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【解雇トラブル回避】企業が知るべきリスクと正しい対応・法的ルール9選
Q1. 解雇にはどのような種類があり、それぞれ何が違うのでしょうか?
解雇は大きく分けて「普通解雇」「懲戒解雇」「整理解雇」の3種類があり、それぞれ要件や法的なハードルが異なります。
まず「普通解雇」は、能力不足や勤務態度不良、病気や怪我で働けなくなった場合などに行われる一般的な解雇です。ただし、単に能力が低いという理由だけで即座に解雇できるわけではなく、会社側が指導や教育を行ったかどうかが問われます。
次に「懲戒解雇」は、会社の秩序を著しく乱した社員に対する制裁としての解雇です。横領や重大な経歴詐称などが該当しますが、これは社員にとって「死刑判決」にも等しい極めて重い処分であるため、就業規則への明記や、本人の言い分を聞く機会(弁明の機会)を与えるなど、厳格な手続きが必要です。
最後に「整理解雇」は、いわゆるリストラです。会社の経営難を理由とするものですが、経営者の判断だけで自由に行えるわけではなく、「人員削減の必要性」「解雇回避の努力」「人選の合理性」「手続きの妥当性」という4つの要素を満たす必要があります。
Q2. 「明日から来なくていい」と言い渡す即日解雇は法的に認められますか?
原則として、事前の予告なしに「明日から来なくていい」と解雇することは、労働基準法で禁止されています。
会社が従業員を解雇する場合、少なくとも30日以上前に予告するか、もしくは30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払う必要があります。したがって、「明日から来なくていい」と言うのであれば、同時に30日分の手当を支払わなければ法律違反となります。
例外として、従業員が横領などの重大な悪質行為をして労働基準監督署の認定(除外認定)を受けた場合や、試用期間の開始から14日以内である場合などは、予告なし・手当なしでの即時解雇が認められることもあります。
しかし、これらはあくまで例外的なケースです。感情的になってその場で「クビだ」と告げてしまうと、後から不当解雇として訴えられた際に、解雇予告手当の未払いだけでなく、解雇そのものが無効と判断され、解雇期間中の賃金(バックペイ)を全額支払うことになるリスクがあります。
Q3. 何度注意してもミスが直らない社員は、能力不足として解雇できますか?
「ミスが多い」「能力が足りない」という理由だけで、すぐに解雇することは非常に困難です。日本の労働法では、解雇に対して厳しい制約(解雇権濫用法理)があり、会社側には「解雇を回避するための努力」が求められます。
具体的には、以下のプロセスを尽くしたかどうかが重要視されます。
- 具体的な指導や注意を繰り返し行い、その記録を残しているか
- 配置転換や業務内容の見直しを行い、能力を発揮できる機会を与えたか
- 降格や減給など、解雇よりも軽い処分を段階的に行ったか
単に口頭で「もっと頑張れ」と言っただけでは、指導をしたとは見なされません。「いつ、どのようなミスに対し、どう改善するよう指導したか」を文書やメールで記録し、改善の期間を設けて様子を見ることが必要です。
裁判所は「会社は社員を教育し、活用する義務がある」と考える傾向にあります。教育の機会を十分に与えず、改善の余地がある段階での解雇は、不当解雇と判断される可能性が高いことを理解しておきましょう。
Q4. 就業規則に書いてあれば、どんな理由でも懲戒解雇できますか?
就業規則に解雇事由が書かれていることは大前提ですが、書いてあれば必ず解雇できるわけではありません。
懲戒解雇を行うには、以下の2つの条件をクリアする必要があります。
- 周知性:就業規則が作成されているだけでなく、社員がいつでも見られる状態(周知)になっていること。引き出しの奥にしまっていて誰も見られない状態では効力がありません。
- 相当性:犯した違反行為に対して、懲戒解雇という処分が重すぎないこと。例えば「2回遅刻したから懲戒解雇」というのは、社会通念上重すぎて無効となるでしょう。
また、過去に同じような違反をした別の社員には軽い処分で済ませたのに、特定の社員だけを懲戒解雇にするような不公平な取り扱いも認められません。
懲戒解雇は、退職金の不支給や再就職への悪影響など、労働者に与えるダメージが甚大です。そのため、客観的に見て「誰がどう見ても解雇されて仕方がない」と言えるレベルの重大な違反行為でなければ、有効とは認められにくいのが実情です。
Q5. トラブルを避けるために「退職勧奨」を行う際の注意点は何ですか?
解雇のリスクを避けるために、会社と社員が話し合って合意の上で退職してもらう「退職勧奨」は有効な手段ですが、やり方を間違えると「退職強要」となり、違法行為になります。
退職勧奨はあくまで「お願い」であり、社員には「断る自由」があります。以下の点に注意してください。
- 長時間・多数回・多人数での面談を避ける:何時間も部屋に閉じ込めたり、連日執拗に面談を行ったり、大人数で囲んで圧迫感を与えたりすることは、自由な意思決定を妨げる「強要」とみなされます。
- 侮辱的な発言をしない:「会社のお荷物だ」「辞めないとひどい目に遭うぞ」といった言葉はパワハラにあたり、損害賠償請求の対象になります。
- 回答を急かさない:その場で退職届にサインをさせようとせず、持ち帰って検討する時間を与えてください。
退職勧奨を行う際は、面談の内容を録音やメモで記録し、「強要はしていない」という証拠を残しておくことが重要です。社員が明確に「辞めません」と拒否した場合は、それ以上の勧奨は打ち切る必要があります。
Q6. 解雇した元社員から「解雇理由証明書」を求められました。出す必要がありますか?
