雇い止め類似行為)
プロジェクトの縮小などを理由に、契約期間の途中で一方的に契約を解除するケースです。

  • 対応策: 民法の原則では準委任契約はいつでも解除可能ですが、フリーランス新法では中途解除の30日前予告が義務化されました(継続的取引の場合)。契約書にも解除予告期間を明記し、法的な正当性を確保する必要があります。

IT企業が持続的にフリーランスと良好な関係を築くための戦略

IT企業がリスクを回避しつつ、優秀なフリーランスと長期的な関係を築くためには、単なる「労働力の調整弁」としてではなく、「ビジネスパートナー」として尊重する姿勢が不可欠です。

  • 適正な契約と報酬: スキルに見合った適正な報酬を設定し、買いたたきを行わないこと。また、消費税の転嫁拒否などの下請法・新法違反を犯さないコンプライアンス体制を確立します。
  • 自律性の尊重: 指揮命令を行わず、フリーランスの専門性を信頼して業務を任せること。場所や時間に縛られない、成果中心のマネジメントへの転換が求められます。
  • コミュニケーションの質: 定期的な1on1などで期待値をすり合わせつつも、業務指示にならないよう「依頼」や「相談」のスタンスを保つことが重要です。

フリーランス活用の法務リスクを正しく理解し、適正な運用を行うことは、結果として企業のレピュテーションリスクを守り、質の高いエンジニアを惹きつける競争力へと繋がります。

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