はい、労働基準法により、退職した社員(解雇された社員を含む)から請求があった場合、会社は遅滞なく「解雇理由証明書」や「退職時証明書」を発行する義務があります。
この証明書には、以下の事項のうち、社員が請求したものだけを記載しなければなりません。
- 使用期間
- 業務の種類
- その事業における地位
- 賃金
- 退職の事由(解雇の場合はその理由)
重要なのは、**「解雇の理由」を具体的に記載すること**です。例えば「就業規則第〇条に基づく懲戒解雇」だけでなく、「〇月〇日の横領行為による」といった具体的な事実を書く必要があります。
ここで記載した内容は、もし裁判になった場合に会社側の主張の根拠として扱われます。後から「実は別の理由もあった」と追加しても信用されにくくなるため、証明書を発行する段階で、解雇の正当性を証明できる正確な理由を記載することが極めて重要です。
Q7. 解雇トラブルで労働基準監督署から呼び出しがありました。どう対応すべきですか?
労働基準監督署(労基署)からの呼び出しや調査依頼には、誠実かつ迅速に対応してください。無視をしたり、嘘の報告をしたりすることは絶対に避けるべきです。
労基署は労働基準法違反がないかを調査する機関であり、解雇トラブルに関しては「解雇予告手当が支払われているか」「就業規則に不備がないか」といった形式的な違反を中心にチェックします。一方で、「解雇が不当かどうか(解雇権の濫用か)」という民事上の判断については、労基署には決定権限がありません。
しかし、労基署への対応をおろそかにすると、是正勧告を受けたり、悪質な場合は送検されたりするリスクがあります。呼び出された際は、就業規則、雇用契約書、出勤簿、賃金台帳、指導記録などの関係書類を整理して持参し、事実関係を冷静に説明しましょう。
「不当解雇だ」という訴えに対しては、会社としての正当性を主張する資料(指導の履歴など)を提示し、感情的にならずに事実ベースで対応することが大切です。
Q8. 解雇予告手当を支払えば、法的なトラブルはすべて解決しますか?
いいえ、解雇予告手当を支払ったからといって、解雇そのものが有効になるわけではありません。ここが最も誤解されやすいポイントです。
解雇予告手当(30日分の平均賃金)の支払いは、あくまで「解雇の手続き上のルール」を守ったに過ぎません。「解雇する理由が正当かどうか」は全く別の問題です。
たとえ手当を支払って手続きを適正に行ったとしても、解雇理由に客観的な合理性がなく、社会通念上相当でなければ、裁判で「解雇無効」と判断されます。その場合、会社は以下のリスクを負います。
- 職場復帰:解雇が無効なので、社員を職場に戻さなければなりません。
- バックペイの支払い:解雇してから判決が出るまでの期間の給与を、全額支払う必要があります(長引けば数年分になることもあります)。
- 慰謝料:悪質な解雇と認められれば、慰謝料が発生することもあります。
「お金(手当)を払えば辞めさせられる」という考えは非常に危険です。手当の支払いと、解雇の有効性は切り離して考える必要があります。
Q9. 試用期間中なら、本採用を拒否(解雇)するのは簡単ですか?
試用期間中であっても、本採用拒否は法的には「解雇」の一種であり、会社が完全に自由に契約を解除できるわけではありません。
たしかに、正社員として長く働いている人に比べれば、解雇の有効性は認められやすい傾向にあります。これを「留保解約権」と言いますが、それでも「客観的に合理的な理由」が必要です。
具体的には、以下のような理由が必要です。
- 採用面接の時には知ることができなかった重大な事実が判明した(経歴詐称など)
- 出勤率が著しく悪い、無断欠勤を繰り返す
- 協調性が全くなく、他の社員とのトラブルが絶えない
単に「期待していたレベルより少し低い」「社風に合わない気がする」といった曖昧な理由での本採用拒否は、無効になるリスクがあります。
試用期間であっても、開始から14日を超えて雇用している場合は解雇予告(または手当)が必要です。試用期間は「お試し期間」ではなく、「教育期間」として捉え、不適格な点があれば指導を行う義務が会社にはあります。
まとめ
解雇に関するトラブルは、企業の金銭的ダメージだけでなく、他の従業員のモチベーション低下や社会的信用の失墜にもつながる重大な問題です。日本の法律では労働者が手厚く保護されており、企業側が「辞めさせたい」と感じても、法的に有効な解雇を行うハードルは非常に高いのが現実です。感情的な判断で即日解雇を言い渡したり、退職を強要したりすることは絶対に避けてください。問題のある社員への対応は、日頃からの指導記録の作成、就業規則の整備、そして適正な手続きの遵守が不可欠です。万が一、解雇を検討せざるを得ない状況になった場合は、独断で進めずに必ず専門家である社会保険労務士や弁護士に相談し、リスクを最小限に抑える手順を踏むことを強くお勧めします。
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